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刀でダンジョン攻略目指してます!  作者: 赤月ヤモリ
第一章・連れてこられて異世界へ
4/23

バイト

「じゃあ、今日はもう閉めるから」

「わかった」


 日が傾いてきたころリリアナはそう言ってきた。

 夜までは運営しないようだ。


「材料とか片づけるから、鉄板ふいといてー」

「了解だ」


 今日、俺が働き始めてから来た客は大体二十人。

 朝どれくらいの人数が来たのかは分からないが俺がわかる分の収入は四千メル。

 そこに大体来る前の収入を二千メルとしたら、一日で大体六千メル。

 ここから俺の給料千メルを引いて五千メル。

 材料費や生活費、税金があるのかはわからないがそこから差し引くと、リリアナが使える金はとても少ないのではないか?

 俺を雇う余裕なんてないはずだ。

 なのになんで。


「拭き終わった?」


 リリアナが暖簾から顔をのぞかせて聞いてくる。


「ああ、終わった」

「よしじゃあ、帰ろうか!」


 そうだ、住込みだった!

 こ、これから初めて女の子に行くのか!

 いや行くだけじゃなくって、泊まる!のか!

 やばいテンションが上がってきた!


「ここだ」


 案内されたのは赤レンガ作りの建物。


「ここの、一室が私の家だ」


 これは、現代でいうアパートではないか?マンション?どっちでもいいか。

 とにかく集団住居ということに違いがない。


「こ、こんにちはー」

「これからはこんにちは、ではなくただいま、と言えよ!」

「わ、わかった」


 案外広い。

 部屋もいくつかある。

 だがやはり風呂はなかった。


「じゃあ、適当に飯作るから待っててくれ、とその前に、その剣貸してくれ」


 そう言って指さしたのは魔剣サタンだ。


「それ装備をはずして預からしてくれ、盗んだりしないけど私がマサキを完全に信用できるまでは預からしてくれ」


 どうやらこの剣が装備品と思っているらしい。

 いや、女が男を家に入れて思う危険が命の危険って。

 貞操の危険を心配しろよ。

 いや、何もしないけどさ。


「別にかまわないが、本当に今日会ったばかりの男を住まわせるつもりか?」

「大丈夫、貞操の危険という部分では私はお前より身体能力的に上だからな!」

「そうなのか?」

「私は商人と女騎士のジョブを持っている。女騎士はLV八十八。お前みたいなそれしか武器を持っていないような初心者よりは強いさ」

「そうか」


 俺はおとなしく剣を差し出す。


「見たことない剣だな」


 ドキッ!

 あれは魔王サタンのドロップ品だ。

 これ以外の武器を持っていないのにサタンをどうやって倒したとか聞かれても困る。

 何か言い訳を。


「お、親父が鍛冶師で地元の剣を加工して作ってもらったんですよ」

「そうなのか。そういうことならいい。じゃあ、ゆっくり待っているがいい、簡単なものになるだろうがすぐに夕飯を作る」



「美味い!焼きだこ食った時も思ったが、お前料理上手だな!」

「そ、そうか!ありがとう!」


 出されたものはパンとシチューそれとサラダだ。

 簡単な物と言っていたが調味料をうまく使ってかなりおいしい。


「そういえば、まだ、全然お互いのことを知らないな、これから一緒に住むのだしこれを食い終えたら、お互いのことを語り合おうではないか!」

「そうだな、そうしよう」


 リリアナ、お前はなんだか話し方が男みたいだな。

 と今更なことを思いつつ俺はシチューをすする。

 美味い。



 食器を片づけた後、テーブルに二人対面で座る。


「えーっとじゃあ、リリアナだ。年は十八。普段はロードの最前線で戦っている。たまに今日のように店を開いて商売もしている」

「ちょっと待て!」


 ちょっと待て。

 速攻意味が分からないことを言い出したぞ。


「たまに、商売している、と?」

「ああ、たまにだ」


 おやおや、俺はバイトなんだよね?

 たまにしか仕事ないの?


「俺、お店やってくれないと金なくて生きていけないんだが」

「何を言っている。お前は私の身の回りの世話をするいわば家政婦のバイトだ」


 あれれーおかしいぞー?


 おもわずメガネをかけた見た目は子供頭脳は大人な少年のような口調になってしまった。


「俺、店の手伝いだと思ってたんだが」

「そうなの?ま、大差ないしいいじゃないか!」


 ま、まあこんな美人と住めるってだけで十分な報酬だしな。


「わかった。で自己紹介はそれだけか?」

「ああ、あと私は親がいない。だから生活が厳しくなっても仕送りの類がないのでもしかしたらお前をクビにする時が来るかもしれない」


 ……。

 はい、アウトー!

 いきなり、何言ってんの。

 親がいないのに男を住まわせるなんて、ま、まあ俺が襲いかかっても襲えないそうたからいいけど。

 親がいないって言うのは可哀想だなあ、まあ、俺も居ないっちゃあいないんだが。

 でも、親の話はあまり踏み込まないようにしておこう。


「そ、そうか。その時になったら容赦なくクビにしてくれてかまわない」

「ああ、すまない。さあ、次はお前だ!」


 俺の番か言っていいこととダメなことに注意して発言しなくては。


「俺はマサキだ、年は十九、田舎から出てきてまだ右も左もわからない状態だからいろいろ教えてくれると助かる。ジョブは……」


 勇者って言っちゃダメじゃないのか?

 なにか、ありそうなジョブは……。

 あ、たしかあのエルフ、冒険者というジョブだった。

 おそらくもっともマイナーなジョブだろう。

 確信はないが。


「冒険者です」

「うん、そうか、ってお前十九って一つ上だったのか!?」

「そうだぞ」

「す、すまない。知らなかった」

「別にいいよ。今までどおりで」

「……そう言うなら、わかった!今まで通りで行かせてもらうぞ!」

「おう!」

「ところで、」

「ん?」

「眠い!寝よう!」

「そ、そうか」


 って、え?

 寝る?見た限り部屋にはベッドのようなものが一つあるだけだ。

 俺、床で寝るの?


「で、出来たら毛布ぐらい貸してください」


 さすがに寒い。

 今は春なのだろうか、昼と夜の温度差が激しい。

 さっきまでは温かったのに。

 今ではすっかり寒くなってきている。

 この状況で何もなしの床はつらい。


「なにを言っている一緒に寝ればいいだろう」


 なん…だと…!


「えっと、今なんて言ったか自分で理解しているか?」

「ああ、理解している。同じベッドで寝ようといったのだ。さっきも言ったがお前がわたしに何かしようとしても返り討ちにあって私の信用を失い路頭に迷うだけだぞ。マサキはそんな勇気はないように思うから大丈夫だろう」


 ごもっとも。


「じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔します!」

「ああ、では、お休み」

「お、お休み」


 しばらくすると、スースーと静かに寝息が聞こえてくる。

 早い!あと警戒心が無い!

 今、すれば起きない気もするのだが、あれだけ言うということはよほど自分の力に自信があるのだろう。

 横に美女。それも金髪の。

 街の男どものあこがれの的。

 そんな美女が今横で無防備に寝ている。


 ダメだ、ダメだ。

 ここで手を出したら俺は路頭に迷ってしまう。

 でも、ここで、手を出したら童貞が卒業できるかもしれない。

 クソッ!

 俺はどうしたらいい!


 顔に手を当て悶える。

 すると、


 こつん


 顔に固いものがぶつかる。

 時計だ。

 サタンの部屋でも似たようなことがあったな。


 ふう、少し落ち着いた。

 何をあわてているんだ。

 今の俺の目標はいち早くロードをクリアして誰かを神にして妹のとこに帰る。

 それだけだ。

 こんなところで飢え死にへの道を選ぶことはない。


 ……夕凪。会いたい。

 どうして俺は夕凪を嫌っていたのだろう。

 嫌っていなければ、会ってから別れることができたかもしれないのに。


 腕を腰の位置まで戻す。


 ん?何か四角いものが腰についていた。

 こんなのさっきまであったか?


 それを取ってみると何かの箱だった。

 開けてみると何か紙と薄く固い物が入っていた。


 なんだ?


 リリアナを起こさないようにゆっくりとベッドから這い出し月明かりが当たる場所に移動する。


 君は神の試練を見事クリアした。


 我、メルクスから褒美をやろう。


 PS.どう!?それっぽかった!?かっこよかった!?


 容赦なく潰す。


 神の試練というのはおそらくサタンとの戦闘のことだろう。

 褒美ってなんだ?

 このカードみたいなもののことか?


 取り出してそれを見る。


「あー……、くそぉ。絶対帰ってやる!」


 カードは俺がラミネートした妹の写真だった。

 絶対に帰ってやる。

 俺は涙を流しながらそう決意した。


 俺は気が付いたら寝ていたようだ。

 起きたら毛布が掛けられていた。


「こ、これは?」

「あ、起きたか!いくらなんでもベッドから逃げ出すとわな!びっくりしたぞ!」

「ああ、寝てしまったのか」


 そうだ写真!

 あれが夢だったなんてことはないだろうが。

 探すと、写真はしっかり手に握られていた。

 良かった……。


 リリアナはこの写真を見ただろうか。

 写真はあったが握りつぶした神からの手紙の方はなくなっていた。

 神が証拠隠滅のために消したのだろうか?


「なあ、リリアナこの写真みたか?」

「す、すまない。わざとではないが、毛布を掛けるときにちらりと……」

「いや、かまわないさ。……そういえば写真はここにもあるんだな」

「あるにはあるぞ、そこまできれいなものはないが」

「ま、まあ、うちの村は写真について研究してる人多かったしな」

「そうか……」

「……誰かは聞かないのか?」

「男が涙を流して女の写真を見ていたというのに相手が誰かなんて聞けないさ」

「お前、かっけーな」

「ふふ、ありがとう」


 俺もここまでかっこよく生きれるかなー。


「すぐ朝食が完成する。顔を洗って来い」

「わかった」


 風呂はないのに洗面所はあるのか。

 水自体が高級というわけではないようだ。

 やっぱりお湯にするのに金がかかるということだろうか。


 朝は卵とベーコンとパンだった。

 美味かったですよ。はい、普通に美味かった。


 朝食を終えて二人で一息入れていると、


 コンコン

 ドアがノックされた。


「おーい、リリアナ今日はロードに潜る日だぞー」


 外から男の声が聞こえてくる。


「ああ!そうだった!」


 その声に反応したように、リリアナが大声で叫ぶ。

 おそらく約束していたのだろうが忘れていたのだろう。

 リリアナがいきなり叫ぶものでびっくりした。


「今日、ロードに行くのか?」

「そうだ、今日は八十九層へ行く」


 八十九層、って俺がボス倒しちゃったとこだよな。


「ボスが倒されていてもその層は探索するのか?」


 言って気付く、レベル上げが目的かもしれないじゃないか。

 きっと「当たり前だろ」とか返ってくるに違いない。


 だが帰ってきた答えは少し違った。


「なに言っている八十九層はまだ探索途中だぞ?ボス部屋は見つかっているが、まだアタックしたものはいない」


 クリアされていることは知られていないのか?


「どうしてそんなことがわかる?」

「どうしてって、法律で定められているだろう。最初にボス部屋を見つけたものが一番最初に挑戦するって、実際ロードも最初のパーティーが挑戦しない限りほかのパーティーに挑戦させない」


 そんなルールがあったのか。

 ということは俺はロードを作ったメルクスに直接飛ばされたから、異例だったということか。

 でも…… 。


「でも、どうしてボスがまだってわかるんだ?」

「それわな!私のパーティーがボス部屋を見つけたパーティーだからだ!」


 リリアナは女騎士のLVが八十八で最前線で戦っていると言っていたが本当に最前線だったとは!


「そうだったのか」

「そうだ、あー今日は部屋の掃除をお願いしたい。帰りも遅くなるかもだから先に寝ていてかまわない。できるなら晩飯を作っておいてくれ」


 注文が多いな。

 しかし本当に家政婦のようだ。


「了解した、ってうわあああ!いきなり脱ぐな!」

「え?ああ、すまない。では少し向こうを向いていてくれ」

「言われなくても!」


 俺は窓の方を向く。


 どうやらこの女は本当に俺に対する警戒をしていないらしい。

 今度襲ってやろうか!


「もう大丈夫だ」

「そうか」


 向き直ると、なんだかかっこいい防具のようなものを付け腰には一本の剣があった。


モニタリング


リリアナ 性別、女 年齢、十八

 装備品、英雄王の剣

 持ち物、無し

 ジョブ、商人、女剣士

 

「剣以外は何も持っていかないのか?」

「ああ、パーティーメンバーがくれるからな。いつもいいと言っているのだがなぜか……」


 それってあれじゃない?

 貢物的な?

 それにしても、パーティーって本当にゲームの世界のようだな。


「パーティーって人数制限とかあったっけ?」

「なんだ?私のパーティーに入りたいのか?もう六人全員埋まっているぞ?」


 どうやらゲームみたいに六人パーティーのようだ。


「いや入りたいわけではない」

「そうか。では行ってくる!」

「いってらっしゃーい!」


 ドアを開けて外に出たリリアナにひらひらと手を振りながら送りだす。

 すると外から声が聞こえてきた。


「中に誰かいるのか?」


 男の声だ。

 おそらく呼びに来たパーティーメンバーだろう。


「え、ああ、昨日から住込みのバイトを雇っているんだ」

「どんな奴だ?」

「ん?どうしたサルバ?別に普通だが」


 するとドアから男が顔を見せる。

 そして、ものすごい顔でこちらを見る。


「ど、どうも~」

「おい!男じゃねえか!」

「そうだが?」


 男は俺の決死のあいさつをきれいに無視し、リリアナに話しかけた。

 くそっ!むかつくから殺してやろうか?

 いっそ殺していいよな?


 そんなことを考えていると男がまた顔をのぞかせる。


「な、なにか?」

「てぇ出してねえだろうな?」


 怖いっす。

 男の嫉妬醜くて怖いっす。


「出すはずないだろ。俺からしたら金をくれる人物だ、なにかやらかして、収入がなくなったら路頭に迷う羽目になるからな」

「……そうか、疑ってすまない」


 おや?

 なんかいいやつ、なのか?


「いや別にかまわない」

「では、今日はリリアナを借りていくぞ」

「どうぞ」

「失礼する」


 バタン!


 ドアが閉められる。

 そのあと、外から「私はものじゃない!」というリリアナの声が聞こえてきた。


 ロード、か。

 俺もすぐに潜らなくちゃいけないんだよな。


 早く日本に戻るためにも……。

ご指摘があったので少し書き方を変えましたがいかがでしょうか?

少しでも読みやすくなっていれば幸いです。

また、書き方で変更してほしい点があれば遠慮なくコメントをしてください。

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