467 準 備 2
「あ、あの……」
「はっ! ……あ、ああ、失礼した。
少し、……ほんの少し、現実逃避しておった……」
あ~、さすがに大勢の国民の危機となると、ショックが大きかったか……。
王様、国民思いの良い人だものなぁ……。
「……で、とりあえず、周辺国への根回しを……」
「あ、ああ、分かった。何とかする……」
よし、疑うことなく私の話を信じてもらえたぞ。
まあ、女神の加護による治癒能力を何度も見せたからねぇ。
アレを見て、私に女神にコネがある、ということを信じない者はいないか。
「じゃあ、お願いしますね。
私は、次の準備に移りますので……」
よし、撤収!
* *
自由巫女エディスが去った会議室は、静寂に包まれていた。
誰も、何も喋らない。ただ、静寂に包まれていた。
そして無限にも思える数十秒が過ぎ、宰相が国王に向かって、不敬とも言える言葉を掛けた。
「……陛下、震えておいでで?」
「馬鹿もん、これは武者震いだ!」
これは、国王を侮辱したわけではなく、固まってしまっている列席者達に活を入れるべく、国王に話を振ったのである。
普通の者が国王に向かってこんな言葉を吐けば大事である。国王とは阿吽の呼吸である宰相にのみ許される技であった。
そして、過たず、きちんとそれを受ける国王。
「確かに、王国の未曾有の危機だ。しかし、我らにはそれを乗り越える力があると女神が判断され、そして御使い様を介して御助力いただけるのだ。
これは神命であり、女神に我らが認められ、信用されたという証。決してその期待を裏切ってはならぬ!
皆の者、行け! そして、自らの職責を果たすのだ!」
「「「「「「……はっ!!」」」」」」
そして、皆が一斉に会議室から走り去った。
軍や国策に携わる実務のトップ達、外務大臣を始めとする外交官達。それら全てが……。
顔を引き攣らせている者もいれば、誇らしげな表情の者もいる。
……それも無理はない。
あまりにも大きな危難。心を押し潰されそうな程の、大きな重圧。
そして、神命により人々を救うという、それらを上回り、消し飛ばす程の栄誉と高揚感。
女神の使徒となりて、自分達が国を、そして民を救う。
歳を取り、摩耗し忘れかけていた、若かりし頃の誓いを思い出す。
これで魂が燃え上がらない者、自分の命を惜しむ者などいるはずがなかった。
ここは自らが護ると誓った母国であり、そのために今の地位まで登り詰めたのだということを、皆が思い出したのであるから……。
そして会議室に残された国王が、宰相に静かに告げた。
「……御使い……自由巫女様には色々と振り回されたが、全てはこの日のためであったか……。
女神は全てを見通し、この日のために巫女様と我らの縁を結ばれていたとは……。
女神の慈悲の御心、ありがたや……」
「ありがたや……」
そして、国王の祈りに続く、宰相。
「では、我らも……」
「参るといたしましょう……」
「今から、我ら……」
「「国を護る!!」」
* *
「人間さんチームには、根回し完了!
動物さんチームには、事が起きた時に、避難する人間達の護衛と誘導を依頼しといたよ」
お店に戻って、みんなに報告。
「動物達は、オーク以上の魔物相手だと被害が大きいだろうからね。
ここは、先行したゴブリンやコボルトとかが避難中の女子供を襲うのを阻止する方を任せた方がいいわよね。
それに、魔物と正面からぶつかる戦いに参加されると、敵味方の区別がつかなくなって味方撃ちが多発しそうだものね。
……主に、私達の攻撃によって……」
レイコの指摘に、こくこくと頷く、私と恭ちゃん。
あ、ファルセットも頷いているな。狂戦士モードに入った女神の守護騎士は、見境なしらしいからねえ……。
動物さん達にも、生きて子孫を残すという、神に与えられた役割、存在意義がある。無駄に死なせたりはしないよ。
まあ、それ以前に、動物さんチームは私達の配下であり、友軍だ。なので、私達には可能な限り彼らを護る義務がある。
だから、戦闘の最前線には出さないよ。
これは、人間対魔物の戦いだ。動物さんチームにはお手伝い以上のことはさせず、極力危険には晒さない。
セレスから見れば、人間も、犬や猫、鳥達も大して変わらず、『下等生物』という括りの中で仲良く並んでいるという程度だろう。
女神の前では、下等生物は皆平等なり、だ。
そしてレイアは、我関せずとばかりに、お菓子を食べたり紅茶を飲んだり……、って、一応話を聞いてくれているというだけで、レイアとしては大サービスなのだろうな、多分。
毎週渡している金貨……その殆どは、宿代と飲食費に消えるらしい……の効果が、少しはあったのだろうか?
あれだけ貢ぎ続けたんだ、無駄金でなかったなら嬉しいよ。
よし、みんなに以後の計画を説明するか。
「……じゃあ、次のフェーズに移ろうか。
基本的には、人々を護るのは地元の者達の役目。軍隊やハンター、傭兵、自警団、義勇軍、その他諸々ね。
魔物達から国民を護るのは、人間の仕事。決して、困った時には機械仕掛けの神が現れて全て解決、なんてことがあっちゃならない。
セレスも、今までそんなことはしていないしね」
多分セレスはそんなことを考えていたわけではなく、ただ単に面倒だったとか、興味がなかったとかいうだけのことだと思うけどね。
まあ、そんなことはどうだっていいか。
「とにかく、下手に間引くと却って増殖を早め、そして魔物が溢れる……ちょっと意味が異なるけど、ここではみんなが聞き慣れている『大暴走』という言葉を使うね、その大暴走が起こるのを早めることになる。
だから、今はまだ魔物には手出しせず、できる限り時間を稼いで人間さんチームの協力体制と迎撃準備が調うのを待つ。
……こっちから先制攻撃するんじゃなくて、防衛戦ってわけね」
「賛成。攻め込むと戦場が森の中になるから人間側に不利だし、森林火災になると色々と大変だよね。森がなくなると近隣住民の生活の糧が激減しちゃうし、自然破壊や動物の大量死を招いちゃうし……」
よし、恭ちゃんが『天使モード』の発言をしているぞ。
激怒させて、女神モード……下等生物の生死なんかどうでもいい……にならないよう、気を付けなくちゃ……。
恭ちゃんが本気で怒ると、……せかいがはめつする……。




