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279 トレーダー商店 8

「……では、よろしくお願いします!」

「いやいや、こちらこそ、よろしくお願いしますよ!」

 恭子がにこやかに握手しているのは、王都に本店を持ち、この街に支店を出している大店、ホークス商会の支店長である。

 ……なぜ、恭子がそんなところにいるのか。

 それは、アレである。

 ……『敵の敵は、味方』というヤツ……。


     *     *


「よし、これでこちらの手にはホークス商会とターヴォラス商会、プラス、トレーダー商店とリトルシルバー。

 敵は、クルト商会のみ。そして何かに利用しても良心が痛むことのない、レリナス商会!」

 ホークス商会の支店から戻った恭ちゃんが、右手の拳を振り上げて、そんなことを言い出した。


「……うん、まあ、ローディリッヒ達の件は終わったし、レリナス商会もかなりの痛手だったろうから、もうあそこに関わるつもりはなかったんだけどねぇ……。

 でも、もし第三者的な商会や踏み台、噛ませ犬が必要になった時は、あそこにお願いしようか。

 ……勿論、連中には悟られることなく、勝手に利用させてもらうだけなんだけどね。

 多少の迷惑を掛けても構わない、私達とは何の関係もない商家の存在は、便利よねぇ」

 レイコまで、そんなことを言っている。


 勿論私は、ふたりに釘を刺しておいた。

「レリナス商会を儲けさせちゃ駄目だよ! それと、あんまり酷い目に遭わせるのも避けるようにね。あそこの商会主や跡取りになるであろう長男、従業員やその御家族の皆さんには、私達は別に大した迷惑をこうむったわけじゃないんだから……」

 レイコと恭ちゃんは、こくこくと頷いた。


 うん、本店の皆さんには、お家の都合だとか営業方針とかでは少し迷惑を受けはしたけれど、それは商家としての活動や、営利追求のための行動に過ぎないから、多少うちに迷惑や損害が出ても、それは別に怒るようなことじゃない。そういうのには、商業的な手段でやり返してやればいいだけのことだ。ローディリッヒ達がやったこととは、話が違う。

 でも、私達のせいであそこが儲かった、とかいうことになると、何だか少し気分が悪いからねぇ。

 何かうちに対して貢献でもしてくれない限り、わざわざ儲けさせてやることもない。

 便宜を図るなら、うちの街に本店を持つ、身内同然であるターヴォラス商会か、恭ちゃんの取引相手である、この街に正式な支店を持つホークス商会だ。


 トレーダー商店とリトルシルバーは、直接王都へ進出するつもりはない。

 ……今のところは。

 カネになりそうな商品を扱う、小娘達だけで経営している商店。

 ……悪党ホイホイもいいところだ。

 そんなのが王都で目立てば、商人や悪党達だけでなく、小物貴族や小遣い銭目当ての無爵貴族……跡取りでもその予備でもない、下級貴族の三男以下とか……がたかって来そうだからね。


 ここやうちの街のような地方都市のいいところは、領主にさえ話を通しておけば、貴族関連の揉め事や警備隊による横暴などの心配はない、ってことだ。

 これが王都だと、王都邸に滞在する貴族やその家族、連れてきている家臣や領兵、その他諸々が小遣い稼ぎに色々と悪さをするし、他の貴族家が絡むと、うちの領主もあまり強く出られなかったりするだろうからねえ。

 私達が身を守るには、王都は障害物が多過ぎる、ってことだ。

 だから、王都での販売は、ターヴォラス商会の王都支店とホークス商会の本店にお任せだ。


 それに、恭ちゃんはふわふわしていてチョロそうに見える(・・・)上に、可愛いから、男達との会話の機会が多いと、勘違い野郎が大量に発生するのだ。

 それは、雰囲気とかオーラとか、誘引物質でも出ているのか、変装くらいじゃ変わらないんだよなぁ……。

 子供やもふもふの誘引物質とかがあるなら、集めて瓶に詰めてくれたら、買うよ?


 ……あ!

 ポーション作製能力で……、って、駄目だ駄目だ、それやっちゃったら、人間として終わりだ!

 薬使って子供やもふもふに囲まれても、何の意味もない!!

 ……はぁはぁ……。


 ま、まぁとにかく、カリスマ商人は、本人が王都に直接顔を出す必要はない。商品やカネの差配だけして、相手との直接の顔合わせは代理人や仲介業者で充分だ。ターヴォラス商会とか、ホークス商会とかの……。

 ハンターや聖女は、仕入れルートやら商品の製造法やら貯め込んだお金やらを狙われる心配がないから少し気楽だけど、商人は大変だよねぇ……。


 でも、そのうちいつかは、モブに変装した姿ではなく、キャン、エディス、サラエットとしての私達が王都へ行く時も来るだろう。

 その3人の影響力を増すためには、やはり個人としての実績だけではなく、最終的には貴族や大商人と知り合いになる必要があるからね。

 大規模な取引や活動をするつもりはないけれど、ピンポイントで有力者に恩を売るか、一目置かせる。

 うん、私達なら、割と簡単にできそうだ。

 でも、あくまでもそれは、キャン、エディス、サラエットとして、もしくは他のモブとしての、仮の姿で。

 ……リトルシルバーのレイコ、カオル、恭ちゃんとしての私達は、王都に行く予定はないよ。


 リトルシルバーが堅実に稼いでいれば、そのうちおかしなのに目を付けられるかもしれない。

 堅実に稼いでいるところが全て目を付けられるというわけじゃないけれど、何せ、うちは代表者から末端従業員まで、全員が子供に見えるから、不可抗力だ。

 そして大人を雇ってみれば、舐められて、今回みたいなことになる。

 ま、早めに『セルフ後ろ盾』の準備を進めるか……。

 但し、『セルフ後ろ盾要員』であるハンター(キャン)聖女エディス商人サラエットが人目を引いて、などという本末転倒にならないように、特に気を付けて……。


 あ、そうそう、実行犯のフリードは、本人の希望により、ギルドの地下室に確保したままだ。

 いや、ギルドの人達が状況をちゃんと正直に教えてやったらしく、『今、外に出ると、民衆に石を投げられたり、オラルドの手の者に殺されたりする』ということを理解したとかで、地下室から出たくない、かくまってくれ、って縋り付かれたとか……。

 ま、この街の支店が潰れてオラルドがいなくなれば、街から逃げ出すことくらいはできるだろう。


 警備隊は、既にオラルドとフリードの犯罪行為には気付いているけれど、やはり予想通り、手出しはせずにギルドに任せてくれている模様。

 警備隊はこの領地の最高責任者、つまり領主の配下だから、王都の本店の指示に従う余所者達であるセイトス商店(隠れ支店)ではなく、地元の商人や職人達で構成されている商工ギルドの方を信用し、優先してくれる。……当たり前だ。

 警備隊は、もしギルドが頼めば動いてくれるだろうけど、ギルドにはその気はないとか……。


 街中まちじゅうでセイトス商店の悪評が広まっているのには、ワケがある。

 いや、勿論第一の理由は、私達が人を雇って噂を広めているせいだけど、その他にも色々と原因があるのだ。


 まず、セイトス商店が、王都に本店がある大店、クルト商会の支店であること。

 半ば公然の秘密ではあるが、それは王都の者達にこの街が馬鹿にされ、食い物にされているという印象を与え、元々住民感情はあまり良くなかった。

 セイトス商店は一部の特産品を買い集めて王都へ送ることを中心とした営業形態であり、街の人達に小売りをするのはほんの申し訳程度であるため、それでも大した問題はなかったのであるが……。


 そして、商店主の命令に従い、危険で違法な行為を行った忠義の店員を使い捨て、責任を全て押し付けるどころか、口を塞ごうとしたこと……。

 実は、これが問題であった。


 悪事は責められるべきことではあるが、人間は皆、聖人君子じゃない。

 だから、極悪非道な犯罪ならばともかく、主人の命令に従って行った少女の部屋の家捜しくらいであれば、『主人への忠義心』、『少女に手出しする気は全くなく、留守の時に行った』ということで、情状酌量の余地が充分ある、と考える。

 ある意味、主人の命令に逆らえなかった被害者である。

 そして、見方によれば、危険や汚名を被ることも厭わず主人の命に従った、忠臣。

 同じ勤め人である自分達にも、いつ降りかかってくるか分からない事態。

 なので、実行犯であるフリードは、そう人々からの憎悪ヘイトを集めたわけじゃない。

 名誉を穢された商工ギルド関係者を除いて、だけどね。

 つまり、フリードに対しては、一般民衆は悪感情は抱いていない、ってことだ。

 ……でも、自分の無茶な命令に従った忠実な配下を裏切る行為。てめーは駄目だ!


 民衆が忌避し、憎む行為。

 雇い主に忠義を尽くしたのに、裏切られ、命を狙われる。

 そんな行為を許したら、いつ、自分の雇い主も同じようなことをするか分からない。

 経営者達がおかしなことを考えないようにするためには……。

 制裁。制裁。制裁。制裁。

 破滅。破滅。破滅。破滅。

 ……そう、人々の憎悪ヘイトを集め、ぶつけるしかなかった。

 そのため、今、セイトス商店はかなりマズい状況となっているのである。


 まあ、とにかくそういうわけで、また攻撃されたら困るから、元を絶つ……、そう、黒幕であるクルト商会を叩くために、王都中心部殴り込み商隊、発進、ってわけだ。

 ……その前に、セイトス商店……、この街にある、クルト商会の『なんちゃって支店』を潰した後で。


 普通、商店が潰れると、悪い店主だけでなく、罪のない従業員やその家族、そして取引先、運送屋や倉庫屋、その他諸々に影響するから、悪い奴がいても、そいつだけを潰して、商店としての組織は存続させるべきだとは思う。

 ……但し、『なんちゃって支店』、てめーは駄目だ!!



例年通り、2週間の年末年始休暇をいただきます。

更新再開は、1月11日、午前零時の『のうきん』から……。


来年も、引き続き、よろしくお願いいたします。(^^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] >制裁。制裁。制裁。制裁。 >破滅。破滅。破滅。破滅。 久しぶりに読み返したら偶然とはいえ ビックモーターみたいなスローガンがあってワラタ  
[気になる点] 各店舗の商家名を出すタイミング、結構後だったような気がする。 で、今回。いっぺんに出てきてどこがどういう店だったのか簡単に一言添えているにも関わらずなんかあんまり上手く紐付け出来なくて…
[一言] つづき 続き 頭突き はやく 早く 火薬
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