『トカゲ』と『おっさん』。時々『彼女』
都会を離れ田舎で暮らす、年の離れたカップル。
男は、若い彼女への不安を抱え…
女は、言葉に出来ない想いを抱える…
(私は彼の事が大好き。ただ一点を除いて…それはあいつの存在。あいつさえ居なければ、心から彼を愛せるのに…)
「ただいま〜」
「おかえり!」
彼女は歳の離れた俺と一緒に、東京から田舎について来てくれた優しい子だ!
「チャーリーただいま〜!いい子にしてたか?よしよし…今、狭い所から出してあげるからな〜」
チャーリーとは、俺が昔から飼っているトカゲの名前だ。前の彼女と付き合っていた時から、俺にとっては心を癒してくれる大事な存在だ!
「もう!帰って来て、すぐにチャーリーの事なの?」
「あっ!」
「ねぇ…本当にチャーリーの事が大好きなんだね…」
「ゴメン…だって、こんな可愛い子いないじゃん。鳴かないし、散歩もしなくていいし、犬と比べて食費も掛からなくて最高じゃん!」
「ふ〜ん。私とは愚痴聞いたり、デートして奢ったりとか大変だもんね…」
「えっ?何?」
彼女は拗ねた表情を浮かべて、夕飯の続きをする為に台所へ向かった。
まるで娘のような歳の差の彼女が、どうして俺に着いて来てくれたのか、怖くて真意は聞けなかった。
そして、チャーリーを見ながら時々浮かべる、寂しげな表情の理由も…
(彼は私にとても優しい。私にだけ見せてくれる笑顔も大好きだ。でも、私以外に見せる笑顔もある。それは、あいつに向けて見せる笑顔…嫉妬?そんな事は無い。でも、心に引っかかるのは…いつもあいつの存在)
「なぁ、まだ起きてる?さっきはゴメンな!」
「え?何が?」
「チャーリーの事で嫌な気分になったろ?」
「うん…実は、その事で言いたい事が…」
「えっ?」
「あなたが嫌なら無理にお願いはしない。だから、怒らないで聞いて!」
「おっ…おう!」
「私、チャーリーの事を見ていると、時々…もの凄く寂しくなる時があるの…だから…出来たら…もう一匹飼った方がいいと思うの!私だって一人じゃ寂しい。きっとチャーリーだって、こんな狭いケースの中に一人じゃ寂しいんじゃないかって感じるの!チャーリーも女の子、彼氏が欲しいんじゃないのかな?ダメ?」
一瞬の間があり、俺は大声で笑った!不思議そうにしている彼女を強く抱きしめた。俺の彼女は最高だ!
(明かりが消えた暗い部屋の中でも、彼を感じる事は出来る。彼の寝顔、彼の呼吸、彼の寝言。その全てが愛おしい。私は彼の事が大好きだ。ただ一点…いつも彼の隣で寝てるあいつが憎い。彼は私のもの。いつか、この狭いケースから飛び出して、私も人間になりたい…)
「なろうラジオ大賞」2作品目
①タイムスリップRadio
こちらも是非、お楽しみ下さい!