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刀でダンジョン攻略目指してます!  作者: 赤月ヤモリ
第一章・連れてこられて異世界へ
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CONTINUE?

 意識が覚醒する。


 異常なまでのスッキリした感覚を覚えながらも俺はゆっくりと目を開く。

 そこは真っ暗な世界だった。

 なにも聞こえず。なにも匂わず。だけど目だけは見える。

 視野は360度全方位、すべて同時に見ることが出来る。

 今までにない感覚に脳が混乱を起こし酔ったような感覚を覚え嗚咽を堪えきれない。

 だが吐くことは出来なかった。

 それどころか手を口に当てることも口を開くことも出来ない。


 よくよく見ると己の肉体が無くなっていることに気がついた。

 全方位すぺてを見ることができるというのに自分の体が見えないという異常なことは知っても、理解することは出来なかった。


 現在俺は魂のような状態なのだろうか?


 背中を上村によってショットガンで破壊された。

 その時を思い出す。

 脳がないのに思い出すとはいったいどう言うことだ?と、この状況を作ったものへの皮肉を込めながら。


 自分の最後を思い出すということはとても辛いことであった。

 今までに経験したことのない痛みをその体で味わい。死への恐怖だけが感情を全て埋め尽くす。


 その瞬間だけは、夕凪のことも忘れてしまうほどに。


 思い出すことによって痛みがフラッシュバックし、背中にあの時の痛みを感じたが、ない背中を痛がるのもおかしいと判断した瞬間痛みが無くなる。


 そしてそれは唐突に現れた。

 上だったかもしれないし下だったかもしれない。右かもしれないしはたまた左だったかもしれない。そこは前であり後ろでもある。

 そんなわけがわからない空間で俺は見た。


 ……CONTINUE……?


 そう、神々しく輝く文字を……。



 この暗闇は死んだあとの世界だと思う。

 死とはこのような意味のわからない場所でこれから一生を過ごすことなのだろうか?とそんなことを考えていた俺。

 だから、この文字を観たとき俺は理解することが出来なかった。


 CONTINUE……。つまり生き返ることが出来るということだ。

 こんな超常的なことを行える存在に俺は一つ、当てがあった。


 俺をこの世界に呼んだ神メルクスである。

 世界を越えて、俺を異世界に召喚させたあいつなら死んだ人間の一人を生き返らせることなど造作もないことだろう。


『おい!メルクス!どうせお前なんだろ!?俺はコンティニューする!早く戻せ!』


 口がなく、肺もなく、喉もない。

 空気を震わすことが叶わず。だが、テレパシーのように頭に響く俺の声。


 息をもしないこの空間において空気が存在しているかは定かではない。

 ただこのテレパシーのようなものは現実での声のように周辺に響いている。


 しかしそのテレパシーのようなものに返事は返ってこない。


 ただ、暗闇に光るCONTINUEの文字がまぶしいと感じるのみ。


 しばらくその暗闇の中で返事が返ってくるのを待っていたのだが一向に何かが起きる気配が感じられない。

 仕方がないので、CONTINUEの文字を見て意識を集中させる。


 ようはジョブ取得方法の判明と同じ要領だろう。

 案の定意識した瞬間CONTINUEの文字が霧のように四散し別の文字が新たに浮かび上がる。


 ……本当にCONTINUEしますか?

 ・YES

 ・NO


 いやいや、NOとかするわけねえじゃん。


 YESに意識を集中。

 その直後、文字が出現した。


 ……ごめんなさい。まだ……弱い…。


 え?


 現れたそれは俺が何をすることもなく自然に四散する。


 すると今度は文字が四散しても何も浮かび上がらない。

 不思議に思い先ほどのテレパシーのようなものを使ってみる。


(おい!メルクス!さっさと元の世界に戻せよ!)


 だがまたしてもその叫びに答えは返ってこない。

 そして、暗闇が続いた。

 ・

 ・

 ・

 時間的にどれくらい経っただろうか?

 異常なまでの長い間ずっとこのくらい闇の中に俺はいる。


 おそらく、もうすでに何日かたっているだろう。

 だが相変わらずこの世界に変化は起きない。


 自分の腹が減ったりしないこととここが死後の世界かもしれないということからおそらく餓死によるこの世界の終了ということは起きないだろう。

 ・

 ・

 ・

 さらに時間が過ぎた。

 今はただこのとてつもなく暇な時間がいつまで続くのかという一種の恐怖に取りつかれている。

 体がないので何も出来ない。

 唯一、なにかができる体の器官、視覚だけで何もない空間をずっと見つめるばかりだ。

 ・

 ・

 ・

 出たい。この空間から出たい。

 このままだと精神が壊れてしまう。

 寒くも暖かくもない何の刺激もないこんな苦痛は今まで味わったことのないものだ。

 視覚もすでに見ているのか見ていないのかわからない。


 なぜならずっと黒が見えているからだ。

 目を閉じれば黒。目を開けば黒。

 もっとも、まぶたなどの肉体が無いのでずっと見えている状況に変わりはないのだろうが……。

 ・

 ・

 ・

 出たい出たい出たい出たい出たい出たい!

 殺して殺して殺して殺して殺して殺して!

 もういやだ、もう我慢ができない。

 何で俺が?何で俺がこんなことをさせられなければいけないのだ?

 俺が何をした?どうすればよかったんだ?NOを選択しなくてばならなかったのか?

 そうなればもともと生還など無理ではないかッ!

 では何のために俺に選択肢を与えたッ!


 ここから出せッ!ここから出せッ!


『こっから、だせええええええええええ!』

 ・

 ・

 ・

 もう、なにかをする精神力がない。

 叫ぶことも、存在しない体を動かそうとすることもしなくなった。


 ただ暗闇で焦点の定まらない目をふらふらとさまよわせ、何もせず力なくうなだれる。

 いつ、終わってくれるのか。そのことだけはずっと心の中にある。

 ただそれしかもうなかった。


 この世界が終わるか、俺の精神が終わるか……。

 ・

 ・

 ・

 この暗黒の世界から出る方法を模索ことを放棄する。

 俺の今までの楽しい記憶それを思い出して精神を静めていた。


 リリアナとユイノ。

 彼女たちと過ごしたのはほんの数日であった。

 だが、最も充実した日々だったと言える。

 あのとんでもない力の刀を使って、ちょっとしたヒーロー気分も味わった。

 ユイノを大量のモンスターから守ったときは自分でも頑張ったなぁと思っている。


 リリアナも、右も左もわからない異世界でどこの馬の骨かも知れない俺なんかに職をくれて、住むところもくれて、そしてその感謝を返すこともできずに飛び出してきてしまった。

 ……返すことができなかったんじゃない……。しなかっただけだ……。


 俺が彼女に魔剣サタンを渡し真実を打ち明けていれば何か変わったのだろうか?

 これは、後の祭りというやつか。

 この暗闇から出ないと、何の意味もないのだ。そして、この暗闇からは出ることができない。


 時間が空いて頭が冷えたのだろう。

 リリアナやユイノには悪いことをして飛び出してきてしまった。

 俺は、自分の劣等感に押し潰されそうになって、それで逃げたのだ。押し潰すものから。


 リリアナやユイノじゃなくても同じことだっただろう。いつかは周りとの差に劣等感を抱きこうなっていたのだろう。

 そして、逃げた先で赤蛇を振るい優越感に浸るのだ。


 自分の行動パターンが手に取るようにわかり苦笑。

 そして自分の小ささに歯がゆい思いをする。


 あの時逃げなければよかった。

 逃げずに、恐れずに、二人にすべてをぶつけていればよかった。

 押し潰してくるものから逃げずに、それを壊せばよかった。


 だが過去は変えられない。

 その当たり前のことがたまらなく悔しかった。

 ・

 ・

 ・

 リリアナ達へのことを一通り思い出し終わると、次に出てきたのはモノクロ姉妹だった。

 彼女たちとはほんの数時間程度しか話をしていない。

 だけど、命を散らす戦いを同じ味方として戦った戦友だ。

 向こうがどう思っているかは知らないが、少なくとも俺はそう思う。


 圧倒的実力差、埋まらない身体能力の壁。またもや劣等感を抱いてしまう。

 俺がその場にいたせいで戦うという選択肢を選んだ彼女たちに謝りたい。


 俺が最後に見たとき、クロは瀕死、シロも武器を手から落としていた。

 俺の死後、まず間違いなく彼女たちも死んだ。


 やはり俺が囮になるべきだったのかもしれない。

 ……違う。そうじゃない。俺がいたから彼女たちはあの上村龍と出会ったのだ。

 俺がいなければッ!俺がリリアナやユイノから逃げなければ彼女たちと会うことがなかったのにッ!


 彼女たちへの謝罪の念は尽きないばかり。

 すべて俺が悪いのだ。


 ……この世界は俺がいると悪く廻る。

 ・

 ・

 ・

 この世界、ということを得て俺は久方ぶりに日本を思い出す。

 日本の生活は一文字であらわすなら『苦』だろう。


 俺は勉強ばかりしていた。

 成績も努力に見合っていた。

 だから周りは口をそろえてこう言っていた。


 ――勉強好きな奴は良いよなぁ。


 そんなことあるはずがないッ!

 俺だってみんなと話したかった。遊びたかった。

 だけど、これが一番幸せになるって、そう、言われたのだ……。


 それは一人の教師の口から出たただの戯言であったが……。


 だが、そんな俺も、あの日。すべてが変わった日。こんな世界からさっさと別の面白い世界に行きたいと思っていた俺に……初めて、このままでもいいかもしれないと思えることができた。


 夕凪。


 その名前は忘れない。

 夕凪が生まれてから十七年兄をしているのだ。

 忘れるはずがない。


 どうでもよかった。

 毎日を楽しそうに生きる妹に嫉妬もしていた。

 俺よりも成績が悪くても親は妹ばかり褒めた。


 おそらく親は俺の取る一番に慣れてしまったのだろう。

 もう、一番しかとらないと、そう思ったのだろう。

 だから、一番が当たり前。

 出来て当たり前のことを人は褒めない。

 ただ、出来なかったときに怒るのだ。


 だから辛かった。

 努力に力は追いつけど心は追いつかない。努力することは苦しく大変だが結果はついてくる。

 俺は結果を求めたはけではない。結果を出し、他者から見られることを求めていた。

 自分に感情を向けてもらえないのは辛かった。

 それは幸せとは程遠かった。


 だけど、そんな俺に妹、夕凪は兄に対しての好意を向けてくれた。

 それだけで今までの嫉妬は消えて俺も夕凪に好意を持てた。


 しかし、俺はその相手と会えなくなった。


 ここまで考えた時、すべての結論が出た。


 俺に苦痛を与えることをして、俺にいろんな人とかかわりを持たせて……。

 あいつがいなかったら、大丈夫だったのではないか?

 あいつがいるから俺が苦しんで、それで俺がいたから世界は悪い方向へと廻った。


 ……全部メルクスのせいだ。



 あいつがいなければ俺はこの世界に来なかった。

 俺が来なかったらリリアナはボス部屋で初回ドロップ品を手に入れ死んだパーティーの墓に供えて悲しみの渦から脱していただろう。


 俺がいなかったら、モノクロ姉妹はあの道を通ることなく生還して森から出れたかもしれない。もしあの道を通っても俺がいないから二人なら逃げることができる。


 あいつがいなかったら、あいつがいなかったら……ッ!


 そもそも、夕凪と離ればなれになることもなかったッ!


 恨みの感情が胸のうちで収束し異常なまでの殺意の感情へと変わる。



 直後だった、何もなく真っ暗だった世界に光がもたらされる。


 ……CONTINUE……?


 それは最初とまったく同じ質問。

 俺の答えは変わらない。

 ただ、最初との決意の固さは異常なほど違う。


 実際、最初は生き返れるんだ!ラッキー!

 くらいにしか思っていなかった。


 今は違う。

 生き返らせろ。

 明確な殺意をもって命令するほど決意は強くなっている。


 ……本当にCONTINUEしますか?

 ・YES

 ・NO


 またも同じ質問。


 同じことの繰り返しになるかもしれない。

 だけど、俺は答えは変えない。

 もう一度、あの暗闇になればおそらく俺の精神は完全に崩壊してしまうだろう。


 そうなればもう仕方がない。

 自分の手の及ばないことはどうしようもないのだ。そうなれば諦める。


 だから……ならなければ俺はメルクスを殺すことをあきらめない。


 YESを選択した直後光の文字は四散しそして。


『ごめん……なさい。……つらい…思い…を……させてしまって』


 それは女性の声だった。

 この超常的なことを行えるのはメルクスというくそ神だけだと思っていた俺をとても驚かせた。


『だ、誰だ!?お前メルクスなのか!?』

『……違う…メルクス……は…出来ない。……生き返らせる……こと……』


 は?

 違うと迷う余地なく否定の言葉を浴びせられやはり混乱してしまう。

 それとメルクスが生き返らせることができないということにも驚いた。


『お前は誰だ!?』

『ごめん……なさい…』


 要領を得ないどころの話ではない。会話が成立しない。

 どうしたものかと思っていると。


『苦しいけど……耐えて……』

『耐える?なににだ!?』

『ただ、信じて……私は…あなたの……味方だから……』

『は?何を言って……ッ!?』


 俺は言葉を話せなくなる。

 ……唐突に訪れた激痛によって。

 赤蛇の抜刀なんて話にならない。一番痛いと思っていたショットガンの攻撃と比べることがいけないようなそれ位痛い。

 全身の皮膚を無理やり剥ぎとられそこに刃を突き立てられぐりぐりと抉られているような感覚。


『いだいぃぃ……いだいぃぃぃぃぃぃッ!』


 ダメだ、ダメだ、ダメだッ!

 これはダメだッ!この痛みはダメだぁ!


 おそらく本来なら心を守るために意識がなくなり痛みを遮断するのだろう。

 だが、この世界は意識を失うなどということは起こらない。

 だからいつまでもはっきりした意識の中、慣れることのない異常なまでの痛みに耐え続ける。


 違う。俺は耐えていない。ただ起こる物事にその身を預けているに過ぎない。

 この世界で長い時間の間閉じ込められたように、俺の意思を関係なく起こる流れに逆らえない。


『ご…ん……な…い……あい…てる……たを……あい……る』

『な、にを』


 その声はどこか悲しそうで今にも泣きそうな声。

 だが、その言葉を認識し理解し納得することはできなかった。


 直後、この世界の終わりを示すようにこの世界で初めて俺は意識を失う。


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