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刀でダンジョン攻略目指してます!  作者: 赤月ヤモリ
第一章・連れてこられて異世界へ
22/23

激昂

「マサキは、大丈夫なのでしょうか……」


 客引きをする武器屋の商人の横でユイノは一人唯一のパーティーメンバーであり、八十九層へ向かった中で一番弱い人間を心配する。

 心配している反面自分を置いて行ったことに対する怒りを少し抱いていた。だからこそこう思っていた。帰ってきたらたっぷりと怒ってやろう、と。


 そんなユイノの心情を察知できない商人は、ユイノの顔を見てふとこう思った。ユイノに店の前で客引きをしてもらえば男の客がたっぷり集まるのではないか、と


 その考えに至ってからの行動は実に早かった。年下の女の子に大の大人の男が頭を下げながら懇願するというシュールなシュチュエーションを間にはさみ、ものの数分で店の前には可愛い看板娘が出来上がっていた。


 商人の考え通り、ユイノに客引きをやらせると、見る見るうちに男性客が寄ってくる。もちろん大事な看板娘に触れようとする輩は力ずくでねじ伏せていた。 そんなこんながありながらも、店の商品は飛ぶように売れてゆき、雅紀たちが八十九層に向かってからものの三十分で店の商品はすべて売りつくされてしまった。


 上機嫌な表情の商人は商品が無くなったにもかかわらず店を閉めずに、やってきた客に「悪いな、俺の店は超絶人気だからよ。もう全部売れちまったぜ」といってドヤ顔を見せていた。


 先ほどまで長蛇の列が出来ていた商人の店をちらちらと別の店の商人が見ている。それに気が付くと商人は客に見せたドヤ顔よりも何倍もの機嫌の良さそうなドヤ顔を向ける。


 向けられた商人は悔しそうに歯を噛みしめていた。


 途中まで忙しく客引きばかり考えていたユイノだったがもうその必要もなくなり今はまた商人の横にある小さな椅子に座って雅紀の無事を祈っていた。


 そんな時だった。ロビー中央から大声が聞こえてきたのは……。


「痛い!痛い!」


 その声に聴き覚えがあった。なぜならその声が先ほどまで身を案じていたパーティーメンバーの雅紀の声であったからだ。

 だが聞こえてきた声は痛みを訴えるもの。ユイノの顔色が一気に青くなる。


 もしかして、モンスターの攻撃を食らって大けがでもしたのではないのか!?


 そう思うと、居てもたってもいられなくなった。商人に礼を言ってから店を飛び出しロビー中央へ駆ける。

 向かうとそこに刃すでに人だかりができていた。人と人との間を小柄な体躯を生かしきれいに抜けていく。

 そしてついに人だかりを抜けて……。


「マサキッ!」


 首輪と手枷を付けられミーシャに押し倒されている雅紀の姿をユイノは見た。

 腰にはいつも携えているサタンはなく、クリスがサタンを持っている。


 わけがわからず、硬直するユイノ。


 ミーシャは硬直するユイノを見つけそのユイノに向かって言い放つ。


「お前!こいつのパーティーメンバーだったなっ!」


 大きな声で威嚇するようにユイノにほえるミーシャ。ユイノはそのミーシャに怯えながらも首を縦に振る。直後、アリアスがユイノに急接近する。


 唐突の出来事で反応も何もできないユイノ。ユイノは勢い任せにアリアスに押し倒され尻餅をつく。

 腰に痛みを覚えながらもユイノはアリアスを見るが彼女の眼は冷え切っていてそれはまるで犯罪者に対して向けるような眼差しであった。


「まて!ユイノに……」


 乱暴はするな!とリリアナが言おうとするが途中で遮られる。それは聞いたことがないほど怒りのこもった声で叫ばれる。


「ユイノにぃ!乱暴してんじゃねぇぞゴラぁ!ぶっ殺すぞぉアリアス!」


 血走った目で雅紀が叫ぶ。直後雅紀の頭をミーシャが容赦なく剣で殴った。


「がっ……!」


 雅紀はそのまま気を失ったのかピクリとも動かない。

 それを見たユイノは何が起きているのか全く分からずただ泣くことしかできなかった。


 雅紀の立場が一気に悪化したのはサタン討伐後すぐの事だった。



「もう一回言うぞ?サタンを先に殺したのはこの俺、マサキだ」


 呆然と皆が俺を見つめていた中最初に動いたのはサルバだった。

 つかつかと俺の方へと歩み寄ってきて思いっきり俺を殴った。俺は五メートルほど吹っ飛び意識を手放しかけた。しかし何とかそれを握りしめ口の中を切って溜まっていた血を吐き捨ててサルバに言う。


「覚悟してたけど、いきなりすぎねえか?」


 殴られた頬に手をやり悪態をつく。しかしそんな軽口はすぐに吐けなくなる。


「押さえろ!」


 ミーシャが俺の方へ手を向けてそう叫んだ直後いつの間にか背後に回っていたビルによって身動きを封じられる。

 動けなくなったところへロキが呪術で俺を完全に固定する。空間に縫い付けられたように身動きが取れない。ビルが俺から離れた瞬間、腹部に激痛が走る。アリアスが俺を掌底を叩き込んだのだ。すさまじい威力にもかかわらず体はピクリとも動かず威力が全身を駆け巡る。

 胃の中のものが一気に逆流してきて堪らず嘔吐する。


「アリアスは戦闘者というジョブで攻撃の調整は国内一です。内臓を傷つけたり命に係わる攻撃ではないのでご安心を」


 ミーシャが近づき俺を睨む。その目は完全に冷え切っており、まるでごみを見るような目で俺を見ている。


「うっ……!」


 ミーシャから目をそらすとリリアナと視線が合った。リリアナは何が起こっているのかがわからないようでただただ唖然となって俺を見つめていた。しかし、サルバがリリアナの肩に手を置いた瞬間、ハッっと我に返り俺の方へと歩み寄ってくる。


「なあ、マサキ。これは……何にかの間違いだよな?お前が、お前が先に倒していた人間なんて。これは夢……だよな?」


 リリアナは最後まで俺が殺したという事実を受け止めたくないようだった。でもそれじゃあダメだ。


「リリアナ。俺が犯人だ。夢でも何でもねえよ。これは現実だ。……黙ってて悪かった」

「……っ!」


 リリアナの表情が一瞬にして悲しみのものへと変わる。昨日、普通に戻したところだったのに。

 そのまま踵を返して立ち去ろうとするリリアナに俺は……。


「でも、言ったから……。俺、お前との約束守ったから……」


 それは聞こえるか聞こえないくらいの呟き。リリアナは立ち止まることなく歩んでいった。


 聞こえなかったのか……。


「何が約束だ。犯罪者が!よくも我々とのうのうと行動できたものだなあ」

「うるせえ。てめえに行ったんじゃねえよボケ」


 かなり頭に来ていた。何も知らないくせに勝手に話に入ってきて、容赦なくリンチされて。

 サルバに殴られたのは仕方がない。彼は俺に話したくないことまで話してくれた奴だ。だから、彼とリリアナからの叱咤ならすべて真正面から受けるつもりでいた。だが、こいつら騎士団は違う。


「なんだその口のきき方は?」

「うるせえってんだよ。お前らは俺を無力化させるのが目的なんだろ?俺の方が圧倒的に強いから……。だから怖くて怖くて暴れられる前に暴れる気力をなくすつもりなんだろ?黙って着いて行ってやるからさっさとしろ」


 言い過ぎたか?いや、あんなけリンチされたんだ、これくらい言っても罰は当たるまい。


 俺の言葉に図星を付かれたのか舌打ちをしながらミーシャはローブの下から手枷と鎖のついた首輪を俺に取りつける。

 その際ロキの呪術が解除され動けるようになった。


 ミーシャが首輪などを付けている間にクルスが俺の腰に下がっていたサタンを奪う。

 何も疑問に思わずその剣をとったということは赤蛇は見えていなかったのだろう。


 好都合だ。


 そう思いながら首輪に着く鎖を引っ張られながら俺は後ろをついて行く。


 ワープゲートを通るとやはりロビーに出た。


 ロビーに着くとすぐに人だかりができてこんな醜態を見られたくないと思い物陰に隠れようとするがミーシャが鎖を強く引っ張った。


「痛い!痛い!」


 引っ張られて後ろに転び尻餅をつく鎖が限界まで伸びそれを掴んでいたミーシャが俺の上に倒れてくる。

 その瞬間、キッと俺を強く睨んだ。鋭い眼光に萎縮してしまう。


 俺の上からミーシャが退こうとしたその時だった。


「マサキッ!」


 この声は、ユイノか?

 そう思って人ごみの方を見ると硬直しているユイノを見つけた。

 ちゃんと預かっていてくれていたのだろうかと、商人の男への疑問が浮かび上がる。


 しかしその疑問は次の叫びによってどうでもいいものへと変わる。


「お前!こいつのパーティーメンバーだったな!」


 ミーシャがそう叫んだ瞬間背筋を悪寒が駆け巡る。まさか、ユイノを共犯者とでも思っているのか?もしそうであれば俺がわざわざユイノを置いてきたもう一つに意味がなくなってしまう。

 俺はコスト削減ともう一つ実はユイノを巻き込まないということを考えて置いてきていたのだ。


 マズイッ!

 思ったころにはすでにアリアスが飛び出していた。


 ……やめろ。やめろやめろやめろやめろ!やめろっ!


 しかしそんな願いは虚しくアリアスはユイノに体当たりする。俺よりも威力の弱い攻撃はただの牽制だからだろう。ユイノに無力化するほどのダメージを与える必要はない。彼女はそう判断したのだ。


 だが、アリアスは俺の大事な仲間に攻撃を仕掛けた。

 それは許しがたい事実だ。


 リリアナが何かを言いかけるがそんなの気にしない。今の感情をそのまま吐き出す。


「ユイノにぃ!乱暴してんじゃねぇぞゴラぁ!ぶっ殺すぞぉアリアス!」


 自分でも驚くほどのどすの利いた声で激昂した。

 俺は感情の赴くままに立ち上がろうとして、ミーシャによって意識を狩られた。




 目が覚めるとそこは薄暗い部屋だった。いや、今の表現はまったくもって的を得ていない。来たことないが、ここがどういう場所なのかは感覚的にわかった。


「牢屋、か……」


 手枷と首輪は依然としてつけられたまま鎖が壁と繋がっている以外は変化はない。

 鎖の長さ的にギリギリ部屋全体を歩くことができる。


 一通り散策し終わってから俺は思考を巡らせる。

 これから俺の予想では裁判があるはずだ。それはユイノの過去の話を聞いてわかっていることだ。おそらく法的処罰を与えたりすることなどはすべて日本と類似したルールがあるのだろう。


 ここまでは想像通り。俺が、隠し事をせずもう一度あの場所に戻るには一度すべてをさらしたうえで裁判へとことを運びそれで無実を勝ち取ること以外に存在しない。

 問題は無実を勝ち取れるかどうか。いや、まあ、確かに俺のしたことはこの世界では犯罪なのかもしれない。だが、それは不可抗力の出来事。文字通り神のいたずらにハメられただけだ。


 だが、裁判内にて神の名を使うことは避けたほうが良い。この世界のメルクスへの信仰心は異常なものだ。もしメルクスのせいなんて言ってしまえば弁解の余地なく打ち首の可能性も出てくる。

 そんなのはまっぴらごめんだ。


 さて、どうするか……。

 と、悩み始めた時だった。部屋のドアがノックされる。


「はーい」


 どうせ俺が身動きをとれないことを知って入ってくるやつだ、それに今は捕まっている身。俺がどうこうできる立場ではない。


 扉を開けて、入ってきたのはリリアナとユイノ。それとクルスだった。

 リリアナと元気そうなユイノを見て安心した後にクルスを見たので俺は心理的にイラついた状態で話を始める。


「どうし……っわ!ど、どうした?」


 いきなりユイノが俺に飛びついてきた。わけがわからず混乱する。混乱するがユイノに抱きつかれているということは非常にうれしいのでその姿を頭に焼き付けて置く。


「全部聞きました。……話せないですよ。普通だったら……」

「ま、そこの金髪の子と何でも話すようって約束したしね」

「だからって、こんなの……私、気付いてあげられなくって……」


 なるほどな。今度はユイノが俺の力に慣れなかったことを後悔しているのか……。


「俺が教える前に気付かれたらダメだったんだ。お前たち二人に話すだけだとダメなんだ。みんなに聞いてもらってそんでもって俺に害はないということを知ってもらって、それでもって話し合いをして、ようやく解決する。そういう問題なんだ。……ま、どっかの騎士団様は話し合いなんてせずに俺をリンチしたけどな」


 クルスの方に目をやって言ってやると、微笑しながら肩をすくめるクルス。そう言えばクルス自体はあのリンチに参加していなかった。ただ単に強すぎるだけだと思っていたのだが今にしても俺に対し友好的な雰囲気を崩していない。


「ミーシャにはお灸をすえておきましたのでご勘弁を。僕は君に対して敵意を向けない。それは君から悪の匂いを感じないからね」


 クルスの言ったことに眉根を寄せる。

 それにしてもミーシャにお灸をすえたと言っていた。やはりクルスから見てもあれはやりすぎだったのだろう。


「匂いとはなんだ?」

「……長い間ロードに潜っているとね、初心者狩って呼ばれる盗賊に出くわすことが数えきれないくらいあったんだよ。そしてね、気が付くと悪意を持つ人間からは特徴的な匂いが感じられたんだ。ま、経験の成せる大人の感ってやつだと思ってくれたまえ」

「……ああ、わかった」


 わかったことにしておこう。


「ま、マサキ!」


 唐突に今まで黙っていたリリアナが声を上げた。


「な、なんだ?」

「さ、先ほどは!助けなくて、悪かった!」


 そう言って座り頭を地面にこすり付けるリリアナ。それは久方ぶりに見る土下座という行動だった。


「な!リリアナ、頭を上げろ!」

「それはできない、すべてをお前に告げるまでは。……あの時、お前がサタンを倒した人間だと分かったとき、私はお前に対して憎しみを抱いてしまった。お前は私との約束を守ってくれたというのに……っ!教えてくれればお前の味方になると言ったにもかかわらず私はお前を憎んだ。お前は打ち明けるのが嫌だったはずだ。だけど打ち明けてくれたそれなのに私は……お前の味方ではなく敵になってしまったっ!だからそれに気が付いたときお前への罪悪感で胸がいっぱいになって耐えきれなくなった。だからここに謝罪する」


 リリアナはより一層地面に頭を押しつけながら言った。

 リリアナの言ったことはすべて正しいなと改めて思う。いい方にも悪い方にも正しいことを言う。


 だから彼女には俺の味方になってほしい。ひどくわがままな願いだと思いながらも俺は仲間にするために言う。


「ダメだ、許さない」


 その言葉にリリアナは顔を上げ、驚愕と悲しみの表情をする。

 そんなリリアナに俺は微笑を浮かべながら一言。


「俺の、味方にならないと許せないかな」


 少し意地悪に装って俺は言う。

 リリアナの言葉の中にお前の味方になる。という言葉は入っていなかった。まあ、中学生がよくする人の揚げ足を取るというやつだ。


 その言葉を聞いてリリアナは口元をゆるめて俺と視線を合わせる、そして……。


「なら、もう許してくれているな」


 と、笑顔で言ってくれた。

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