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144 首都へ 3

「おお、よくぞ参られた! ささ、奥の方へ……」

 翌日、セリドラーク侯爵とその配下の者や護衛達と共に、私達……、つまり私、マリアル、フランセットの3人は、派閥の貴族達のところを廻っていた。

 みんなを集めておいて、一度に顔見せの挨拶をすれば、手っ取り早いのではないか。

 そう思ったけれど、それじゃあ、本当に顔見せの挨拶だけで終わってしまうから、駄目なんだってさ。わざわざマリアルを首都まで呼んだ意味がなくなるらしい。

 ……つまり、この挨拶廻りは、誤解の余地なく、『そういう意味合いのもの』ってわけだ。


「マリアル・フォン・レイフェル女子爵です、よろしくお願い致します……」

 マリアルの名前など百も承知であろうが、礼儀として、まずは名乗りから。

 勿論、ただの使用人や護衛である私達は、自己紹介なんかしない。

 そして、セリドラーク侯爵が簡単に互いを紹介し、両親と兄を亡くしたマリアルがレイフェル子爵家を継いだこと、そしてレイフェル子爵家は今まで同様この派閥に留まること等、当たり障りのないことを説明した。


 女神様関連のこととかには、一切触れない。

 それらは、それぞれが自己責任において個別に接触し交渉を行うべきことであり、派閥の新メンバーとしての紹介の場であり、セリドラーク侯爵が紹介のために同席している場で眼をギラつかせてがっつくようなことではない。

 あくまでも今は、同じ派閥のメンバーとして顔を繋ぎ、『その時』のために友好関係を築くべき時間なのであり、馬鹿でない限りは、おかしなことは言い出さない。

 そして、今までと同じく、今回も何事もなく穏やかに顔合わせを終えたマリアル。


 この、同じ派閥の貴族達の中には、あの盗賊と騎士達を仕込んだ、マッチポンプの仕掛け人はいない。

 そりゃそうだ、同じ派閥という圧倒的に有利な条件であり、すぐに顔合わせの機会があるというのに、おかしな策略をろうして危険を冒すわけがない。ああいうのは、接触の機会が得られない連中が企むものだ。……そして、犯人は既に判明している。

 あの騎士達を密かに追跡した鳥軍の者が行き先を突き止め、しかし鳥に表札が読めるわけがないので、後でエミールを案内させて邸の持ち主を確認させておいたのである。


 しかし、そっちは、別に気にすることはない。

 やり口は少し卑怯だけど、別に悪意や敵意があったわけじゃないからだ。

 盗賊を雇いはしたけれど、あくまでもあれは『恩を売って、お近づきになりたい』というだけであって、別に危害を加えようとしたわけじゃない。だから、あれが失敗したら、また別の方法で接触を図ろうとするだけだろう。マリアルや私達に危害が加えられないけれど、ちょっと危機感を煽った後に助けるというような、ちょっと卑怯なマッチポンプで……。

 それくらい、可愛いもんだ。

 ……でも、何とかやり口を暴いてやり込めてやろう。他の貴族の弱味を握れば、マリアルの役に立つだろうからね。何かゲームの対戦みたいで、ちょっと楽しい。


 ……問題は、あっちの方だ。

 孤児達を半殺しにして、レイエットちゃんを傷付けた、あの連中を雇い、指示した連中。

 てめーらは、許さない!

 誰にもバレないと思っていても、そうは問屋が卸さない。

 天知る地知る、チルチルミチル!




「マリアル・フォン・レイフェル女子爵です、よろしくお願い致します……」

 次の貴族家への挨拶である。

 今度は、伯爵家か。

 で、今までと同じように紹介が進んでいたんだけど……。

「子爵は、もうすぐ成人されるとか? そして、急な家督相続で、貴族家当主としての教育も受けておられないとか……。これは、早急に婿取りをして、お家の体制を盤石にするのが先決でしょう。

 そこで、うちの息子などは如何ですかな。次男、三男にもちゃんと領地運営について教え込んでおりますから、領地のことは安心して全てお任せ戴けますぞ!」


 うん、他の貴族家と同じく、顔合わせの場に奥さんと子供達を同席させているわけだ、当然。

 しかし、他の貴族達は、ここまで露骨なことは言わなかった。せいぜいが、『年が近いから、お友達に……』程度だった。


「いえ、まだ、両親と兄を亡くしたばかりで、とてもそのような気には……。しばらくは、喪に服すつもりですので……」

 マリアルが唱えたのは、予め考えておいた断りの呪文のひとつである。今までは、控え目なアプローチをしてきた貴族家は、これでみんな引き下がってくれた。

「いや、こんな時だからこそ、頼りになる婿を迎え、領地の運営を任せるべきなのだ! そして子爵は、王宮や神殿との政治的な折衝に努め、一族と派閥の繁栄のために尽くすべきであり……」

 はいはい、その『一族』というのは、婿の実家である、自分のところのことね。


 マリアルは、『女神の加護を得た、愛し子』というネームバリューも凄いけれど、それがなくても、充分貴族達に狙われる立場なのだ。

 これが、貴族家当主でも跡取りでもない、ただの子爵家の娘であれば、マリアルの方が良い嫁入り先を求めて婚活に励む立場だったろう。しかし、子爵家当主であれば、次男か三男あたりを婿に送り込んで、実質的には婿となった自分の息子が子爵家を運営する。そして孫が生まれれば、もう、完全に子爵家は自分達のものである。そうなれば、マリアルが病や事故で亡くなろうが、もう関係ない。

 それが、更に『女神の愛し子』というオマケ付きである。狙われないわけがない。

 しかも、『女神の愛し子』の子供である孫娘は、うまくすれば、王家への嫁入りも夢ではない。いや、充分射程圏内であろう。

 ……そりゃ、必死で食らい付くわ……。


「伯爵、レイフェル子爵も、今はまだ混乱が治まっておらぬであろう。そういう話は、また後日、落ち着いてから……」

 さすがに、派閥の長であり今回の挨拶廻りの世話役を務めているセリドラーク侯爵が割って入ってくれた。ちゃんと自分の仕事はやってくれるらしい。


「何を甘いことを! 明日は、神殿と王宮に行かれるのであろう! どちらも、子爵を取り込もうとするに決まっておろうが! 先に形だけでも婚約者がいるということにしておいた方が、それらを躱しやすくなるとは思われぬか!」

 ……しかし、伯爵は、引く気は皆無のようだ。

 ま、確かに王宮も神殿も、マリアルに娘ができるのを待たなくても、直接マリアルを手に入れた方が、ずっと早いし効果も大きいよねぇ。伯爵が心配するのも、無理はない。

 でも、だからといって、今、ここで初対面である伯爵の息子と婚約をしなければならない理由は、欠片もないけれど。


「いえ、神殿の関係者とも王宮の方とも、そして勿論伯爵様のお子様方とも、婚約をする気は全くありませんから、御心配は御無用です」

「そのような我が儘を! 貴族の娘というものは、お家のために嫁ぐもの! 本人の意思など関係なく、当主が決めた相手と……」

「はい、ですから、私は当主が決めた相手と結婚する予定です。……当主である、私が決めたお相手と……」

 あ、と、言葉を途切れさせた伯爵。

 うん、うっかりさんだねぇ。


「いや、まだ未成年である子爵は、派閥の長であるセリドラーク侯爵の助言に従うべきであろう!

 そうですな、侯爵!」

 あまりにもしつこく、往生際の悪い伯爵に、かなり苛立ってきた。

 ……でも、その前に、マリアルがかなりキテる。

 にこにこと笑顔を浮かべているけれど、アレだ。『コメカミに青筋を浮かべている』ってやつだ。

 そして、マリアルが右手の人差し指を、くいっ、くいっと曲げている。

 ……合図だ。『やっておしまい!』という……。

 しょうがないなぁ、マリアル君は……。はい、『女神の怒り』いぃ~!


 どかん! ぱぁん! どぉん!


 突然、爆発して吹き飛んだ、調度品の花瓶と置物。

「「「「「うわああああぁっっ!!」」」」」

 そして、ソファーから飛び出して爆発の反対側、私達の後ろへと転げ込む侯爵、伯爵、そして伯爵の奥さんとふたりの子息達。

 マリアルが慌てて立ち上がり、視線を30度ほど上向きにして、両手を胸の前で組んで叫んだ。

「女神様、大丈夫です、まだ伯爵家の皆さんを皆殺しにしたり、領地を壊滅させる程のことではありませんから……。まだ、慌てるような時間ではございません……」


「……ぎ……」

「ぎ?」

「「「「ぎゃあああああああ~~!!」」」」


 うん、マリアルは、別に自分の存在に関して火付け(うりこみ)に来たわけじゃない。

 ……反対だ。

 おかしな騒ぎが起きたり、巻き込まれたりしないようにと、火消し(ちんせいか)のために首都へやってきたんだ。

 そして、その火消しの方法は……。

 油田火災の消火方法を知ってるかな?

 うん、ダイナマイトを突っ込んで、爆風で炎を吹き飛ばすんだよ!

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『天知る地知る、人ぞ知る、チルチルミチル、鰹汁!』 な~んて聞いた事が、ある様な、無いような?
望みようのないものだったら欲も出なかったろうけど、いきなり望みが見えてきちゃったら、がっついちゃうのも人の性だよねぇ。
爆破型消化法油田とかで使っているらしい、吹き消すという事ですね、天が知る地が知るだったかなぁ?聞いた覚えがあるカッコイイですね!
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