468 準 備 3
「……地元の人々の攻撃は、多分普通に通る。
そして私達は、実験結果に基づいて、攻撃が通る手段で戦う。
身体能力が地元の人々より遥かに劣り、レイコの防御魔法と恭ちゃんのパーソナルバリア以外では防御力が殆どなく、もしそれらナシでまともに攻撃を受ければ、多分低ランクの魔物の軽い一撃でも簡単に死んじゃうだろう私達は、基本的に、遠距離攻撃で……、あ、ファルセットは近接戦闘でもいいよ!」
私の『遠距離攻撃』の言葉に、この世の終わり、というような顔をしたファルセット。
慌ててフォローを入れたけれど、そんなに嬉しそうな顔をしていいのか?
オマエ、私の護衛だよね?
護衛対象を放っておいて、自分だけ敵中に突っ込んで戦うとか、後で嬉々としてフランセットに報告したら、大目玉を食らうんじゃなかろうか……。
「じゃ、具体的な作戦を練りましょうか……」
そしてKKRの参謀役であるレイコの言葉に、大きく頷く私と恭ちゃん。
* *
「あれから、1カ月くらい経ったか……」
国同士の話し合いがそう簡単に済むわけがない。
しかも、軍を動かすという大金が掛かり大きな被害が予想される行動に関することであり、他国との協同作戦だ。他国の言うことを疑ったり、被害をなるべく他国に押し付けて自国は軽い被害で済ませようとする打算が働いたり……。
「素人が余計な口を挟むのは混乱の元だから、王様達には時々魔物の状況を知らせるだけで、政治的なことには口出ししなかったけど……」
「一度、手伝ったじゃないの」
「あ……」
そうだ。レイコの指摘通り、1回だけ手伝ったのだった。
王様から、『お願い』というわけじゃないけれど、愚痴を溢されたんだ。『儂らの説明を信じてくれない国がある』って……。
まあ、国というものは一枚岩ではなく、派閥やら敵対勢力やら、色々とあるのだろう。
だから、ごく一部の完全な独裁政権を除き、いくらその国の国王や外交官が信じてくれても、大臣や有力貴族達が反対すれば、国としては全面協力はできなくなる。
魔物の最新状況を知らせに行った時にそんなことを言われたから、手伝ったのだ。ほんのちょっぴり……。
会談の場で、王様が『今の話、全て真であることを女神に誓う!』と宣言した時に、不可視シールドを張って部屋の隅っこにいたレイコが魔法で色とりどりの光の乱舞を起こしたり、王様を嘘吐き呼ばわりした傲慢な国の外交官の鼻先で、ポン、とごく小さな爆発を起こしたり、女神の宣託を『捏造だ!』と決めつけた者の眼前に超小型の雷が落ちたりして……。
勿論、屋内の会議室でのことだ。落雷も含めて……。
その後は、かなりスムーズに話が進むようになったらしいよ。……なぜか……。
まあ、みんな『セレスがちょっと不愉快になった時』のことを、よく知っているからなぁ……。
今も各地に残る、クレーターとか死の荒野とかの現物もあるし……。
「とにかく、まぁそういうわけで、短期間としてはかなり話が進んでいるみたいだよ。
勿論、一枚岩で万全の態勢とは言えないけれど、共通の敵に対する協同ができるくらいには話が進んでいるらしいから、一応の防衛体制は整ったと言えるかな。
後で倒した魔物の素材や魔石の取り分とかで少し揉めるかもしれないけれど、それはまあ大したことじゃないし、女神のお言葉による聖戦に勝利した後となればみんな良い気分だろうから、割と和やかに話が纏まるかもしれないし……」
「……ないわね」
「ないよね~!」
戦後にみんな仲良く、という期待は、レイコと恭ちゃんによって一笑に付された。
……いや、まあ、私もそんな気はしているけどね。
「魔物達が、そろそろ限界っぽいよ。
特に、一番大きな森がもう魔物の数に耐えられなくて、草食の魔物や動物の維持に耐えられるだけの植物がほぼ枯渇。それによって、小さな魔物や動物が減少。そうなると、必然的に……」
「中型や大型の魔物の食料が足りなくなる、ってわけか……。
そして、森の中は食糧不足でも、外にはたっぷりと食べ物がある。
厚い毛皮やウロコもなく、柔らかくてたっぷりと肥え太っていて、逃げ足が遅くて弱い餌が、分かりやすい場所に纏まって住んでいる……。
そりゃ……」
「「「狩りに出て来るよね〜〜!」」」
まあ、そんな話は今更だ。
これからの話の前振りに過ぎない。
「とうとう、今に至るまでセレスは戻らなかった。
これはもう、私達の感覚ではなく、セレス達の時間感覚での『一時不在』と考えるしかないよね。数十年が『ちょっとの間』という、あの連中の感覚での……。
だから、もうセレスはアテにできない。……機能し続けてくれているチート能力を除いて、ね。
私達は、今配られているカードで戦わなきゃならないんだ」
「……まあ、危なくなれば他国や他の大陸に逃げられるし、母艦で暮らしてもいいしね。
洋上の島にサンクチュアリとかクリプトとか名付けて、そこでのんびり暮らすという手もあるし……」
恭ちゃんがそんなことを言うけれど……。
「私達はそれでもいいけれど、『リトルシルバー』の子供達は、普通の環境で多くの人々と交流しながら成長させるべきだと思うわよ」
うん、レイコの言う通りだ。
子供達の成長には、人々との交流が必要……、って、それ以前の問題として、大勢の人達をそんなに簡単に見捨てたりはできないよ!
王様や宰相様、ダルセンさんやお店の従業員、そしてお客さんや取引相手、『夜の御使い様劇場』で助けた人達。そしてその他の、幸せを求めて懸命に生きている大勢の人々……。
セレスの保護対象というわけじゃないけれど……。
中には、悪党もいるけれど……。
でも、全て含めて、私達が護りたいと思う人達だ。
ピピピッ!
「あ……」
左手のブレスレットが軽やかな音を立て、すぐに何やら操作する恭ちゃん。
そして、ブレスレットから空間へと浮かび上がる、半透明のスクリーン。
それを見て、更に操作を続け……。
「……来た。一番大きな森から、オークやオーガ、ゴブリンとかが出てきてるみたい。
コボルトとか角ウサギとかは喰い尽くされたのか、姿が見えないようだね。
ゴブリンは、マズくてとても食えたもんじゃないというのが幸いしたのかもね……」
「進化の過程における、生存戦略のひとつか……」
まあ、マズくなくても食べたくないよ、ゴブリンなんか……。
オークやオーガがどう思うかは分からないけれど……。
勿論、魔物達はみんな仲良く並んで出てくるわけじゃない。
マズいゴブリンはともかく、オークとかはオーガに喰われちゃうからね。
種族別に、それぞれが別個に群れをなして出てくるわけだ。
そいつらが鉢合わせると食い合いになるかもしれないけれど、その目の前に簡単に狩れて美味しい人間の村や町があれば、みんな仲良くこっちを襲ってくるだろうなぁ……。
まあ、それはともかく……。
「KKRプラス2、発進!」
「「ラーサー!!」」
「ら、らーさー……」
無理に合わせようとしなくていいよ、ファルセット……。




