9 獅子王さまの悋気
常用漢字ではない漢字の使用が多々あります。 僅かですが、当て字もあります。それ等は、誤字・脱字と共に、広い心で お赦しください。
その他は、まぁ、いつも通りです。
ラッケンガルド滞在-4日目の続きです。
では、どうぞ。
___視点:〔森之妖精〕-リーゼロッテ___
交信を終えて 綜ての結界と障壁を解除した魔法使いは、ほぅ と息を咐いた。
それから、軽く眉を寄せる。
急に、強い虚脱感に襲われたのだ。
これは、魔法使いが〔時之女神〕に『支払わされた代価』だ。
未来を予見し その内容を、譬え 一部とは云え〔海之妖精〕に語った。
序でに云えば、その場に居併せたラノイ達にも聴かせてしまった。
これに因り、代価は『軽度の魔力消失』から『膨大な魔力の消失』へと増加している。
虚脱感は、大部分の魔力を失った事に因る 副作用的-反応だ。
《 ごっそり 持っていかれてしまった。》
簒われるのは 多量の血液か 大量の魔力と予測していただけに、魔法使いが 姍めく事はない。
寧ろ、傷や 出血に至らなくて安堵した、と云っても良い。
独りの時なら 未だしも、ラノイ達がいる前で 血に塗れるのは気が引ける。
驚かせ 気を揉ませてしまうばかりか、その光景に 気分を害させてしまう攸だったのだ。
最悪の事態を避けられただけで、彼女は 満足していた。
そもそも〔海之妖精〕の為に(一部とは云え)未来を談したりしなければ良いだけの事、とは 考えない。考えもしない。
我儘ばかりを言われようとも 面倒ばかりを持ち込まれようとも、魔法使いにとって 彼女は仲間なのだ。
苦言を零しはしても、見放す事はしない。
〔海之妖精〕も、それが判っているから 魔法使いの優しさに付け込んでいるのだが。
彼女が採ってきた 白い貝と青い小石など、前回の迷惑料として 足るモノではないのだ。
魔法使いは、改めて 手の中の魔法素材へ睛を向けた。
ほっそりとした掌に載っているのは、6っの魔法素材 ーーーー〔人魚の鱗〕と〔深海の瞳〕だ。
元々、白い小さな二枚貝と 青い小石に見えるモノは、ラノイ達の為に欲した 魔法具の素材だ。
昨夜の内に エスファニア王国へ戻り、もう1っの触媒も手に入れている。
後は、それ等を魔法で合成し 装身具として加工して、ラノイ達に渡すだけである。
しかし、全身を占めている虚脱感は、それ等を阻害する程 重苦しいモノだった。
《 折角、材料が揃ったのに。》
親指の爪くらいの大きさの 白い二枚貝は、勿論、本物の人魚の鱗ではない。
青い小石にしか見えない〔深海の瞳〕は、深海-500メートルで手に入る 青真珠だ。
どちらも、永い時間を縣けて 海の魔素を吸収し、自ずと魔法素材になったモノだ。
一方、エスファニアの 北の国境-際から採ってきた〔泠祜の葩〕は、魔女が創った魔法製植物だ。
強力な浄化の魔法を縣けられた、成立ちから 魔法で創られた樹木の花葩である。
この花の寿命は一週間-程度だが 次から次へと咲くので、結果として 年中-咲き誇っている。
1っの花弁は、幅-3センチ 長さ-7センチになる。
姿形だけは 辛夷の花を連想してもらえば、当たらずとも遠からず だ。
半透明の花葩は 淡い桜色に染まり、晃りを透かすと 仄かに煕く。
何とも美しい 魔法製植物であった。
その樹木-〔祈りの樹〕は、火山の麓に口を敞いた 小さな泉の深部に在り、その花-〔泠祜の葩〕は、咲くと同時に 水を浄化し始める。
火山からの噴石に含まれていた 毒性のある鉱物も、それ等を含んだ灰が積もる〔死の平原〕も、この水に因って浄化されてゆく。
岩石や溶岩石の隙間を伝い 驚きの速度で周囲に染み渡り、かの地を 肥沃な火山性土壌へと変貌させ続ける。
そして、1っの花は、約-1週間で 水に融けて消えるのだ。
そうして、泉の水は エスファニアの北の国境付近を浄化し続け、泉から溢れた水は エスファニアの東部を流れ、更に広範囲の土壌を浄化・潤してゆく。
魔法使いは、その蕾を 3っ摘んできた。
花の特性上、蕾が 最も浄化の仂が強い為である。
《 この場で、と思っていたのに………。》
それが出来ない程、強烈な疲労が襲い掛かってくるのだ。
よしんば、この状態で 魔法を揮う事が出来たとしても、真面に合成が出来るかと云われれば 否としか答えられない。
今は 魔法を使う為の集中力を絞り出す事も難しいのである。
〔時之女神〕の代価は、公正で公平で 情け容赦がなく、魔法使いとして まだまだ幼い身の彼女には 辣いモノだった。
膨大な魔力を具える〔森之妖精〕だからこそ、この場で昏倒し そのまま昏睡状態に入らずに済んだのである。
しかし、一瞬で 半分以上の魔力を簒われたのは、流石に 拮かった。
誰もいなければ、この場に膝から垉れ、へたり込んだまま 竚ち上がる気にもならなかっただろう。
そんな疲労感と 虚脱感の中、魔法使いは 気力だけで竚っていた。
睛は 軽く俛せられていても、苦痛に歪む事はない。
しかし、これは『平然を妝って 竚っていられる』と云うだけだ。
肩を掴まれて 引っ張られれば、簡単に姍めく程度の意地である。
だが、これは 見ている者達には判りようもない虚勢だった。
特に、やや頭に血が昇っているラノイには 察しようもなかったらしい。
「今のは 誰だ?」
「っ⁉︎ 」
いきなり肩を掴まれ 力盡くで軀を反転させられれば、蹌踉けてしまう。
尤も、蹌踉け様もない程 強く肩を掴まれているのだ。
ふらつく隙もなかった、と云うのが 表現として正しい。
しっかりと支えられ(もとい 掴まれ)ている為、竚っていられるが、脳が揺らされた様な眩暈は 別だ。
何度か 小さく眼舜きをしているのは、そのせいだろう。
だが、間近のラノイも 離れた場所にいるシズ達も、そんな事には気付かない。
「クー と云ったか………あれは、何者だ?」
ラノイは、正面へ向けさせた魔法使いを 拮く見据えた。
長めの前髪から見える眉間には 皺が寄り、その下にある 切長の睛は すっかり座っている。
さらさらの黒い前髪に隠れているが、片眉は ぴくぴくと痙攣し続けていた。
なのに、片頬は 笑みを象っており、それに伴って 片方の口角が吊り上っている。
誰が どう見ても、不機嫌-極まりない人間の顔だ。
「ぁ…………ぇ、と」
余りの勢いに、魔法使いは 睛を丸くした。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:ラッケンガルド国王-ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___
後から考えれば、僕は、頭に血が上っていたんだと推う。
そう『後から考えれば』だ。
この時は、本当に 思考が回らなかった。
「クー と云ったか………あれは、何者だ?」
アシュリーの細い肩を掴んで、乱暴に 向きを変えさせた。
〔海之妖精〕の発言に因る恚りと、アシュリーへの態度への苛立ちと、最後は 謎の少年-魔法使いへの嫉妬。
これ等が 綯い交ぜになった状態だ。
あの我儘女を前に 声が出せなかった事も、僕の 苛々を増長させていた。
それを、全部 アシュリーへ向けていたんだ。
因みに、僕の後ろで 誰かが足踏みをした様な音がした。
たぶん、怒気に當てられたクランツが 気を失いかけて姍めいたんだろう。
「ぁ…………ぇ、と」
一切 感情を匿さずにいる僕を前に、アシュリーは 少し驚いていた。そう、ほんの『少し』だ。
擬音にしたら『きょとん』とか『ぽかーん』くらい。
シズが 吾-関せずを決め込み、クランツが 気絶しそうになっているのに、アシュリーは 睛を丸くした程度だった。
この嫋やかな妖精は、一体 何で出来ているんだろう。時々、不思議に思う。
基本 悚がりなんだ と推っていたが、何で こう云う時は 脅えないんだ?
尤も、今の僕は 素朴な疑問も泛かばない状態だったんだけど。
「 ーーーーーー 」
アシュリーは、ふっくらとした薔薇色の唇を 僅かに敞いたまま、僕を見詰めていた。
そして、1度 閇じてから、再び その魅力的な唇を敞いた。
「通称は クー。彼は、わたしの對の1人です」
実に短い、それでいて とても理解し易い言葉が返ってきた。
これを耳にして、僕の沸騰した脳みそは 一気に冷却された。
「 ーーーーーー妖精、だったの?」
口の中で呟いた この言葉は、眼の前のアシュリーにも聴こえたか どうか。
《 何だ………妖精か。》
それなら、親しくて 当然だよね。
うん、そっか………それも そうか。
アシュリーが頼るんだから、妖精だよね。うん、当然だ。
同じ妖精の我儘女を任せるんだから、魔人の筈がなかったんだ。
ちょっと考えれば 判りそうな事だったのに……。
《 嫉妬って 悚いな、考えもしなかった。》
ゆっくりと息を咐いて、意識的に肩の力を抜く。
その間に、アシュリーが説明を付け足してくれた。
「はい、わたしとは別の意味で 生命を掌握する妖精………〔死之妖精〕です」
どうやら、さっきの呟きが聴こえてたらしい。
それにしても、疑問には 答えてくれてるんだけど、アシュリーの声音は とても淡白だ。
でも、緲かな疑問符が含まれてる。
まぁ、これは すっかり冷静になった今だから 判るんだけどね。
《 どうして、僕が真っ先に訊いたのが〔死之妖精〕の事なのか、理由が判らないんだな。》
〔海之妖精〕について文句を言われるなら 合点がいくのに、って攸かな。
まさか 嫉妬して問い詰められたんだ、なんて 推いもしないんだなぁ。
自分の事を、急場凌ぎに用意された仮初めの妃だ と思ってるんだから、当然か。
僕も、意地悪か 揶ってる様にしか見えない行為しか してない訳だし。
本当は もっと別な事がしたいんだけど、あんなに脅えられると 攻めていいのか 迷うんだよねぇ。
本気だ とバレて 逃げられちゃったら、元も子もないし。
悚がらせない様に、ゆっくり ゆ〜っくり『慣らして』いかなきゃ。
取り敢えず、当面の目標は『抱き締めても硬直しない』様にさせる事かな。
《 遠いなぁ。》
腕の中で震えるアシュリーは、襲いたくなる程 可愛いけど、出来れば 脅えない様になってほしい。
凭れ掛かってくれる様になったら 嬉しい。
抱き付いてくれる様になったら、倖せだろうな………うん、そうなってくれたら倖せだ。
《 問題は、それを短期間に熟せるか、なんだよねぇ。》
僕が 思考を脱線させていたのは、どのくらいの時間だったのか。
たぶん、長くはなかった と推う。
その短時間で、アシュリーは 僕を見上げて こう問い掛けてきた。
「ご存知なのですね?」
主語のない、短い質問だった。
これで、僕は、すっかり脱線していた思考を 直前の会話内容へ戻す事にした。
《 賢い女性だな、アシュリーは。》
真っ先に思ったのは、これだった。
『交信相手は〔海之妖精〕だ』と言っただけで 簡単に許可した事で、その可能性に気付いていたんだろう。
そして〔死之妖精〕について『對の1人』としか言っていないのに対し、僕が 即座に納得した事で、その可能性を確信に変えた様だ。
《 官吏や大臣達の頭も この半分くらいの回転数で働いてくれたら、仕事が捗るんだけどなぁ。》
そうしたら、僕の仕事も減って、その分 アシュリーと遊べるのに……っと、あぁ、また 思考が脱線した。
「うん、まぁ」
暈して答えたけど、アシュリーなら 察しただろうな。
僕が『何で妖精達に詳しいのか』って事に。
《 でも まぁ、この譚は また今度。》
今は、さっきの交信中の疑問を解くのが先だ。
僕は、アシュリーの肩を掴んでいた手から 力を抜いた。
尤も、放してはいない。飽く迄も『緩めただけ』だ。
その上で、僕は 満面の笑顔を作る。
「ねぇ、さっき 我儘女に言ってた『この間』って?」
この質問をしても、アシュリーの表情は 変わらない。
顔色は 勿論、眉・視線・頬や口許の動きに至るまで 全く変化しなかった。
だけど、僕が質問した途端、細い肩が 一瞬 強張った。
肩に手を置いていたから、緲かな硬直に気付けた程度の変化だ。
けど、これで はっきりした。
《 やっぱり、僕と会ってからか。》
この王宮にいる様になったアシュリーが 自由に出来る時間は、多い。
朝昼晩の食事の時や 午前と午後の休憩時間は、僕と一緒だ。
夜は、入浴後の21時から 22時までの 1時間を共にしている。
仲睦まじい夫婦に見せる為……そう言って、アシュリーを説き伏せて設けた 独占時間だ。
勿論、何もしない。
この時間だけは、抱き締めるのも 自重している。
極力 悚がらせない様に勗めて『僕が 傍にいる事』に慣れてもらうのが 目的だからね。
これ等の時間と 就寝時間を差し引くと、11時間-前後。
だけど〔獅子王〕-唯一の妃であるアシュリーには、単独になる時間が尠い。
王宮の中では 他人の眼もあるし、後宮の部屋に引き篭もったとしても お付きの女官達の睛がある。
4人の女官達は アシュリーに好意的で、事ある毎に 甲斐甲斐しく世話を焼こうとしている様だし、単独で行動するのは 難しいだろう。
気侭に王宮の庭を移動する事も多いみたいだけど、その度に 捜し出しているみたいだし。
案外 単独行動を取れる機会は多いけど、存外 独りになれる時間は長くない。
「ナントカのサトって、何処にあるの? 其処から海まで〔海之妖精〕を護ってたって事だよね? 2時間も縣ったのって、遠いって事? 邪魔が多かったって事? 後、それって いつの譚?」
彼女が この王宮にやって来てからの4日間の中で、アシュリーの所在が判らなくなったのは 2日前だけだ。
決められた時間に遅れた事のないアシュリーが 昼食の時間になっても来なかった、あの日だ。
別々に寝ているから、就寝時間に外出していた って可能性もあるけど、さっきの反応からして たぶん違う。
「ひょっとして、この間の、熱があった時?」
あの日、池の滸にいたアシュリーは、後宮へ戻った後 足跡を絶っている。
後宮付きの女官達の譚からして、時間にして 3時間弱だろう。
これは、先程の譚にあった『2時間半』に合致する。
「部屋に戻った筈が 何処にもいない、って女官達が慌ててた日、だよね?」
優しい顔で 穏やかな声で、そう尋ねた。
勿論、内心が そうだとは云わないけど、そう在る様に 努める。
だけど、僕が泛かべていた『雍かい笑み』は、どうやら 剥がれかけていたらしい。
いや、全身から 黒いオーラでも出ているのかも。
背後で『ふぐっ』とか『うぅ』とか、クランツが呻いている。
振り返らなくても、クランツの様子は、大体 判る。
恐怖の余り のたうち回りそうになっているのを 懸命に怺えているのが 半分、僕の黒オーラに當てられて 吐きそうになっているのが 半分、って攸だろう。
取り敢えず、クランツの事は放っておこう。
今は、アシュリーだ。
「っ ぃ、え………その」
言い濁すと共に、両手の下で アシュリーの肩が震え始めた。
「アシュリー?」
余談だけど、アシュリーは 基本的に僕を悚がらない。
抱き締めたりすれば 別だけど、それ以外では 恐怖に震えたりしない。
どうやら、根本的に〔獅子王〕が悚くないみたいだ。
それは『毒入りの お茶事件』にも さっきの嫉妬の時にも立証されている。
因みに、大臣やら 高官やら 官吏やらで、僕を悚がらないのは ほんの一握りだ。
後ろを見れば、判るだろう? 毎日 顔を併せるクランツが ああなんだ。
なのに、嫋やかな容姿に 穏やかで優しい性格の〔森之妖精〕は、苛烈な〔獅子王〕を睛にしても 冷徹な宰相を目の當たりにしても 表情を変える事はなかった。
それだけに、アシュリーが こう云った反応をするのは、ちょっと珍しい。
「っ ぁ、あの………そ れ、は……… 」
「そうなんだね?」
「っ ぁ」
肯定はされなかったけど、反応で 丸分かりだ。
アシュリーは、嘘が誥けないんだな。
《 いや、嘘が誥けないとか 匿し事が下手って云うよりも、もっと 何か……?》
嘘-攸か、碌な言い訳すら誥けないなんて、魔法使いっぽくない。
本来、嘘も 誤魔化しも 匿し事も、時と場合に因って使わなきゃいけない存在だろうに。
そう考えると、別の要因がある気がしてきた。
《 それとも、僕の 戒縛の仂のせいか? 》
使わない様に 気を付けて訊いているつもりなんだけど、何かのフレーズに戒縛の仂が乘った?
それとも、この段階でも 言外の威圧になっている、とか?
この仂で 拘束した上、仮初めの妃を演じさせているんだから、威圧力はある か。
まぁ、これについては、また今度 考えよう。
今は、問い詰めるのが 先だ。
「そんな事までして、どうして……… 」
彼女は 上位の魔法使いであると同時に、幼い魔法使いだ。
強力な魔法を使い 他の魔法属を制圧してきたと云っても、彼女は たった13齢でしかない。
魔法使い達が 100齢-未満を『幼い』としているのは、軀の造りが進化する前だからだ。
魔法を使うと、魔力と同時に 消費するモノがある。
それは、体力であったり 精神力であったり 集中力であったりする、らしい。
僕は 実際に体験した事がないから、これは 師匠から聴いた譚でしかない。
おまけに、僕が使える魔法は、乱発させる類いのモノでも 長時間-放出するモノでもないから、体感する日はこないだろうけど。
兎に角 魔法使いとして身体的-未熟なせいで、幼い魔法使い達は、長時間 魔法を使う事が出来ない、って教えられた。
30分も保てば 上出来だろう、とも 聴いている。
そんな中で アシュリーは、戦闘も繰り広げる 異例の存在だ。
魔法使い達の『蜂蜜』でもある彼女は、老獪な魔人や魔女達を相手に 連戦を強いられる事もある……と云うか、ほぼ 連戦する事になる。
闘う事が出来る 稀少な『幼い魔法使い』であっても、それが 平気な訳じゃない とも 師匠は言っていた。
だとすれば、あの日 熱を出したのは『魔法を使いすぎたせい』だろう。
そう考えると、今更ながら ふつふつと恚りが込み上げてくる。
《 何で、君が そんな辣い思いをしてまで、あんな っ。》
〔海之妖精〕の為に身を削って 他の魔法属と闘うなんて、してほしくない。
あんな我儘女の身勝手な要求なんて、撥ね除けてほしい。
アシュリーが辣い思いをするなんて、間違っている。
君は、小さい頃から苦労ばかりして 悲しい別れだってしてきたのに、自分の為でも 家族の為でもない事で 危険に曝されるなんて赦せない。
《 自分の身を護る為なら 未だしも、あんな! あんな、アシュリーを利用するだけの妖精の為に、何で君が! 》
アシュリーの立場を考えれば 考える程、僕の頭の中を、それだけが ぐるぐると回る。
自覚させられる、僕にとって アシュリーは、特別な女性なんだと。
〔森之妖精〕であるとか 僕にとっても『甘露』であるとか、そんな事は関係ない。
そんな仂を持ち併せていなくても、アシュリーを好きになった。きっと、無関係に 大切な存在になっていた。
何10万といる魔法使い達の中で 数100番と云う序列に位置していようと、エスファニア王の従妹姫だろうと 関係ない。
絶対に、誰にも渡したくない女性なんだ。
《 その君が、どうして あんな我儘女の為に⁉︎ 》
声にはしないが、脳内であがる噭びは この類いのモノばかりだった。
僕だって 判っているんだ、また 冷静さを失ってきている事は。
だけど、どうしても あの妖精の理不尽を許容出来ない。
そんな僕の心境を知ってか 知らずか、蒼穹の如き瞳が 軽く瞬いた。
それから、ゆっくりと語り始めた。
「〔海之妖精〕は、魔法属の間でも星の属性だと云われていますが、本当は 陽の属性で」
いつもの様に 口許に小さな笑みを泛かべて、いつもの様に 穏やかな声で、アシュリーが 談している。
それは、まるで 冷静さを失っている僕を鎭める様な、落ち着いた 軟らかい声だった。
「4人の妖精の中で、唯一、對がいないのです」
この言葉に、僕の思考は 一旦-停止する。
軽い誤作動を起こした機械が 直前の作業を強制的に休止させ、再び起動し始めた状態に似ている。
まさか、実際に 己れで これを体感する日がくるとは思わなかった。
だけど、現実に 僕の心の中は、一瞬前の荒れ模様が嘘だったかの様に 凪いでいた。
「いない と、何か違うの?」
我儘女への苛立ちも、今は消えている。と云うか『忘れて』いる。
だから、普通に質問なんかしていられたんだ と、後から理解した。
つまり、この時の僕は 本当に『忘れて』いたんだ。ちょっと前まで、本気で怒っていた事さえ。
荒れた水面に 小さな石を投げ入れられただけで鎭まる、こんな事は 魔法でなければ爲し得ない。
尤も、アシュリーに魔法を使われた と云う感覚はなかったんだが。
そのせいなのか、どうなのか。僕は、この違和感に 後々まで気付く事はなかった。
僕の後方にいる シズやクランツも、同様の体験をしているのか。
僕が 急に恚りを鎭めた事に疑問を懐く事はなかったらしい。
そんな男達一人一人へ ゆっくりと視線を向けてから、アシュリーは 再び語り始めた。
「わたしは、産まれた時から 對の2人がいて、彼女の感覚は 判りません。ですが……… 」
言葉を途切らせた 僕の お嫁さん(今は 仮のままだけど)は、緲かに息を附いている。
ひょっとしたら、当人も『理不尽だ』と思っているのかもしれない。
それでも 侑ける理由があるのかもしれない。
ぼんやりと そんな事を考えながら、続く言葉を待つ。
「〔闇之妖精〕や〔死之妖精〕の言葉を借りるなら、どんな時も 何処か充たされない感覚と、まるで 世界から隔絶された様な 裏寂しさがある、の だ、とか」
最後の部分は、聴いた譚であっても やはり理解は出来ない、と云ったニュアンスが感じられた。
「對って、そんなに………影響力の強い者なんですか?」
「そうらしい です」
アシュリーは、シズからの質問に 小さく頷いて答えているが、そもそもが実体験していない 感覚の譚だ。
どうにも 現実味の欠ける返答になってしまう。
本人も それが判っていて 申し訳なさそうにしているけど、こればっかりは アシュリーにだって どうしようもない。
僕達も その事は判っているけど、それでも、この場では アシュリーに訊くしかないんだ。
「不安定な感じ、って事?」
僕の問いに、アシュリーは ゆっくりと頷いた。
「だから〔闇之妖精〕も〔死之妖精〕も、〔海之妖精〕を見放さないのだと推います」
アシュリーが魔法使いとして目醒めたのは 13年前、産まれてからだって 20年も経っていないだろう。
つまり、アシュリーの對である 2人の妖精も、20年くらい前までは 同じ『不倖せさ』を感じて生きてきた、って事だ。
況してや、魔法使いは 長寿だ。
古い者に至っては『いつから存在しているのか 誰も判らない』と言われる世界だ。
その悠久とも表せる時間を 充足感も幸福感もなく過ごすのは、苦行だったろう。
〔海之妖精〕は 200齢だと云うなら、尠くとも200年は 耐えてきたのだ。
そう考えると、妖精達が見放さない理由も 判らなくはない。
「妖精は、生まれる事が稀な存在。彼女は、今 200齢-剰り。陽の属性である〔海之妖精〕の寿命がある内に、對に巡り会える可能性は……… 」
アシュリーは、最後の一言を発しなかった。
〔森之妖精〕の状況を考慮すれば、同じ陽の属性である〔海之妖精〕も 標的にされる確率は高いんだろう。
そうだとすれば、自分の身を護る事すら出来ない(しない?) あの妖精は、他の魔法使い達に逮われず 寿命を全う出来るかも怪しい。
憫れに思って 妖精達で護ってやっている、と云う事だったのかもしれない。
相当 運が良くなければ、倖せだと感じる事なく 生涯が閇じる……この確率のほうが 高いんだ。
《 それは、辣いな。》
これは、誰でも自棄になる状況だ。そう得心した。
理解してしまうと、あの我儘女を断罪するのが躇われる。
交信の間は 斬り殺してやろうと決めていたけど、流石に 無理だな。
アシュリーに近付けたくはないけど、彼女の協力が必要な事も 判らないでもない……勿論、あの ふてぶてしい態度は 許容出来ないが。
腹立たしさが消えた訳じゃないけど、もう 矛先を向ける気にならなかった。
「つまり、あれは、自棄の末の 我儘ですか」
僕の後ろでは、シズが 独白の様に呟いている。
流石は 僕の義兄、考える事が似ているな。
尤も、アシュリーを知ってしまった僕とは違って、シズの声は 強い惘れを含んでいたけど。
「小さな子供の我儘の様でしたが」
僕の怒気から解放され 体調を取り戻しつつあるのか、クランツも 掠れた声で同意の言葉を零したのが 緲かに聴こえる。
だけど、僕は 賛同しかねていた。
アシュリーが いなくなったら、僕だって 理不尽を周囲に強いるだろう。
自分が 身勝手で横暴な八つ当たりをしていると理解していても、それを止められないだろう。
周囲の者達が 僕の心を慮って どんなに親身になってくれても、どんなに尽くしてくれても、だ。
少し想像しただけで、地獄だと推う世界だ。
下手をしたら、あの我儘女よりも酷い事をしかねない。
そう思うと、言葉にならなかった。
「皆様には 不愉快な思いをさせてしまったかと推いますが、どうか」
アシュリーは、赦してほしい とは言葉にしなかった。いや『出来なかった』んだろうな。
それは そうだ。
ついさっき、僕-自身が 殺気に近い怒気を放っていて、それを察知していた彼女は 僕達の不快の程を知っているんだから。
「アシュリーが気にする事じゃないよ」
「そうですね、同席したい と申し出たのは、吾々です」
僕とシズの言葉にも、アシュリーの表情は変わらない。
眼線を下げたまま、沈痛な面持ちで佇んでいる。
優しい魔法使い・綺麗な魔法使い・愛情深い妖精、僕の 大切な妖精。
《 そんな顔は しなくていいんだよ? 》
言葉にしても、アシュリーは判ってくれないだろうな。
まぁ、日頃が日頃だから 仕方がないんだけど、何か ちょっと淋しいなぁ。信じてもらえないのは。
「だけど、無理はしてほしくないな」
このくらいの言葉は 届いてくれるよね? これで頷いてくれなかったら、流石に ヘコむよ?
僕の想いが通じたのか、アシュリーは 小さく肯いてくれた。
「はい」
緲かな肯定が返り、僅かに 肩の力が抜けたのが、掌に伝わってきた。
良かった、少しは届いたみたいだ。
ほっとしつつ、アシュリーを瞰す。
彼女は 小さくはない女性で、僕との身長差は 頭-1っ分くらい。
丁度、僕の顎の下-辺りに 銀髪の小さめな頭がある。
後ろから抱き締めた時は、アシュリーの頭に 顎を乗せてみたりする。
本当は そうじゃなくて、って思うんだけど、ね……悚がらせると 慄しいからね、クランツが。
だから、巫山戯ているとでも受け取ってもらわなきゃ と思うと、子供みたいな事ばかりしちゃうんだよねぇ。
おかげで、僕が本気だ とは悟られてない訳だけど、これって 本気だって『判らせたい時』に苦労しそうなんだよなぁ。
《 こんなに 好きなのになぁ。》
いつ 伝わるんだろう……とか考えながら、アシュリーの肩から 右手を離す。
顔を上げさせたくて 手を伸ばして、気付いた。
「あ……… 」
今日、アシュリーは、淡い紫色の長衣を防寒着-代りに着ていた。
季節は 晩冬とは云え、春は遠く まだ寒い。室内でも厚着をしているのは 当然で、何も可妙しい事はない。
僕が声をあげたのは、その肩の部分に 小さなシミがあったからだ。
はっとして 己れの右手を見ると、掌に 半月型の小さな傷が 3っ付いていた。
《 失策った! 》
そう云えば、交信中 強く握り締めていた様な気がする。
痛みを感じなかったから気付かなかったけど、どうやら 爪が掌の皮膚に食い込んで 傷になっていたらしい。
そのまま アシュリーの肩を掴んだから、彼女の服を 僕の血で涜してしまった。
まさか、と思いながら 左手も離してみれば、アシュリーの肩の部分に 同じシミが付いている。
《 失錯ったぁあ。》
艶やかな銀髪に 穹を写した様な蒼い瞳に、淡い菫色の長衣は 良く似合っていた。
勿論、昨日の 薄紅色も、アシュリーの雍かい雰囲気に合っていたんだけど、やっぱり 青や紫色のほうが 銀髪に映えるんだよね。
僕的に 気に入っていた色合いの服だっただけに、軽く ヘコんでしまった。
「 ーーーーーー……… 」
そんな僕を見て、不思議に思ったんだろう。
アシュリーは、自分の肩を見た。そして、すぐに 僕の手を把った。
その掌にある 幾つもの小さな紅い涜れを睛にして、軽く瞠目したのが判った。
この傷が 如何して付いたのか なんて、アシュリーなら すぐに察しただろう。
「あ……大丈夫だよ、こんなの………… 」
自責の念を懐いてほしくなくて そう言ったんだけど、遅かったらしい。
見る間に、姚しい顔が 無表情になってゆく。
他の人が どうかは判らないが、僕には 泣きそうになっている様に見えた。
「 ………… 」
そんな顔をするな って言いたかったんだけど、一瞬-先に アシュリーが動いていた。
白い手が、僕の両手を把った。
掌を上にしたまま 自分のほうへ導き寄せると、そのまま 顔を近付けた。
傷口を間近から覗き込む様にした アシュリーは、ゆっくりと瞳を俛せる。
次の瞬間、掌に 吐息が掛かった。
「っ!」
ふぅ と息を吹き掛けられただけの事で驚いたんじゃない。
不思議な感覚がしたんだ。吐息-以上に煖かくて、僅かだけど 吐息-以上に甘美な感覚が。
食事の度・休憩の度に淹れてくれる お茶を飲んだ時に感じる、あの倖せな感覚とは 違う。
両の掌から沁み入ってきたのは、鋼鉄の理性を抑えて 慾を刺激する『何か』だった。
僕には、その感覚に憶えがあった。
《 甘露……。》
初めて会った あの日、アシュリーの首筋にキスをして体感した あの『甘露』だ。
あの時よりも 効果は弱いけど、1度 体感していただけに、察するのは早かった。
アシュリーの仂は、どんな形であれ、僕にとっては『甘露』に感じるらしい。
喫驚している間に、アシュリーは姿勢を戻し 僕の手を離していた。
《 これは………大層な誘惑だ。》
あの瞬間、掌に 唇が当たった訳でもないのに、指の先から肘までを 甘い痺れが突き抜けた。
將しく、誘惑だった。勿論、アシュリーに そのつもりがない事は判っているが。
初日の あの時-以来、僕は アシュリーの肌には觝れていない。
事ある毎に 抱き付いたりしているけど、直接 あんな悪戯はしていない。
次に 同じ事をしたら、理性が効かなくなる気がしたからだ。
それだけに、不意打ちの この『甘露』には驚いてしまった。
表には出さなかったけど 今し方の感覚に困惑していた僕は、彼女の表情に気付かなかった。
「 …………申し訳ございません、でした」
苦悩を滲ませた声で、僕は 吾に還った。
見れば、眼の前の魔法使いは、形の良い眉を寄せ 蒼穹の様な睛を細め 色の白い頬を強張らせ ふっくらとした唇を真一文字に結んでいた。
一言で云えば、悲痛な表情をしている。
どうして、アシュリーは こんな顔をしているんだ?
僕が〔海之妖精〕の暴言に 苛立ったから? 交信を聴きたい、と言った 僕の我儘を聆き入れたのを 悔いている?
それとも、そもそも、交信を申し込まれている事を 隠し切れなかった自分に 恚りを覚えて?
《 違う、僕が『傷を作った』からだ。》
忘れちゃいけなかったんだ、この娘は心優しい妖精なんだ って事を。
こんな小さな傷だって 表面に作っちゃいけないんだ。
而も、この状況で。
僕は、無意識の内とは云え、アシュリーを 追い詰めてしまったんだ。
「大丈夫だよ、こんなの……… 」
そう言いながら、自分の掌を見た。其処に 傷はなかった。
「 ………… 」
あれは 治癒だったのか。
それも そうだ。アシュリーなら、放っておかない。
あんな些細な傷に こんな顔をする優しい魔法使いなんだ、この娘は。
《 あぁ、顔を上げてほしいのに……。》
俯かせたくもないし、哀しい顔だって させたくないのに。
自責の念に苛まれる必要はないし、僕に対する詫びなんて もっと必要ない。
だが、謝っても駄目だ。言葉は 今のアシュリーには通じない。
今は、どの言葉も 届かない。そんな気がする。
《 仕方ない、あれを使おう。》
僕は、忘却の魔法を使う事にした。
これは、僕が使える魔法の1っだ。
魔法には 幾つかの範疇がある。
大きく頒けて、加速系の魔法と 減速系の魔法だ。
僕が得意なのは、主に 減速系の魔法……と云うか、この範疇の魔法しか 身に付かなかった。
加速系の魔法のほうが 魔力の消費やら集中力やらは尠いらしいけど、使えないんだから 仕方がない。
本当は、炎とか 風とかを操ってみたかったんだけど、どうやっても無理だった。
《 まぁ、この魔法も便利だから いいけど。》
僕は、俯いているアシュリーの頭に 左手を置いた。
「アシュリー」
名前を聘びながら、捷く 頭の中で呪文を唱える。
《 哀しまないで、悔いたりしないで………アシュリー。》
この名前は 北の国での『通り称』だから 完璧に効くとは推えないけど、多少は 効力があるだろう。
「さっきの、何だったの?」
努めて 優しく、声を掛ける。
アシュリーは、ゆっくりと顔を上げた。その睛から、僕の希まない光りは 消えている。
魔法使い-相手に効くか不安だったけど、どうやら効いてくれた……かも しれない。
忘却の魔法が ちゃんと効いてくれれば、この質問にも 普通に答えてくれるだろう。
《 どうか、答えて。》
祈りに似た気持ちで、僕は アシュリーの右手を見詰めている。
其処には、さっき〔海之妖精〕から手渡された 小さなモノが6っ 握られている。
今 これについて問う程、興味を持っていた訳じゃない。はっきり言って、忘れかけていた事だ。
アシュリーの気を乖らす為の材料を必死に考えて、思い出したのが それだったと云うだけ。
つまりは、忘却の魔法を使った事に気付かせず、今-暫くだけでも気を乖らせれば、それで いいんだ。
一先ず、傷を作った詫びは 後でしよう……と こっそり決意する。
そんな魂胆を隠した 僕の澄まし顔を見上げたアシュリーは、僕の視線を辿り さっきの質問の意図を察したらしい。
彼女は、下げていた右手を僕の前へ上げて 指を敞いた。
「 ………あれ?」
其処には、何もなかった。
《 白いのや 青いのは? 》
小さな白い貝と 小さな青い石に見えたモノは、いつの間にか 仕舞われていたらしい。
問題は『いつ、何処に仕舞ったのか』だ。
そう云えば、僕の傷を痊す時には、もう 手にしていなかった。
だとすると、その前に 懐か 袖口に仕舞った?
いや、そんな仕草はなかった筈だ。
《 僕が、見落とした……? 僕が アシュリーの動きを見遁していた? 確かに 冷静じゃなかったけど、でも そんなに注意が散漫になっていたかなぁ。確かに、頭に血は昇っていたけど。》
反省と 疑問と 後悔を交互にしながら、そんな事を考えて 首を傾げる。
記憶の反芻をしつつ 何もない掌を瞰していて、1っ 思い出した。
アシュリーは、花を出した事があった。
初めて お茶を振舞ってくれた時だ。
解毒の お茶を淹れると言ったアシュリーは、何も手にしていなかった状態から、見た事もない花を 手の中に出した。
出せるのなら 仕舞う事も出来るのではないか、と 漠然と考えた。
もし それが出来るのなら、見落とす以前の問題だ。
「もう 仕舞っちゃったんだね」
カマをかける様に呟くと、小さめの銀髪の頭が 軽く頷いた。
何処に仕舞っているんだろう? 今度 じっくり訊いてみよう。
「アシュリーが 頼んで、採ってこさせたんでしょ? 啻の貝とかじゃない、よね?」
何で〔海之妖精〕に頼まなきゃいけなかったのか とか、何処にある どんなモノなのか とか、気になる事は山程ある。
最初は アシュリーの気を乖らせれば と思っていたけど、今は 僕のほうが気になっている。
「創りたい物があって、用意を 致しました」
「創りたい物とは、何でしょう?」
シズの質問に、姚しい魔法使いは 控え目な笑みを返した。
《 秘密にする気か。》
後で 問い質す事に決定だな。
夫婦(今は仮でも 将来は絶対に夫婦)の間に匿し事は 良くないからね。
今夜にでも 洗い浚い喋ってもらわないと、気になって眠れないしね。
《 僕に匿し事をしちゃいけない って事、判らせてあげないと。》
僕は、黒い笑みでも泛かべているのかな?
何だか、アシュリーが 小さく脅えた様に見えた。
背後から 悲鳴を飲み込んだ音がしたけど、勿論 無視する事にした。
シズさんと クランツさんの存在感は 薄いですねぇ。
次も そうかも。