リリアナ
「なんだこれ?」
ワープゲートに向かって歩いていると黒い大剣のようなものが落ちていた。
さっきは混乱して集中した時しか発動しなかったが今は簡単に目のゲーム化(なんかコレダサいな。今度新しい名前でも考えるか)を発動できる。
ドロップアイテム、魔剣サタン
安直だなあ。
魔剣を拾い上げる。
武器、魔剣サタン
攻撃、3600
表示が一瞬かすれてドロップアイテムから武器に変わった。
攻撃が低い気がする。
それとも、赤蛇が強すぎるのか……。
べとっ、
ダメだ先に風呂に入りたい。返り血で体中べとべとだ。
考えるのは後、帰ろう(どこに?)。
ワープゲートを使っても壁の模様が変わらない。
ただ、大きな部屋。
ボス部屋以上に大きい、そして多くの人がいた。
『モニタリング』
そう頭で念じると、
ロード、ロビー
と表示される。
モニタリングは、目のゲーム化のことだ。
センスがないからこれくらいしか思いつかなかった。
あちこちから聞こえてくる喧騒を聞き流しながら出口へ向かう。
そういえば出口はどこだ?どこにもそれらしき場所はない。
ここにきて詰んだか?
人がいるなら聞けばいいか。
全身返り血まみれだが大丈夫だろうか。
それに武器まで持っている。
まあここはあんなモンスターが出るから大丈夫だとは思うが。
「すまない、少し尋ねたいことがある」
訪ねたのは、何か見たことのないものを売っている商人風の男。
ミニタリングを使うとジョブが商人となっていたので商人で間違いないだろう。
「へいらっしゃ……ってお客さん大丈夫かね、その血!」
「ああ大丈夫だ、すべて返り血だからな」
「そうかい!それなりゃいいんだ」
あまり疑問を抱いていなかったが言葉も通じるようだ。
あの神曰くここは別の世界らしいからな、あれ?それってもしかして異世界?
今思えば、ここは、異世界なのではないだろうか?
「それで、どうしたんだい?なんか買うんか?」
「すまない、金は持ち合わせていない。聞きたいことがある」
「なんだ?」
言おうとして詰まる、出口を教えてくれというのは大丈夫なのだろうか。
彼らからしたら、コンビニの店内でドアの場所を聞かれているようなものではないだろうか。
何か言い訳を考えねば。
「戦闘中に頭を打って出口を忘れてしまってな、出口を教えてくれないか?」
我ながらこれはないだろ!
何で出口だけ忘れているんだよ!
馬鹿なのアホなの死ぬの?
「そうか、それは大変だったな。どこに出るんだ?送ってやるよ」
「あ、ありがとう」
送ってやるというのはどういうことだ?
「で、どこに行きたい?」
地名なんてわかるか!
というより、ここから複数の場所に行けるのか?
「混乱していて思い出せない。金もないようだし、生活のしやすい場所にしてくれ」
「わかった、じゃあ掴まれ」
へ?促されるまま商人の肩に手を置く。
次の瞬間。
「転移」
風景が変わった。
外だ。
「おおおおおお!」
どこか建物の入り口のようなところだ。
目の前には街がある。
今の日本のような街ではなく、本当にファンタジーの街だ!
「なに、驚いてんだ!まるで初めてとんだガキみてえじゃねえか!」
ガハハ、と商人は笑う。
そして、
「ようこそ、帝都!ルーザンへ!」
どうやらここは国の中心の帝都のルーザンというところだそうだ。
今行った転移というのはさっきのボス部屋にあったワープと似た類のものなのだろうか?
「じゃあな、俺は店番があるからよ、ここなら、治安もいいし大丈夫だろ!今度うちに何か買いに来いよ!」
そのまま、もう一度転移と言って商人の男は消えていった。
まだ、いろいろ聞きたかったのだが、まあ商人だしな。
とにかく歩こう。
街を見ているとあることに気が付いた。
字が読めない。
どうやら、言葉は通じるみたいだが文字は読めないというあのお約束のパターンのようだ。
しかしそれでも何となくなんの店なのかはわかる。
店頭に商品が並んでいたからだ。
武器屋、防具屋などファンタジーならではの店から、魚屋や八百屋などどこか懐かしい店まである。
おいてある商品はどれも見たことないものばかりだったが。
何をしようか。
ってそうだった。風呂だ!風呂どこだ!
しばらく街を見回ったが風呂屋らしい場所はなかった。
仕方がないので道行く人に聞いてみたがなぜかみんな笑って去って行った。
いったいなんだ?
「すまない、風呂を探しているがこの近くにあるか?」
今度声を掛けた女性は何か普通と違った感じがする。
なんだ?何が違う?
そんな疑問を浮かべていると。
「あ、あの、お金はあるのでしょうか?お風呂は高級ですのであなた、その、初心者ですよね?防具もつけておられないようですし、おそらく無理かと……」
あ、耳か!なんか耳がとがってる。
モニタリング
シンビー、エルフ種族 性別、女 年齢、十九
ジョブ、冒険者
エルフか!なるへそ!
おっと、話を聞き逃すところだった。
「あ、ああ、そうだね。あはは、やっぱり高いかー」
適当にごまかして離れる。
エルフだ!エルフがいた!
ってことはもしや、ドワーフとかもいるのではないか?
会ってみたい!
やばい、夢が広がリング!
「でも、風呂は無理か」
このべっとりとしたものをどうするか。
……川を探すしかないか。
川はすぐに見つかった。
なかなかきれいなところで魚もたくさん泳いでいた。ここなら大丈夫だろう。
少し街から離れ森に入ってしまったが。
川を探している間にいろいろ考えた。
とにかく当面の活動だ。
今日中に金を稼げるところに行って金を稼ぐ。
いろいろ情報を集める。
情報を集めるのと同時進行で仲間を集めよう。
あの刀は一回しかそれも二十秒しか使えないからそれ以内に殺せなかったらHPが一の俺一人では死ぬ。
この世界が本当にゲームみたいになっているなら、回復薬?ポーション?どっ ちでもいい、回復系のアイテムがあるだろう。
それを仲間に持たせておけば赤蛇を使った後でもあまり気を張る必要はなくなる。
あとは……
自分の手を見てみる。
坂上 雅紀 性別、男 年齢、十九
装備品、規格外刀 赤蛇
持ち物、魔剣サタン
ジョブ、勇者
今のステータスにHPの表示はない。
あのロードと言われる塔の中だけの発生か、それとも、戦闘の場合のみの発生か……。
赤蛇は持ち歩いていないが装備品として存在しているので大丈夫だろう。
どうやって装備を変えるかは分からない。
それもおいおい考えるとしよう。
「ふーすっきりした。さて、仕事を探すか」
どこの世界でも生きるのに金が必要というのは変わらないんだな。
街に戻ると早速仕事を探す。
出来れば泊まり込みの仕事がいいのだが……。
ん?なにかいい匂いが。
とても美味しそうな匂いが漂ってくる。
そういえばあんなに動いたんだもんな腹ぐらい空くか。
金がないから買えない。
頭ではそう思っていても足が匂いの方へと動いてしまう。
見るだけ!見るだけだ!
匂いのする方へ赴いてみるとそこでは何やらたこ焼きのようなものが置いてあった。
というより、たこ焼きだ!
グー
おなかがむなしくなってしまう。
くそぉ。いっそ盗んでやろうか。
そんなことを考えながらたこ焼き屋の方を見ていると。
「なんだ?お前。これが食いたいのか?」
たこ焼き?を焼いていた女が話しかけてきた。
美人だ。
すごい美人だ。
大事なことだから二回言いましたよ!
金色の長い髪を後ろで一つに束ね右肩から前に出している。
顔のパーツも整っていて……。
美人だ!
「え、と、は、はい」
このチキン野郎!
シャキッとしろよ俺!
どんだけキョドってんだ!
ホラ、向こうも苦笑いだぞ!
「十個で二百メルだ!ん?どうした?」
たこ焼きを差し出してくれるのは嬉しい。
だが、俺は金を持っていない。
あと、情報ゲット。どうやらこの世界での通貨はメルというもののようだ。
「す、すいません。田舎から出てきたばっかで、お金ないんです」
田舎から出てきた。
我ながらナイスだ。
これなら常識が無くても大丈夫だろう。
これからはこの文句を使って行こう。
でも、やっぱ美人相手だと緊張して敬語になってしまった。
「あはは、そうかい!そりゃあ残念だ!……あ、そうだ!」
「ん?どうしたんですか?」
「これを、あげてもいい」
マジで!?
やっぱ美人は懐が大きいな!
「ほ、ほんとですか!」
「いきなり目の色変わったねえ。ああ、いいぜ。その代り……」
「ん?」
「体で支払ってもらおう」
……はっ!
か、体で!?
マジで?
それって、飯にありつけてこんな美女と夜の営みを……。
ダメだ、女の裸なんて見たこともないから想像もできねぇ!
でもそれって天国なんじゃ!
「そ、それって!」
「ああ、バイトが欲しいんだ!お前働いて稼げ!」
はい、チャンチャン、てか。
わかってたよ。
そんなうまい話があるはずないって。
わかってたけどさぁ。
い、いかん!切り替えろ!
バイト、うん。
悪くない話だ。いやむしろいい話だ。
「給料はどのくらいだ?」
お、なんだか普通に話せるようになったぞ。
今の数回の会話で慣れたのであろうか?
いや、おそらくちがうな。
こういう大事な話では相手に舐められていれば終わりだ。本能的にそれを察知し対等な位置に着こうとしたのだろう。
「いきなり態度でかくなったなー」
向こうは疑問に思ったようだ。
「給料だったな。そうだなー。日給千メルでどうだ!」
「それで宿にはどれくらい泊まれる?」
「え、宿か?そうだな、安いとこでも一泊が限界じゃないか?」
一泊だとぉ!
一日働いて一日宿に泊まって収入ゼロ!じゃないか!
「そ、そうか」
ダメだ、このバイトじゃだめだ。
「もしかして、お前、夜、寝るとこもないのか?」
「あ、ああ」
ここで隠してもしょうがない。
「ここは治安がいいと聞いた。夜路上でも大丈夫だと思うが……」
「うちは、住込みだから安心しろ!」
路上でも大丈夫だと思うが、おそらく夜になると寒い。
寒いのは嫌だなあ。
でもそれしか……って
「え!?本当か?」
「ああ、本当だ!」
ちょ、コレなんてエロゲ?
じゃなくって、
「住込みって、どこで!?」
「私の家でに決まっているだろ。それでもいいなら雇ってやるぞ!」
もう一回だけ言わせて。
コレなんてエロゲ?
何この神展開。
金がもらえて、寝泊りする場所も与えられて、それでこんな美女と一緒に暮らせるの?
やらせてもらうにきまっているじゃないですか!
「ぜひよろしくお願いする」
「おう、よろしく。私はリリアナという。お前は?」
「俺は……」
苗字は言ってもいいのだろうか。
村の風習とか言っておけば大丈夫な気もするが、
念には念を……。
「俺はマサキだ」
「そうかよろしくマサキ」
「ああ」
モニタリング
リリアナ 性別、女 年齢、十八
ジョブ、商人 女騎士
装備品、なし
女騎士なのに装備品なしか。
まあ、商人でもあるし冒険の時だけ装備していると言うことなのだろうか?
まあ、どうでも良いか。
店の奥に入れてもらう。
出店のように売り買いの部分と裏のここ(材料置場だろうか?)は暖簾のようなもので仕切られており、客からは見えないようになっている。
そこにあった椅子に腰かけるよう言われたので、素直に腰かけると、目の前にあった机にあのたこ焼きのようなものがおかれた。
「腹減ってたら仕事にならねーから、それ食っとけ!」
「あ、ありがとう」
それだけ言うとリリアナは店の方に戻ってしまう。
どうれ、味見。
パクリ
少し熱いが、でも美味い。
普通に美味い。
てか、たこ焼きだ。
でも、何かが物足りない、なんだろう?
……。
鰹節だ。
鰹節がかかっていない。
暖簾を分けて見てみてもやはり鰹節は使っていなかった。
この世界には鰹節がないのだろうか?
魚屋があるのだからあってもおかしくはないと思うが。
「まあ、味はあまり変わらないからいいがな」
「何か言っか?」
「いいえ、何も?」
「そうか、早く食えよ」
「お、おう」
パク、パク
急いで口に入れた。熱い、でも美味い。
そういえば、俺、働いたことないんだが大丈夫だろうか?
「お待たせ」
「おう、じゃあ、とりあえず金もらって、お釣り返す仕事をしてくれ」
「わかった。じゃなくって、俺メニュー読めないんだけど」
「あ、大丈夫大丈夫!メニュー一つだけだから。十個入り二百メル!」
「わ、わかった」
二百メル、二百メル。
「焼きだこ十個入り一つくれ」
二百メルということを考えていた俺に一人の男が注文をしてくる。
どうやら、この商品は焼きだこというらしい。
たこと焼きを変えただけじゃねえか。
「に、二百メルです!」
い、言えたぞ!
接客という高度に専念された技術が俺にもできた!
客は何やらいぶかしげな眼で俺を見てきた。
な、何か間違ったか?
「あ、あのー二百メル……」
「あ、ああすまん」
男は急いで懐から巾着袋を取り出し中から……銅の硬貨を大量に取り出した。
え?
「ほら、二百メル」
……。
「少しお待ちください」
俺はせっせと次の焼きだこを焼いているリリアナに聞く。
「リリアナ、田舎者だから知らないが、この世界では百単位の硬貨はないのか?」
「ああ、ない!すまないが二百枚銅貨を数えてくれ!頼んだぞバイト」
クソッ!
仕事がこんなに大変だったなんて知らなかったぞ!
でも、やってやる!
「すいませんお待たせしました、では数えさせてもらいます」
一、二、三……
「なあ、数えてもらっているとこ悪いんだが、お前これ知らないのか?」
そう言って男が取り出したものは、例えるならお金を十枚おきにおいておくようなもの。
百均でプラスチック製のものを見たことがある。それを、一つだけ切り取り筒状にしたものだ。
今回はプラスチックではなく木製だ。
「それは?」
「これは、最近開発されたものでな、知らないんだったら見ていてくれ」
そう言って大量の二百枚の銅貨の上を一回撫でるように動かす。
すると、どういう理屈かわからないが、半分ほど減り、ケースに文字が浮き出る。
もちろん何が書いてあるかは分からないが。
「これで、百枚ごとに分けられる。今はこれ貸してやるよ」
「あ、ああ、ありがとうございます」
なんだよリリアナめ!こんな便利なものがあるなら先に教えろよ!
使ってみると簡単に百枚に分けることができた。
「なあ、あんた、リリアナとはどういった関係だ?」
「え?っとどういう……?」
男が何やら質問をしてきたが聞いてきた意味が分からない。
「それはどういうことでしょうか?」
「そ、そのまんまの意味だよ。お前とリリアナは、こ、恋仲なのか?」
「なにを言っている、ロバート。こいつはただのバイトだぞ!」
いつの間にかこっちに来ていたリリアナが俺の肩に手を回しながら言う。
うわ!すんげー睨まれてる!
やめて、やめて!怖いよ!
「そ、そういうことです。リリアナとは何でもないですよ?」
「そうか!」
あからさまに喜んでいるな。
まあこの顔だしなモテるのだろうリリアナは。
その日、来た客は全員男で全員に同じことを言われた。
モテすぎだろ!
不定期更新です!