364 王都本店 6
仕入れや転売目的の者達は、がっくりとした様子だ。
多分、昨日のオークションでの気前の良さから、もっと安く買えると思っていたのだろうなぁ。
そして、元々高価なものを買うつもりなどなく、珍しいものを見られるかも、という理由で来た人達は、十分にその目的を達成できて、連れの人達と楽しそうに話している。
既存の店から客を奪うつもりはないし、無駄に忙しくなるのは嫌だから、この店は普通の店で売っているものはあまり置いていない。……皆無、というわけじゃないけどね。
そしてそういうのは他の店より少し高くしているから、ま、買う者はいないよね、多分。
でも、恭ちゃんの母艦で作った、ちょっとした便利器具だとかアイディア商品みたいなものは、そこそこの価格で売っている。
そんなにお客さんが殺到するわけじゃない、程々の製品を、程々の価格で。
手動の泡立て器とか、製作精度のいいとげ抜きとかね。
ウロコ取り……は、ここは海が遠いから、外しておいた。
ま、日本の100均で売っている程度のやつだ。
そういうのは、少しは売れるかも。
ここ、王都本店は、支店(元本店)の方とは違って、一般の人達のためのお店じゃない。
だから、安くて良い商品、というのは置いていない。
この店に置いてあるのは、少し高くて便利なものと、かなり高くて良いものと、すごく高くて稀少なものだ。
そして、何も買わなくても、商品を見て廻るだけで楽しめるようになっている。使い方やら蘊蓄やらの、商品の説明文を付けているから、文字が読める人はかなり楽しめると思うよ。
うん、ハ●ズみたいな感じかな?
そして勿論、防犯対策は万全だ。
果物屋とかじゃないんだ、万引きや掻っ払い1回で金貨数十枚とかの損失を出すわけにはいかないし、そもそも、そんなことを許せば、この店が舐められる。
お金の損失はいいんだ。金貨の数十枚や数百枚くらい。
……でも、舐められるわけにはいかない。
決して!!
未成年に見える小娘がやっている店が舐められたら、お終いだ。
あっという間に悪党達に集られ、食い物にされる。
だから、害虫は一匹残さず退治し、駆除する。
そもそも、『万引き』なんて矮小な言い方をするのが間違っているんだよ。
常習の窃盗犯。
こういう世界だと、右手の手首を切り落とす、とかいうのが刑罰の相場だっけ?
それはスリの場合だっけ。窃盗は、もっと重い刑罰だったかな?
あ、『苛め』とかいうのも、ちゃんと正しく呼称しなきゃね。
殴られたら、暴行傷害罪。ノートや教科書を破られれば、器物損壊。下駄箱の靴を隠されたら、窃盗罪。お金を脅し取られたら、恐喝罪か、強盗罪。
教師には犯罪行為に対する捜査権も逮捕権もないから、そんな者に訴えても何の意味もない。
面倒なことや責任問題になるのを嫌がって、被害者に泣き寝入りを強要したりするからね。
それどころか、『ひとりの苛められ役がいれば、それ以外のクラスメイトが団結し仲良くなる』とか考えて、教師自らが苛めを率先することもあるからねぇ……。
だから、そういうのはちゃんと警察に届けなきゃね。犯罪行為を担当する、正規の部署に。
それも、交番とかじゃなくて、大きな警察署に。
そして、もし担当した警察官が面倒がったりふざけた態度をとるようなら、警察手帳の提示を要求して名前を確認して、県警の警察本部警務部監察官室に電話してあげるといい。
手帳の提示は、表紙だけをチラリと見せるのではなく、ちゃんと顔写真と官職姓名が書かれているページを、文字が読めるように提示してもらう。
手帳規則を知らない警察官は存在しないから、もし見せなければ、ニセ警官として110番通報しなきゃなんない。
……うん、それがレイコのやり方だ。
でも、本気で怒った恭ちゃんにやられるよりは、まだこの方がマシなんだよなぁ……。
しかし、今、この世界には警察署も監察官室もない。
ということは、レイコや恭ちゃんを怒らせてしまった場合……。
イカン、怖い考えになってしまった……。
とにかく、この店は犯罪者には容赦ない。
店頭には『窃盗犯には慈悲もなし』、『この店で盗みを働きし者、全ての希望を捨てよ』、とか書かれた立て看板があるし、文字が読めない人のために、絵で描いた看板と、録音機による警告のリピート再生が流されている。
リピート再生は、薄い壁の向こう側にいる者が喋り続けている、というような体裁を取っている。
だから、時々無音の間があったり、お茶で喉を湿している音が入っていたり、喋る者が交替したりと、色々と小技を弄しているのだ。
商品自体も、高価なものは鎖で台に繋がれていたり、『これは見本のレプリカです。実物を見たい人は店員にお声掛けください』というプレートが立てられていたり、商品名とイラストと価格が書かれた紙が貼ってあり現物は置いてなかったりと、様々な防犯対策が取られている。
そして、更に……。
商品棚の上には、見張りの猫や小鳥が。
店の外には、緒形拳……じゃない、大型犬が寝そべっている。『警備員。わたくし、獰猛ですわよ』と書かれた立て札の前で。
私達の役に立てる仕事を得て、みんな大喜びだったよ。
勿論、威圧効果を狙った動物部隊だけでなく、高価な商品には恭ちゃんの母艦製の超小型位置情報発信器、取り外さずに店の外に持ち出した瞬間に鳴り響く超小型警報器とかが仕込んであるし、隠しカメラがあちこちに設置してある。
撮影した映像や発信器とかは窃盗の証拠として官憲に提示することはできないけれど、それは問題ない。
別に、地元の人々を納得させる証拠が必要だというわけじゃないからね。
ただ、私達が、誰が犯人かということを確認できればいいというだけのことだから。
……そう。裁くのは俺だ、ってヤツだ。
だから、相手が大店の手の者だろうが、貴族の手下だろうが、王族の配下だろうが関係ない。
うちから高額商品を盗み出した者が、仲間割れか他の者達に襲われるかして、雇い主のところに戻らなかっただけ。被害者であるトレーダー商店は、何ら恨まれる理由はないよね。
そして、なぜか、ソイツらを雇った者達全員が神罰を受ける。
……そう、な・ぜ・か!!
不思議だよねぇ……。
とかいう感じで、無事開店初日は終了。
……あんまり売れなかった。
いや、ラインナップが『売れない商品』主体なので、それは仕方ないというか、当たり前だ。
高価な宝石を扱っている店が、毎日盛況であるはずがないよね。
それと同じで、こんな品揃えの店がバーゲンセールのデパートみたいにどんどん売れるわけがないよ。
ま、初日はこんなもんか。
本命は、数日経ってからかな。
お客さんも、集る羽虫も……。
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