462 仲 裁 2
集音システムを使っているから、連中がこちらに向かって叫ぶ声とかは簡単に拾える。
……仲間内で普通に話している声も拾えるけれど、何でもかんでも聞いていては話ができないので、そういうのは録音しておいて、念の為に後で確認する。
今は、こちらに向かって叫んでくる声だけを聞いて、相手しよう。
向こうは、叫びはしても本当に私達に声が届くとは思っていないだろうけどね。
で、こちらに向かって叫んでいる言葉の大半は、『悪魔』、『魔物』、『女神よ化け物を打ち払い給え!』とかだった。
さっきの警告では、私達が女神側の者だとは受け取ってもらえなかったか……。
まあ、女神とか御使いとかは普通、身ひとつで降臨するよね。
少なくとも、乗り物に乗っていたり、こんな巨大でまん丸の姿をしていたりはしない。せいぜい、背中に翼が付いていたり、頭上に光輪がある程度だ。
だから、搭載艇を見て女神や御使いの降臨だと思う者は殆どいないってわけだ、うん。
なので……。
「恭ちゃん、準備しておいたホログラムを投影して!」
「らじゃー!」
矢が届かない高度だと、等身大では地上からはっきり見えないだろうし、かなりデカい搭載艇の上に立ったんじゃあ、視界内に入らない。
かといって、搭載艇の底部から顔を出すとかぶら下がるとか、逆さに張り付くとかすると、間抜けに見える。
……ここは、艇外に巨大御使い様のホログラムを投影するしかないと思って、用意していたんだよ。
まあ、用意といっても、恭ちゃんが艦載コンピューターに指示して、御使いルックの私の姿をスキャンしてホログラムを作っただけだけどね。
そして恭ちゃんの口頭指示で、搭載艇の少し下に御使い様の巨大なホログラム映像が投影された。
勿論、御使い様らしい神々しい衣服を身に着けており、下方から見上げられても下着が見えたりしないように謎の光が仕事をしているので、安心だ。
……では、拡声システムを作動させて、ミッション・スタート!
『オロカモノメ!』
「「…………」」
ああっ、レイコと恭ちゃんの、呆れたような視線が痛い!
いや、ここは下手に出るんじゃなくて、高圧的な態度に出なきゃ駄目でしょ。
だから、掴みはこれでいいはずだよね。
『我を女神の眷属と知っての、その無礼な振る舞いか!』
おお、ビビってるビビってる……。
よし。冷静に考えたり、他の者達と相談したりする余裕を与えず、一気に捲し立てる!
『魔物が異常繁殖して大暴走を起こしそうになっていたから、我らが間引いて防いでやったというのに……。
それを、少し魔物が森から逃げ出たというだけで、他国のせいだと決めつけて侵略行為の口実にするとは……。
これは、我らが責任を取って、国境を越えて侵入した者共を殲滅すべきであろうか……』
うむうむ、何だか大混乱だな。
お面を着けているから、怪しまれて信用してもらえない可能性も考慮していたけれど、衣服と状況のおかげか、疑われてはいないみたいだ。
「女神側だろうが悪魔側だろうが、脅威度としては変わらないからじゃないの?」
「お面を着けていなければ、悪魔側だと思われていたよね、多分……」
「うるさいわっっ! カオルじゃなくてエディスに変装しているから、目付きは少しマシになっとるわっ!!」
そうなのだ。エディスモードだと、カオルの時よりは、少し目元のキツさがマシになるのだ。
……性格が現れるのか、目付きの悪さそのものはかなり残ってしまうけれど……。
とにかく、レイコと恭ちゃんにボロクソ言われた。
まあ、いつもの軽い弄りに過ぎないのだけどね。
勿論、内輪の話の時は、拡声システムは切ってある。内輪話の時も、日本語ではなく、ここの言葉で話しているからね。
ここには今、ファルセットがいる。だから、自分達にしか分からない言葉で話したりはしないよ。
当たり前のことだ。
「……じゃ、恭ちゃん、一発デモンストレーションをお願い。自然破壊はなるべく避けてね」
「らじゃー! じゃあ、念の為に手動操作でやろうかな。
下部小口径パルス砲1門、射撃用意!
安全装置、解除!」
メインスクリーンの一部に、船体からせり出す砲塔が映し出された。
そしてスクリーン全体は照準装置となり、その画面には照準線が表示されている。
……勿論、空気密度や屈折率等も計算され補正済みなので、これで狙ったところに命中する。
本来は宇宙空間で、遠距離のバリアを張った敵戦闘艇とかを攻撃する兵装なので、こんな超至近距離で、しかも攻撃目標が地面だなんて、照準装置を使う必要すらないだろう。
……それでもまあ、木々や、小動物が潜んでいるかもしれない草むらとかに被害が出るといけないからか、恭ちゃんは手動操作で慎重に狙いをつけている。植物が生えていない、岩場のあたりに……。
キュン!
どおおおぉ~ん!!
吹き飛ぶ岩場。
その跡にできた、クレーター。
雨が降れば、小さな池にでもなるかな?
「……あ、逃げた……」
恭ちゃんが呟いた通り、全軍が一斉に反転し、やって来た方向へと全力で移動を始めた。司令部要員らしき連中から、騎士、一般兵、動員兵、傭兵、輜重輸卒に至るまで、全ての者達が……。
……あ!
『動くな! その場に停止せよ!!』
急いで、そう警告を発した。
そして、一斉にピタリと止まった、隣国軍。
……だって、止めないと……。
『オロカモノメ! そんなに無理な動きをすれば、押し潰されたり、転んで踏み潰されたりして、死者や怪我人が出るであろうが! 落ち着いて、ゆっくりと、普通に行動せよ! 上官共、きちんと指揮せぬか!!』
そうなのだ。隊列として進行方向を変えたわけではなく、皆がその場で個人単位で回れ右をしたものだから、隊列が崩れ、個々の移動速度もバラバラで、後方の者との押し合い状態が発生していたのだ。
……うん、花火大会とかで、圧死者が多数発生する時と同じやつだ。
そんなことで、個人個人には何の責任も落ち度もない軍人さん達が無意味に亡くなったり大怪我したりするのは、本意じゃない。
そういうのは、阻止しなきゃね。
まあ、この時には、私達はそれくらいの考えしかなかったのだけど……。
結果的には、兵士達の安全に配慮したこの指示が皆に『あの方は、正しく御使い様に違いない』と思う理由、信用へと繋がったということは、ずっと後に知ったことだ。
……とにかく、私達のせいで戦争が、というのは、何とか阻止できた。やれやれ……。
でも、軍を動かすには大金が掛かったはずだ。動員兵を呼び集めたり、傭兵を雇ったりして。
兵糧とかも、戦わなくても消費するよね。
隣国だけでなく、こっちの国も、動員兵や傭兵を集めたり、軍需物資の蓄積を始めたりしているはずだ。早く王様に知らせなきゃね、隣国軍が撤退したことを。
そのこと自体は喜んでくれるだろうけど、無駄にした国費は戻らないよねえ。
ごめん……。
そして、根本的なこと、つまり魔物の増殖については、何も解決していないのだ。
はぁ……。




