361 王都本店 3
「25枚!」
「30枚!」
お? ちょっと額が跳ね上がったぞ。
少しずつ上げるとついてくる者がいるから、急に上げて突き放し、諦めさせる手法かな。
まあ、まだオークションは始まったばかりだ。
これから先、色々な部位が出品されるし、後の方になれば落札価格帯も下がってくるだろうから、初っ端から無理をすることはないよね。
「金貨30枚と、銀貨2枚、小銀貨3枚!!」
……え?
何だソレ? メチャクチャ細かいレイズだな。
お金、ギリギリなのかな?
入札者も一般の人達も、苦笑してるよ。
……って、あ!
「落札! 飛竜の頭部、金貨30枚と、銀貨2枚、小銀貨3枚で落札されましたあぁっ!」
「「「「「「えええええええええ〜〜っっ!!」」」」」」
私の裁定に、あちこちから驚愕の叫びが上がっているけれど、そんなの関係ない。
「馬鹿な! みんなが笑って一時的にコールが止まったが、すぐに戦いが再開されたはずだ!
まだまだ値が上がるというのに、どうしてそんなに早く落札を決めるのだ!!」
もっと値が上がってもついていくつもりだったのか、小太りの裕福そうな人がそう怒鳴っているけれど……。
「そんなの、関係ありません!
今日は、お金儲けが目的ではなく、当店の開店記念イベント、お客様へのサービスイベントなのです! なので、あまり値を吊り上げることなく、コールが少し止まれば、即、落札!
……そして皆さん、今落札した人を見てください!」
そう。私の声に、皆が落札者の方に目を向けると……。
痩せた、料理人らしき服装の男性が手にした、巾着袋。
そしてそれに添えられた、10歳くらいの男の子の手に握られた、小さな巾着袋。
おそらく、男性が手にした巾着袋には、今日のために用意した30枚の金貨が。
そしてそれに添えられた子供の手に握られた巾着袋の中には、お小遣いを貯めたか、自分が働いて貯めたのであろう、銀貨2枚と小銀貨3枚が。
自分の人生でただ一度の、ワイバーンの素材を使った料理が作れるチャンス。
珍味との評判が高い、舌と耳、目玉、そして頬肉。
おそらく、集められるだけのお金を集めて用意できたのが、金貨30枚。
しかし、先に他者に30枚のコールをされてしまっては、同額でのコールは不可能。
そして諦めかけたその手に息子から差し出された、僅かな額のお金。
もっともっと、値は吊り上がる。
僅かなお金を足しても、落札など到底不可能。
しかし、戦いもせずに諦めるのは、あまりにも悔しかった。
なので上げた、敗北を承知してのただ一度の叫び。ただ一度の、戦いの雄叫び。
「「「「「「…………」」」」」」
皆が、黙り込んだ。どうやら、理解して、納得してくれたらしい。
「今日のオークションは、ノリとサービス! どの時点で誰に落札するかは、私が決める!
……但し、それはその時点において最高額を提示している人にだけです!
私が落札を宣言する前にコールして指し値を上げれば、その時点ではあなた以外の者には落札できません!
さあ、次の商品が用意できました。飛竜の肝、オークション開始!」
「金貨10枚!」
「12枚!」
「13枚!」
「14枚!」
「15枚!」
「16枚!」
私の説明のせいか、コールが立て続けになったな。
レイズの額は少しずつだけど……。
間が空くとその時点で落札が決定しそうだからと、間を空けることなく必死で入札額を叫び続けるしかないわけか……。
いや、そんな慌ただしいオークションにするつもりはなかったんだけどな……。
内臓とかは、料理店や薬種問屋あたりしか競りに参加しないけど、ウロコや翼膜とかには大勢が参加して、凄いことになった。
武具職人、服飾店、宝飾店、学者、商人、貴族や王族の使い、……そして貴族本人が直接入札額を叫んだりして、そりゃもう、大騒ぎ。
……つまり、盛り上がって、宣伝効果抜群、ってことだ。
そして、めぼしい部位があらかた売れて、残るは肉の部分のみ……。
いや、肉も売れたよ、大量に。
でも、肉は量が多すぎだ。全部オークションで売るの、面倒すぎる。
解体ショーを始めてから、もう、かなり時間が経ってるし……。
ここでオークションを終えても、残った肉はアイテムボックスに入れておけば傷まないけど、アイテムボックスにはまだ何頭も残っているからなぁ、飛竜……。
まだまだ購入希望者がいるのに、ここでやめたら売り惜しみをしているみたいだし、イベントでしみったれた真似はしたくないよね。
残りを収納して、アイテムボックスのことを知られるわけにもいかないし。
普通に持ち帰ると、すぐに傷むのにどうするんだ、と勘繰られたり、腐らせるくらいなら安く売れ、とか言ってくる連中に集られるのも嫌だ。
う〜ん、どうしようかなぁ……、って、そうだ!
「商業ギルドの方、おられますか!」
「「「「「「はい、ここに!!」」」」」」
そりゃまぁ、いるよねぇ……。
「残った肉、纏めて引き取ってもらえませんか? オークションで売るの、疲れちゃった……。
価格は、……そうだなぁ、いい部位から売っちゃったし、残りの部位にはクズ肉の部分とかもあるから、1キロ当たり、最後の落札価格の7割でいいよ」
「「「「「「買ったああああぁ!!」」」」」」
まぁ、そりゃ買うか。
最後の落札価格も、最高値まで引っ張ったわけじゃなくて、割と安い時点で決めたからね。
それの7割とか、大儲け確実だものね。大サービスだよ!
疲れて面倒になったのもあるけれど、商業ギルドとはいい関係を築きたいからね。
……ハンターギルド?
いや、オークションに関わらせてあげたから、面目は立っているよね。
それに、ハンターギルドに売れば、それはそのまま商業ギルドに売られるわけだ。
……うん、ハンターギルドに売る意味、皆無だよね!
肉は多いから、後の方になれば落札価格が下がるだろうと思って、買わずに待っていた人達が騒いでいるけど、……知らんがな……。
いや、確かに、疲れてきたから後になるほど落札決定が早くなって、落札価格が下がっていたのは事実だ。
……でも、それに気付いていても、それがどういう結果をもたらすか、という読みを外したのだから、それは自己責任だ。私の知ったこっちゃない。
商業ギルド経由で買えるのだから、いいじゃない。
別に、入手できなくなったわけじゃないのだから。
……まぁ、商業ギルドはギリギリまで価格を吊り上げるだろうけど、それは商売人として普通のことだ。
これは、『一般客と加盟店の便宜を図り、間を取り持つ、あまり利益は考えない公共的な役割』としての商業ギルドの通常業務とは別だろうからねぇ。
ま、ギルド職員に臨時ボーナスでも出してあげてよ。




