365 王都本店 7
そういうわけで、開店2日目。
今日は、そんなに大勢のお客さんが並んでいるわけじゃない。
珍しいものを見るのが好きな者は、大体初日に来るから、2日目からは少しずつ客足が落ち着き始めると思われる。
それに、売り値が適正価格であり、自分が必要としているわけではなく、仕入れとして購入するにはリスクが大きくて旨味が少ないとなれば、我先にと購入しようとする連中は、見切りを付けて別の儲け口を探すだろう。
うん、本当にこの店で売っているものが欲しい人以外の者にとっては、ここはただの『高級品店』であり、荒稼ぎができるような店ではない、ということだ。
これで、本当のお客さん以外は、馬鹿と犯罪者くらいしか来ないだろう。
そして、そういう人達が来るのは、もう少し経ってからかな。
しばらく様子を見る、というのは、普通のことだ。何事にも、時間が必要だからね。
まともなお客さんは、信用できる店かどうかの調査のために。
悪党は、店の金庫にお金が貯まるのを待ったり、お金の毟り方を考えるために……。
暇なうちに、ちょっと他のことの準備をしておこうかな。
* *
「恭ちゃん、母艦で小型艇、造れる?」
恭ちゃんに、これを確認しておかなきゃね。
「造れるけど……。既存の搭載艇とか連絡艇じゃ駄目なの?」
連絡艇も搭載艇の一種なんだけど、恭ちゃんの母艦には『搭載艇』と称する、地球の感覚だとかなり大きいのが積んであるからねぇ。
だから、それよりは小さい連絡艇や輸送艇、戦闘機とかとは別枠で、区別しているのだ。
「うん。どれも、ちょっと大きいじゃない。もっとこう、小さくて使いやすいのが欲しいかな、と思って……」
そう。デカいのだ、恭ちゃんの母艦に積んであるやつは、全部。
搭載艇よりはかなり小さくても、私達の感覚では、単座戦闘機ですら、割とデカい。
まあ、宇宙空間だとか、厳しい環境の未開惑星とかで活動するやつだから、頑丈で武装していて強力なエンジン、分厚い装甲、非常時のための物資とかが積んであれば、そりゃ大きくなるか。
おそらく、乗員の安全を最優先、という設計思想なのだろうから、安全マージンをメチャクチャ大きく取ってあるに違いない。
でも、呼吸可能な大気がある惑星の表面近くで、人目に付かないようにこっそりと、ごく短時間のみ使いたい場合、それは明らかに不適当だ。
今欲しいのは、ランボルギーニや装甲車、大型トラックに相当するやつではなく、普段使いの下駄代わり、軽自動車か原付相当のやつなんだよ。
……原付といっても、『原子力エンジン付き』のことじゃないよ。
「私達にはアイテムボックスがあるから荷物の搭載スペースは必要ないし、気密性も、分厚い装甲も要らない。そういうのが必要な時には、今あるちょっと大きいやつを使えばいいからね。
私が欲しいのは、昼間でも人知れずこっそりと移動できる、小さくて静かで速い乗り物なのよ。
そして、私やレイコにも簡単に操縦できるやつね。
……そうだなぁ、言うならば、『流星号』みたいなやつかな?
ふたり乗りくらいで、隠蔽装置で透明化とか岩に偽装できたりとかして、隠しておく時はシールドか何かで他者には手出しされなくて、自動操縦ができて、衝突防止装置とかの安全装置が完璧で、呼べばすぐ来てくれるやつ。
あ、岩やコンクリートの壁をぶち抜く時に、機体がぐにゃぐにゃ曲がる必要はないからね!」
「ああ、そうよね。長距離移動の時にはいちいち恭子に送り迎えしてもらわなきゃならないから、悪いなとは思っていたのよ。今の搭載艇や連絡艇は大きいから、いくら不可視機能があるとはいえ、さすがに明るいうちとか近くに人がいるところとかでは乗り降りできないしね。
小さくて目立たず、私やカオルにも簡単に使える乗り物があれば便利よね、確かに……」
やっぱり、レイコもそう思っていたか。
まあ、当たり前だよねぇ……。
いくら見えなくしても、巨大な質量がすぐ側にあると、何となく違和感があるんだよねぇ。
空気の流れも変わるし、太陽光も、ちょっと不自然になる。
だから、恭ちゃんに迷惑を掛けたくないことと秘密の露見を防ぐために、これは必要なことだ。
それに、移動が便利になれば、子供達がいる『リトルシルバー』に顔を出しやすくなる。
「あ、なる程……。確かにそうよね。
じゃあ、ちょっと母艦のデータベースでどんなのがあるかリストアップするから、その中から何種類か選んで、用途に応じてカスタマイズしよう。
細かい設計や製作はコンピューターがやってくれるから……、って、香がポーションの容器として出した方が早くない?」
恭ちゃんが、そんなことを言うけれど……。
「ポーション容器は、ズルだからね。あまり乱用はしたくないんだ。
そりゃ、他に方法がないとか、人命がかかっているとかいう場合は、使うのを躊躇しないよ?
でも、今は恭ちゃんの母艦でちゃんと工作して造る、という、あまり世界の理に喧嘩を売らない方法があるからね。素材も、ちゃんとロボットが他の惑星や小惑星帯とかで採掘してるし……。
だから、余裕がある時には、ズルはあんまり使いたくないんだ。
……まあ、恭ちゃんの母艦もズルじゃないか、と言われればアレだけど、一応は『既にあるモノを使って製造する』ということで、ポーション容器として出すよりはマシなんじゃないかと……」
「カオルは、昔からそういうところはクソ真面目だったからねぇ……」
「そうそう! 頭が悪……固かったよね!」
何ですと? 恭ちゃん……。
「ソコは言い間違うな! 絶対!!」
* *
「というわけで、既に設計図があるやつの中からいくつか選んできたよ。
複座の超小型艇、3人で移動する時のための4座のやつ、地上走行のためのバイク型とクルマ型のやつ……これはタイヤを使うのと、浮上走行型のね。浮上走行型のは、エアカー方式と重力中和方式のがあるよ。
あと、水上を爆走するやつ、水中に潜れるやつ、その他諸々……。
子供達を乗せて緊急脱出する時とかに使うのは、既存の連絡艇か輸送艇、搭載艇でいいよね? その方が、安全だから……」
「……お、おぅ……」
恭ちゃん、何か色々と持ってきたぞ……。
どれも面白そうだけど、全部、ってわけにもいかないよね。
タイヤより重力中和方式の方が絶対安全で乗り心地がいいだろうけど、誰かに見られた場合、タイヤで動くのはまだしも、宙に浮いているのは絶対アウトだろうなぁ……。
いや、タイヤの方も、動物が牽いているわけでもないのに動いている時点で、アウトか。
「とりあえず、色々試作してみようか?」
「そうね。お願い」
え、マジか? 選択せずに、全種類?
……まぁ、恭ちゃんが母艦のコンピューターに指示するだけだから、大した手間じゃないか。
艦内工場で自動的に作られるだけだもんなぁ。資源が足りなくなれば、そのあたりの惑星か小惑星で採掘したり、夜間にこっそりとこの惑星に降りて採取するだけだもんね、疲れ知らずのロボット達が。
こうして乗り物について色々と考えることになったのは、アレだ。
恭ちゃんに、『転送って、転送先に複製が作られるだけであって、オリジナルは分解されて消滅、その場で死んでるよね?』という疑問を聞かされて、私もレイコもビビっちゃったからだ。
そして空間を歪曲するタイプのやつは、『歪み』を誘発する確率が高いからセレスが禁止しているらしいのだ。レイコが、魔法の能力……実際には、科学的なサポートによるものと思われる……を与えてもらった時に、何度もしつこく念押しされたとか……。
* *
こうして、私達は何種類かの使い勝手のいい乗り物を手に入れた。
使わない時はアイテムボックスに入れておくので、いつでも、どこでも使える。勿論、全員が1機……1台ずつ、全種類を持っている。
これで、『リトルシルバー』に戻るのが、すごく楽になる……。
11月9日(木)に、拙作『ポーション頼みで生き延びます!』のコミックスである、『ポーション頼みで生き延びます! 続』の2巻が刊行されました。
『続』は、九重ヒビキ先生によるコミックス『ポーション頼みで生き延びます!』1~9巻の続きであり、実質的には『続』の1巻が本編コミックスの10巻に、そして『続』の2巻が11巻に相当するものです。
『ポーション』を卒業されました九重先生の後を継いでくださいました、園心ふつう先生による本編コミカライズの続きです。
巻末に、私の書き下ろし短編が付いています。
よろしくお願いいたします!(^^)/
そして、現在大好評発売中である、小説版のイラストを担当していただいております、すきま先生によるスピンオフコミック『ポーション頼みで生き延びます! ハナノとロッテのふたり旅』1巻も、併せてよろしくお願いいたします!(^^)/




