363 王都本店 5
「情報を教えていない、問題のある上級貴族や中級以下の貴族、そして主な商家にも、巫女様のことを知らせておいては如何でしょうか? そうすれば、問題が発生する確率が大幅に減少しますし、もし何かが起こっても、大事になる前に事情を知る誰かの耳に入り、そこで火消しが行えますよ」
宰相がそう具申するが、国王の顔色は優れない。
「いや、秘密を知る者の範囲をそんなに広げれば、情報は必ず漏れるだろう。あっという間に、国民全て、そして他国にも話が広まるだろう。
……それに、失うものがない者は、何をしでかすか分からぬからな。
前代の愛し子は、ルエダの元神官に二度も襲われ、そして命を落としたということを忘れるな!
そして、大陸の守護神、絶対英雄である鬼神フランによる女神セレスティーヌへの往復ビンタがなければ、今頃この大陸は……。
その鬼神フランは、今は年老いて母国から出ることはない。
もし今度何かあれば、誰が魔お……女神セレスティーヌを止められるというのだ!!」
「……」
国王の言葉に反論することができず、黙り込む宰相。
そして、国王の言葉が続く。
「それに、家族や立場があり、失いたくないものが多い者にも、油断はできん。
愛する妻や子が怪我や病で死にそうになったら、どうする?
巫女様にお縋りすれば一瞬で治るということが分かっていて、苦しみ、命の灯火が消えようとしている家族を目の前にして、巫女様のところへ駆け込むのを我慢できると思うか?
我が国の貴族や主立った商家の者達、そして話を漏れ聞いた平民達、ひとり残らず、その全てが……」
「……無理、でございましょうか……」
宰相の言葉に、頷く国王。
「無理だ。儂も、我慢する自信がない。
いや、儂は既に巫女様とは良き関係を築いておるのだ、何とかうまく話を持っていって、と考えるだろうな……。
うむ、大丈夫だ! 儂の妻子に万一のことがあった場合は、頼み込もう。何、国王からの頼みだ、無下にはされまい……」
「陛下、それは卑怯でございます! それなら、我が妻や子供達にも……、あ……」
「そら、お前ですら、そうなるであろうが……。
それを、下級貴族や商人、そして普通の平民達に我慢できると思うか?」
「……できませぬ……、な……」
「そういうことだ。救いの手段があるなら、それを手に入れようとする。
どうして奴の家族は救われたのに、自分の家族は救ってくれないのか。
救ってもらった者は感謝しても、そうでない者は……。
感謝をしないのではないのだ。怒り、憎しみの心を抱くのだ……」
「確かに……、そうでございましょうな……」
そして、やはり巫女様のことは現状維持、ごく僅かな者のみが知るという状態のままとなったのである。
* *
新規開店である!
……何の?
勿論、恭ちゃん……、商人サラエットのお店、トレーダー商店王都本店の!
昨日の飛竜の解体ショーで、掴みはバッチリ!
そして店頭に並べた品も、バッチリだ。
私とレイコに出会う前に、恭ちゃんが搭載艇で世界中を回っていた時に集めた品々。
3人揃ってから、超久し振りに一緒に旅行した時に集めた品々。……移動手段は、勿論搭載艇。
恭ちゃんの母艦の工作室で作った品々。
……そして、私がポーションの容器として創った品々。
うん、商品のバリエーションに死角はない。
勿論、あまりにもあり得ない品物は、ナシ。
超珍しくても、この世界にないわけではない品々だけだ。
……そして、値段は超高い。
薄利多売で忙しいのは嫌だし、権力者を釣るための珍しい商品が、安いわけがない。
そんなのを安売りすれば、すぐに買い占められて、目当ての人達の手には届かなくなる。
それに、高すぎる商品というのは、却ってチンピラや悪徳商人に絡まれにくい。
……と思う。
いや、そんな商品を扱っている者は、強力なバックが付いていると思うじゃん?
贔屓の客に、上級貴族や王族とかがいると思うじゃん?
そんな店や経営者に何か事件が起これば、王都中の注目を集めると思うじゃん?
うん、官憲の注目を集めたいとは思わない連中は、ちょっかいを出しづらいと思うワケだ。
王族や上級貴族に睨まれたくないと思う連中とかもね。
……私達3人が、そう思うというだけなんだけどね。
いや、所詮、私達は平和で治安の良い日本育ちだ。こういう世界のチンピラや犯罪者、悪徳商人や悪い貴族とかの考え方は分からないからね。
そして、開店前から店の前には長蛇の列。
めぼしいものを買い漁ろうというつもりなのだろうな、おそらく……。
昨日の解体ショーでの大盤振る舞いで、トレーダー商店は稀少な品を格安で売る、と思い、安く買って大儲け、ってつもりなんだろうけど……。
ざ〜んね〜ん……。
いや、確かに稀少なものも売ってるよ。
でも、それは妥当な価格で、だ。
片っ端から買い占められるような売り方はしないよ、さすがに……。
そこまでの馬鹿じゃない。
そんなことをすれば、私達が忙しい思いをして、買い漁る連中を儲けさせてやるだけだ。
それじゃあ、私達の目的は果たせない。
私達の目標である連中は、いくら高くても『欲しい!』と思えば買うであろう者達なので、高くても問題ない。
むしろ、バイヤーや一般人を排除して目標に売るためには、相場価格より少し高くするべきだろう。
ここ、王都本店は、支店(元本店)の方とは違って、一般の人達のためのお店じゃない。
……そして相場価格とはいっても、現物が市場に出回ることなどほぼない稀少商品の場合は、そんなものは、あって無きが如く、だ。
オークションとかだと、青天井。
だから、そういう品は定価で店頭販売するようなものじゃない。
もしそんな売り方をするとすれば、オークションで落札されるであろう予想最高値の8割以上の価格でないと……。
そういうわけで、そういう値が付いているわけだ、そういう品には。
「「「「「「高ええええぇ〜〜!!」」」」」」
開店時間になり、店に雪崩れ込む……のは私とファルセットの睨みで押し止め、きちんと順に店に入ってきたお客さん達が、値札を見て一斉に叫んだ。
いや、ボってるわけじゃないよ。ちゃんと、オークションにかけた場合の落札予想価格の8割程度に抑えてる。
ただ、それだけの高値が付くような品々だというだけのことだ。
これくらいの値だと、仕入れるにも勇気が要るだろう。
オークションは、水物。
競りが白熱して予想外の高値になることもあれば、いくらお金を積んででも欲しい、という者がひとりだけ、もしくはゼロだった場合、あっけなく安値で落札されることもある。
だからといって、最初に提示するオークションのスタート価格、つまり最低価格をあまり高く設定すると、応札者がひとりもいない、などという事態もあり得るだろう。
ああいうのは、場の雰囲気や、競り合う戦いのノリで金額がエスカレートするものなんだ。最初からそんな高値で始められたら……。
オークションで、壮絶な戦いの末、10億円で落札された絵画があったとしよう。
これ、スタート価格が8億円だったとすれば。
もしそれが欲しい者がひとりいたとしても、躊躇わずに応札するかなぁ。
ああいうのは、自分以外にもその商品にそれだけの価値があると考えているライバルがいる、というのが重要だと思うんだよねぇ。
売り手に8億と言われ、自分以外は誰も買おうとしない。
そんなのに即座に手を出そうと考えるだろうか。
別にその商品の本当の価値が分かっているわけではなく、自分がそれを必要としているわけでもなく、ただ仕入れて売って利ざやを稼ぐという目的しかない者が。
うちから仕入れて、その後特定の客に声を掛けて売るにしても、値下げを求められたり、立場上相手からの条件や要求を断れなかったりすると……。
……そう、確実に大儲け、という保証がなく、下手をすれば大損、ということもあり得る商品に。
しかも、うちの店頭商品なのだから、元値、仕入れ値はバレバレ。
そして、もしうちに在庫があったり、新たに仕入れてきたりすれば、うちの店でもっと安く買えるかもしれない。それくらいのことは、誰にでも分かるだろう。
昨日の今日で稀少な商品が出回ったとなれば、うちの店絡みだと思われ、調べるに決まっているからね。うちの店の名は、昨日のオークションで、既に超有名だろうから。
だから、うちの販売価格よりあまり高くしては売れないだろう。
なので、奪い合って買いまくるようなメリットがある商品価格じゃない。
うん、仕入れ目的のバイヤーさん達にとっては、期待外れ、ってワケだ。
どんなことをしても絶対に欲しい、って人にとっては、別に問題はないだろうけどね。病気の子供のために、伝説の何々が欲しい、っていうような人とか……。
それと、金額なんか気にしない人達……上級貴族、王族、大店の商会主とかの大金持ち、そして見栄を張るために少し無理をしてでも敢えて高価なものを買おうとする人達とかね。
まぁ、最初は何人かのチャレンジャーが仕入れるかもしれないけれど、その数日後に同じものが複数入荷して値下げ販売、ってのが数回続けば、そういう連中もいなくなるだろう。
拙作、『私、能力は平均値でって言ったよね!』のスピンオフコミックである『私、日常は平均値でって言ったよね!』を描いてくださいました森貴夕貴先生のオリジナルコミック、『女神と魔王(♀)から迫られて生まれて初めて女の子とフラグが立ったので、意地でも異世界転生を回避したい件!??』の執筆が再開されました!(^^)/
体調不良でしばらく休載されておりましたが、コミック アース・スター、ニコニコ静画等での更新も再開!
コミックス1巻は、アース・スターコミックスから発売中です。
可愛い絵柄とキレのあるギャグ!
よろしくお願いいたします!(^^)/




