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146 首都へ 5

「さ、さすがに、ちょっと緊張してきました……」

 今まで結構図太く行動していたマリアルが、王宮の正門が近付くにつれ、弱気になってきた模様。

 やはり、いくら気丈だとはいえ、まだ14歳の、成人前の少女に過ぎないのだから、無理もないか。ここはひとつ、励ましておくとするか……。


「大丈夫ですよ! ロランド様から、色々と教わったのでしょう?」

「え、ええ……」

 セリドラーク侯爵が同じ馬車に乗っているため、使用人らしい喋り方をしなきゃならない。

 そして、ロランドの名を聞いて、少し顔を赤らめるマリアル。


 うん、護衛という名目でこの旅に加わったロランドだけど、それは、あくまでも名目上は、だ。本当のところは、『女神カオルの守護騎士にして、とある高貴な身分のお方』ということでマリアルに紹介している。フランセットも、同じような感じで。

 なので、マリアルにとっては、ロランドは自分よりずっと身分が上の者、ということになっている。……いや、事実、その通りなんだけどね。

 そして、無駄にキラキラしているものだから、マリアルが『ぽっ!』とかなるのも、仕方ない。……そう、仕方のないことなのだ。そのせいで、フランセットが少々不機嫌になっても……。


 で、マリアルがロランドから何を教わったのかというと、当然のことながら、『王族のあしらい方』、『王族からの言質の取り方』、『王族がこういう場合、何を企んでいるか』等の、『対王族決戦奥義』の数々である。

 こういうトコで役に立たなくて、いつ役に立つというのか、ロランドの存在が!

 唯一の出番なんだから、しっかり役に立つように!

 そう言って激励してあげると、盛大にヘコんでいたなぁ、ロランド。

 どうしてだろう。期待してあげたというのに……。


 とにかく、そういうわけで、事前教育と質疑応答のシミュレーション訓練は完璧である。ロランドはエミール、ベル、レイエットちゃんと共に今日も留守番だけど、『きっと、ロランド様が草葉の陰から見守ってくれていますよ』と言うと、マリアルはこくこくと頷いて、表情を引き締めた。

 ……いや、別にロランドは死んじゃいないけど、マリアルは日本語での言い回しなんか知らないから、ただ単に『どこかから見守ってくれている』程度に受け取ったのだろうけど。


 そして、やってきました、王宮!

 正門は、侯爵と侯爵家の家紋付きの馬車により、顔パス。

 勝手知ったる、という感じの御者、そして次に侯爵の先導で、謁見のための待機室へ。

 待機室には数人の先客がいて、どうやら私達は最後になる模様。

 ……ま、他の人はさっさと終わらせて、あとはマリアルに時間を充てるつもりなんだろうな。


 今日は、フランセットは私と同じく、侍女の恰好。神剣『エクスグラム』は、私のアイテムボックスの中。

 そりゃ、王様に謁見するのに、武装した護衛を連れていくわけにはいかないよねぇ。

 ま、私が剣をアイテムボックスから出してフランセットに渡すのには、1秒あれば充分だ。さすがに、1秒以内に状況が激変するということはないだろう。

 ……こら、フラン、今は侍女役なんだから、そんなに殺気を飛ばして警戒するんじゃない!

 トッポい侍女の振りをして……、トッポジョ……、って、うるさいわ!!


 そして、他の者達の謁見が終わり、マリアルの番。

 マリアルと侯爵が並び、その少し後方に私とフランセットが並び、王様の顔を見ないように下を向いて、しずしずと……。

 ま、これはただの口上交換のイベントであって、本当の会談はこの後、別室で行うそうだけどね。

 ……当たり前か。こんな、壇上で豪華な椅子にふんぞり返った相手と、床に片膝をついた状態で楽しく歓談して、会話が弾むとは思えない。


     *     *


 そしてしばらく後、あまりガチガチの公式会談とかに使うのではなさそうな、比較的小さな落ち着いた感じの部屋で、定型句の交換ではない、本当の顔合わせが始まった。

 私達が先に部屋へ通され、立ったまま待っていると、その後、王様と数人の人達……大臣とかかな……が入室、着席した。謁見の時とは入室の順番が逆だけど、当たり前か。王様を待たせたりするはずがない。

「よく来てくれた……」

 そして、着席後、何か言い掛けて、私達の方……、というか、マリアルと侯爵の後ろに立っている私とフランセットを見て、言葉を途切らせた王様。

 うん、予想外の者がいるから、怪訝けげんに思ったんだろうな。

 ……当たり前だ。侍女がこんなところまでついてくるわけがない。待機室で待っているのが普通である。


 勿論、案内をしてくれた衛兵達は、私とフランセットを別室に案内しようとした。

 でも、マリアルがそれを拒否し、衛兵がそれは駄目だと言い張ると、きびすを返して帰ろうとしたんだよねぇ、慌てて引き留めようとする衛兵に、『陛下には、あなたが「私の判断で追い返しました」と報告しなさい』と言って……。

 いや、こういうお役所的なところで働いている人が一番慌てる台詞だよねぇ、『責任は、お前が取ってくれるんだろうな』ってのは……。

 マリアルに、面と向かってそう言われた衛兵が、焦って同僚の方を向くと、……既に同僚の衛兵は、数メートルの距離を取って知らん振りをしていた。


 まさか、侍女をどこへ案内するかということを国王や大臣に相談に行くことなどできやしないだろう。かといって、自分の上司に指示を仰ぎに行っても、『そんなことは、自分で考えろ!』と言われるだけだろう。

 ……うん、自分が責任を取りたくないだろうからね。『部下が勝手にやりました』ってことにすれば、自分は責任を回避できるだろうからねぇ。ま、部下の教育不足、ってことで多少叩かれはするだろうけど、責任を丸被りするよりは、遥かにマシだ。


 ……で、結局、困り果てた衛兵が選んだのが、『何事もなかったかのように、私達全員を部屋へ案内する』ということだったわけだ。

 あんまり自然に案内するもんだから、部屋の前にいた警備兵も、私達を完全スルーだったよ。

 そして、そんな事情ことは知らない王様達は、何か理由があって担当の者には事前に調整済みなのであろうと思い、深くは考えなかった模様。

 そりゃそうだ。誰が、事前の根回しもなく、衛兵を脅して王との会見の間に侍女を無理矢理連れていく貴族の少女がいるなどと考えるもんか!


 とにかく、着席をうながされて、席に着く侯爵とマリアル。私とフランセットは、当然のことながら、マリアルの後方で立ったまま控えている。

 フランセットは、『座ると、剣を抜いて斬り掛かるのがワンテンポ遅れる』とか考えていそうだな。……いや、やらないよ! 王様に斬り掛かったりすれば、指名手配だよ……。

 そもそも、剣は私のアイテムボックスの中だけどね。


「……御両親と兄君のこと、残念であった。貴族として、立派な人物であった……」

 王様が適当なことを言っているが、先代のレイフェル子爵は王様とは殆ど面識がなかったということは、寄親であるマスリウス伯爵から聞いている。

 そりゃ、代替わりした時の挨拶や、大きな式典とかで顔を合わせたことくらいはあるだろうけど、地方の下級貴族なんか、顔も覚えているかどうか怪しいものだ。

 でも、まぁ、親を褒められて悪い気はしないだろう。それが適当なお世辞に過ぎないと分かってはいても。

 神妙そうな顔で、頭を下げるマリアル。

 そして、その後しばらく当たり障りのない会話を交わした後、遂に王様が本題を切り出した。


「若き女性の身でありながら、父の遺志を継ぎ、領地と領民を守り抜こうというその決意、天晴あっぱれである。……しかし、今のそなたの身には、少々荷が重いのではないか? そこで、どうであろうか、この儂がそなたの後見人となり、そなたとレイフェル子爵家を有象無象うぞうむぞうやから共から守ってやろうではないか!」


 来た来た……。

 でも、レイフェル子爵家は寄親であるマスリウス伯爵家と共にセリドラーク侯爵が率いる派閥に属しており、それはすなわち、王族派や神殿派とは異なり、商人寄りの派閥の一派であることを意味する。

 ……つまり、この王様は、現在レイフェル子爵家が属する派閥の長の眼の前で、堂々と引き抜きを行っているわけである。

 まだ政治には疎い小娘は『国王』という権威には弱く、国王の後ろ盾が得られるとなると飛び付くに違いない、とでも考えているのだろうか。

 でも、それくらいのことは、予想済みだ。だから、マリアルの返事は……。

「大変ありがたいお言葉、感謝致します。……しかし、その件は御辞退申し上げます。後見役は、代々我がレイフェル子爵家の寄親を務めて下さっております、マスリウス伯爵家にお願いしておりますゆえ……」

 当たり前だ。セリドラーク侯爵はともかく、マリアルがマスリウス伯爵を裏切れるはずがない。

 しかし、王様も、マリアルとマスリウス伯爵の関係は知らなくとも、そう簡単に寄親や派閥は裏切らないかも、くらいは考えていたのかもしれない。間を置かず、次の攻撃が来た。


「それで、儂の息子と婚約する、というのはどうだ?」

 ……マリアルの話を、全く聞いていない……というか、マリアルの意思など無視して、自分の望みをゴリ押しするつもりなのであろう。下級貴族の小娘と侮って。そして、いくら弱小とはいえ、仮にもひとつの派閥の長であり、侯爵家の家長であるセリドラーク侯爵の存在を完全に無視して……。

「陛下、まだレイフェル子爵は家族を失ったばかりで……」

 さすがに、いくら相手が国王陛下とはいえ、そのあまりの強引さ、非常識さにムッとしたらしき侯爵が口を挟んだが、王様は侯爵の言葉も完全に無視した。そして更に話し続けようとしたが……。


「陛下の御子息と申しますと、確か、48歳になられる王太子殿下、そしてその弟君の、45歳になられる第2王子殿下でしょうか? お二方共に、既にご結婚なさっているかと……。

 愛人か何かのお誘いでしょうか?」

 にっこりと微笑んで、そう返すマリアル。

 うん、勿論、王様の身内くらいは調べてきてる。

 王子様といっても、王様が長生きしていたら、そりゃ、中年とか老人とかの王子様もいるよなぁ。

 王子様といえば、みんながみんな、若くてカッコいい、とは限らんわな、そりゃ。ハゲて腹の出た中年の王子様、とかもいるわなぁ……。

 そして、マリアルの右手の人差し指が、くいっ、くいっと曲げられている。

 うわぁ、怒ってる怒ってる! コメカミに青筋が見えるような気がするよ……。


 で、やっちゃうの?

 いや、さすがに、ここで王様相手に爆発はマズいだろう。

 クーデターになっちゃうよ?



『ワンダーフェスティバル2019冬』、終了致しました。

そして、カオルフィギュア(3Dプリンタによる市場調査用試作品)5個、開場から8分で瞬殺。

マイルフィギュア15個(前回からの通算、16~30個目)、残、2個。

皆様、ありがとうございました!


マイル「87パーセントなら、完売も同然ですよ! 30パーセントで『全滅』、50パーセントで『壊滅』なんですから!」


カオル「戦闘部隊の損耗率とは違うでしょ……」


マイル「うるさいですよっ! 私1体の、6分の1の価格だったくせに!」


カオル「な、なっ……」


ミツハ「まぁまぁ、ふたりとも、落ち着いて……」


マ・カ「「フィギュアを造っても貰えなかったヤツは、引っ込んでろ!!」」


ミツハ「な、ななな……。夏フェスには! 夏フェスには!! うわああぁ~~ん!!」



そして、2月10日、『ポーション頼みで生き延びます!』第1巻英語版が、発売開始!(^^)/

『I Shall Survive Using Potions!』

米国Amazonで、


Amazon Best Sellers Rank: #2,375 Paid in Kindle Store (See Top 100 Paid in Kindle Store)

#1 in Kindle Store > Kindle eBooks > Comics, Manga & Graphic Novels > Manga > Fantasy

#4 in Books > Comics & Graphic Novels > Manga > Fantasy


おおお! なかなか、いい感じです。(^^ゞ

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― 新着の感想 ―
孫は居ないの?10~20歳の王孫! 妾腹の少年がいれば、カオルちゃんが娶る手もあるだろうに
きたきた、天罰コールマリアルちゃんかなりお怒りの模様カオルちゃんは躊躇わずドッカーンしちゃう?後書きのマイルvsカオル2人とも可愛いく出来たのかなぁ?
[一言] チルチルミチルにトッポジージョ…対象読者年齢が!
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