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刀でダンジョン攻略目指してます!  作者: 赤月ヤモリ
第一章・連れてこられて異世界へ
13/23

ジョブ

「マサキッ!危ないッ!」


 考え事をしていた俺の思考を現実へと引き戻すのにはその叫びだけで充分だった。


 横合いから大きな蛇が襲いかかってくる。

 慌ててサタンに手を掛け居合の要領で引き抜こうとする。が、遅れた判断は現実に追いつくことはできない。

 ならばと思考を相手の迎撃から自分の防御へと変更する。


 致命傷を避け、相手の攻撃を防御する。

 頭の中でシュミレーションを一瞬で終え、今行ったシュミレーションを現実で試す。


 ナーガが口をガバッっと開けて襲いかかってくる。鋭い牙が見えた。あれでかぶりつかれてしまえばひとたまりもないだろう。

 シュミレーション通りその口を左への移動でよける。


 だが、現実とシュミレーションでは決定的な違いがあったことを俺は見落としていた。


 シュミレーションでは攻撃をよけてその後サタンを引き抜き攻撃。それでこの危機は脱せられるはずだった。

 現実は……。


「ユイノッ!」


 俺を助けようとこちらに駆けてきていたユイノ。

 攻撃をかわすことによりナーガの攻撃の標的はユイノへと移ってしまう。


「え……?」


 間抜けな声を出すユイノ。


 このままでは、ユイノがッ!


 そう思った俺にもう迷いはなかった。


 避ける動きを左足の踏込で強制的に止めそのまま地面を強く蹴りナーガに体当たりする。

 俺は蛇の化け物と一緒に地面をごろごろと転がりユイノからナーガを遠ざける。

 転がる勢いが収まると急いで立ち上がりサタンを引き抜く。


 次の瞬間、右足に激痛が走る。


「いってぇ!」


 足を見るとナーガがその大きな口で俺の右足に横からかぶりついていた。


「くそがッ!」


 首元に一線。ナーガの首と胴が離れる。

 サタンの攻撃を受けたナーガは四散し足にくっついていた頭も同時に消滅した。


 だが、足にはかまれた跡がある。

 ナーガのあの鋭い牙が先ほどまで刺さっていたかと思うとよく肉を持っていかれなかったなあとくだらないことを思ってしまった。


「マサキッ!大丈夫ですか!?」


 ユイノが血相を変えて近づいてくる。

 視線を俺の右足の傷に目をやると顔を苦の表情に代えて呟いた。


「すいません、私のせいで」

「なぜ謝る、ロード内で気を緩めていたのは俺だ。自業自得というやつだ」

「ですが!私が近くにいなかったら、マサキはきっと傷を負いませんでした」

「だが、お前がいなかったら、俺はさっきの大群が来たときに死んでいたぞ?」

「それは……」

「だから、これは俺の自業自得だ。お前はまったく……ッ!」


 気にする必要はない。

 そう言葉を発そうと思っていた。

 だけどできなかった。

 ……全身が強烈な不快感にさいなまれたから。


 なにかが口の中に込みあがってくる。

 苦い。そう思ったのでそれを吐き出す。

 赤い。今度は恐怖が全身をつつむ。


 吐血したのだ。


――ナーガは毒を持っています。


 あれだけ最大に噛みつかれたのだ。


「どく……が……はいってない……ほう……が……おかしい……か……」


 かすれかすれになりながら言葉を発する。


「マサキッ!マサキッ!」


 自分に対してモニタリングを使う。


 坂上 雅紀、性別、男 HP七十二/百


 HP、七十/百

 HPの表記が二減る。

 さらに減って六十八。


 どうやら二ずつ減っていくようだ。


「これが……どく……か」

「毒!?……ど、毒なら、『リカバリー』」


 俺に対し神木の杖を向けそう言ったユイノ。

 直後、先ほどまでの苦しみが一気に消えすっきりとした気分になる。


「お、おおお!すごいぞユイノ!」

「先ほどはあわてましたが、私はこれでも魔法使いですからね!」


 そう言い無い胸を張るユイノ。


「魔法使い……ということは今の『リカバリー』というのは魔法なのか?」

「え、あ、はい」

「いまだに火人族の使う技と魔法の違いが判らないのだが……」

「そうですか?」


 教えてあげましょうか?と言いニヤニヤしているユイノ。

 ちょっとイラっと来たがこれは情報収集のチャンスだと思い教えてもらうことにした。


「じゃあ、教えてもらえるかな?……ロビーで」

「そうですね」


 どこから湧いてきたのか周囲には大量のナーガがいた。


「蛇はあんまり好きじゃねぇんだけどなぁ」


 俺はサタンを握りなおして勇むように吠える。


「さっきは油断したが……今度は、油断しねえぞぉ!」




「はてさて、確か魔法と火人族の技の違いについてというものでしたね」

「ああ」


 ここはロビーの端に位置するベンチ。周囲には何人かの人が座っている。

 ユイノは前回と同様あの個室へと行こうと言ってきたが、それこそ前回と同じことになるかもしれない。

 あんなのはもう結構なので、俺がここしたいと言ったのだ。


 ……え?ナーガの群れ?

 もちろん全滅させましたよ?サタンがあれば余裕でしたよ?


「まずは火人族の技について説明します。まあ、簡単な話ですがその種族ならではの技と言いますか、エルフが念動力を使えるように火人族には火を生み出すことができるのですよ。わかりますよね?」

「ふむふむ。なるほど……ってわかるわけないだろ!」


 思わず乗りツッコみをしてしまった。


 周りの人が驚いてこっちを見てきたので俺は「すいません」と言って頭をへこへこ下げて謝る。


「どういうことだ?エルフは念動力を使えるのか?」


 念動力つまり……エスパーとか超能力とかのことだ。


「えーっと、はい。……これも知らないって、マサキは本当にどこから来たのですか?一度行ってみたいです」

「あはははは」


 これは疑問をぶつけるより、おとなしく聞いたことを受け入れるのが吉と見た!


「あー、そうだったそうだった!エルフは念動力使えたな!」


 怪しまれぬようにフォローも忘れない俺!まさに完璧元ニート!


 しばらくジト目でこちらをにらんできていたユイノだったがすぐに話の続きを話し始めた。


「まあ、その、現象ってやつですね。その種族が生まれた時からなぜか知っているというものです。私は人とのハーフでしたので知りませんでしたが。……人間にはないと聞きました。本当ですか?」


 おっと、質問していたら質問をされた。

 というか、なかなかに難しいことを話されるなぁ。


「ああ、そうだな」


 もちろん適当だ。

 そんなもの知るはずがない。


「やっぱりですかー。……あ、すいません。まあ、そんな感じで現象というのがファイアエクスプレスです。火の現象を行うことのできる火人族だけの……種族技、とでも言いますかね。そういうものです。……次に魔法ですね。魔法を使うためには、魔法使い、または魔術使いのどちらかのジョブを手に入れなければありません」

「魔術使い?」


 魔法使いと魔術使い。いったい何が違うというのだろうか?


「えーっとですね、魔法使いというのは主に魔法で回復を行うジョブのことです。先ほどのリカバリーなどがそれに当たります。それで、魔術使いというのは魔法で攻撃を行うジョブです」

「つまり、魔法使いは魔法で攻撃を行うことは出来ないんだな?」

「そうなりますね」

「でも、お前は魔法に似た種族技で攻撃ができる……と」

「そうなりますね」

「……ずるくね?」

「そう……そんなことないでしょう!」


 そうかなぁ。

 回復しかできないはずのジョブの持ち主が攻撃もできるって、かなりのチートだろう。


「それで?魔法と種族技の違いって?」

「あ、そうでした。種族技は先ほども言った通り現象です。ですが、魔法というものは、『魔力』を使用して技を放ちます」

「だろうな」

「え?」


 おっと、思わず心の声が漏れてしまった。

 まあ、この辺りは想像通り。というか、ゲームなどと同じだ。


「ちなみに魔力は、魔法使いなどの魔法職を手に入れてからではないと使用することができません」


 このあたりも予想通り。


「魔法職を手に入れても魔法使いになれない。または魔力に個人差があり強い魔法が使えない。なんてことはあるのか?」

「……そんな話は聞いたことがないですね。ですがなりたての頃は魔力が少ないと聞きます。時間がたつと大きな魔法が使えるようになるそうです」

「それは、ジョブのレベルが上がったから。ではないのか?」


 俺の言葉にユイノは驚いた表情を見せる。

 そしてそのあと何やら納得したような表情を見せる。


「なるほど!ジョブのレベルが上がるから魔力が大きくなっていたのですね!?」

「って、気づかなかったのかよ」

「魔法を使う魔法職の人間は希少です。親が魔法職に就いている、以外ではいまだ魔法職に就く方法がわかっていません」

「親が魔法職……ってあれ?お前……」


 ユイノは奴隷との間に生まれた子供だ。

 魔法職という希少な存在が村に住んでいたなどとは考えられない。

 つまりユイノの母フランは魔法職についてはいなかった。

 父親の奴隷というのも、魔法職に就いているものが奴隷になるとは思えないので白。


 ……ユイノは、魔法職の子供ではないはずだ。


「両親はともに魔法職ではないですよ。母から聞いていました。……魔法職に就くにはもう一つ方法があります。しかしそれは確定的なものではなく、たまになるらしいというものです」

「その方法は?」

「……魔法職の人の近しい人間になる。です」


 どういうことだ?


「えーっとそれは……?」

「恋人や婚約者、パーティーメンバー。そのような人たちが気が付くと魔法職になっていたということがたまにあるのですよ」


 ……まったくもって意味が分からない。

 ユイノの話からすると近しい人間にまるで魔法職が病気のように伝染しているようではないか。

 いったいどういう……。


 そこまで考えて俺は確かめる一つの名案を思い付いた。


 深呼吸し念じる。


――ジョブ取得方法の判明。


 直後眼前に文字が浮かび上がる。

 文字は日本語で書かれており読むことができた。


 冒険者、剣士、騎士、女騎士、兵士、番人、etc……。


「こ、これは……」


 あまりの興奮で声が漏れてしまった。

 隣のユイノがこちらを向き、「どうしたのですか?」と聞いてきたのに対し、「何でもない、少しの間、今聞いたことについて整理させてくれ」と答えもう一度文字を読む。


 これは、ジョブの名前だ。

 書かれてある文字を上から下へと読んでいるとスッと下に隠れていた文字が出てきた。


 おおおおお!

 スマートフォンのスクロールを視線で行っている感覚だ。

 ということは……。


 冒険者というジョブに視線を当て意識を集中する。

 すると、ページが変わったように新たに文章が出てきた。


 冒険者、戦闘職。最大LV1

 取得方法、ロード内に入りモンスターを倒す。

 ジョブスキル、無し。


 文章の出現に驚き、内容に落胆する。

 冒険者というのはとんだゴミジョブのようだ。


 取得方法が簡単なのだからまあ、こんなものか。

 ある意味これを持っていなかったらニートと同じってレベルだな。


 俺は冒険者ジョブの批判をこれくらいにし本題に移る。


 多くあるジョブの中から魔法使いの取得方法を探す。

 ……見つけた。


 意識を集中し魔法使いのページを開く。


 魔法使い、回復職。最大LV99

 取得方法、生みの親の両方が魔法使い。魔法使いとの性交によりまれになることができる。

ジョブスキル、魔力を使用し回復魔法を扱えるようになる。


 さすがは魔法使い。冒険者とは全くと言っていいほど性能が違うな!

 ……取得方法も。


 これは!?……うん、なるほど。

 近しい人間が魔法使いになるわけだ。

 恋人、婚約者、この二つは当然そうなるわけだ。

 パーティーメンバー、これに関してはパーティー内で恋愛が起きたのだろう。

 それで近しい人間に伝染しているようになるということか。

 まるで、一種の性病だな。


 そう思い、思わず苦笑する。


 ……まて。

 ユイノの親は魔法使いではない。

 つまるところ、ユイノが魔法使いになるためには残り一つの選択肢。


――魔法使いとの性交を行い手に入れたということになる。


 思わずユイノを見てしまう。

 いきなり見られたことに驚いたのか目をぱちくりさせるユイノ。


「な、なんですか?」

「……いやー、最近の子は進んでいるんだなぁって思っただけ」



 リリアナ達の帰還を祝福する歓声が聞こえてきたのは、それから数分後のことだった。

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