2話『転生』
目を覚ました帝人が見たものは、病院の一室やまさかの地獄――というわけでもなく、もう生きて見ることは無いと思っていた自室の天井だった。
帝人は酷く驚く。それもそうだ。確かに頚動脈を断ち切って自身の血液が飛沫をあげる様子まで見ていたのだから。
まだ手には鋏を持っている。死のうとした事自体が夢なんじゃないかと思ったが、どうやらその可能性は無いらしかった。赤く染まる鋏に、仰向けでベッドに横たわった状態のまま横を見ると鋏と同様に毒々しく赤いシーツが見えて、それらは自殺という事実を物語っている。
帝人が自身の生命力に最早感嘆していると、窓の辺りから声が聞こえた。
「へぇ、すごいじゃん。君は今から死神だ。」
「え、は……え? 死神?」
「そうそう、死神。だからさ、まぁこれから頑張ってよ」
「だから、それってどういう……俺は人間で」
「あぁ、そっか。面倒臭いなぁもう」
純粋な疑問を投げかける帝人に、窓のフレームに腰掛けた綺麗な金髪の若い男は言った通り本当に面倒くさそうに頭を掻く。
「君は、《転生》したんだ。ほら、横見てみろよ」
「て、転生……え、横?」
言われた通りに横を見るとそこには――大きな鎌があった。湾曲する刀身は血のように深い赤でサイズは帝人の身長程もある、とにかく大きなものだ。とてもじゃないが農業用とは思えない。
そう、これはよく童話などで語られる……死神の、物だ。
「ってわけだからさ、わかった? ははっ、すげぇそれっぽいなー、その鎌。死神だぞー! みたいな」
「あ、うん……そうだな。って、お前は誰だよ……」
流石に顔も知らない赤の他人が自室の――しかも2階の窓に腰掛けているのはおかしいと思った帝人は今更な質問をする。
「あれ、言ってなかったっけ。まぁいいや僕はノア。ノア……エイベル。とりあえず普通の人間だと思っといて」
「え……訳分からん。でもやっぱ外人さんなんだな」
「あー……確かにニュアンスは間違ってないよ、そうそう、外人さん外人さん」
「なんだよその意味深な発言は……」
本当に訳の分からない奴だと帝人は思ったが、あまり深く他人に干渉するのは好きじゃないので今はノアの事を『意味不明な奴』と認識しておくことにした。




