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刀でダンジョン攻略目指してます!  作者: 赤月ヤモリ
第一章・連れてこられて異世界へ
14/23

逃走

 彼女の金髪がワープでロビーに現れた瞬間その場にいた全員が歓喜の声を上げた。


「うおおおお!リリアナ達が戻ってきたぞぉ!お前らぁ!今日は祭りだぁ!」


 誰かがそう切り出した瞬間全員がそれにこたえるように叫び、店を出している連中は各々屋台を出す準備に取り掛かる。


「ほへー、これは……すごい盛り上がりようだなぁ」

「そ、そうですね」


 場の空気に若干気圧されながらも答えるユイノ。


 リリアナに続き、以前リリアナを見かけた際に見たイケメンのメンバーが一緒に出てくる。


「チッ」


 思わず舌打ちをしてしまうのは俺の性格がひねくれているからだろうか?


「え……?マサキはリリアナ達が無事に帰還してきたことが気に食わないのですか?」


 あ……。

 確かに今のタイミングでの舌打ちはまずかった。

 ユイノの言った通り、リリアナ達に死んでほしかったと思っているように思ってしまう。


「ちがうぞ。これは目鼻立ちが整った男を見ると自然と出てきてしまう持病のようなものなんだ。だから決してリリアナの帰還を望んでいなかったとかそういうことではないんだ」


 頭に思い浮かんだ言い訳を適当に並べそれを口にする。


「……おかしな病気ですね」


 そう言い、微笑するユイノ。

 一瞬、ぽかんとしていたユイノだったが俺がリリアナの帰還を望んでいなかったわけではないということは伝わったようだ。


「それにしても、おかしいな」

「何がですか?」

「いや、リリアナ達のパーティーはボスにもう一つ別のパーティーと一緒に挑んでいたんだ」


 俺の言葉を聞きユイノは慌ててリリアナたちの方を向く。


「……うそ」


 いつまでたってももう一つのパーティーのメンバーが出てこない。

 二つのパーティーで挑んでいたことはみんなも知っていたようで、だんだんと歓喜の声が小さくなっていく。


 リリアナ達の表情もよく見ると、全員が暗く。

 全員が付けている防具などもすべてボロボロであった。


 まさかっ……!


「ユイノ、ちょっと行ってくる」

「え……?ちょ、ちょっと」


 俺はユイノをベンチに残しリリアナのパーティーの下へと駆け寄る。


 俺に気が付いたリリアナは、一瞬だけ目を合わせてから……すぐに逸らした。


 な……!


「おいリリアナ!何があった!」


 俺はリリアナ達の下へと着くとリリアナの腕を掴みがなる。

 だがリリアナは視線をそむけたまま、口を固く閉じている。


 その動作が示す、内容は……。


「もう一つのパーティー、ぜんめッ……」


 言おうとした瞬間サルバが俺の口を塞いだ。

 そして耳元で囁く。


「すまないバイト。事情は俺が話す。だからリリアナは今はほおっといてやってくれ」


 己の失態に気が付き唇を強く噛みながら俺はうなずいた。



「まあ、察しているとは思うが、もう一つのパーティーは全滅した」


 全滅……。

 この言葉がこんなに嫌な言葉だと思ったのは初めてだ。


 今まで、笑いながら使うことができた言葉。

 だがここでは涙も出ないくらいにきつい言葉だ。


「なんで、だ?」

「何がだ?」

「なぜ、もう一つのパーティーは全滅した?」

「ロードではよくあることだ」


 よくある……だと?

 人が良く死ぬ世界ってなんだ?

 何でこんなに目の前の男は冷静なんだ?


 疑問がぐるぐると頭の中を回る。

 それは回るだけで口からは決して出て行こうとはしない。


「強かったのか?ボス」

「……いや、途中までは……大丈夫だったのだが」

「だが?」

「まあ、最後の悪あがきってやつだ。俺らのパーティーは俺がすべての攻撃を防いだ」

「お前が?一人でか?」

「……ん?ああ、良い忘れていたが俺はガーディアン。盾職の上位ジョブについているんだ」

「盾職ねぇ……」


 ――ジョブ取得方法の判明


 ジョブの名前が一覧となって出てくる。

 その中からガーディアンを選択。


 ガーディアン、防御職。最大LV99

 取得方法、ジョブ名、城壁の番人を習得しLVを最大まで上げる。その後七十以上の階層で千回モンスターの攻撃を受けることによって取得可能。

 ジョブスキル、上位ガードスキルを使用可能。


 内容を読むかぎり、取得方法は確かに難しいし、それに……。


 この『ジョブ取得方法の判明』はそれぞれの種類ごとに表示されているのだが、ガーディアンは盾職系のジョブのところの後ろから二つ目に表示されていた。最初の方には『兵』といういかにも弱そうなものがあったので強さが並びに関係しているとみて間違いないだろう


 つまるところ、性質盾職では二番目に強いジョブであった。


 というか一番強い盾職の名前が守護神とかいう超カッコいい奴なんだけど。

 守護神って、人間やめてるじゃん。


「そうだ、盾職のスキル。つまり、ガードスキルのことだが、その中に敵の攻撃を五秒だけ無効化するというものがあってな、うちのパーティーメンバー全員を俺の後ろに隠し攻撃をすべて俺が受けたのだ。敵の攻撃は追尾性能がある魔法だった」

「だから後ろに隠したのか」

「ああ」


 追尾性能のある魔法、つまり一番前に盾職のサルバがいる場合必ずサルバにあたることになる。

 そこで、サルバはすかさず五秒間攻撃を無効化するスキルを使い攻撃をすべて受け止めた。

 そのおかげでリリアナのパーティーメンバーは無事だったということか。


「一緒に言ったパーティーには盾職はいなかったのか?」

「……ああ、そのパーティーはスピードを駆使して多くの攻撃を与えることが得意なパーティーだったから」

「スピードが速かったら、攻撃を受けない。って思ってたわけか」

「……ッ!まあ、そういうことだ。今まで魔法を使ってくるボスなんていなかったから……油断したッ!」


 サルバは苦々しくそう言ってから「悪い、席を外す」と言って俺の横から立ち上がり何処かへと向かって言った。

 サルバの目に涙のようなものが見え、彼に苦しいことをさせてしまったと、俺は後悔した。



 ユイノを置いてきてしまっていたことに気が付き急いでベンチへと戻る。

 そこには一人ちょこんとベンチに座るユイノの姿があった。


「ちゃんと待っててくれたんだな」

「行き違いになったら探すのが面倒ですからね」

「確かに……っとユイノ」

「はい?」

「今日はもう帰ろうと思うのだが」


 そう言うとユイノは特に気にすることもなくうなずいた。


「そうですね、マサキも今日は毒にかかっていますし、もう帰りましょうか」

「ああ、じゃあちょっとリリアナに言ってくる」


 別に報告する必要性はない。

 だが先ほど、俺の姿を見たのだ。一応というやつだ。


 リリアナはロビーの隅の方に一人で突っ立っていた。

 近づいていくとリリアナは腕で目を拭った。


 ……泣いていたんだ。


「ここに居たか」

「なんだ、マサキ」


 泣いていたということは触れないでおこう。


「いや、なに。俺とユイノは今日は先に帰ってるから。まあ、言う必要はなかったんだが何となくな」

「……ああ、わかった」


 そう言って笑うリリアナ。

 見ているこちらが辛くなる笑顔。


 もはやそれは笑顔と呼べるかもわからない。

 リリアナはこんな時まで心配を掛けまいとしているなんて……。


 俺は苦しく思い、しかし何か言葉を掛けること出来なかった。



 ロードを出るともうすでに日が傾き太陽の半分が山に食べられていた。

 家に着くころにはすでに日が沈み辺りは真っ暗であった。


「ただいまー」

「ただいまです」


 二人そろって帰宅。

 誰もいない家に向かって帰還のあいさつをすましてから俺は洗面台からキッチンへ。ユイノはソファーへ直行した。


「おい、ユイノ。先に手洗いうがいして来いよ」

「はいはい、わかりましたよー」


 ロードでの態度とは一転し家では緊張が解けたようで、ユイノはぐーたらモードに移行していた。


 言葉だけで動く気配のないユイノに近づき体を持ち上げその場に立たせる。


「なんですかー。……ちょっと痴漢じゃないですか?」

「ガキ相手に痴漢とかあるのか?」

「ちょ、ちょっと!ガキってなんですか!?」

「はいはい、すぐにご飯作るからお手て洗ってこようねー」

「それ、ガキ通り越して赤ん坊になってるじゃないですか!?」

「いいからさっさと洗って来い」


 ユイノの言い分を軽く受け流しながら、洗面台の方へと背中を押してユイノを連れて行く。

 その間ふてくされたような表情をしていたユイノであったが洗面台に着くと素直に手洗いとうがいをした。


「んじゃ、すぐ作るからちょっと待ってろ」

「……はい」



 適当に飯を作りテーブルに並べる。

 三食付くって一食分だけあの籠のようなものをかぶせておいておく。


「はい、手を合わせてください!」

「ん?手?」


 俺の言葉と行動に不思議なものを見る目でをれを見てくるユイノ。


「どうした?」

「いえ、なぜ手を合わせるのですか?」


 なぜ?

 そう言えばなぜだろうか?


「こ、これは俺の故郷の習わしでな、食事をする前に手を合わせて『いただきます』って食材になった命と作ってくれたものに感謝の意を示す行動なのだ。古くからのことなので感謝を示す行動がなぜ手を合わせることなのかはわからん」

「は、はあ。……これでいいですか?」


 そう言って両の手の平をくっつけて確認してくる。


「ああ、問題ない。では、いただきます」

「い、いただきます……ところでマサキ。いま、マサキは食材になった命と作ってくれたものに対する感謝の意、と言いましたよね?」


 ユイノの言わんとすることが何となく理解できる。


「……ああ」

「では、いま、マサキは自分自身に感謝したのですか?」

「お、俺は、食材となった命の方だけに感謝したんだ」

「へー」


 反応がちょっと冷たい気がします。



 その後は、歯を磨きしばらくユイノと話して情報収集をしてから寝た。

 情報収集の間俺は幾度となくダジャレを言ったり、茶化したりしてユイノを笑わせる。


 そうでもしないと、静かになると空気の重さに押しつぶされそうになったから……。



 翌日、目が覚めるとテーブルでリリアナが眠っていた。俺はソファーで眠っていたのでテーブルはすぐ見える位置にある。


 近づき、空になっている皿を見て昨日のうちに帰ってきていたのだなと判断。

 その場で寝ているところから夜遅かったのだなとも判断。


 俺は起こさないように毛布を掛けてやり、顔を洗ってから朝食を作る。

 出来るだけ静かに作っていたのだがリリアナはすぐに起きてしまった。


「わるい、起こしたか?」

「これは……ありがとう」


 俺の質問には答えず。自分の身にかかっていた毛布を掴んでから俺に礼を述べた。


「疲れているんだろ。もうちょっと休んどけ」

「いや、大丈夫。……それに目が覚めればなかなか眠れないたちなのだよ、私は」

「そうか。でも、そこより、ソファーに移っとけ」


 テーブルには木でできており、椅子もまた同じ木でできている。

 ソファーの方が柔らかいので、そっちの方が休むにはいいだろう。


 その意図をくんでくれたかどうかはわからない。

 だがリリアナはこちらに笑顔を向け言った。


「ふう、そうだな。そうしよう」


 ただ、その笑顔はやはり見ていられないものだった



 ユイノを叩き起こし、三人で朝食を食べ終え俺が洗い物をしているとリリアナがぽつりと呟いた。


「昨日は悪かった」


 謝られることに当てがなかったので素直に聞き返す。


「何がだ?」

「……昨日は少し冷たい態度をとってしまったからな」


 言われて気付く。


「ああ、目をそらしたやつか。でも、そんなもん気にしてねえぞ?」


 実際に俺は傷つくこともなかったし、というかむしろ俺が悪かったのだ。

 リリアナが謝る必要などない。


「それはよかった。なあ、マサキにユイノ。聞いてほしいことがある」

「聞いてほしいこと?」

「なんですか?」

「昨日、お前たちが帰った後、いろいろと騒ぎがあったのだ」


 リリアナは目をつぶり思い出しながら語りだした。



「昨日、あれから私たちは話し合い、その結果、死んでしまったパーティーの奴らの墓に初回ドロップアイテムをお供えしようと思ったのだ」


 リリアナがぽつぽつと語りだしたこと。

 それを聞いていて俺は嫌な予感がし始めていた。


「だが、我々のパーティーメンバー全員ボスからドロップしたものを見せ合っても初回ドロップ品と思わしきアイテムを持っていなかった」


 それはそうだ、なぜなら今すぐそこ。壁にもたれかかっている俺の剣こそが初回ドロップ品なのだから。


「今までにこんなことはなかったことから、我々が挑む以前に誰かが八十九層ボス部屋に侵入していたということがわかった」

「ですがそれって……」


 ユイノがリリアナの話に疑問をぶつける。


「ああ、ロードがその挑戦者を受け入れたことになる。まあ、ロードが受け入れようと法で先にドアに触れること自体禁止されているし、犯罪は犯罪だ」


 聞いていて冷や汗が止まらない。

 服が背中に張り付いて不快感を覚える。


「ただ、挑戦したのならば、情報を流すくらいあっても良かったのではないかと……私…わぁ」


 リリアナの声に驚き思わずそちらを見る。


 目から涙がつぅーと頬を通ってテーブルの上に落ちていく。

 一滴、二滴。


 それはリリアナが俺たちに見せた初めての涙だった。


「り、リリアナ!?」

「すま……ない……。でも…悲しいのだぁ……」


 リリアナは常に俺たちに心配を掛けまいと笑顔で接していた。

 そのリリアナがここまで感情を表したのだ。


「全滅したパーティー。知り合いでもいたのか?」

「……ッ!」

「マサキッ!」


 俺が言った瞬間リリアナの表情が変わる。

 それを見たユイノが俺に怒鳴る。


「マサキはどうして何でもかんでも思ったことを口にするのですかっ!周りのことをもっと考えてください!」

「え……?あ……」


 そんなこと言われないと気付けない。


 そんな自分が恨めしい。


 リリアナは俺の発言で一層泣く勢いがまし、この部屋の中はとんでもない修羅場となっていた。


「マサキは、どうしてっ!どうして気づくことができないのですかっ!」

「……ッ!……んなこと……言われても……」


 ユイノは、周りの感情を理解しないと生きていけない状況で生きてきた。

 リリアナは多くの人と接し、感情の流れを読み、人と仲良くしながら生きてきた。


 だけど俺は……。


「……俺は、一人で……生きてきた」


 自分にしか聞こえない程度の呟き。


 俺の態度の急変に驚くユイノ。それは泣いていたリリアナも同様だ。


「俺は……ずっと、一人で……」


 がんばってがんばってがんばってがんばってがんばって……!


 ――努力に裏切られて、生きてきた。


 誰ともかかわらず、楽しいだろうなと思うことも気持ちを押さえつけて……。

 頑張ったのに裏切られた。一人の人間の言ったことを信じたばっかりに……。


「やっと、俺を見てくれる人を見つけても。離れ離れになって」


 そんな俺が……。


「気が付いたらわけわかんねぇとこにいて……」


 そんな意味不明な人生送ってきた俺がッ……!


「周りの感情なんてぇ、わかるわけねぇだろうがよぉぉ!」


 頬に熱いものが伝っていくのが感じられる。

 手でそれを拭うと手が濡れた。


 泣いてんのか?俺……?


 ……情けねぇ。


 俺は壁にあった魔剣サタンにを手に持ってそのままリリアナの家を飛び出した。


 目的地もわからないままただひたすらに走って、走ってこの場を後にしたかった。

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