463 危 機 1
「……というわけで、隣国の軍は引き返したそうです」
「「…………」」
あれから王都に戻り、メイド姿のファルセットとふたりですぐに王宮へ登城して、王様達に隣国軍についての概要を伝えた。
王様が心労で倒れたりしないよう、少しでも早く知らせてあげたかったからね。
軍を動かすと、無駄金を使うことになっちゃうだろうし……。
あ、恭ちゃんはあの後母艦に乗って、惑星上の魔物の状況を確認している。
母艦のコンピューターに命じて、魔物の観測機材を新たに開発させたり、分布状況の変化を解析させたりしているから、その状況を確認するのだとか……。
レイコは、お店の監督。やはり、長期間従業員だけにしておくのは心配だからね。
そして私とファルセットが、王様達への報告を担当しているわけだ。
王様達には、『そういうことがあったと、女神からの宣託があった』という言い方で伝えたのだけど、何だか胡散臭そうに見られているなぁ……。
いや、私は女神の加護を与えられた者ということになっているし、以前にも女神からの宣託を受けたということになっているから、そんなに怪しまれることはないだろうと思っていたのだけど……。
確かに、セレスは大きな災害とかを予告して人間を助けてくれることがあるらしいけれど、それはあくまでも気紛れによるものだし、自分が実際に手出しすることはないという話だった。
そして私関連以外のことでは、多少の人間が死のうが気にもしないし、人間同士の争いとかには手出しすることはないということだった。
そのセレスの手の者が人間同士の争いを止めるというのは、不自然だと思われたか……。
「……あ、いや、託宣、大儀であった!」
しばらく黙り込んでいた王様が、慌てて労いの言葉を掛けてくれた。
国王陛下が、自由巫女風情にだよ! 本当に、良い人だよなぁ、王様……。
あ、『宣託』というのは、神のお告げのことだ。それに対して、『託宣』は、神官や巫女とかが神意を人に告げるということだ。
だから、私は『女神からの宣託があった』と言うし、私が王様達に女神の言葉を伝えるという行為は、『託宣』ということになる。
「では、すぐに動員兵の解散と、傭兵の契約を終了させよう。宰相、軍に指示を……」
「あ、ちょっと待ってください! 動員兵と傭兵は、もう少しそのままで……」
今、恭ちゃんが母艦のセンサーで確認中なんだ。この国や周辺国で魔物の異常増殖の兆候が見られれば、すぐにまた兵の動員が必要になるかもしれない。それなら、もう少しこのまま待っていてもらった方がいいだろう。
でも、何の説明もなしで、王様達が納得してくれるかどうか……。
「……分かった。どれくらい待てば良いのかな?」
ありゃ? 簡単に納得してくれたぞ?
お金が掛かり続けるのに、何の疑問を呈することもなく……。
そりゃ、セレスの宣託というなら分かるけれど、今の私の言い方だと、これは私の個人的な考えだということは分かってくれているはずだ。王様からの返事も、それが分かっている言い方だし……。
まあいいや、話が簡単で、助かる。
「そんなに長くはありません。次の宣託があるまで……、早ければ半日、遅くても数日くらいで。
あ、勿論、兵力は不要となる確率の方が高いですから、無駄になるかもしれませんが……」
「何、待機させておいても、別に死傷者が出るわけではない。待機だけで、出番がなく終わるなら、それに越したことはない」
おお、やはり人格者だなぁ、王様……。
とにかく、待機していてもらうのは恭ちゃんの分析結果が出るまでだ。
よし、撤収!!
* *
お店の2階で、夕食。
ここの調理システム……分子再合成じゃなく、ちゃんと普通に調理するやつ……で私が作った食事だ。食材の大半は地元産で、調味料はポーション作成で作ったやつ。
メンバーは、私達とファルセット、レイアの、いつもの5人。
……最近、ここで食事を摂る時には、いつの間にかレイアが交じっているのだ。
多分、高級レストランとかで食べるよりうちの食事の方が美味しいと気付いたのだろう。
まあ、時間を掛けた丁寧な下処理とか、地球式の調理法とか、そしてケチることなくたっぷりと使う調味料とかの差は大きいよね。
私だけじゃなく、年の功で、レイコと恭ちゃんも料理はかなりできるのだ。
……私が生きていた頃には、料理関係は私の独擅場だったのだけど……。
まあ、就職後すぐに死んだ私と、老衰で大往生するまで生きたふたりじゃあ、経験値が違いすぎるか。
とにかくそういうわけで、夕食の寸前に母艦から戻ってきた恭ちゃんを加え、フルメンバーで夕食を摂りつつ、情報交換と検討会議。
「……というわけで、王様達には状況を説明して、動員兵と傭兵は待機状態のまま。
で、魔物や他国の様子はどうだった?」
前座である私からの簡単な報告に続き、本日のメインイベント、恭ちゃんからの調査結果報告だ。
いや、私は美味しいモノは後に取っておくタイプなんだよ。長瀬家の者は、みんなそうだ。
「ええと、人間の軍隊らしき集団が国境方面へ向かって進んでいる、というような兆候はなかったよ。隣国の軍隊は、真っ直ぐ母国の中心部へ向かっていたし……。
そして、魔物なんだけど……」
うんうん。それがメインだ。
「この国の周辺で、爆増中。私達が間引いたあの森も、どんどん増えてる。
普通に繁殖して増えてる、なんてことでは説明できないくらいの増え方だよ。
まるで、バイバインを使った栗まんじゅうか、ワーストマンの分裂増殖並みだよ……」
あ~、やっぱり普通の増殖じゃなかったか。
さすがにクローン培養とかで増やしているとは思わないけど、やはり時間の流れが速い異次元世界で増やして、こっちへ戻しているとかかな。
それに、今まではそんなに極端な増加速度じゃなかったし、あまりにも不自然だな。
そういうのって普通、住民達にあまり不審に思われないようにするんじゃないの?
まさか、私達が間引いたから、その分をカバーするために緊急増産体制に入った、とか……。
いや。いやいやいやいや!!
……って、え? ちょっと待てよ……。
「魔物が増殖しているのは、この国の周辺だけ? 他の方面は? 他の大陸は?」
そう。恭ちゃんの話の中で、何か引っ掛かるような気がしていたのだけど、これだ!
「あ、うん。この国と、その周辺部だけ。遠くの国とか他の大陸とかでは、特に変わった様子はなかったよ」
「…………」
それって、もしや……。
「試行かしらね。全体的な調整を始める前に、一部の地域で試行する。地球の企業でもよくやってたでしょ、一部地域での先行試験販売とか……」
「「確かに……」」
さすがレイコ、鋭い指摘だ。その説明に、納得するしかない私と恭ちゃん。
「そして、何かの理由で、その試行調整が暴走している、と……」
あ~、レイコもやっぱりそう思うか……。
多分、間引きのせいじゃないかと予想してはいるのだろうな。根拠もなく憶測を口にしないだけで……。
「よし、この辺りだけだというのは、ラッキーだ。
さすがに、世界中で異常増殖が発生していたらどうしようもなかったからね。
……じゃあ、やろうか!」
「やろうか、って、何を?」
「勿論、魔物の間引きに決まってるよ」
恭ちゃんの疑問に、スパッと答える。
「でも、間引くと反動でまた爆増しない? 更に早く、更に多く……」
うん、レイコがそう考えるのは当然だ。多分、恭ちゃんもそれには気付いているだろう。
恭ちゃんは少しぽややんなところがあるけれど、決して馬鹿じゃないのだから。
でも……。
「反動で魔物が増えるなら、増えるより早く間引けばいいだけの話でしょ?
向こうより早く、向こうより多く間引き、魔物の群れを薙ぎ払う!!
……障害は?」
「「排除!」」
「敵は?」
「「殲滅!!」」
「それが、我ら……」
「「「KKR!!」」」




