362 王都本店 4
飛竜の解体ショーを終えて、トレーダー商店王都本店の2階、私達の居住区へと戻ってきた。
解体ショーの会場はハンターギルドの解体場だし、残った肉は全部商業ギルドに売り払ったから、『飛び散った小さな肉片とかも、全部商業ギルドのものなので、私達は手出しできませんから!』と言って、後始末は全て押し付けてきたのだ。
明日からここ、本店が営業を開始するけれど、今日はみんな疲れ果てるだろうと予想していたから、昨日のうちに全ての準備を終えている。
だから、今日はもうやるべき仕事は残っていない。
「お疲れ〜!」
「いや、ホント、疲れたよ〜」
恭ちゃんからの労いの言葉に、そう返す私。
うん、解体作業はハンターギルドの専門家達に任せたけれど、司会役としてオークションを切り盛りしたのは私だ。
ずっと叫びっぱなしで、本当に疲れ果てたよ。
レイコと恭ちゃんは、落札された部位の引き渡しとかはやってくれたけど、まぁ、喉を嗄らして叫び続けていた私に較べると、負担は少なかっただろう。
あれじゃ、私がトレーダー商店の店主だと思われちゃうよ。
……あ、野良巫女の恰好をしていたから、それはないか。
いや、分かっちゃいるんだ、適材適所、って。
恭ちゃんもレイコも、ああいうのには致命的に向いてない。
恭ちゃんだと、落札のタイミングが読めずにダラダラと長引く上、舐められて進行が滞るだろう。
……そして、恭ちゃんのイライラが限界を超えて、にっこりと微笑んで、……せかいがはめつする。
レイコの場合だと、……言いたくない!!
「宣伝効果、抜群だったよね! 店の名前が売れただけじゃなくて、我がトレーダー商店は飛竜を丸ごと仕入れられる伝手があるということが王都中に知れ渡ったし、飛竜が仕入れられるなら、他の稀少な商品も入手できるのでは、って話になるし……」
「うん。エディスとキャン、そしてファルセットがトレーダー商店と関係がある、ってことも、大勢の前で明らかになったし……」
「これから先、いちいち説明する手間が省けるし、色々とやりやすくなったわね。但し……」
「「「羽虫が、集ってくる!!」」」
そうなんだよね〜。
今回、表に出たトレーダー商店の関係者は、全員が小娘。
普通では入手困難な、超高額の稀少な商品。
そして、今日1日で上げた、莫大な売上金。
……そりゃ、来るわな〜……。
まともな相手も、まともじゃない相手も。
商人も、貴族も、詐欺師も、チンピラも、犯罪者も。
いや、それは最初から分かってた。
でも、ゆっくりと進めていたら、そういう連中からの接触が五月雨式にズルズルと続いて面倒だから、一気にパ〜ッと終わらせた方が、スッキリして、いいよね。
みんなで、そういう結論に達したのだ。
どうせ、その過程は避けられないのだから、と。
表沙汰にしてもいい防衛力は、ファルセットの剣技と、強化魔法によるレイコの『なんちゃって剣術』。
バレないようにこっそり使うのは、恭ちゃん提供の指輪型や腕輪型、ペンダント型、ベルトのバックル型、その他様々な形のパーソナルバリア発生装置、超小型ビーム武器、通信機等。
それと、私のポーションと、レイコの魔法。
私達や味方してくれた人達の危険を回避するためであれば、恭ちゃんの科学装備、レイコの魔法、そして私のポーション及びその容器の使用制限は完全解除。
全武器使用自由、ってやつだ。
何、『女神が奇跡を起こしてお救いくださいました』って言えば、何とかなる。
……何とかなるんじゃないかな。
何とかなるかもしれない。
何とかなればいいな……。
いや、一応、エディスは、野良とはいえ巫女だからね。最近は、聖女様って言われることも増えてきたし。
悪党に襲われた時に、向こうと私達、どっちが女神様にお助けいただけるかといえば、……まぁ、疑問に思う者はいないよね!
その後、居づらくなれば、また移動すればいい。『リトル・シルバー』の子供達を連れて。
その時には、トレーダー商店の支店は、孤児院に寄贈かな。
無料で店舗を手に入れられれば、人件費がゼロで済む孤児院なら、そこそこの利益を出せるだろう。
あの町はギルドがしっかりしているそうだから、孤児院が経営している小さな店にちょっかいを出す者はいないだろうしね。
ハンターやチンピラ達、下級警吏とかの中にも、孤児だった者はいるだろう。そしてこんな世界なんだ、全ての人達にとって、いつ、自分の子供や孫達が孤児になるか分からないのだから……。
……いやいや、最悪の事態を想定して、今から考え込む必要はないか。
悩むのは、その時になってからでいいや。無駄に悩むと、その分の時間が無駄になるだけだ。
乙女の時間は短い……、って、あ!
私達3人の『乙女の時間』は、短くないか……。
「面倒だから、わざと餌をぶら下げて、一気に始末する?」
「恭子、それは『犯意誘発型』のオトリ捜査だから、駄目よ」
え? そうかなぁ?
「レイコ、それは『機会提供型』じゃないの? 別に、犯罪行為を唆したりしていないのだから。ただ、金目のものを見せるか、情報を与えるだけでしょ。
普通の人は、他人がお金を持っているのを知ったからといって、即、それを奪おうと考えたり、実行に移したりはしないよ。
そういうのにすぐ食らい付くのは、元々機会を窺っていた、生粋の犯罪者だけでしょ」
「そうだよね!」
うん、当然ながら、恭ちゃんは私の意見に賛成。
「……でも、その連中も、機会がなければ行動には移さなかったわけでしょう? 少なくとも、今回は……」
そして、レイコは『釣り』には反対。
まあ、そう言うだろうとは思っていたよ。長い付き合いなんだ、それくらいは分かるよ。
「まぁ、別に何もしなくていいんじゃない? トレーダー商店は稀少な商品を扱うという情報は飛竜だけで充分広まっただろうし、エディスとキャンの関係から、例の一角獣の角の出所とかも、ちょっと目端の利く者なら当然トレーダー商店との繋がりを疑うだろうしね。
それに今日、飛竜を売ったお金も、当然お店の金庫に入っていると思うだろうし。
……そして通常営業が開始される明日には……」
「店頭に並ぶ商品と、注文を受けられる商品のリストが、人々の目に触れるわね……」
そう。結局、美味しそうな餌がぶら下がるのだ。
レイコも、それは仕方ないと思ったのか、肩を竦めて諦めのジェスチャーをした。
……うん、仕方ないよね……。
* *
「な、ななな、何だと! 巷で噂になっておった、あの飛竜の解体ショーを仕切っていたのが、みつ……巫女様だと!」
「はい。珍しいものを売る田舎町の零細商店として、王都でも一部の好事家達の間では少し名が知られ始めていた店らしいのですが、それが王都にも店を出す、ということで少し注目されていた、と……。
そしてそこが打った開店時の宣伝イベントが……」
「飛竜の解体ショー、か……」
「はい。客集めのための偽物……大きな鳥を使うとか、作り物のハリボテの中からオーク肉やら子供に配る安物のお菓子やらを出して配るとか……でお茶を濁すか、もしくは『飛竜』という名前を付けたオークの解体ショーだとか、とにかくそういう類いの、お約束的な茶番だろうと思って、特に気にはしていなかったのです。
平民達も、宣伝のために肉を安売りしてくれるなら、それくらいの茶番に腹を立てて騒ぐ者もいまいと思いまして……。
しかし、それが……」
「巫女様が仕切ったとなると、……本物か……」
「はい……。
そして、あの飛竜の入手には……」
「関わっておられるに決まっておるよなぁ……」
「御意」




