第91話『残酷な真実の証明』
※2023/12/09改稿しました。
お待たせしました。
第91話の執筆が完了しました。
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ああ、そうか、あの魔法で証明すればいいのか。
俺はシュタインの頭にそっと手を置いた。
『な、なんですか』
シュタインは警戒心を上げつつ、触れられ慣れてないのか少しだけ恥じらいの表情を見せた。
『今から、俺がお前達の味方である証明をする』
『証明……?』
『記憶魔法“共有”』
この魔法は自分の思い浮かべる記憶を、触れた相手の頭に直接流し込む魔法だ。今のように信用してもらえない時や、説明に時間を取られたくない時に便利だ。俺は主に後者の理由でよく使っている。
『あ……ああ……そんな……』
シュタインの顔は青ざめ、涙を流す。
裏切られたという絶望が彼女の心を酷く打ちのめしている。
『以上だ』
必要な記憶は全て流し込んだ。俺はそっとシュタインの頭から手を離した。
『あ……ああ……ああああああ……そんな……そんなことって……』
俺が思い浮かべた記憶は、フランとケンがプロメテウスに捨て駒だと告げられた時から、シュタインを連れ戻すと取引成立するところまでだ。
シュタインも真実を知ってあの兄弟と同じようにショックで号泣している。このまま、そっとしといてやりたいが、そうもいかない。
『信じたくないだろうが、これが真実だ』
案の定シュタインはしばらく泣き止まなかった。フランとケンと同じくらいに、あいつの事を敬愛していたのだろう。それを見事に裏切られたんだ。まだまだ大人の力が必要な年齢の彼らにはかなり重い仕打ちと言えるだろう。
――10分後――
シュタインはようやく泣き止んだ……というより、泣き疲れたというべきか。今後も途方もない悲しみが、突発的に彼女を襲い続けるのだろう。味方に引き入れる以上、心のケアも考えなければならない。フランとケンも含めてな。
『大丈夫か?』
俺がそう言うと、シュタインは涙を拭いた。
『はい……!』
シュタインは何かを決意したような力強い目をしている。フランとケンの時は絶望して一緒に死のうしていたが、シュタインは違うようだ。
『すぐにここから出るぞ。そろそろ奴らに見つかってしまう』
『分かりました』
俺はシュタインを連れ、廊下に出ると、大勢のしたっぱと俺も知らない新しい幹部らしき男2人が待ち伏せをしていた。うむ、想定の範囲内だ。むしろもっと居るものかと思っていた。
『侵入者発見!』
『奴は裏切り者のアクタだ! やれ! シュタインは傷つけるなよ!』
裏切り者? 貴様らなどもとより味方ではない!
命令を受けたしたっぱ達が、一斉に雄叫びを上げ、俺を始末しようとする。こいつら全員倒すのは目を瞑ってもできるが、今は一刻も早く、シュタインをフランとケンに会わせたい。俺は有象無象を始末しながら、そう考えた。
シュタインと一緒にすり抜けながら、すぐに撤退したいところだが、それにはシュタインの身体にも改造システムを使わなければならない。
そうなると、シュタインの身体にまで、とんでもない負担を負わせてしまう。地道に敵を倒しながら出口へ向かうしかない。
幸い、あいつの気配は感じない。どうやら今ここにいないようだ。
改造システムを使った後の俺でも、シュタインを守りながらここを抜ける事は容易い。
『もういい! 俺が行く!』
巨体の幹部の男はなかなか俺を倒せない事に苛立ったのか、残った有象無象を退かし、俺に斧を振ってきた。
『隙だらけだ』
俺は難なく斧を避け、男の横腹に軽く蹴りを入れた。
『ぐおおおおおおっ……!』
すると巨大の幹部の男はあっけなく倒れてしまった。
こいつ本当に幹部なのか? 弱すぎる。この程度なら、ゴールド達でも倒せそうだ。
『隙あり!』
と言って、後ろから俺の首にナイフを刺してこようとしてきたのは、もう1人の幹部のやせ気味の男だ。
やれやれ、遅すぎるぞ。お前の方がよっぽど隙だらけだ。何が隙あり! だ。不意打ちを成功させたいのなら、お前と同じ幹部のイーブルのように、うまくやってほしいものだ。
しょぼい不意打ちをしてきたその男の背後に、瞬時に回り、軽く首元を手刀打ちしてやった。すると、その男は泡を噴いて倒れてしまった。この程度で倒れるとは……幹部クラスも落ちたものだ……。
『この程度か』
『つ……強い……』
シュタインは俺のあまりの強さに驚愕しているようだ。まだまだ全然本気を出していないのだがな。いや、こいつらが弱すぎるのか? いや、待てよ? それはおかしい……奴らにとって、重要なシュタインがいるフロアなのにも関わらず、セキュリティが甘すぎる。
なんだこの感じ……何か……何かを見落としてる気がしてならない……。
『あの……どうかしました?』
考え事をし、立ち止まっていた俺に、シュタインが少し不安そうに話しかけてきた。
『すまない、何でもない。行こう』
『はい』
その後、俺はシュタインを守りながら、立ち塞がる敵をなぎ倒し、順調に出口を目指す。…………順調? いや、順調すぎると言うべきか……。
そうこう考えてる内に出口の扉の前に着いた。ここを抜ければ、こちらのものだが……なんだこの違和感は?
『……シュタイン』
『はい、なんでしょう?』
『ここにいる幹部は、いつも、あの2人だけしかいないのか?』
『いえ、そんなことはないと思います。いつもなら、他の幹部は、5人くらい居るはずなんですが……今日に限って、あの2人だけでしたね。どこかで、すれ違ってたのでしょうか?』
『うむ……確かにすれ違う可能性もあるが……』
考えすぎか? それなら良いのだが……。
『とにかく急ごう。あいつが戻ってくる前に』
俺達は出口の扉を開け、闇森に入ったと同時に出口の扉が消えていた。どうやらアジトバレ防止の為に、人が出る度に何らかの魔法を施したのだろう。前に俺がここに来た時よりも、セキュリティ意識は高くなっているようだ。
『無事に抜けたようだな……』
あとは闇森を抜けて、火の国まで飛んで行くだけだ。
俺は外に出る為に、1回結界を解こうとしようとした瞬間、後ろからガサガサという音が耳に入り、音のする方へ振り返り、拳を構えた。シュタインもビクッとしながら向こうに顔を向けた。
『誰だ!』
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次回は、27日(木)~29日(土)に投稿予定です。
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