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刀でダンジョン攻略目指してます!  作者: 赤月ヤモリ
第一章・連れてこられて異世界へ
23/23

解決

 数日後に俺の裁判が開かれることをクルスの報告によって知った。

 先程まで、心配をしていた自分が馬鹿らしく思えるほど今の俺の気持ちは軽いものへと成っていた。

 リリアナやユイノが味方としていてくれる。それが俺にはたまらなく嬉しいことであり、同時にとても大きな安心を得ることができた。


 本当に何の確証もないただの自分の思い込みであるが俺はこの裁判は負けないと、謎の自信に覆われていた。

 それは間違いなく彼女たちが俺に与えてくれた安心感から来ている。


 そんな浮かれた気持ちの中、ついに裁判当日になった。


 早朝、ミーシャとクルスが俺の牢獄の中に足を踏み入れてきた。

 先日の一件でクルスへの憎しみの感情というものはまったくというほどではないがもうほとんど無くなっていた。

 ただ、やはり俺をリンチするよう命令を下し、あまつさえユイノにまで攻撃を命じたミーシャへの怒りの感情は未だおさまらない。


 クルスが来たのも、俺とミーシャだけでは喧嘩になると思ったからなのだろう。


 俺の首輪についている鎖をミーシャが壁から外して、その手に持つ。

 そのまま、何も言わずに歩き出すものだから首輪に引っ張られるようにしてバランスを崩して転んでしまった。


 塔のころばせた張本人ミーシャはあからさまに口を歪めてこちらを見てくる。


 ……こいつ、わざとやったな?


 そう思うと同時にミーシャの頭にげんこつが振り下ろされた。

 クルスが放ったものだ。


「団長たる者、私情の恨みを容疑者に向けるな。大体お前はなんだ?そんなにこいつに裏切られたのが気に食わないのか?」


 クルスが何やら思わせぶりなことを話す。

 それに対しミーシャが図星を付かれたのが恥ずかしかったのか少し頬を朱に染めて言い放つ。


「ち、違う!そんなことは決してない!」

「……裏切られたってどういうことだ?」


 俺はクルスの言ったことで気になった部分を聞いてみる。


 裏切り……俺は特にそんなことをした覚えはない。

 実際にこいつらには一切手を出していないし、というかもし手を出すとしたらサタンではかなわないので赤蛇を使うだろうから殺してしまう。ので俺の覚えている限り裏切りという行動をとった記憶がないのだ。


「ああ、団長はさ、すぐ人に情がわきやすい性格なんだよ。だから、一回でも同じ戦場に味方として立ったものは勝手に団長の中で絶対的正義の絶対的味方と認識しちまうんだ。マサキと、サタンの部屋に向かうまでに、こいつはマサキに情がわいちまったって話さ。だから、罪を犯した犯罪者と知って裏切られたように感じたんだよ。……マサキからしたら迷惑な話だろうがな」


 クルスの話を俺は真正面から真剣に聞いた。

 その間ミーシャはクルスの話を必死にやめさそうと思っていろいろちょっかいを掛けていたがすぐに無駄だと判断したのか最後の方は耳を塞いで鎖を握ったまましゃがみこんでしまっていた。


 俺は聞いていてひとつ思ったことがあった。


「……クルスよ、まったくもってその通りだが一つ言わせていただくなら、……俺も、味方だと思ったよ」


 その言葉にきょとんとしたのは以外にもミーシャ一人だけであり、クルスは最初から俺がそう言うことを知っていたかのように少し頬を緩めて、瞑目しながら聞いていた。


「そ、そんなことを言っても私はあの時のことは間違った判断だとは思っていない。だから許してほしいとは言わない」

「何を言っている。そんなのは当たり前だ、俺はお前がユイノに対して攻撃の命令を出したことを絶対に許さない」


 それはたとえユイノが許しても、だ。


「お前、自分のことよりそっちを優先するんだな」

「ん?ああ、そりゃそうだ。大体あの状況ならもし俺が騎士団団長でも同じことをしただろうしな。間違っていなかったと思う。でもユイノのことは許さない」


 二人、睨み合っているとクルスが手をパンパンと鳴らして注目を集める。

 そして一度大きく咳払いをしてから俺たち二人を見据えて一言。


「そろそろ時間だからおとなしくしてくれるかな?二人とも」


 ものすごく優しげな笑みで放たれた言葉だったのだが、謎の圧力が彼からにじみ出ているのに気が付き俺とミーシャは素早く睨み合うのをやめて、裁判へ向けての準備を始める。




 裁判の準備と言っても、俺は特にすることはない。クルスに頭を洗われただけだ。

 実は牢獄に閉じ込められてから一切体を洗うことができていなかった。

 久しぶりの水浴びはまさしく生き返ったような感覚、いや、生まれ変わった感覚を俺にもたらしてくれた。


 その後、鎖に引かれながらミーシャの後ろを歩く。

 しばらくは長くシンプルだが、綺麗な装飾が施された廊下を歩く。しばらくすると目の前に大きな両開きの扉が立ちふさがった。


「国王直属騎士団第一戦闘部隊隊長、および国王直属騎士団団長、ミーシャ!マサキを連れてまいりました!」


 扉の細かな装飾を眺めているといきなりミーシャが叫んだのでびっくりしてしまう。


 叫んだミーシャに目をやった瞬間目の前の両開きの門がゆっくりと開く。

 中は、日本の裁判所とそう違いはないだろう。

 ただ部屋の大きさが二倍以上あるという点と謎のポールのようなものが中央にあるということを除いてはだが……。


 傍聴席の真ん中には柵で仕切られた通路が存在しておりどうやら俺はここを歩くらしい。正直恥ずかしいかった。


 ポールの前に着くとじゃらじゃらと音をたてながら首輪の鎖をポールに巻き付けられる。

 手枷も腕のあいだにポールが入り全く身動きが取れない状況にされた。


 ……なるほどなぁ。

 この世界には冒険者やそれこそクルスに類似した化け物並みの力を持った人間が存在するだろう。こうやって身動きを封じることによってそいつらの力を抑え込むということだ。

 やはり、似ているが日本のものとは違う裁判所だなと俺は思った。


 裁判は始まる。


 検察のようなものたちが慣れた態度で次々俺が不利になっていく証拠を提示していく。

 しかし、俺の考えと根本的なところで彼らは間違っていた。


 彼らが行っているのは俺が本当にサタンを殺したか、殺してないかというところだということだ。

 それに対し俺の頭の中で行っている裁判では殺したが、それを相手に認めさせてそのうえで有罪か無罪かを決めるというものだ。


 すべての証拠が提示され裁判長らしき人物が俺に目を向ける。


「なにか言い分はあるか?」


 ビックリした。

 まさか俺に聞いてくるなどとは思わなかったからだ。

 しかし、それも仕方がないと言えば仕方がないだろう。

 何せ俺には味方はいるが弁護してくれる者はいなかったからだ。


 リリアナもユイノも傍聴席でことの顛末を見届けることしかできない。


「いいや、何もない。というか俺が殺したって言ってんだよ」

「貴様、裁判長に向かってなんだその口のきき方はっ!」


 隣に立っていたミーシャにげんこつを食らわされる。


「いてえよ!」

「はいはい!静かに」


 ミーシャとは反対側に立っていたクルスが俺たちを静める。


 そうだ!裁判長には悪印象を与えてはいけなかったんだった!


「すみませんでした」


 俺は素直に裁判長に対し頭を垂れる。裁判長は気にした様子もなく、いや、別のことが気になって仕方がないという目で俺を見た。


「なぜ、そんなにも堂々としていられる?貴様はしでかしたことの重大さを知らないのか?」

「重大さ?」

「そうだ。……貴様がどうやってボスの部屋に最初に見つけたパーティーより先に入ったか。もしこの方法が公になってしまえばロード攻略のやる気が失われるのは目に見えて明らか。本来であれば貴様がしゃべる前に貴様と貴様のパーティーメンバーを処刑してもおかしくはない。口外されるなら殺して口封じした方が幾分もいいからな」


 ロード攻略のやる気……ボス部屋での初回ドロップ品というのは持っているだけで周りの連中からはものすごい人間と言われる。

 何せいくら階層が低く弱いモンスターだったとしても、最初に行くものの恐怖は計り知れないものだからだ。

 だが、それでも、その価値が十分にある物をボスモンスターは最初ドロップする。

 今まではこの二つがうまくバランスをとってロード攻略というものが成り立っていた。

 しかし、そのバランスが瓦解してしまえばどうだろうか。


 普通ボス部屋を見つけた段階ですぐに挑むパーティーはいない。万全の対策をしないと死んでしまう可能性があるからだ。そして対策までには時間がかかる。


 その間に、挑まれていてはどうだろうか?

 この世界では最初に見つけたパーティーへの敬意を示して先に挑もうと扉に触れることすら法律で禁じられている。

 つまり後ろめたいことをしたので、先に挑んだものはボスモンスターの情報は絶対に漏らさないだろう。


 ようやく対策が完了していざ挑んだ相手、それがもうすでに別の誰かに先に倒されていて、初見で挑む危険性と釣り合う初回ドロップを捕られてしまえばそりゃあやる気はなくなるだろう。


 ロードのみでとれる魔石は魔道具の材料だ。

 魔石は上層へ行くほど上質なものが取れ上質な魔道具が作れる。


 ロード攻略がされなくなるということはこの世界での魔道具が停滞されるということだ。

 いや、むしろ攻略されなくなるのに対し魔道具は使われるのでどんどんと衰退していくだろう。

 国としてそれは避けたいことなのだろう。


 だから俺がどうやって入ったか。ということに細心の警戒を覚えているのだ。


 だがそれは見当はずれもいいとこだ。

 俺は入ったのではなく入れられたのだから。無知の状態でいきなり強敵と戦えと言われたのだ。あのクソ神のせいなのだ。


 神が現実に干渉、それも一人の人間に対してのみ。

 これはメルクスが必死になってばらされたくないと思っていたことだ。

 あの嫌がりようからおそらく『何か』が起こってしまうのだろう。

 変なリスクは背負わないのが吉だ。つまり神の存在については黙秘する。


 しかし、もしもの時は……。


「なあ、裁判長さん。俺の前でユイノに対して処刑なんてもう一度言ってみろよ?サタンにしたことをこの国の国民全員にするぞ?あ、俺に少しでも優しさを向けてくれた人を除きだがな」


 取り合えず裁判長との会話をつなげる。


「そんなことを言えば余計立場が悪くなるぞ?」

「だから、言わせないでくれ。ユイノは関係ない」


 ユイノの身の安全を最優先に話を進めていく。

 この場で裁判長が分かったと言えば、そのセリフをリリアナも聞くことになる。

 彼女の性格上もし殺そうとしようものなら暴動でも起こして止めてくれるだろう。

 そしてロードに挑む上位パーティーのリーダーの言うことを無下にすることはしないだろう。


「……わかった。彼女は処刑しない。これでいいか?……話がそれた。とにかく、今現在において貴様の処遇は処刑である。これを変えるほどのことを言ってのけることができるか?」

「……俺はさ、気が付いたらあの部屋に居たんだよ。あいつはそこにいたから殺しただけだ」


 俺の言ったことにみんなが嘲笑うような目を向けてくる。

 それもそうだろう、なんせ彼らからすれば見え見えの嘘なのだから……。


「何を白々しい……そんなこと信じると思うのか?」

「信じてくれなきゃ死んじまうなぁ。俺がここですることはどうやらここに居る全員に信じさせることのようだな」

「そのような妄言を吐く時間は与えるだけ無駄だ。言わぬなら処刑する」


 結構厳しいなぁ。最悪奥の手を使うだろうがもう少し粘ってみるか。


「処刑ってひどいなあ。だから何にも知らないんだって」

「そう言えば貴様、サタンを一撃で屠ったようだがそれについても聞こうか……いったいどんな手品を使った?」

「手品なんて使ってねえよ切っただけだ」

「……まあ良い。貴様は死ぬのだから聞いても無駄なようだしな」


 この裁判長は俺の嫌いなタイプだ。


「いいか?よく聞けよ?俺は気が付いたらそこに居たんだ。それ以外で説明できることはねえ!」

「……もう良い。判決、被告人マサキは有罪!死刑!」


 まるで、重さを感じることのないような軽い口調で裁判長は言った。しかしその内容は俺を殺すということだ。


「……ッ!」


 やってしまった。これは、奥の手を使うしかないか……。


 俺がそう思ったとき、傍聴席の方から声が上がる。


「マサキは!マサキはしていないって言っているのにっ!どうして決めつけるのですか!?」


 それはユイノの叫びであった。

 そう、それは当然の疑問だ。ユイノの中では、だが……。


 ユイノは、俺を信用してくれている。

 言いたくなかったことを言ってくれたというのがユイノの中の小さかった信用を大きくしたのだろう。

 信用している。だからこそ、完全に証拠あっても、俺の発言を最大の証拠として反論するのだ。


「マサキは優しい人です!ユイノにとってはですが……。私が危険になったら本気で怒ってくれます!怒りすぎな気もしますが……」

「傍聴席のものは静かに!」


 裁判長は少しドスを聞かせた声で言った。

 それに、少しだけ萎縮するユイノ。しかしユイノは気持ちを奮い立たせ言葉を紡ぐ。


「マサキは!すごく強いんです!精神も肉体も!だからそんなマサキが嘘をつく意味はありません!」


 言い切ると、その場が静まりかえる。誰もが誰もユイノの方を見て、そこまで信用できる意味が分からないという顔をしている。


 そんな静まり返った空気の中俺は言う。


「ユイノ、それはお前の感情論だ」


 それはユイノの言ったことを全否定する言葉。


 俺の呟きに、その場の全員が女の子が必死に言ったことを全否定した俺を非難するように見ている。


 ユイノは驚愕で目を見開いている。


「な、んで……マサキッ!」

「感情論だ。それはまぎれもない事実だろ?……だけどな?」


 俺は一度区切って一回深呼吸してから、ニッっと笑って言った。


「すげぇ嬉しい!」


 その言葉を聞いたユイノの顔がだんだんと穏やかなものになっていく。そして、軽く頬を染めなにかを口に……する前に俺がそれを遮った。


「おかげで勇気出た!」

「え?」


 きょとんとした表情のユイノを置いて俺は裁判長に向き直る。

 そして、頭の中で思い描いていたセリフを口にする。


「俺はなあ!神の使いなんだよ!」


 言って、恥ずかしさで少し頬が熱を持ったのがわかった。

 だが、躊躇っていてはだめだ。これは……『どれだけ厨二病患者になりきれるか』が勝負なんだ!


「な、いきなり何を言って」

「そうでなくちゃ!無理だっつーの!俺はな?神様から、人間がロードを進めるの遅いから手伝って来いって言われたんだよ!」


 ペラペラと少し本当のことを言いながら口を動かす。

 しかし、あまりの物言いに裁判長は業を煮やしそして激怒する。


「我らが崇めし神を貴様は愚弄するつもりかぁ!」

「愚弄?んなわけねぇだろ!俺は神からの使いだぞ?逆に俺の言葉を信じないお前の方が神を愚弄しているのではないかぁ!?おい!」


 もうめちゃくちゃだ。思ったことを次々にぶちまけていく。流れで押し切ることが大事だ。押し切ってしまえば大丈夫だ。いくら言ったことに矛盾が生じていても流れで押し切る!


「わ、私がそんなことをするはずないだろう!……そうだ、神の使いというなら証拠を見せろ証拠を!」


 そんなことは想定済みだ。


「顕現せよ、我が神器。規格外刀 赤蛇!」


 すがすがしいくらいの厨二病を使いながら、赤蛇を取り出し。右手に握る。それをクルスにすぐに渡す。こういうセリフを言った方が迫力が出るとはいえやはり恥ずかしい。後から絶対身もだえして暴れまわるだろう。


 裁判所にどよめきが走る。

 召喚の言葉の効果ははっきりと出ていた。


「これでいいか?裁判長!」

「……っ!そ、そうだ!手品だ手品に違いない!」


 こいつ、なんだ?まるで散々悪いことをしてきた大富豪が殺されそうになって、その時殺しに来たやつに『金なら幾らでもやる。なんならお前が雇われた金額の三倍……いや、十倍だそう!』的なことを言っている。

 俺が「いい加減認めろよ」と言おうと口を開こうとすると。横から手が出てそれを遮った。

 なんだと思ったら。ミーシャが俺の方を一瞥もせずに話し出した。


「いえ、裁判長。それはありえません。この男は数日間牢に閉じ込め、今日連行した時も私が付き添いました。そんな手品を仕掛ける暇などありません」


 そう言ってミーシャは俺の味方をしてくれた。


「……っ!お、お前らが、口裏を合わせているだk……」

「裁判長、それ以上言いますと。さすがの僕も怒ってしまうかもしれませんよ?団長が仮にも犯罪者の疑いがある男と口裏を合わせていたなど、騎士に対しての侮辱そのものですからね……」


 クルスが目を細めて、聞いたことのない冷たい声音で淡々とそう告げた。

 この男は、俺の中では最強だ。なぜクルスが騎士団団長をやっていないのかが不思議なくらいだ。ミーシャよりも強そうに思うのだが……。

 クルスからはものすごい迫力がにじみ出ていた。


「し、知るかそんなこと!お前ら!王直属だか何だか知らないが、私はッ、私はここでは最強なんだ!貴様らも処刑することができるんだぞ!?」


 裁判長!それは負けフラグです!


 そして、ミーシャがさらっとそのフラグを回収していく。


「……国王直属騎士団団長権限によってあなたを裁判長から解雇、および国王直属騎士団を侮辱した罪で奴隷身分へ降格します。……処刑されなかっただけましと思いなさい」


 淡々とまるで初めからそこに原稿が存在していたかのように一言一句噛むことなく言う。ひどく無表情でひどく無感情に……。

 いや、目にはれっきとした敵意の念が浮かんでいた。それを向けられたことがある俺だからこそ分かったものだ。


 さすがに降参したかと思ったが、裁判長は懲りない。


「は!?なんだと!?それそんなの知るかぁ!お前にそんな権利……」


 何やらぐちぐちと言い始めた。しかしクルスが一蹴する。


「このボンボンが!貴族上がりの低脳が!さっさと失せろ!ここは貴様の用な無能の奴隷風情がいていい場所ではない!」


 ものすごい剣幕で怒鳴った。怒鳴るだろうなぁと思っていた俺でもびっくりした。裁判長……元裁判長はそれによってはじかれたように走って逃げて行ってしまった。


「……そんなことも知らないで裁判長になれるとは、一度審査のところにも喝を入れに行かなくてはいけないな」

「そうだな、おそらく賄賂で揺れたものがいたのだろう。一度洗うか?」

「そうしよう」


 二人は既に今の元裁判長には興味を無くし、彼のような人物をいれたところへの訪問の予定を相談し始めている。


「おい!お前ら、さっさと裁判終わらせるか何とかしろ!いい加減体動かしたいわ!」


 今の出来事を見ても、一切ひるむことなく二人に怒る俺を周りの連中がギョッとした目で見てくる。

 そしてそれは二人も同じ。


「お前なあ……」

「ある意味すごいなぁ……」


 ミーシャとクルスは感嘆を漏らす。




「久しぶりの太陽だぁ!」


 俺は裁判所から出て大きく手を大空に伸ばして、伸びをする。


 あれからは、二人がサクサクと進めていき、結局俺は神の使い(笑)みたいな感じにされて釈放された。

 形式上、神の使いみたいなことを言っていたが実際のところ誰も信じてはいなかっただろう。


 ただ、どこからともなく刀を出現させたことはみんながみんな(検察や、傍聴席にいたユイノたち以外の人)すごいすごいと言っていた。

 ぜひタネを教えてくれと言っていたあたりやはり信じてないんだなぁって思った。


 まったくもって酷い連中である。


 色々とあったが結論を言うと罪に問われなかったということだ。


 なんだか少し想像と違うが、まあ、うまくいったのでよかったとしよう。


「マサキ!」


 ユイノが飛びついてくる。

 頭からダイブしてくるあたり俺が避けないと『信用』してくれているのだろう。ありがたい話である。


 確かに避けなかったのだが鳩尾に頭突きされた形になって痛かった。


「今回の騒ぎ、いっぱい心配掛けたな。あんときお前が俺をほめてくれたのは嬉しかったぞ!」

「いえいえ!ようやくできた大事なパーティーメンバーですから!死なれては悲しいですからね!」


 パーティーメンバーですか……。いや、もうちょっと、好感度上がっていたと思ったのだけど……。パーティーメンバーかー…。

 いや、いいけどね!?俺ロリコンじゃないからね!?


「そうだな……はははー」

「それと……」

「ん?なんだ?」

「あの時、すごくうれしいって言ってくれた時、私も言ってよかったと思いました……ありがとうございます」


 ま、それのおかげであの厨二病全開モードを演じきれる勇気が出たんだけどね?

 

「はは、あははははは」


 乾いた笑いをする俺にリリアナが近づいてくる。

 そして、浮かない表情をして……。


「すまない。味方になったにも関わらず力を貸すことができなかった!」


 勢いよく頭を下げてくる。


 まあ、確かに今回、リリアナはまったくと言っていいほど何もしていない。


 俺に勇気をくれたのもユイノであった。

 だが俺は思うのだ。それは仕方がないことだと……。


「お前の場合、俺の力になってくれるのはこういう時より、俺が身体的ピンチに陥っているときだろ?こういう助け合いは適材適所。必要なときに必要な人が必要としている人を助けるのがあっているんだ。適していない人は必要とされている人を助けるんだ。今回の場合、ユイノが俺には必要な人だった。そしてユイノにはリリアナが必要だったんだ。だろ?」


 そういって、ユイノに目をやる。するとユイノは迷うことなく頷いた。


「私はマサキが捕まりとても不安でした。……でも、リリアナが必死に騎士の人たちに言って、牢獄内にいるマサキとの面会が出来ました。これは行動力があり有名人でもあるリリアナだからこそできたのです。……まさに見事な適材適所じゃないですか?」


 ユイノが頬を緩めてリリアナに言った。

 その言葉を聞いてリリアナは……。


「……そうだな、ありがとう。……違うな、役に立ててよかった!」


 そう言って、笑った。




 それから俺はいろんなところに謝罪をしに回った。


 最初に向かったのはサルバのところだ。


「サルバ、悪かった!お前にはいろいろよくしてもらっていたのに……」

「……いや、俺の方もあの時はいきなり殴りつけてすまなかったなバイト……」


 かなり説明の難しいことであったのだが、リリアナの口添えがあり俺が悪意を持って黙っていたわけではないことと、あのサタンが使った強力な魔法の存在は知らなかったということを理解してもらうことができた。


「じゃあさ、お互い様ってことでいいか?」

「ああ、かまわないぞ?バイト」

「そのバイトってやめてくれよ……俺はマサキだ」

「……そう言えば、ずっとバイトのままだったな。悪い悪い。わかったぞマサキ。よろしく」


 そう言ってサルバは手を出す。俺はその手を握り返して言う。


「ああ、よろしくサルバ」




 あとは、ロードにいる連中に謝るつもりだったのだが、なぜか全員が俺の裁判の内容を知っていてロードに着くなり「よー!神の使い(笑)」「おまえすっげえ強かったんだってな!知らなかったぜ神の使い(笑)!」「なあ、あれやってよあの手品!『顕現せよ、我が神器。規格外刀 赤蛇!』ってやつ!本家見てみたい!」など、すでにみんな許す許さないの話ではなく俺はリリアナに並ぶ有名人となっていた。


 恥ずかしさで顔を手で覆いながら走って逃げたのは言うまでもない。




 ある程度、騒動が収まりつつある、裁判から数日後のこと。俺はとある墓地に来ていた。


 いくつもの十字架が均等な幅で並んで立っている。

 そこは景色が綺麗な小高い丘の上。帝都からは歩いて三十分ほどの位置にあった。そこに俺はリリアナと二人で来ていた。ユイノにはお留守番を任せてある。墓地に大勢で押しかけるものではないと思ったのだ。


 そして、これは俺がすることであり、しかし俺だけでは出来ないことであった。


 俺はリリアナに案内され一つの十字架の前に立つ。

 そして左の腰に携えていた魔剣サタンを引き抜いた……。




 さかのぼること一日前。俺は稽古中というクルスとミーシャに頭を下げていた。周りではアリアスとビルが稽古しており、少し離れた木陰でミレイとロキが座っていた。

 自分をリンチした人間の前にもかかわらず、俺は必死に頼み込んだ。


「俺の剣を返してくれ!」

「……なぜだ?なぜあの剣にそこまで固執する?」


 驚いた表情を見せながらもミーシャが訪ねる。クルスも同じことを思ったのか首を縦に振りながらミーシャに同意見だと言った。


「あれ、実は魔剣サタンて言う魔王サタンの初回ドロップアイテムなんだ……。あれがどうしても必要なんだ!だからっ……だからっ……!」

「証拠品の返却はまずすることはできない。たとえそれが初回ドロップアイテムだとしてもだ」


 冷静に規則を言うミーシャ。しかしあきらめるわけにはいかない。


「そこを何とか頼む」

「だから規則で……」


 同じことを言いかけたミーシャをクルスが右手で制す。そしてミーシャに代わり言った。


「それは初回ドロップアイテムだから返して欲しいと、そう言うことなのか?」

「違う!でも必要なんだ!」


 俺は、クルスの瞳を真正面から見つめる。一切ゆるぎない確固たる覚悟をもって……。


「ならば、ここで土下座して頼み込めば返してやらんこともない」


 その言葉にミーシャは驚愕の表情を浮かべる。

 今この場にいるのは先ほども言った通り俺をリンチにした者ばかり。

 そんな中で土下座などいつもの俺なら明らかに激昂していた。


 だけど今は……ッ!


 俺は屈辱に唇をかみしめて、膝を折り正座するそして、頭を地面に、付けようとしたところで頭を押さえられ、そのまま持ち上げられる。


「え……?」


 持ち上げたのはミーシャだった。ミーシャは俺の頭を持ったまま、クルスを睨む。

 そのまなざしにクルスは肩をすくめて、そして今度はクルスが俺に対し頭を下げる。


「すまない。君がどれほどの決意を持っているのか知りたくなってね。本当に悪いことをした。君がそこまでして頼み込む必要はない。剣は返そう」


 そう言って、クルスは踵を返して何処かへと去っていく。その背中を軽く呆けながら見ていると、ミーシャが手を引いて立たせてくれた。


 そして……。


「すまないな。マサキ。屈辱だっただろう……許してほしい」


 ミーシャが何やら優しい。許してほしいなんて言葉をはにかみながら言ってきたのだ。

 少し怖かったので軽口をたたいて怒らせるとしよう。


「なに呼び捨てしてんだよ。マサキさんだろ?」


 その言葉にはにかんだ笑顔が引きつる。


「お前は、いつまでたっても口が減らないなあ。あれだけ権力の差を見せつけたというのにまだそんな口をきくとはいい度胸をしている」

「あ?俺はまだお前を恨んでんだよ?ユイノにしたこと忘れたなんて言わねえよな?」

「ユイノ殿にならもうすでに許してもらっている。もちろんアリアスもな?」

「知るかよ。ユイノが許しても俺が許さねえ」

「貴様に許してほしいなどはなから思っていない」

「なんだとテメエ?」

「貴様こそなんだ?」


 まさに一触即発。俺たちの間に火花が飛び散る。


 その空気はクルスが剣を持ってくる五分の間ずっと続いた。




 まあそんなこんなで俺はサタンを返してもらったのだ。

 そのサタンをリリアナが言う墓に突き立てる。墓と言ってロード内でモンスターによって死んだ人間は死体が残らない。モンスター同様四散するらしい。


 つまるところ、十字架が立っているだけなので下に死体が埋まっているなんてことはない。もし埋まっていたなら突き立てたりはしない。

 とにかく勢いよく突き立てたサタンは三分の一ほどまで埋まった。

 そして俺は……。


「すいませんでした!それと、ありがとうございました!」


 勢いよく頭を下げる。心からの、謝罪。それと、魔剣サタンがあったからこそ今まで俺は何とか戦えていたなかったら早々に死んでいただろう。だから、命がつながっていることへの感謝を送る。


 たった、二つの思いを口にして、本来持つべき人間の下へとそれを返す。


 俺がその墓地で口にしたのはたったそれだけだった。

 ただ、墓地を後にするとき小さく「バイバイ、今までありがとな」と呟いたのを除けばだが……。



 心地よい風が通る、小高い丘の上にある墓地。


 そこには異世界人のひどい扱いにも耐え、小さなかすり傷しかついていない、この世界で入手できるもので最強の攻撃力を誇る剣が、その剣を手に入れるために散って行った者たちの下に一人の異世界人によって供えられていた。


ここまで読んでくれた皆さんに心からの感謝を……。

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