ボス戦
まばゆい閃光が収まり始める。
それでもいまだに視界が戻ってこない。
「くそ!なんだよコレ!」
何度か瞬きをしていると、ぼんやりと、わずかだが周りが見えるようになってきた。
しかし俺は見たものを信じることは出来ない。
視界に写ったのは俺の部屋の風景ではなく。そこは、ファンタジーもので幾度となく出てくる場所だった。
アニメで見たことある。
ゲームで見たことある。
その場所の名称は……
――ボス部屋
大きく広い部屋は戦闘するために作られた部屋。
天上は高く二、三十メートルはあるだろう。
壁も赤レンガで作られており、かなり丈夫にできているように思う。
え?なに?何でボス部屋?
いやいや、あれ?ここどこ?
なんか見た感じどっかの遺跡のような場所だ。
地球にこんな場所あっただろうか。
……いや、記憶にはない。
ってそうじゃなくって。
ダメだ、混乱してうまく考えることができない。
俺今までパソコンの前にいてそれで、
……あれ?
ちょっと待て!
今、そんなことを思い出している時ではない!
ここがボス部屋ってことは……。
それに気付くのとどこからともなく部屋の中央に雷鳴が轟いたのはほぼ同時だった。
「今度は、なんだ!?」
雷が落ち、煙が舞う。
まだ見えにくいがそちらに視線をやってみると。
『よく来た、人間。メルクス様を我が主と認めて幾千の時が流れたか。待ちわびたぞ!人間が来るのを!』
……え?
なにそれ!?WHY!?
メルクス様って誰!?WHO!?
てか、いきなり何?WHAT!?
たった、一セリフへのツッコミでここまで疑問詞を使うとは……ってそうじゃなくって!
声のした方に目を凝らす。すると……。
大きく太くたくましい腕。
五メートルを優に超す胴。
漆黒をどこまでも貫いた目。
禍々しいにもほどがある顔面。
濁った黒の冠を付け堂々そこに君臨しているのは。
「化け物」
そうとしか、言いようがなかった。
俺の知っている生き物の情報にこんな生物はいない。
『フハハッ!化け物、か。当たらずとも遠からずッ!我が名は大魔王サタンッ!メルクス様へ続くこの、ロード第八十九層を守護するものッ!かかってこい、人間ッ!』
……?
メルクスって誰?
いや、いやいやいや。
何?かかってこいって。
無理だから。
普通に無理だから。
「えーっと、なんというか、状況がよく分からないのですが」
もう何でもいい、この状況を説明してくれるなら、化け物でも、敵でも大魔王サタンでもいい。
なんすかこの状況!?
『何をごちゃごちゃと言っている、来ぬならこちらから行かせてもらうッ!』
サタンが大きく右手を振りかぶる。
こちらから見て右手なので本当は左手だが。
避けなきゃいけない。
なぜかそんな気がする。
気じゃない!避けなきゃ死ぬッ!
右手での攻撃なので右側へ駆ける。
すると、攻撃範囲から外れ真後ろに腕が振り下ろされた。
後方の床が破壊され大きなクレータが出現する。
やっぱり、逃げなくては死ぬ!
どうすればいい?
どうすれば生きられる?
『ほれ、動かねば直ぐに死ぬぞッ!』
サタンが次のモーションに移る。
くそッ!
何か何かないか!
サタンの動きを見るために動きを一切見逃がさないように、奴を観察しろ!
フュインッ
……え?
大魔王サタン、LV89
HP、六十九万五千
装備品、大魔王の冠
何か見えた。
『よそ見をするなぁ!』
サタンの攻撃を紙一重でかわす。
あぶねぇ!
でも今の、まさか。
目のゲーム化、か?
となるとここはゲームの中?
そんなことあるはずない。という自分がいる。
ならばどう説明する。
この現状をどう見る。
常識の概念を捨てろッ!
ここは、逃げなくては死ぬ世界。
ゲームのファンタジーのような世界なのだろう。
死んでも復活できるという保証がないため、死ぬことができない。
つまり、生きるためには、戦うか、逃げるかどっちかだ。
武器の類はない。
つまり選択肢は一つ。
逃げる。これしかない。
攻撃に注意しながら壁を見る。
ダメだ、扉が無い!
これじゃあ、逃げられない!
……これは完全に詰みというやつだ。
ここで死ぬ。
くそぉ!
何で俺がこんな目に……。
目頭が熱くなりたまらず涙が零れ落ちてしまう。
嫌だ。死にたくない。でも、生きられない!
手で涙を拭う。
何か、固いものが顔にあたった。
時計だ。
夕凪がくれた時計。
そういえば、また今度って言っちまったなぁ。
あいつもずっと嫌いだったのに……くそぉ。
贈り物されて大好きになるって、最低だな俺。
だから、東京案内してやんなきゃいけない。
あいつの誕生日にあいつの好きなものを与えてやりたい。
もう一度、あいつの声が聴きたい。
生きたい。
生きて会って、話をしたい。
「プックククッ、アハハハハハ!」
ダメだ!自分がご都合主義すぎて笑いが抑えられない。
くっそぉ!
嫌いだったのに、今ではあいつに会うために生きたいとまで思っている。
『どうしたぁ!気でも狂ったか!』
ああ、確かに狂ったかもしれない。
「ぜってーお前ぶっ殺してここから生きて出てやる!」
サタンを指さし大きく宣言してやる。
『クハハッ!その意気や良し!この場で八つ裂きにしてやろう!』
両手で攻撃を仕掛けてくる。
奴の動きはモーションが大きく動きが遅いので回避は余裕だが、いつまでもは続かない。
長引けばスタミナが切れてこちらの負けだ。
どうする。どうやって奴を殺す?
武器だ。
そう、殺すには武器が必要だ。
どうやって武器を調達する?
考えろ!
―――今のは目のゲーム化?
この世界がゲームだとすると……。
そうだ!あの武器だ!
ボーナスで選んだあの武器。
しかし、どうやって取り出す。
アニメっぽく手を武器を持つ形にして出てこいと念じてみる。
何も起きない。
ダメか。
名前を言わなくてはいけないのだろうか。
でも、名前なんて覚えてはいない。
形なら覚えているが。
―――装備品、大魔王の冠
もし、あの刀を俺が装備しているとしたら?
もし、目のゲーム化が自分にも使えたら?
サタンの攻撃を回避してから、自分の手を集中して見る。
坂上 雅紀、HP、百
装備品、規格外刀 赤蛇
ジョブ、勇者
あった!装備品!
でも、ジョブが最初からえらいことになってるなあ。
今はそれはおいといて。
こんな感じかな?
俺は一度攻撃を避け体制を建て直して、右手を突き出し呟くように言う。
「出てこい、規格外刀 赤蛇」
すると、
フッっと手元に長い日本刀のような武器が、さっきパソコンの画面で見た武器が出てきた。
赤と黒の組み合わせの鞘。
鐔が金色に輝く。
柄も鞘と同じく赤と黒。
やばい、かっこいい。
どうしても、俺の厨二心をくすぶってくる。
「待たせたようだな、サタン。本気を見してやるぜ!」
……。
ダメ、めっちゃ恥ずかしい!
何が本気を見してやるぜ!だよ。
あーもう本当に馬鹿だ。
痛い痛い。
自分で言ったことで自分が痛いって思うってどんだけだよ!
でもまあ、過ぎたことは仕方がない。
これで、武器が手に入った。
あとは、時間をかけずにこいつを殺すだけ!
俺は勢いよく抜刀する。
刹那……。
「グアァアアアアアァァアアッッ!」
全身を何かわからない痛みが襲い、口から絶叫として漏れる。
ダメだ、今にも死んでしまいそうな痛みだ。
クソッ!どうなってる。
自分の手を見て状態を把握する。
坂上 雅紀、HP、一
……は?
ふざけんなよぉ!
なんで!
意味が分からねえ!
「おい、サタン、お前なんかしたのか!?」
『我は知らぬ!人間不運だったようだなッ!おそらくその刀が原因だろう!だが我は容赦はせぬッ!さらばだ!人間ッ!』
くっそ、神様ひどすぎ。
ふざけんなよ。
もう、立ってる気力も無い。
腰を床に着けサタンの攻撃を待つ。
せめて、一発でも……。
俺は刀を前に突き出す。
これでこぶしが届く前に一発与えれるだろう。
案の定サタンは刀の正面から殴りかかってきた。
そして……。
サクッ
へへ、刺さった。
一発かませたぜ。
なぜか苦しみ出したサタンを目にしたのを最後に俺の意識はそこで途切れた。
目を覚ますとそこはさっきとは違うまるでパルテノン神殿のような神秘的な場所だった。
そこで俺は横になっていた。
体を起こし、外へと歩いてみる。
外には多くの雲。
地面がなく、ずっと下まで見える。
そこで、何か一本塔のようなものがここまで続いているのを見つけた。
それはカ○ン塔を彷彿とさせる。
「なんだここ?……あ、死んだのか俺」
おそらく、このゲームのような世界では死ねばここに来るのだろう。
死んだ。
そう実感すると……。
「くそぉ。何で、もう、会えねえのかよぉ。会いてえよぉ、夕凪」
ダメだ、涙が止まらない。
止まる気配すらない。
もうほんと、最悪だ。
いったん落ち着きを取り戻すのにどれくらいの時間がかかっただろうか。
五分?もしかしたら一時間?
時間の感覚もわからなくなっている。
とにかく、俺はいつまでここにいるんだ?
せめて神様か閻魔みたいなのが現れてもいいと思うのだが。
パルテノン神殿のような場所は広くとんでもなくでかかった。
しばらく歩いていると、
『あ、兄貴ッ!やっと、会えた!』
と、なぜかそこには夕凪の姿が……。
ってこれは妄想。
『雅紀さん、今度はmeidoの体でしてみる?』
そこには、俺がずっと、使ってきた女性、meidoの姿がッ……。
ってこれも妄想。
『やらないか』
今度は、青いつなぎの前のチャックを下ろしながらそう言ってくる男性が……。
ってこれも妄想。
……であってほしかった。
「やらないよ」
もうやだ、そのくそで味噌でテクニックのやつッ!
中学の頃雅紀だからって何度もネタでやらされた。
『えー、せっかく雅紀なんだから、『うほ、いい男♂』位乗ってくれてもいいじゃないかー』
なんていいながら、男はつなぎの前を上げる。
こいつはなんだ?
閻魔か?神か?
いや、こんなのが閻魔や神だったらほんと最悪だろ。
「あんたは、何もんだ?」
『神だよー』
あーあ、神だったか……って、神!?
「え、えーと、神様?」
『うん、そう、神、神、伝説のロード・メルクス様だよー』
「へーメルクス様ってあんたかー」
なるほど、こいつがサタンの主かー。
へーこいつがあのめっちゃ強いサタンのー。
へー。
って、はああああああああ?
「マジであんたがサタンが言ってた……メルクス様?」
『そだよー』
サタン、もう少し主は選べよ。
「で、あんたは俺を黄泉の国へ送りに来たのか?」
『違うよー、僕はただ君の魂をここに持ってきただけ。君の体はまだ生きてるよ』
「じゃあ、なぜ俺の魂をここに連れてきたのだ?」
『それはねー、君に話があるからだ』
ま、それ以外ってないものな。
「話って?」
『君をこの異世界に連れてきたのは僕だ』
「は?……ふざっけんなよッ!さっさと元の世界に戻せ!」
さらりととんでもないことを口にしたメルクスに俺は激昂し怒鳴り散らす。
しかしメルクスはそれを軽くいなして言った。
『あー無理無理、君にはしてほしいことがあるんだ』
「してほしいこと?」
なんだ?神なんだから何でもできるだろ!
俺は早く元の世界に戻りたい!
『してほしいことっていうのはねえ……ロードを、君がさっきいた迷宮の百五十層まで登り、もう一度ここまで来てほしい。ただ、それだけだ。どうもこちらの人間は進めるのが遅くてねぇ』
「それで、俺を元の世界に戻してくれるのか?」
『私には無理だ、ただここに一番最初にたどり着いたこちらの世界の住民が新しい神になる。つまり、二代目ロードメルクスの誕生だ』
「元の世界に戻れないのだったら意味がない。俺がすると思うか?」
『ああ、思う。なぜなら君をここに連れてきたのは神である私だからだ』
……なるほど、そういうことか。
つまり、自分の言うことを聞く人間を連れてここにきて、神にさせる。
そのあと、俺を元の世界に戻すよう言えばいいと。
なぜ、こいつが無理なのかは分からないが、それしかないようだ。
「わかった、引き受けよう」
『恩に着る』
百五十……さっき倒したのが確か八十九、奴が人間を初めて見たと言っていたからつまり……。
まだまだ、か。
でもさっきメルクスは俺の体は生きていると言った。
そして、サタンの最後の苦しみよう。
おそらく、あの赤蛇という刀に触れたのが原因だろう。
推測するに、あの刀は一撃必殺の刀。
そう思うと、案外早く終わりそうな気がする。
「そういえば、meidoは、あれはなんだ?お前がこの世界に連れてきたのだろうが、あいつからのメールにゲームのURLが貼られていて、そこにあった刀がさっき出てきたのだが?」
meidoはいったい何者なんだ?
『あれは、君の注意をひくためのものだ』
「それって……お前がmeido?」
『まあ、そういうことだ!』
「じゃあ俺は!お前の変装でいつも抜いていたってことか!?」
ああくっそ!
マジありえねー!
『違う違う、meido自体はこの、こっちの世界のお姫様の姿を使って私が創造したものだ。私が変装していたわけではない』
よ、よかったー!
こんな男で抜いていたとなれば自殺ものだ。
しないけど……。
『ああ、あとあの刀は一日に一回、それも二十秒が限界だ、一回抜刀するたびにきみのHPを一にする。一日に二回抜刀することは出来ない、または二十秒以上鞘から抜いていると死ぬから、気を付けて。君たちの世界のゲームに似てるけど死んだら終わりだから!じゃあ魂を元の体に戻すよ。ばいばーい』
え?なにそれ、欠陥だらけじゃん。
てか、やっぱり死んだら終わりなのか。
ぐわん、ぐわんと視界が揺れる。
おそらく元の体に戻しているのだろう。
でも、行けそうな気がするけどな。
早く、元の世界に戻ってやる。
この決意はすぐに打ち砕かれるとも知らず。
やる気を出す俺だった。
自分の体に戻ってきた。のか?
先ほど、サタンと交戦した場所だ。だがあたりはサタンの血痕らしきもので汚されており真っ赤であった。
うっ、やっぱり体が動かない。
自分の手を見るとHPが一と表示された。
神の言うとおり、か。
とにかくここから出ないと。
カシャ。
手が何かに触れる。
紙だ。
神の次は紙だ。
広げて読んでみる。
メルクス様からのアドバイスだよ はぁと。
僕が無理やりつれてきたから君にはサービスサービス!
君にはジョブ変更を自由にできるようにしてあげたから。
あ、あとその部屋から出るなら、真ん中のワープゲート使えばいいよ!
じゃあ、バイビーww
グシャッ
片手で握りつぶす。
そこで気が付いたのだが手が真っ赤だ。
いや手だけではない。
全身が真っ赤だ。
返り血か?
自分に怪我はない。
となると返り血しかなかった。
まあ、この部屋がこれだけ真っ赤に血で汚されているのに俺が一滴も浴びてなかったら逆におかしいか。
……。
風呂入りたいし帰るか。
俺は重く動かないからだを無理矢理動かしてワープゲートに向けて歩いていく。
不定期更新です。
次、できるだけはやくします!