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刀でダンジョン攻略目指してます!  作者: 赤月ヤモリ
第一章・連れてこられて異世界へ
16/23

上村龍

 白い大金槌と禍々しく死神が持つような鎌をその手に構える二人の少女。

 黒と白の対照的な髪を持ち幼くも整った顔立ちは見分けることが困難なほど瓜二つだ。

 琥珀色の目を細め、獲物を狙う狩人のような雰囲気がふたりから感じることが出来る。


 刹那、風のような速さで俺の横を通り抜け一直線に血まみれの男への奇襲を仕掛ける。


 ――足を引っ張らないでね。


 クロの言ったことを今になってようやく理解する。

 確かにこの二人といると俺は完全に足手まといでしかない……。


 そう俺が思っている間にモノクロカラーが赤い少年との距離を積める。クロが大金槌を左手に大きく振り上げ、シロが鎌を右に大きく振り上げる。

 息のあった完全なる奇襲である。


 ――決まったっ!


 そう思った。俺の思考は甲高い金属音によって掠れ無くなる。

 金属音の出所はクロの大金槌とシロの鎌が勢いよく接触したことによって出た音であった。


 狙われた少年はと言うと、上半身を後ろへと仰け反らせ大金槌と鎌が接触し、弾かれた瞬間を見逃さず、足を上げ後転の要領で一回転。二人を一歩離れたところから驚きの表情で見ている。


 その表情から察する。

 奇襲は成功した。実際に彼は気がついていなかったのだから。

 ただ、彼は奇襲を受けてもそれを避けることが出来るほどの反射神経を持つと……それだけのことだった。


「ちっ……!あんたが攻撃をしなかったせいよ!」

「そうです。あなたはなぜ未だに草むらに隠れているのですか?」


 クロとシロは少年から目を離さずに俺に向かって言う。


「んなこと言われてもお前ら速すぎんだよ!」


 俺が草むらから姿を表すと少年はさらに驚きの表情をした。


「あ、まだいたんだ。……まぁ何人いてもいいか、見られたからには殺るよ?どうせ死ぬのだから武器なんて持たないで素直に死んでくれるとありがたいんだけど……」


 その堂々とした態度から俺たち三人を簡単に殺せると言うことがわかる。


「見逃すって選択肢は?」

「ない」


 答えは分かっていたが即答とは……。

 見逃すと言う選択肢はない。つまり、


「お前倒さなきゃ生き残れないって訳か」

「倒すだなんて……。殺すって言ってよ」


 そういい少年は不適な笑みを浮かべる。



 相手は大量の人間をたった一人で殺し尽くした凄腕だ。それはさっきの奇襲からもわかった。

 俺は、サタンに手をかけて引き抜く。

 刃が太陽に照らされ輝く。


 ゆっくり構えをとりそして俺は一気に踏み込み間合いを詰める。

 相手に攻撃をさせなければ死ぬことなどない。つまるところ先手必勝と言うやつだ。


 だが、相手は奇襲をも無意識に回避してしまうようなやつだ。

 俺の攻撃は空を切りその拍子でバランスを崩してしまう。


 少年はその隙を見逃さず俺の腹部に強烈な回し蹴りを入れる。

 腹筋を固めていなかったのでその蹴りは強くめり込みその勢いのまま俺は後方へと吹き飛ばされてしまった。


 背中が木にぶつかり肺から一気に空気が抜け思わず咳き込んでしまう。。

 今の攻撃によりもしかすると骨が何本か折れているかもしれない。

 しかし現在は戦闘中だ。すぐに前方へと視線をやる。するとクロとシロが二人で少年に攻撃を仕掛けているところであった。


 クロが大きく大金槌を横殴りに振る。それを回避するために上空へとジャンプした少年を今度はシロが鎌で切断を試みる。

 しかしそれを読んでいたのか少年は懐からなにかを取りだしそれでガードする。

 位置的にそれを見ることはできない。


 だが、接触した際に金属音がなったことからおそらく短刀かなにかだろう。

 少年はガードしたあとシロの胴を容赦なく蹴る。シロの鎌を持ちながら……。


 あの蹴りは俺を軽く後ろへと吹き飛ばしたものだ。俺より軽いシロはもっと簡単に吹き飛ぶだろう。しかしシロの体はそこから動かない。鎌を手放していないのだ。おそらく少年はシロが鎌を手放さないことを読んでいた。

 手放さないことをいいことに少年は何度も蹴りをシロに食らわせる。


「うっ……!」


 シロが遂に呻いた瞬間。少年の背後から大金槌が振るわれる。

 それを蝶のようにひらりと避けて少年は鎌を離してからシロを蹴り飛ばす。


 そのあとすぐに振り向き様に回転蹴りを後方の大金槌を振るったクロへと放つ。

 しかしその足はなんの手応えもなく振りきられる。


「あり……?」


 少年は目を見開いて驚きを表情で表す。

 刹那その顔面に影がさす。その影の正体はクロの大金槌。

 少年に攻撃を放った直後高くジャンプしていたのだ。

 少年は勢いよく降り下ろされる大金槌の餌さとなる。


「ふがっ!」


 直撃したにも関わらず少年は食らったあと空中で数回くるくると回り勢いを殺し何事もなかったかのように地面に立つ。


 そのまま振り切りバランスを崩しているクロめがけてその辺りに落ちていた棒を拾って殴る。


「がっ!」


 頭を強く叩かれたクロの体は暫く痙攣したのち動かなくなった。


 モノクロ姉妹の怒涛の攻撃をまるでなにもなかったかのように少年は欠伸をする。

 完全に動かない二人を一別したあと少年は此方に歩いてくる。


 な、んだ?こいつは。


 あり得なかった。ただ者ではないと思ったモノクロ姉妹をいとも簡単に地面へとねじ伏せた。


 それだけで俺の中ではこいつは恐怖の対象となった。


 草を踏みしめ向かってくる一歩一歩が悪魔が近付いてきているように思えてくる。


「こ、殺さないで……」

「命乞いか、見苦しい。あの二人とは大違いだな」


 最後の希望をも容易く受け流し、軽蔑の眼差しを向けて歩み寄ってくる。

 それに対して俺は……思わずにやけてしまう。


「!?」


 それに気がつき近付く足を一旦止めるが少年は気が狂ったと判断したようだ。

 また、近付いてくる。

 そして少年が足を振り上げ俺に止めを刺そうとする。


「死ね」

「……お前がな」


 その一言に眉根を寄せる少年。


「規格外刀・赤蛇」


 突如、虚空から赤と黒の刀が俺の手の中に出現する。

 それを見た少年の顔に驚愕の表情が見える。

 実に愉快な顔だと思いながら居合いの要領で抜き様に切る。


 ……掠れ!

 それは一斉一代の奇襲。それに対して俺の欲望は実に小さい。

 だけど……。


「当たれば勝ちだぁぁぁぁ!」


 その欲望は願望へと変わりそれから絶叫になる。

 当たる。届く。絶対に!


 そしてその感情の変化は終焉を迎える。


 絶望という感情によって……。


 少年は先程シロの攻撃を防いだ物をもう一度取り出したのだ。

 それはおそらく力を込めていれば容易く一瞬で破壊できたのだろう。だが、今回俺は速さを重視し力を込めることを行わなかった。

 そのため破壊に少し時間がかかり(といっても一秒にも満たないが)そのすきに少年は距離をとった。


 破壊した物が地に落ちる。

 その際カランカランと音がした。

 てっきり短刀だと思っていたので俺は驚き下を向く。


「いやー、びっくりしたよ!そんな隠し玉があったなんてねー。っとそれ?見慣れないでしょ?」


 少年の落としたそれは俺の脳をひどく混乱させた。それを少年が持っていたことに驚愕した。


 足下に落ちるそれはほとんど原型を止めておらず、しかしそれでもなお俺にはそれがなんなのか理解出来た。


 緑の草の上。異質とまで言えるそれは黄金色に輝く銃弾であった。

 破壊した際マガジンも破壊され中身の銃弾が散らばったのだろう。


 少年をモニタリングする。


 名前、上村 龍 性別、男 年齢、十六

 装備品、イサカM36ライオットショットガン、ベレッタM93R

 ジョブ、錬金術師

 持ち物、ショットシェル、銃弾、


 自分の目で見ないと信じることが出来ない。なんて言う人間はこの世にはわんさかいるだろう。だけど俺はこのとき思った。


 自分の目で見ても信じることが出来ないものもあるということを……。


 俺の驚きをよそに少年は話続ける。


「それはね、僕の故郷にある……」

「じ、銃?」

「……って、え?」


 お互いに見つめ合う。

 そして俺は意を決し問いかける。


「……日本って、知ってるか?」


 それに対して少年は、


「……ああ」


 俺以外の異世界召喚者を見つけた瞬間だった。



 シロは意識を取り戻す。それと同時に自分が殺されていないことに疑問を抱いた。腹部から強い痛みが発している。飛ばされ木にぶつかった拍子に口のなかを歯で切ったようで、口の端から血が垂れていた。それを拭うべく腕を動かすが、それだけでもう一度痛みが意識を刈り取りに来る。


 痛みをこらえながらも拭い。シロは少年が死んだのか?姉様が殺してくれたのか?と考えながら目を開く。


 ぼやけた視界はまだ前方しか見えず、しかしながらその前方にうつ伏せに横たわる黒髪の姉をシロは見つけた。


 姉の武器である白い大金槌は姉の手の中にはなく、その近くに転がっている。


 頭からは血が多く出ており、それは姉の命が危ないということを示すには充分だった。


「……日本って、知ってるか?」


 それは先程から幾度か言葉を交わした男の声。

 そちらに目をやるとマサキが木にもたれ掛かり赤と黒の刀を持って少年と対峙していた。


 だが、マサキは慌てたようすで刀を直す。

 シロは知らないが、二十秒以上抜いていると死ぬと言う効果をマサキが思いだしたためだ。


 だがその行動はシロには寝返り、または……シロ達を仕留めるためあらかじめ手を組んでいたのかもしれない。

 シロにはそのように見えてしまった。


 姉様が彼も一緒に助けようとした。

 私と二人なら必ず逃げ切ることが出来た。

 だけど姉様は優しいから、助けようとした。


 その姉様が血溜まりの上に横たわっている。


 その現実はシロの思考を完全に停止させ今までのことだけで結論を出す。


 あの男……マサキと名乗ったあの男のせいでっ!


 バキ…バキ


 シロの体内から突如そんな音が聞こえてくる。


 体が熱く、自分の能力によって傷が治っているのだなとシロは理解する。

 シロは人間族だ。そして使うのは種族技……。


 一般的に認知されていない人間の種族技である。

 それは自己修復というのとは違うのだが副作用のようなもので怪我の類いが癒えるのだ。


 自己修復により癒えた体は軽々と動くようになる。

 シロは己の右手を開き鎌を呼び寄せると、しっかりとその鎌を握りしめばれぬように移動を開始する。


 あの男のせいでっ!


 シロは常に表情が出ない。これは生まれつきでもう既に慣れてしまった。


 だけど、表情が出ない分感情は常人とは比べ物にならないほど揺り動く。そしてそれの操作は人一倍苦手としていた。


 マサキが少年と重なる位置に移動する。

 少年は此方に背を向けマサキは少年が壁となって此方が見えない位置取りである。


 シロは左手を地面につけて独自のスタートスタイルへと体制を移行する。

 足を曲げ次の瞬間地面を抉るように蹴り混む。


 マサキはおろか少年すら認識できないほどの速度で接近。

 右手に構えていた大きな鎌を上から下へ降りきる。


 しかしそれはしゃがんで少年よりしたの位置にいたマサキは勿論、少年の頭にすら届くことはなかった。


 捉えた、完全なる不意打ちにより少年を殺害できた!

 そう過信したシロは少年の驚異的な反応に絶望の感情を抱く。


 鎌が触れる瞬間、少年は懐から木の棒のような物を取り出し攻撃を防いだのだ。


 勿論シロの鎌は棒きれなどを切り裂けないほど切れ味がない等と言うことはない。


 接触した瞬間キィィィンという金属音を耳にしたので棒には金属が一部使用されていたのだろう。


 少年が振り返り様に棒で鎌を弾き飛ばす。

 呆気なく手から落としてしまった鎌は空中を縦にくるくると回転して十メートルほど先の草むらに突き刺さった。


 それを見届け、冷や汗をかきながらシロが少年に向き直る。

 そこには見たことのない先端に穴の空いた棒が向けられていた。

 その棒は途中で軽く曲がっておりその曲がり目に手をおいている少年。


 シロはそれがなんなのかわからない。

 ……ただ、先端からは絶望があふれでていることだけで理解出来た。



 なぜだ?なぜシロは俺を攻撃してきた?

 今の攻撃は確実に目の前の上村なる少年と一緒に俺をも狙った攻撃であった。


 と言うよりシロは先程上村の攻撃を受け暫くは戦闘不能立ったはずだ。だが、今目の前に立つシロは血の後こそあるが傷というものはどこにも見受けられなかった。


 ポーションの類いを使ったのだろうか?

 シロのHPがどれ程のものか俺は理解していない。

 しかしながら、先程の戦闘の様子を見るかぎりよほど戦いに慣れていたように見受けられた。

 かなりの上級職についていることは目を見るより明らかだ。

 つまりHPもかなり多いと思う。(仮定なので判らないが……。)

 確かめようにも森の中ではHP表示がされない。



 どれ程回復するのかは実験していないので判らないがそんな高HPを直ぐに回復させるようなほど万能な代物ではなかったはずだ。


 考えていると金属音が鳴り響く。


 目をやるとシロと少年が真っ向から対峙していた。

 但しシロの手に得物は握られてはいない。


 そのシロの頭に対して上村はショットガンを向ける。


 刹那思い出す。


 目の前の同じ故郷を持つ少年。

 唯一かもしれない他の召喚者。


 無条件で敵意がなくなった少年。


 ――そんな彼がれっきとした殺人鬼であったことを。


 俺は次に攻撃を食らうと死ぬと言う状況にも関わらず、重い体を持ち上げてショットガンに飛び付く。


 驚いたのか飛び付いた瞬間上村は引き金を引いた。

 だが、銃口は既にシロから逸れており発射された無数の弾丸は空へと飛んで行く。


 反動で体が地面に落ちてそして遂に力が入らなくなった。

 どうやら最初の攻撃で既に致命傷といっていいほどの傷を負っていたようだ。


 横目でシロを見ると俺が飛び出してきたことに驚いたのか常に無表情だった彼女が目を見開いて驚いている。


 上村は舌打ちをしてうつ伏せで倒れている俺の背中めがけて容赦なく引き金を引いた。


 乾いた発砲音と壮絶な背中の痛みを最後に俺の意識は無数の鉄の固まりに刈り取られる。


 俺はこの世界で呆気なく絶命した。

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