ユイノ
「今のことについては、なにも聞かないほうが良いのですか?」
全身をモンスターの血で汚した俺にユイノがポーションを持って駆け寄りそう聞いてきた。
「別に聞いても構わないが、たぶん意味ないぞ?」
俺ですらわかっていることなどほとんどない。
今の出来事は見たまんまが答えだ。
「でも、聞きます。なんですか!?今の!」
「強い武器でモンスターを殺しただけだ」
「いや、それは見ればわかります。でも、強すぎるでしょ!その刀、なんなんですか!?」
「だから、ものすごく強い刀だ」
「馬鹿にしているんですか?」
「そんなつもりはないが……」
「いえ!馬鹿にしています!そんなものどこで手に入れたんですか?」
おっと、なんて答えようか。
どこで手に入れた、か。
最初から持っていたからな。
いや、ボーナスで手に入れた、というべきか。
でも、『ボーナスとはなんですか?』とか聞いてきそうだな。
そうなれば答えるのがもっと面倒になってしまう。
「えっと、だな、これは……そ、そう!死んだ親父が残していったからどこで手に入れたかとかはよく分かっていないんだ!」
「そ、そうですか。……すいません。無神経でした」
どうやら親父が死んだというのを聞いて聞いてはいけないことだった、と思っているのだろう。
「別に、いいよ」
死んでないし。
会えないけど。まあ、会いたくもないけど。
「あ、まだ助けてもらったお礼言ってなかったですね。ありがとうございます!」
「いいよ、困った時はお互い様なんだろ?」
「そ、そうですね!」
「でも、これでさっきの貸しは無しだからな!」
「わかってますよ」
わかっているならいい。
「それでは、ロビーに戻ろうか」
近くに落ちている魔剣サタンを拾いながらユイノにそう告げる。
「因みに帰りは急ぐぞ!イケメンボーイがでたら逃げる!わかったか?」
「え?どうしてですか?さっきの刀で倒せば良いじゃないですか?」
「あれは、一日に一回しか使えないの!詳しい話しはロビーでするから、とにかく戻るぞ!」
詳しい話しって俺だってよくわかってないじゃん。
俺は元来た道へと向き歩き出そうとする。
その直後。
「あ、あの!手を、繋いでも良いですか?」
え?これなんてエロゲ?
いやいや、俺いつフラグたてた?
立ててないよな?
「ち、違いますよ!ただ少し怖いからってだけですから。繋ぎたいとかそう言うのじゃ本当にないですから」
これ、日本だったら
ツンデレ来たー!!!!
ってなるんだけどどうやら本当に怖いらしい。
頑張って立っているが生まれたての小鹿のように足が震えている。
それに顔も真っ青だ。
「わかった」
ぎゅっと俺の手を握ってくる。
さっきまでずっと握っていた手だ。
暖かい。
「女から握られたこと無いから、少し照れるな」
「な、なにいっているのですか!」
「冗談だ」
「もー驚いたじゃないですか」
「ははは、すまんすまん」
冗談ではないのだがな!
ロビーに向かう途中、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「魔法使いってどういう気分だ?」
自分が手を触れずにものを燃やすというのはどういう感覚なのだろうか?
「ど、どうして、魔法使いって知っているんですか!?」
どうしてってお前、魔法で俺を助けたじゃんか。
たしか、ファイアエクスプレスとか言う呪文で。
「火の魔法で俺を助けたじゃんか」
「あれは、火人族の技です。魔法はもっとすごいです」
あれよりすごいってやばすぎだろ!
「あ、あはは、ご、ごめん。あれが魔法だと思った」
「ま、始めてみるなら仕方がありませんが、それに、確かに魔法使いでもあるわけですからね」
あ、あっぶねー。
なるほど火人とはこういう人間を言うのか。
ロビーにつく前にいろいろと質問した。
「ボス部屋攻略についてで質問いいか?」
「はい、どうぞ」
「そのー、知り合いから聞いたのだがボス部屋は最初に見つけた奴が一番に攻略するって本当か?」
「はい、本当です」
「危険じゃないのか?」
「初回ドロップが強力ですから、みんな危険でも最初に行きたがるのですよ」
「初回ドロップ?」
ダメだ、わからないことが多すぎてどうしてもおうむ返しになってしまう。
「初回ドロップとは、ボスを初めて倒したときにするドロップのことです。二回目、以降は至って普通のアイテムがドロップします。最初は危険な分強いアイテムがドロップするのですよ」
「そ、そうか」
ゲームだったら絶対ない設定だな。
そんなことをすれば昔からプレイしている奴がどうしても有利になってしまうからな。
「それでも、単体パーティーでの攻略は危ないんじゃないか?いくらドロップ品が良くても命あってのものだ」
「そうですね、普通は攻略隊が編成されます。しかし、攻略隊の場合は最初に見つけたパーティーが初回ドロップをとれるとは限りません。単体で挑戦するとこもあるそうですが、それはよっぽど自分達の腕に自信がある人たちです」
「なるほどな。ありがとう」
「いいですよ、このくらい。でも、本当に田舎に住んでいたのですね」
「あ、あははははは」
がやがやと人そこは人であふれかえっていた。
「やっとついたー」
「そうですね」
それだけ言うとすぐに手を離して少し離れるユイノ。
ほんとに怖かっただけだったんだ。
うん、わかってた。怖いんだろうなーって思ってた。
でも、でも!
命助けたんだから、フラグ立ってもおかしくないんじゃない!?
「では、また会う機会があればどこかで」
そう言って、どこかへ転移しようとするユイノ。
ここで美少女をみすみす取り逃がしていいのか?
いや、いいはずがない!
「ちょ、ちょっと待てユイノ」
「どうしたのですか」
まずい、呼び止めたはいいが会話の内容を何も考えていなかった。
えーっとえーっと
そうだ!
「ゆ、ユイノ。質問だ。いいか?」
「は、はい」
「パーティーってどうやって組むんだ?」
これを聞いてユイノとパーティーになって、そしたら美少女と一緒にいられる。
てか、俺のハーレムパを作るというのも……。
いや!俺には夕凪がッ……!
まあ、ハーレムがどうとかはおいといて、実際ユイノとパーティーを組むのは悪くないだろう。
「パーティーですか?」
そういうと何やら近くにお店に行った。
そこにいた店員と何か離した後一枚の紙を持ってきた。
「はいどうぞ、これに、パーティーメンバーにしたい人に名前を書いてもらってください」
契約書
1私は仲間を裏切らない
2仲間を信頼する
3仲間を守る
4自分を守る
5すべては、ロードメルクス様のお導きのままに
私、________は以上の項目を絶対に守る。
け、契約書、だと!
しかし、内容が薄っぺらいな。
「これで、パーティーができるのか」
「はい」
「ち、ちなみにユイノは何処かのパーティーに所属しているのか?
ここは重要だ別のパーティーに所属しているのならば今日会ったばかりの俺が ユイノをそのパーティーから引き抜くのは不可能に近いからだ。
「あはは、マサキも面白いことを聞くのですね。いたらこんなとこ一人でいるはずないじゃないですか」
何処か遠い目をしてユイノは言う。
まあ確かにそうだ。
でもどうしていないのだろうか?と思ったが今はどうでもいいことだと自分で納得しておく。
「そう、だな」
勇気を出せ俺!断られるかもしれない、でも!
可愛い女の子と仲良くなるチャンスだぞ!
自分の頬を平手で叩き気合を入れる。
その行動にユイノが少しびくっとなっていた。
「な、なあユイノ」
「なんですか?」
「その……俺とパーティー組んでくれないか!?」
言った、言ってしまった!
一世一代の大勝負。(俺の中では)
これは好きな子に告白するくらい緊張するぞ!(したことないけど)
ああ、断られたらどうしよう。
ええい、ダメだ!今更後悔するな!男ならどんな答えが返ってきてもどっしり構えて待ってやる!
「いいですよ」
あっれー?案外あっさりー!
いいんだけどね!うん!
すごくうれしいんだけど、なんかなー。
「そんなあっさり決めていいものなのか?」
「いえ、普通はとても考えるでしょう。ですがこの場合、私は一人で困っているという状況にあの数のモンスターを一瞬で殺してしまうほどの人からお誘いを受けたのです。二つ返事しない方がおかしいです」
そういうものなのだろうか。
まあ、こんなかわいい子と同じパーティーになれるのなら何でもいいか。
「じゃあ、よろしく!」
「そうですね!よろしくです!」
僕たちはそう言って握手をした。
その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「だから、お前はいつも一人で突っ走りすぎなんだよ!」
「いいではないか!結果きちんと倒すことができたのだから」
「でも、危険だろう!」
俺はこの世界に来てまだ二日だ。
こんな俺が聞き覚えのある声というば少ししかいないさらに会話の内容からおそらく冒険者。
冒険者で聞き覚えのある声そんなの一人しかいない。
ばっと後ろを振り返るとそこには、リリアナの逆ハーレムパーティーが歩いていた。
女はリリアナ一人、それ以外は見事にイケメンしかいない。
イケメンとかマジでうぜぇわ。
そんな妬みのこもった視線を向けていると。
パーティーの中の一人の男性がこちらの視線に気が付いてこちらを向く。
彼は今朝家に来たやつだ。名前は確かサルバとか言ったか。
……。
ちょっと待て。
彼は俺を知っている。もし彼がリリアナに僕がここに居るということを伝えればどうなるだろう?
リリアナからすれば仕事をサボってロードで遊んでいるように映るだろう。
そうなれば……
減給!
それはダメだ!
俺はリリアナに伝えようとする彼に向かって大きくばってんを頭の上で作る。お願い!伝わって!
すると、サルバは一度考える素振りをしてからこちらに向かって大きくうなずいた。
どうやら伝わったようだ。
となれば、
「おい、ユイノ。すまないが少し場所を変えよう。いいか?」
さっきからの俺の行動に少し怪訝な表情を向けたユイノに向かって言うと。
「わかりました」
俺たちはロビーにある個室スペースに入る。
俺はもちろんこんなところを知らなかったのだが、ここは他人に聞かれては困る会話をするときなどによく使うようだ。
「では、どうぞこれ」
ユイノは名前の書いた契約書を差し出してくる。
「お、おう。でこれはどうすればいいのだ?」
一瞬呆れたような顔を向けてくる。
なんか、イラッとする顔だな。
「……はぁ。本当に何も知らないのですね。契約書はパーティーのリーダーがそのメンバーと一緒に教会へと持っていくのです」
「そ、そうか……ん?別にそれだと今渡す必要なくないか?」
その教会というところについてからでもいいと思うのだが。
それになぜか俺がリーダーってことになっているし、まあいいけど。
「え、あ、は!……ま、まあそれはいいではないですか!えっと……そ、そうだ。わ、私はなくし癖があるので預けておきたかったのです!そうです!」
あーあ、知ったかぶりのぼろが出た。
まあ追求して嫌われたくないからもう触れないけどな。
「そうだったか。……ん?」
今何か隣の部屋から物音が。
そっと耳を近づける。
んっ…あっ……んっ…
あ、うん!ここの壁は結構薄いんだなあ……。
俺は気を遣い静かにこの部屋を立ち去ることを決めた。
「あ……」
あーあしがーもつれ……るッ!
俺は体勢を崩し全体重をっもって壁にタックルする。
ものすごい音が鳴り響く。
「あーごめんなさいー、邪魔しましたねー」
突然の行動にユイノはものすごくオロオロしていた。
俺はオロオロしているユイノを連れて個室を出た。
別に悔しくなんてないんだからねっ!
今は何時だろうか?
ふとそう思い時計を見る。確か時間はそこまでずれてなかったはずだ。
この時計はソーラーパネルで自動で充電し、それに対して手動で時間を調節できる。
完璧だと思う。
時間は夜の六時だった。
まさかこんなに時間が過ぎていたとは。
「ユイノ、今日はもう解散しよう。俺雇い主が帰ってくる前に家に帰らないといけないんだ」
するとユイノは、
「わかりました、では明日。教会に正式に出しに行きましょうか」
「ああ、そうしてくれ。何時にする?」
「そうですね……。では朝の十時くらいでどうでしょう?」
「わかった。帝都の教会でいいか?」
少し考える素振りをユイノは見せたが、すぐに、
「わかりました」
と言った。
「じゃあ、帝都のロード入り口前で!」
「はい!」
そう言って朗らかに笑うユイノ。
ああ可愛いなぁ。
待て待て!可愛いだけだ!あくまで可愛いだけだ!
そう俺には……って、これってかなりやばいのではないか?
最初は家族として夕凪が好きで、それで会いたいと思っていたのが……。
ああ、どうしよう。
ロードから出て急いで川のある森へと向かう返り血を流すためだ。
このまま帰宅してしまうとリリアナに何処にいっていたと聞かれてロードに潜っていたのがばれてしまう。
セルバがせっかく黙っていてくれたと言うのにこうなってしまってはなんの意味もない。
すべての返り血をあの川で綺麗に洗い流してから家へと向かう。
家に帰るとそのまま夕食を作る。
あまり凝ったものが作れないのでチャーハンを作ってみた。
リリアナは遅くなると言っていたのでもちろん一人での食事だ。
パクッ。
うん美味い!かなり上手にできたのではないか?
この世界にラップの類はなくその代り埃がかぶらないように上にかぶせるかご?のようなものが台所にあった。
それをかぶせて机の上に置いておく。
よくよく考えると歯ブラシがないのに気が付いた。
仕方がないので洗面台で口を濯いでから床につく。
歯ブラシの問題は明日リリアナかユイノに聞くか。