第92話『絶望を力とする者』
※2023/12/12改稿しました。
お待たせしました。
第92話の執筆が完了しました。
宜しくお願いいたします。
ガサガサ……。
茂みから出てきたのは、ただの虫型モンスターだった。特に襲ってくる様子はなさそうだ。
『なんだ……ただの虫型モンスターのようですね……』
シュタインは胸に手を当て安堵した。
『まだ油断するな。どこに敵が潜んでるか分からないんだ』
『そ、そうですね』
俺がそう釘を刺すと、シュタインは背筋をピンと伸ばし、再び警戒態勢になった。
『とにかく、ここから外に出るぞ』
『は、はい』
相変わらず警告し続ける嫌な予感を抱えながら、闇森の結界を再び解くために、結界破壊魔法“闇”を発動した。
すると、結界は静かに崩壊した。てっきり俺が本拠地に侵入する間に、結界に罠でも仕掛けたのではないかと思っていたが、杞憂だったようだ。
だが、それでもまだゴールを踏めているわけではない。これから追手がやってくる事も、先回りされている可能性も考えなくてはいけない。
『それにしても、ここ相変わらず静かですね』
『当たり前だろう。ここは絶対危険領域だ。人間どころかモンスターすら――――』
いや、待てよ……さっき……はっ! しまった!
俺はさっき見かけたあれが居た方向を振り返った。しかしその刹那、既に雷を纏った槍が俺の心臓の先端に刺さっていた。
『ぐはっ……!』
時計の針が一つ動いた頃にはもう遅かった。俺は……既に心臓を雷の槍で貫かれていた。
通常ならば即死する事態だ。通常であればな。
『アクタさん!!』
大丈夫だ。心臓を貫かれた程度では死なない。
『心配するな、シュタイン。俺なら大丈夫だ』
俺は自分の心臓を貫いた雷の槍を引き抜き、逆に投げた張本人に向けて雷を槍を投げた。
しかし、その投げた槍を、そいつは難なくキャッチした。
『やれやれ、あなたとあろう者が私が虫に変身していた事に気づかないなんて……アクタさん……あなた、鈍ってるんじゃないですか?』
森の闇から現れたのは、白い入道服に宝石を纏う華奢で小柄な女。フランやケン、そしてシュタインを慈悲で救い、敬愛されていたあの方と呼ばれている張本人だ。
今は不適な笑みで俺達を見下している。とても慈悲があるような人間には見えない。
容姿こそ妖艶な美女ではあるが、性根の悪さが顔に滲み出ているせいか、ただの醜い生物にしか見えない。
しかし、ああなぜ気づかなかった……。絶対危険領域に、モンスターなんているわけがないというのに……。
一生の不覚だ。だが、ここで反省会を開いている場合ではない。
『なぜ、貴様がここにいる……アテナ!』
この女の名はアテナ。この盗賊団のトップであり、とある組織の一員だ。
『なぜここにいるかですって? 当然でしょう? この盗賊団の管轄を任されてますもの。居て当然ではなくて?』
『そうじゃない! なぜ貴様がわざわざ虫型モンスターに化けていたのかということだ!』
『ああ……別に深い意味は無いですよ……ただ、そうですね……』
アテナは醜悪な笑みで、こう言った。
『希望を掴みかけた者を絶望に叩き落とすのって、最高に気持ちがいいじゃないですかぁ!』
何を言ってるんだこいつは。
『……』
俺は理解できずに絶句する。
『フラン、ケン、そしてそこにいるシュタイン! 揃いも揃って本当に間抜けですね〜』
『あ……』
シュタインは既に涙を少し流し、絶望に歪められたような顔をしている。アテナの事実を知っているとはいえ、いざ絶望の現実が目の前に現れると、彼女への精神的ダメージは計り知れない。
『私にまんまと利用されたとも知らずに! アテナ様アテナ様! あなたを誇りに思いますってねえ! はあ? あなたがたの誇りなんてただの埃ですよ? お前らは所詮ただの実験体なんですよ!!!』
『う、うあぁぁぁ……』
震えながら涙を流し続けるシュタイン。
『あはははははははは! あなたの泣き顔もなかなか絵になりますねぇ! これからフランとケンを無惨に殺して、その姿を毎日あなたの目に焼き付けてあげましょうか!!!』
『あ……ああ……ああああああ……』
アテナの外道すぎる言葉にシュタインがとうとう泣き崩れた。
『アテナ、いい加減にしろ!!!』
怒りを覚えた俺は怒号を放った。
『はあ? これからが良いところなんじゃないですか〜。シュタインの泣き顔を堪能してから絶望させて薬物飲ませて、男達のおもちゃになってもらいましょう!!! その時の虚ろな顔を……私に見せてくださいよぉ!!!!!!』
狂った野望を喜々として話す下衆な女アテナ。
これ以上アテナと話してたら、頭がおかしくなりそうだ。なによりシュタインの精神がもたない。
できれば、今、アテナと戦いたくはなかったが、やむを得ない!
俺はありったけの魔力を込め、戦闘の準備を始めた。
プロメテウス程度が相手なら俺の全力か、あるいは、改造システムで、追い払う事くらいはできるが、もしかしたらアテナは、あのプロメテウスよりも強いかもしれない。もはや身体の負担など考えている場合じゃない!
俺はアテナを倒すために改造システムを発動しようとした。しかし、その横でシュタインの身体が光りだした。
『シュタイン?』
『う……うううううう……』
シュタインは頭を抱えて、苦しそうに唸っている。
『シュタイン!』
俺はシュタインに触れようとするも、光に弾かれてしまった。
『くっ……! 何なんだ、これは……一体何が起こっている……?』
『ハハハハハ! いいですよ! シュタイン! もっとです! もっと絶望しなさい、怒りなさい! 悲しみなさい! それが、あなたの力となるのです!』
『貴様! シュタインに何をした!』
『何をした? 私はただ、彼女に、過度なストレスを与えただけですよ』
『ストレスだと……?』
『はい! シュタインはですね、怒り、悲しみといった負の感情が、強ければ強い程、魔力が増幅する、珍しい体質なんですよ!』
『なんだと……?』
『だから、シュタインに敬愛させ、長い期間を経て、今、裏切られるという絶望に叩き落としてあげました。すると、どうでしょう! 今の彼女の魔力は! 素晴らしいでしょう! 正直、まさかここまで魔力が上がるとは思ってもいませんでした! こんなに嬉しい誤算はありません! 私はまだまだ彼女に、怒りと悲しみを与え続けます! そうしたら、一体どうなってしまうのでしょおおおおおお! アハハハハハハハハハハ!』
歪みきった顔で、屑は高笑いをした。
今すぐアテナを地獄に送りたいくらいには憤っているが、それよりもシュタインだ。今のシュタインの心は、とても耐えられないレベルの悲しみで染まっている。
俺ですら見たこともない体質だが、シュタインがそうあり続ける限り、彼女の魔力は無限に膨れ上がり、最悪の場合身体が魔力に耐えられず、絶命も免れない。
つまり、俺が今するべきはシュタインの精神を安定させる事だ。その為にはシュタインに新しい居場所を与える必要がある。お前の味方はここにいると安心させる。シュタインも、フランもケンも俺が守り続ける。
『シュタイン! 俺のギルドに入らないか?』
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次回は、30日(日)~31日(月)に投稿予定です。
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