第93話『偽りの希望と新たな希望』
※2023/12/13改稿しました。
お待たせしました。
第93話の執筆が完了しました。
宜しくお願いいたします。
《シ■タ■ン視点》
私は好きだった。孤児を救って下さった、あの方が好きだった。弱者を、怪物にして下さった、あの方が好きだった。怪物を、愛して下さった、あの方が好きだった。だが……。
――――
『希望を掴みかけた者を、絶望に叩き落とすのって、最高に気持ちがいいじゃないですかぁ!』
――――
アテナ様は大きな口を開けて笑いながらそう仰った。あぁ……やっぱり私達は捨てられてしまったのね……アクタさんの言うことは本当だったんだ……。これで私達の居場所は無くなってしまった……。
嘘だ。
嘘だ嫌だ。
嘘だ嫌だ、認めたくない。
私はアテナ様に問いたい。ねぇ、アテナ様は何を言っているの……? 今までそんな事言った事なんてなかったのに……。私、何か怒らせる事をしてしまったの? 私達を面倒をみるのが嫌になって、わざと遠ざかろうとしてるの? だとしたら謝る! 謝るから許して下さい……。ちゃんと自分でお料理するから、もっと強くなって、アテナ様のお役に立てるように努力するから……もう、悪い子にならないから。だから、捨てないで……!
しかし、そんな思いはアテナ様に届くはずもない。そんな事は分かってる……でも、少しくらい希望くらい持ったっていいでしょう!
そうだ、アテナ様は冗談を言ってるんだ! これは私達に何かのサプライズを仕掛けているんだ! そうだ! そうに違いない! あのアテナ様がこんな事、本気で言うわけがない!
――そんなわけないじゃない。本当は、もう分かってるんでしょう?――
深層心理が、そう私に問いかけた。
――アテナ様は、私達を裏切ったんじゃない――
やめて、言わないで。お願いだから、もう言わないで。深層心理が、それを言ってしまったら……私は、それを認めざるを得なくなってしまう。
――アテナ様は、私達を……最初から道具としてしか見たことがないのよ――
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
…………。
私の視界は歪む。どんどん歪む。人物、背景……視界に映る全ての色が消え、やがて、その姿さえ正しい形を保てなくなる。だが、アテナ様が、今、笑いながら、雑音交じりではあるが、何か言ってるのは分かった。
――――
『ハ■ハ■ハ! い■ですよ! ■■タイン! もっと■す! もっ■絶望■なさい、怒■なさい! 悲しみな■い! そ■が、あ■たの■と■るのです!』
――――
聞こえない。聞こえない。もう……聞きたくない……。もうやめて……。アテナ様……お願いだから、私を愛してよ……。
――まだ、諦めてないの? もう諦めなよ――
そんな事は分かってる! 現実を受け入れなきゃ先に進めない。そんな事分かってる! だけど……やっぱり受け入れる事が、どうしてもできない。だって、この現実を受け入れてしまったら、怪物の希望を失う事になる。そうなってしまったら、怪物は、どうやって生きていけばいいの……?
――――
『■■! シュ■イ■に何■■■!』
『■■した? 私■た■、■■■■■に、過度■■■■スを与■た■■■■よ』
『スト■■だ■……?』
『■■! シュ■■■は■■■、怒■、悲■■といっ■負の■情■、■■■■■■程、魔■■■■す■、珍■■体質な■■■よ!』
『な■■■……?』
――――
雑音が、さっきよりも、酷くなってきた。もはや、何を言っているのか分からない。けど、きっと、この雑音は自分自身が、意図的に引き起こしてるものなのでしょう。だって深層心理の言う通り、もう分かったから……。アテナ様が実はそういう人なんだって。全て、アクタさんが見せてくれた記憶に映ったプロメテウスの言う通りだ。もちろん最初は疑った。だけど、アクタさんが嘘をついているとは直感的に思えなかった。だから、私はアクタさんを信じようとした。でも、アクタさんを信じるということは、アテナ様を疑うということだ。アテナ様の事は、親のように思っていた。アテナ様は、私達を愛して下さった……だけど、それは――――。
全て嘘だった。嘘だった。嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘――――――――――。
私の頭の中が嘘という文字で染まる。ただでさえ歪んで見える周りの人物も背景も全て、嘘という文字に変換してしまう。やがてそれが重なりに重なり合い、暗闇の世界に変わってしまった。
――――
『■■■、■■■■■■■■■■、■■■■■■■、■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■、■■■■■■! ■■■■■■■■! ■■■■■■■■■! ■■、■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■! ■■■■■■■■■■■■■■■! ■■、■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■! ■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■! ■■■■■■■■■■■!』
――――
もう、本当に何を言ってるか分からない。何も見えない。ただ雑音がザザーっと聞こえるだけ。
あぁ……私は一体何の為に生きてきたのだろう? 私は、深層心理に問いかけた。すると、やはり答えは同じだったようだ。
――私なんて――
――生まれてこなければよかったんだ――
…………………………。
………………………………。
私は、暗闇でただ、踞る。誰かに助けを求めるわけでもなく、傷だらけの心を癒す為の時間が欲しいわけでもなく、ただ私が死ぬまで時間が過ぎ去るのを待った。
――だってもう希望なんてないから――
そう思っていた。
すると、突然、暗闇から光が差し込んだ。それは、眩しいわけでもなく不快でもない。とても優しくて暖かい光が、まるで演劇のスポットライトのように私を照らす。そして今日会ったばかりのあの人が、私の心の中に入り込み、私に手を差しのべて、こう言った。
『シュタイン! 俺のギルドに入らないか?』
あぁ……私は……私は……アテナ様を裏切れない……いや、でも……。
――私の答えはもう決まった。ごめんなさい、アテナ様。あなたにはついていけません。
『はい、ぜひ、私を新たな希望のギルドに入れて下さい』
私は、とびっきりの笑顔でそう返事をした。
もう、私は囚われないから。
第93話を見て下さり、ありがとうございます。
次回は、9月2日(火)か3日(水)に投稿予定です。
宜しくお願いいたします。
訂正
9月2日(水)と3日(木)でした。
混乱を招いてしまい、申し訳ございませんでした。