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戒縛の王と 森の妖精

9 獅子王さまの悋気

作者: にくきぅ

常用漢字ではない漢字の使用が多々あります。 僅かですが、当て字もあります。それ等は、誤字・脱字と共に、広い心で お赦しください。

その他は、まぁ、いつも通りです。


ラッケンガルド滞在-4日目の続きです。

では、どうぞ。




 ___視点:〔森之妖精イリフィ〕-リーゼロッテ___


交信を終えて すべての結界と障壁を解除した魔法使リーゼロッテいは、ほぅ と息をいた。

それから、軽く眉を寄せる。

急に、強い虚脱感に襲われたのだ。

これは、魔法使リーゼロッテいが〔時之女神〕に『支払わされた代価』だ。

未来を予見し その内容を、たとえ 一部とは云え〔海之妖精エルフィ〕に語った。

序でに云えば、その場に居併いあわせたラノイ達にも聴かせてしまった。

これにり、代価は『軽度の魔力消失』から『膨大な魔力の消失』へと増加している。

虚脱感は、大部分の魔力を失った事にる 副作用的-反応だ。


《 ごっそり 持っていかれてしまった。》


うばわれるのは 多量の血液か 大量の魔力と予測していただけに、魔法使リーゼロッテいが よろめく事はない。

むしろ、傷や 出血に至らなくて安堵あんどした、と云っても良い。

独りの時なら だしも、ラノイ達がいる前で 血にまみれるのは気が引ける。

驚かせ 気を揉ませてしまうばかりか、その光景に 気分を害させてしまうところだったのだ。

最悪の事態を避けられただけで、彼女は 満足していた。

そもそも〔海之妖精エルフィ〕の為に(一部とは云え)未来をはなしたりしなければ良いだけの事、とは 考えない。考えもしない。

我儘ばかりを言われようとも 面倒ばかりを持ち込まれようとも、魔法使リーゼロッテいにとって 彼女は仲間なのだ。

苦言を零しはしても、見放す事はしない。

海之妖精エルフィ〕も、それが判っているから 魔法使リーゼロッテいの優しさに付け込んでいるのだが。

彼女エルフィが採ってきた 白い貝と青い小石など、前回の迷惑料として 足るモノではないのだ。

魔法使リーゼロッテいは、改めて 手の中の魔法素材へを向けた。

ほっそりとしたてのひらに載っているのは、6っの魔法素材 ーーーー〔人魚の鱗〕と〔深海の瞳〕だ。

元々、白い小さな二枚貝と 青い小石に見えるモノは、ラノイ達の為に欲した 魔法具の素材だ。

昨夜の内に エスファニア王国へ戻り、もう1っの触媒も手に入れている。

後は、それ等を魔法で合成し 装身具として加工して、ラノイ達に渡すだけである。

しかし、全身を占めている虚脱感は、それ等を阻害する程 重苦しいモノだった。


《 折角、材料が揃ったのに。》


親指の爪くらいの大きさの 白い二枚貝は、勿論、本物の人魚の鱗ではない。

青い小石にしか見えない〔深海の瞳〕は、深海-500メートルで手に入る 青真珠だ。

どちらも、永い時間をけて 海の魔素を吸収し、おのずと魔法素材になったモノだ。

一方、エスファニアの 北の国境-ぎわから採ってきた〔泠祜のはな〕は、魔女が創った魔法製植物だ。

強力な浄化の魔法をけられた、成立ちから 魔法で創られた樹木の花葩はなびらである。

この花の寿命は一週間-程度だが 次から次へと咲くので、結果として 年中-咲き誇っている。

1っの花弁は、幅-3センチ 長さ-7センチになる。

姿形だけは 辛夷コブシの花を連想してもらえば、当たらずとも遠からず だ。

半透明の花葩はなびらは 淡い桜色に染まり、ひかりを透かすと ほのかにかがやく。

何とも美しい 魔法製植物であった。

その樹木-〔祈りの樹〕は、火山の麓に口をひらいた 小さな泉の深部に在り、その花-〔泠祜のはな〕は、咲くと同時に 水を浄化し始める。

火山からの噴石に含まれていた 毒性のある鉱物も、それ等を含んだ灰が積もる〔死の平原〕も、この水にって浄化されてゆく。

岩石や溶岩石の隙間を伝い 驚きの速度で周囲に染み渡り、かの地を 肥沃な火山性土壌へと変貌させ続ける。

そして、1っの花は、約-1週間で 水に融けて消えるのだ。

そうして、泉の水は エスファニアの北の国境付近を浄化し続け、泉から溢れた水は エスファニアの東部を流れ、更に広範囲の土壌を浄化・潤してゆく。

魔法使リーゼロッテいは、その蕾を 3っ摘んできた。

花の特性上、蕾が 最も浄化のちからが強い為である。


《 この場で、と思っていたのに………。》


それが出来ない程、強烈な疲労が襲い掛かってくるのだ。

よしんば、この状態で 魔法を揮う事が出来たとしても、真面まともに合成が出来るかと云われれば 否としか答えられない。

今は 魔法を使う為の集中力を絞り出す事も難しいのである。

〔時之女神〕の代価は、公正で公平で 情け容赦がなく、魔法使いとして まだまだ幼い身の彼女には つらいモノだった。

膨大な魔力をそなえる〔森之妖精イリフィ〕だからこそ、この場で昏倒し そのまま昏睡状態に入らずに済んだのである。

しかし、一瞬で 半分以上の魔力をうばわれたのは、流石に きつかった。

誰もいなければ、この場に膝からくずれ、へたり込んだまま ち上がる気にもならなかっただろう。

そんな疲労感と 虚脱感の中、魔法使リーゼロッテいは 気力だけでっていた。

は 軽くせられていても、苦痛に歪む事はない。

しかし、これは『平然をよそおって っていられる』と云うだけだ。

肩を掴まれて 引っ張られれば、簡単によろめく程度の意地である。

だが、これは 見ている者達には判りようもない虚勢だった。

特に、やや頭に血が昇っているラノイには 察しようもなかったらしい。

「今のは 誰だ?」

「っ⁉︎ 」

いきなり肩を掴まれ 力盡ちからづくでからだを反転させられれば、蹌踉よろけてしまう。

もっとも、蹌踉よろけ様もない程 強く肩を掴まれているのだ。

ふらつく隙もなかった、と云うのが 表現として正しい。

しっかりと支えられ(もとい 掴まれ)ている為、っていられるが、脳が揺らされた様な眩暈は 別だ。

何度か 小さく眼舜まばたきをしているのは、そのせいだろう。

だが、間近のラノイも 離れた場所にいるシズ達も、そんな事には気付かない。

「クー と云ったか………あれは、何者だ?」

ラノイは、正面へ向けさせた魔法使リーゼロッテいを きつく見据えた。

長めの前髪から見える眉間には 皺が寄り、その下にある 切長きれながは すっかり座っている。

さらさらの黒い前髪に隠れているが、片眉は ぴくぴくと痙攣し続けていた。

なのに、片頬は 笑みをかたどっており、それにともなって 片方の口角が吊り上っている。

誰が どう見ても、不機嫌-極まりない人間の顔だ。

「ぁ…………ぇ、と」

余りの勢いに、魔法使リーゼロッテいは を丸くした。




▽ ▽ ▽ ▽ ▽




 ___視点:ラッケンガルド国王-ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___


後から考えれば、僕は、頭に血が上っていたんだとおもう。

そう『後から考えれば』だ。

この時は、本当に 思考が回らなかった。

「クー と云ったか………あれは、何者だ?」

アシュリーの細い肩を掴んで、乱暴に 向きを変えさせた。

海之妖精エルフィ〕の発言にいかりと、アシュリーへの態度への苛立ちと、最後は 謎の少年-魔法使いへの嫉妬。

これ等が ぜになった状態だ。

あの我儘女を前に 声が出せなかった事も、僕の いらいら々を増長させていた。

それを、全部 アシュリーへ向けていたんだ。

ちなみに、僕の後ろで 誰かが足踏みをした様な音がした。

たぶん、怒気にてられたクランツが 気を失いかけてよろめいたんだろう。

「ぁ…………ぇ、と」

一切 感情をかくさずにいる僕を前に、アシュリーは 少し驚いていた。そう、ほんの『少し』だ。

擬音にしたら『きょとん』とか『ぽかーん』くらい。

シズが われ-関せずを決め込み、クランツが 気絶しそうになっているのに、アシュリーは を丸くした程度だった。

このたおやかな妖精は、一体 何で出来ているんだろう。時々、不思議に思う。

基本 こわがりなんだ とおもっていたが、何で こう云う時は おびえないんだ?

もっとも、今の僕は 素朴な疑問もかばない状態だったんだけど。

「 ーーーーーー 」

アシュリーは、ふっくらとした薔薇色の唇を わずかにひらいたまま、僕を見詰めていた。

そして、1度 じてから、再び その魅力的な唇をひらいた。

「通称は クー。彼は、わたしのついの1人です」

実に短い、それでいて とても理解し易い言葉が返ってきた。

これを耳にして、僕の沸騰した脳みそは 一気に冷却された。

「 ーーーーーー妖精、だったの?」

口の中で呟いた この言葉は、眼の前のアシュリーにも聴こえたか どうか。


《 何だ………妖精か。》


それなら、親しくて 当然だよね。

うん、そっか………それも そうか。

アシュリーが頼るんだから、妖精なかまだよね。うん、当然だ。

同じ妖精なかまの我儘女を任せるんだから、魔人の筈がなかったんだ。

ちょっと考えれば 判りそうな事だったのに……。


《 嫉妬って こわいな、考えもしなかった。》


ゆっくりと息をいて、意識的に肩の力を抜く。

その間に、アシュリーが説明を付け足してくれた。

「はい、わたしとは別の意味で 生命いのちを掌握する妖精………〔死之妖精ロンフィ〕です」

どうやら、さっきの呟きが聴こえてたらしい。

それにしても、疑問には 答えてくれてるんだけど、アシュリーの声音は とても淡白だ。

でも、かすかな疑問符が含まれてる。

まぁ、これは すっかり冷静になった今だから 判るんだけどね。


《 どうして、僕が真っ先に訊いたのが〔死之妖精ロンフィ〕の事なのか、理由が判らないんだな。》


海之妖精エルフィ〕について文句を言われるなら 合点がいくのに、ってところかな。

まさか 嫉妬して問い詰められたんだ、なんて おもいもしないんだなぁ。

自分の事を、急場凌ぎに用意された仮初めの妃だ と思ってるんだから、当然か。

僕も、意地悪か からかってる様にしか見えない行為しか してない訳だし。

本当は もっと別な事がしたいんだけど、あんなにおびえられると 攻めていいのか 迷うんだよねぇ。

本気だ とバレて 逃げられちゃったら、元も子もないし。

こわがらせない様に、ゆっくり ゆ〜っくり『慣らして』いかなきゃ。

取り敢えず、当面の目標は『抱き締めても硬直しない』様にさせる事かな。


《 遠いなぁ。》


腕の中で震えるアシュリーは、襲いたくなる程 可愛いけど、出来れば おびえない様になってほしい。

凭れ掛かってくれる様になったら 嬉しい。

抱き付いてくれる様になったら、倖せだろうな………うん、そうなってくれたら倖せだ。


《 問題は、それを短期間にこなせるか、なんだよねぇ。》


僕が 思考を脱線させていたのは、どのくらいの時間だったのか。

たぶん、長くはなかった とおもう。

その短時間で、アシュリーは 僕を見上げて こう問い掛けてきた。

「ご存知なのですね?」

主語のない、短い質問だった。

これで、僕は、すっかり脱線していた思考を 直前の会話内容へ戻す事にした。


《 賢い女性だな、アシュリーは。》


真っ先に思ったのは、これだった。

『交信相手は〔海之妖精エルフィ〕だ』と言っただけで 簡単に許可した事で、その可能性に気付いていたんだろう。

そして〔死之妖精ロンフィ〕について『ついの1人』としか言っていないのに対し、僕が 即座に納得した事で、その可能性を確信に変えた様だ。


《 官吏や大臣達の頭も この半分くらいの回転数で働いてくれたら、仕事が捗るんだけどなぁ。》


そうしたら、僕の仕事も減って、その分 アシュリーと遊べるのに……っと、あぁ、また 思考が脱線した。

「うん、まぁ」

ぼかして答えたけど、アシュリーなら 察しただろうな。

僕が『何で妖精達に詳しいのか』って事に。


《 でも まぁ、このはなしは また今度。》


今は、さっきの交信中の疑問を解くのが先だ。

僕は、アシュリーの肩をつかんでいた手から 力を抜いた。

もっとも、放してはいない。飽く迄も『緩めただけ』だ。

その上で、僕は 満面の笑顔を作る。

「ねぇ、さっき 我儘女に言ってた『この間』って?」

この質問をしても、アシュリーの表情は 変わらない。

顔色は 勿論、眉・視線・頬や口許くちもとの動きに至るまで 全く変化しなかった。

だけど、僕が質問した途端、細い肩が 一瞬 強張った。

肩に手を置いていたから、かすかな硬直に気付けた程度の変化だ。

けど、これで はっきりした。


《 やっぱり、僕と会ってからか。》


この王宮にいる様になったアシュリーが 自由に出来る時間は、多い。

朝昼晩の食事の時や 午前と午後の休憩時間は、僕と一緒だ。

夜は、入浴後の21時から 22時までの 1時間を共にしている。

仲睦まじい夫婦に見せる為……そう言って、アシュリーを説き伏せて設けた 独占ぼくだけの時間だ。

勿論、何もしない。

この時間だけは、抱き締めるのも 自重している。

極力 こわがらせない様につとめて『僕が そばにいる事』に慣れてもらうのが 目的だからね。

これ等の時間と 就寝時間を差し引くと、11時間-前後。

だけど〔獅子王〕-唯一の妃であるアシュリーには、単独になる時間がすくない。

王宮の中では 他人の眼もあるし、後宮の部屋に引き篭もったとしても お付きの女官達のがある。

4人の女官達は アシュリーに好意的で、事ある毎に 甲斐甲斐しく世話を焼こうとしている様だし、単独で行動するのは 難しいだろう。

気侭に王宮の庭を移動する事も多いみたいだけど、その度に 捜し出しているみたいだし。

案外 単独行動を取れる機会は多いけど、存外 独りになれる時間は長くない。

「ナントカのサトって、何処にあるの? 其処から海まで〔海之妖精エルフィ〕を護ってたって事だよね? 2時間もかかったのって、遠いって事? 邪魔が多かったって事? 後、それって いつのはなし?」

彼女が この王宮にやって来てからの4日間の中で、アシュリーの所在が判らなくなったのは 2日前だけだ。

決められた時間に遅れた事のないアシュリーが 昼食の時間になっても来なかった、あの日だ。

別々に寝ているから、就寝時間に外出していた って可能性もあるけど、さっきの反応からして たぶん違う。

「ひょっとして、この間の、熱があった時?」

あの日、池のほとりにいたアシュリーは、後宮へ戻った後 足跡を絶っている。

後宮付きの女官達のはなしからして、時間にして 3時間弱だろう。

これは、先程のはなしにあった『2時間半』に合致する。

「部屋に戻った筈が 何処にもいない、って女官達が慌ててた日、だよね?」

優しい顔で 穏やかな声で、そう尋ねた。

勿論、内心が そうだとは云わないけど、そうる様に つとめる。

だけど、僕がかべていた『やわらかい笑み』は、どうやら 剥がれかけていたらしい。

いや、全身から 黒いオーラでも出ているのかも。

背後で『ふぐっ』とか『うぅ』とか、クランツが呻いている。

振り返らなくても、クランツの様子は、大体 判る。

恐怖の余り のたうち回りそうになっているのを 懸命にこらえているのが 半分、僕の黒オーラにてられて 吐きそうになっているのが 半分、ってところだろう。

取り敢えず、クランツの事は放っておこう。

今は、アシュリーだ。

「っ   ぃ、え………その」

言い濁すと共に、両手の下で アシュリーの肩が震え始めた。

「アシュリー?」

余談だけど、アシュリーは 基本的に僕をこわがらない。

抱き締めたりすれば 別だけど、それ以外では 恐怖に震えたりしない。

どうやら、根本的に〔獅子王〕がこわくないみたいだ。

それは『毒入りの お茶事件』にも さっきの嫉妬の時にも立証されている。

ちなみに、大臣やら 高官やら 官吏やらで、僕をこわがらないのは ほんの一握りだ。

後ろを見れば、判るだろう? 毎日 顔をあわせるクランツが ああなんだ。

なのに、たおやかな容姿に 穏やかで優しい性格の〔森之妖精イリフィ〕は、苛烈な〔獅子王〕をにしても 冷徹な宰相をたりにしても 表情を変える事はなかった。

それだけに、アシュリーが こう云った反応をするのは、ちょっと珍しい。

「っ   ぁ、あの………そ れ、は……… 」

「そうなんだね?」

「っ   ぁ」

肯定はされなかったけど、反応で 丸分かりだ。

アシュリーは、嘘がけないんだな。


《 いや、嘘がけないとか かくし事が下手ヘタって云うよりも、もっと 何か……?》


嘘-どころか、ろくな言い訳すらけないなんて、魔法使いっぽくない。

本来、嘘も 誤魔化しも かくし事も、時と場合にって使わなきゃいけない存在だろうに。

そう考えると、別の要因がある気がしてきた。


《 それとも、僕の 戒縛のちからのせいか? 》


使わない様に 気を付けて訊いているつもりなんだけど、何かのフレーズに戒縛のちからった?

それとも、この段階でも 言外の威圧になっている、とか?

このちからで 拘束した上、仮初めの妃を演じさせているんだから、威圧力はある か。

まぁ、これについては、また今度 考えよう。

今は、問い詰めるのが 先だ。

「そんな事までして、どうして……… 」

彼女は 上位の魔法使いであると同時に、幼い魔法使いだ。

強力な魔法を使い 他の魔法属を制圧してきたと云っても、彼女は たった13齢でしかない。

魔法使い達が 100齢-未満を『幼い』としているのは、からだの造りが進化する前だからだ。

魔法を使うと、魔力と同時に 消費するモノがある。

それは、体力であったり 精神力であったり 集中力であったりする、らしい。

僕は 実際に体験した事がないから、これは 師匠から聴いたはなしでしかない。

おまけに、僕が使える魔法は、乱発させる類いのモノでも 長時間-放出するモノでもないから、体感する日はこないだろうけど。

兎に角 魔法使いとして身体的-未熟なせいで、幼い魔法使い達は、長時間 魔法を使う事が出来ない、って教えられた。

30分もてば 上出来だろう、とも 聴いている。

そんな中で アシュリーは、戦闘も繰り広げる 異例の存在だ。

魔法使い達の『蜂蜜』でもある彼女は、老獪な魔人や魔女達を相手に 連戦を強いられる事もある……と云うか、ほぼ 連戦する事になる。

闘う事が出来る 稀少な『幼い魔法使い』であっても、それが 平気な訳じゃない とも 師匠は言っていた。

だとすれば、あの日 熱を出したのは『魔法を使いすぎたせい』だろう。

そう考えると、今更ながら ふつふつといかりが込み上げてくる。


《 何で、きみが そんなつらい思いをしてまで、あんな  っ。》


海之妖精エルフィ〕の為に身を削って 他の魔法属と闘うなんて、してほしくない。

あんな我儘女の身勝手な要求なんて、けてほしい。

アシュリーがつらい思いをするなんて、間違っている。

きみは、小さい頃から苦労ばかりして 悲しい別れだってしてきたのに、自分の為でも 家族の為でもない事で 危険に曝されるなんて赦せない。


《 自分の身を護る為なら だしも、あんな! あんな、アシュリーを利用するだけの妖精おんなの為に、何できみが! 》


アシュリーの立場を考えれば 考える程、僕の頭の中を、それだけが ぐるぐると回る。

自覚させられる、僕にとって アシュリーは、特別な女性なんだと。

森之妖精イリフィ〕であるとか 僕にとっても『甘露』であるとか、そんな事は関係ない。

そんなちからを持ちあわせていなくても、アシュリーを好きになった。きっと、無関係に 大切な存在になっていた。

何10万といる魔法使い達の中で 数100番と云う序列ランクに位置していようと、エスファニア王の従妹姫だろうと 関係ない。

絶対に、誰にも渡したくない女性ひとなんだ。


《 そのきみが、どうして あんな我儘女の為に⁉︎ 》


声にはしないが、脳内であがるさけびは この類いのモノばかりだった。

僕だって 判っているんだ、また 冷静さを失ってきている事は。

だけど、どうしても あの妖精おんなの理不尽を許容出来ない。

そんな僕の心境を知ってか 知らずか、蒼穹の如き瞳が 軽くまたたいた。

それから、ゆっくりと語り始めた。

「〔海之妖精エルフィ〕は、魔法属の間でも星の属性だと云われていますが、本当は 陽の属性で」

いつもの様に 口許くちもとに小さな笑みをかべて、いつもの様に 穏やかな声で、アシュリーが はなしている。

それは、まるで 冷静さを失っている僕をしずめる様な、落ち着いた 軟らかい声だった。

「4人の妖精の中で、唯一、ついがいないのです」

この言葉に、僕の思考は 一旦-停止する。

軽い誤作動を起こした機械が 直前の作業を強制的に休止させ、再び起動し始めた状態に似ている。

まさか、実際に おのれで これを体感する日がくるとは思わなかった。

だけど、現実に 僕の心の中は、一瞬前の荒れ模様が嘘だったかの様に 凪いでいた。

「いない と、何か違うの?」

我儘女への苛立ちも、今は消えている。と云うか『忘れて』いる。

だから、普通に質問なんかしていられたんだ と、後から理解した。

つまり、この時の僕は 本当に『忘れて』いたんだ。ちょっと前まで、本気で怒っていた事さえ。

荒れた水面に 小さな石を投げ入れられただけでしずまる、こんな事は 魔法でなければし得ない。

もっとも、アシュリーに魔法を使われた と云う感覚はなかったんだが。

そのせいなのか、どうなのか。僕は、この違和感に 後々まで気付く事はなかった。

僕の後方にいる シズやクランツも、同様の体験をしているのか。

僕が 急にいかりをしずめた事に疑問をいだく事はなかったらしい。

そんな男達一人一人へ ゆっくりと視線を向けてから、アシュリーは 再び語り始めた。

「わたしは、産まれた時から ついの2人がいて、彼女の感覚は 判りません。ですが……… 」

言葉を途切らせた 僕の お嫁さん(今は 仮のままだけど)は、かすかに息をいている。

ひょっとしたら、当人アシュリーも『理不尽だ』と思っているのかもしれない。

それでも たすける理由があるのかもしれない。

ぼんやりと そんな事を考えながら、続く言葉を待つ。

「〔闇之妖精ティンフィ〕や〔死之妖精ロンフィ〕の言葉を借りるなら、どんな時も 何処かたされない感覚と、まるで 世界から隔絶された様な 裏寂しさがある、の だ、とか」

最後の部分は、聴いたはなしであっても やはり理解は出来ない、と云ったニュアンスが感じられた。

ついって、そんなに………影響力の強い者なんですか?」

「そうらしい です」

アシュリーは、シズからの質問に 小さく頷いて答えているが、そもそもが実体験していない 感覚のはなしだ。

どうにも 現実味の欠ける返答になってしまう。

本人も それが判っていて 申し訳なさそうにしているけど、こればっかりは アシュリーにだって どうしようもない。

僕達も その事は判っているけど、それでも、この場では アシュリーに訊くしかないんだ。

「不安定な感じ、って事?」

僕の問いに、アシュリーは ゆっくりと頷いた。

「だから〔闇之妖精ティンフィ〕も〔死之妖精ロンフィ〕も、〔海之妖精エルフィ〕を見放さないのだとおもいます」

アシュリーが魔法使いとして目醒めたのは 13年前、産まれてからだって 20年も経っていないだろう。

つまり、アシュリーのついである 2人の妖精も、20年くらい前までは 同じ『不倖ふしあわせさ』を感じて生きてきた、って事だ。

況してや、魔法使いは 長寿だ。

古い者に至っては『いつから存在しているのか 誰も判らない』と言われる世界だ。

その悠久とも表せる時間を 充足感も幸福感もなく過ごすのは、苦行だったろう。

海之妖精エルフィ〕は 200齢だと云うなら、すくなくとも200年は 耐えてきたのだ。

そう考えると、妖精達が見放さない理由も 判らなくはない。

「妖精は、生まれる事がまれな存在。彼女は、今 200齢-剰り。陽の属性である〔海之妖精エルフィ〕の寿命がある内に、ついに巡り会える可能性は……… 」

アシュリーは、最後の一言を発しなかった。

森之妖精イリフィ〕の状況を考慮すれば、同じ陽の属性である〔海之妖精エルフィ〕も 標的にされる確率は高いんだろう。

そうだとすれば、自分の身を護る事すら出来ない(しない?) あの妖精は、他の魔法使い達にとらわれず 寿命を全う出来るかも怪しい。

あわれに思って 妖精達で護ってやっている、と云う事だったのかもしれない。

相当 運が良くなければ、倖せだと感じる事なく 生涯がじる……この確率のほうが 高いんだ。


《 それは、つらいな。》


これは、誰でも自棄ヤケになる状況だ。そう得心した。

理解してしまうと、あの我儘女を断罪するのがためらわれる。

交信の間は 斬り殺してやろうと決めていたけど、流石に 無理だな。

アシュリーに近付けたくはないけど、彼女の協力が必要な事も 判らないでもない……勿論、あの ふてぶてしい態度は 許容出来ないが。

腹立たしさが消えた訳じゃないけど、もう 矛先を向ける気にならなかった。

「つまり、あれは、自棄ヤケの末の 我儘ですか」

僕の後ろでは、シズが 独白の様に呟いている。

流石は 僕の義兄、考える事が似ているな。

もっとも、アシュリーを知ってしまった僕とは違って、シズの声は 強いあきれを含んでいたけど。

「小さな子供の我儘の様でしたが」

僕の怒気から解放され 体調を取り戻しつつあるのか、クランツも 掠れた声で同意の言葉を零したのが かすかに聴こえる。

だけど、僕は 賛同しかねていた。

アシュリーが いなくなったら、僕だって 理不尽を周囲に強いるだろう。

自分が 身勝手で横暴な八つ当たりをしていると理解していても、それを止められないだろう。

周囲の者達が 僕の心をおもんぱかって どんなに親身になってくれても、どんなに尽くしてくれても、だ。

少し想像しただけで、地獄だとおもう世界だ。

下手ヘタをしたら、あの我儘女よりも酷い事をしかねない。

そう思うと、言葉にならなかった。

「皆様には 不愉快な思いをさせてしまったかとおもいますが、どうか」

アシュリーは、赦してほしい とは言葉にしなかった。いや『出来なかった』んだろうな。

それは そうだ。

ついさっき、僕-自身が 殺気に近い怒気を放っていて、それを察知していた彼女は 僕達の不快の程を知っているんだから。

「アシュリーが気にする事じゃないよ」

「そうですね、同席したい と申し出たのは、われわれ々です」

僕とシズの言葉にも、アシュリーの表情は変わらない。

眼線を下げたまま、沈痛な面持ちで佇んでいる。

優しい魔法使い・綺麗な魔法使い・愛情深い妖精、僕の 大切な妖精アシュリー


《 そんな顔は しなくていいんだよ? 》


言葉にしても、アシュリーは判ってくれないだろうな。

まぁ、日頃が日頃だから 仕方がないんだけど、何か ちょっと淋しいなぁ。信じてもらえないのは。

「だけど、無理はしてほしくないな」

このくらいの言葉は 届いてくれるよね? これで頷いてくれなかったら、流石に ヘコむよ?

僕の想いが通じたのか、アシュリーは 小さくうなずいてくれた。

「はい」

かすかな肯定が返り、わずかに 肩の力が抜けたのが、てのひらに伝わってきた。

良かった、少しは届いたみたいだ。

ほっとしつつ、アシュリーをみおろす。

彼女は 小さくはない女性で、僕との身長差は 頭-1っ分くらい。

丁度、僕の顎の下-辺りに 銀髪の小さめな頭がある。

後ろから抱き締めた時は、アシュリーの頭に 顎を乗せてみたりする。

本当は そうじゃなくて、って思うんだけど、ね……こわがらせると おそろしいからね、クランツが。

だから、巫山戯ているとでも受け取ってもらわなきゃ と思うと、子供みたいな事ばかりしちゃうんだよねぇ。

おかげで、僕が本気だ とは悟られてない訳だけど、これって 本気だって『判らせたい時』に苦労しそうなんだよなぁ。


《 こんなに 好きなのになぁ。》


いつ 伝わるんだろう……とか考えながら、アシュリーの肩から 右手を離す。

顔を上げさせたくて 手を伸ばして、気付いた。

「あ……… 」

今日、アシュリーは、淡い紫色の長衣を防寒着-代りに着ていた。

季節は 晩冬とは云え、春は遠く まだ寒い。室内でも厚着をしているのは 当然で、何も可妙おかしい事はない。

僕が声をあげたのは、その肩の部分に 小さなシミがあったからだ。

はっとして おのれの右手を見ると、てのひらに 半月型の小さな傷が 3っ付いていた。


失策しまった! 》


そう云えば、交信中さっき 強く握り締めていた様な気がする。

痛みを感じなかったから気付かなかったけど、どうやら 爪がてのひらの皮膚に食い込んで 傷になっていたらしい。

そのまま アシュリーの肩を掴んだから、彼女の服を 僕の血でよごしてしまった。

まさか、と思いながら 左手も離してみれば、アシュリーの肩の部分に 同じシミが付いている。


失錯しくじったぁあ。》


艶やかな銀髪に そらを写した様な蒼い瞳に、淡い菫色の長衣は 良く似合っていた。

勿論、昨日の 薄紅色も、アシュリーのやわらかい雰囲気に合っていたんだけど、やっぱり 青や紫色のほうが 銀髪にえるんだよね。

僕的に 気に入っていた色合いの服だっただけに、軽く ヘコんでしまった。

「 ーーーーーー……… 」

そんな僕を見て、不思議に思ったんだろう。

アシュリーは、自分の肩を見た。そして、すぐに 僕の手をった。

そのてのひらにある 幾つもの小さな紅いよごれをにして、軽く瞠目したのが判った。

この傷が 如何して付いたのか なんて、アシュリーなら すぐに察しただろう。

「あ……大丈夫だよ、こんなの………… 」

自責の念をいだいてほしくなくて そう言ったんだけど、遅かったらしい。

見る間に、うつくしい顔が 無表情になってゆく。

他の人が どうかは判らないが、僕には 泣きそうになっている様に見えた。

「 ………… 」

そんな顔をするな って言いたかったんだけど、一瞬-先に アシュリーが動いていた。

白い手が、僕の両手をった。

てのひらを上にしたまま 自分のほうへ導き寄せると、そのまま 顔を近付けた。

傷口を間近から覗き込む様にした アシュリーは、ゆっくりと瞳をせる。

次の瞬間、てのひらに 吐息が掛かった。

「っ!」

ふぅ と息を吹き掛けられただけの事で驚いたんじゃない。

不思議な感覚がしたんだ。吐息-以上にあたたかくて、わずかだけど 吐息-以上に甘美な感覚が。

食事の度・休憩の度に淹れてくれる お茶を飲んだ時に感じる、あの倖せな感覚とは 違う。

両のてのひらから沁み入ってきたのは、鋼鉄の理性を抑えて よくを刺激する『何か』だった。

僕には、その感覚に憶えがあった。


《 甘露……。》


初めて会った あの日、アシュリーの首筋にキスをして体感した あの『甘露』だ。

あの時よりも 効果は弱いけど、1度 体感していただけに、察するのは早かった。

アシュリーのちからは、どんな形であれ、僕にとっては『甘露』に感じるらしい。

喫驚している間に、アシュリーは姿勢を戻し 僕の手を離していた。


《 これは………大層な誘惑だ。》


あの瞬間、てのひらに 唇が当たった訳でもないのに、指の先から肘までを 甘い痺れが突き抜けた。

まさしく、誘惑だった。勿論、アシュリーに そのつもりがない事は判っているが。

初日の あの時-以来、僕は アシュリーの肌にはれていない。

事ある毎に 抱き付いたりしているけど、直接 あんな悪戯イタズラはしていない。

次に 同じ事をしたら、理性が効かなくなる気がしたからだ。

それだけに、不意打ちの この『甘露』には驚いてしまった。

表には出さなかったけど 今し方の感覚に困惑していた僕は、彼女の表情に気付かなかった。

「 …………申し訳ございません、でした」

苦悩を滲ませた声で、僕は われかえった。

見れば、眼の前の魔法使いは、形の良い眉を寄せ 蒼穹の様なを細め 色の白い頬を強張らせ ふっくらとした唇を真一文字に結んでいた。

一言で云えば、悲痛な表情をしている。

どうして、アシュリーは こんな顔をしているんだ?

僕が〔海之妖精エルフィ〕の暴言ことばに 苛立ったから? 交信を聴きたい、と言った 僕の我儘をき入れたのを 悔いている?

それとも、そもそも、交信を申し込まれている事を 隠し切れなかった自分に いかりを覚えて?


《 違う、僕が『傷を作った』からだ。》


忘れちゃいけなかったんだ、このは心優しい妖精なんだ って事を。

こんな小さな傷だって 表面に作っちゃいけないんだ。

しかも、この状況で。

僕は、無意識の内とは云え、アシュリーを 追い詰めてしまったんだ。

「大丈夫だよ、こんなの……… 」

そう言いながら、自分のてのひらを見た。其処に 傷はなかった。

「 ………… 」

あれは 治癒だったのか。

それも そうだ。アシュリーなら、放っておかない。

あんな些細な傷に こんな顔をする優しい魔法使いなんだ、このは。


《 あぁ、顔を上げてほしいのに……。》


うつむかせたくもないし、哀しい顔だって させたくないのに。

自責の念にさいなまれる必要はないし、僕に対する詫びなんて もっと必要ない。

だが、謝っても駄目だ。言葉は 今のアシュリーには通じない。

今は、どの言葉も 届かない。そんな気がする。


《 仕方ない、あれを使おう。》


僕は、忘却の魔法を使う事にした。

これは、僕が使える魔法の1っだ。

魔法には 幾つかの範疇カテゴリーがある。

大きくけて、加速系の魔法と 減速系の魔法だ。

僕が得意なのは、主に 減速系の魔法……と云うか、この範疇カテゴリーの魔法しか 身に付かなかった。

加速系の魔法のほうが 魔力の消費やら集中力やらはすくないらしいけど、使えないんだから 仕方がない。

本当は、炎とか 風とかを操ってみたかったんだけど、どうやっても無理だった。


《 まぁ、この魔法も便利だから いいけど。》


僕は、俯いているアシュリーの頭に 左手を置いた。

「アシュリー」

名前をびながら、すばやく 頭の中で呪文を唱える。


《 哀しまないで、悔いたりしないで………アシュリー。》


この名前は 北の国での『通り』だから 完璧に効くとはおもえないけど、多少は 効力があるだろう。

「さっきの、何だったの?」

つとめて 優しく、声を掛ける。

アシュリーは、ゆっくりと顔を上げた。そのから、僕ののぞまない光りは 消えている。

魔法使い-相手に効くか不安だったけど、どうやら効いてくれた……かも しれない。

忘却の魔法が ちゃんと効いてくれれば、この質問にも 普通に答えてくれるだろう。


《 どうか、答えて。》


祈りに似た気持ちで、僕は アシュリーの右手を見詰めている。

其処には、さっき〔海之妖精エルフィ〕から手渡された 小さなモノが6っ 握られている。

今 これについて問う程、興味を持っていた訳じゃない。はっきり言って、忘れかけていた事だ。

アシュリーの気をらす為の材料こうじつを必死に考えて、思い出したのが それだったと云うだけ。

つまりは、忘却の魔法を使った事に気付かせず、今-しばらくだけでも気をらせれば、それで いいんだ。

一先ず、傷を作った詫びは 後でしよう……と こっそり決意する。

そんな魂胆を隠した 僕の澄まし顔を見上げたアシュリーは、僕の視線を辿り さっきの質問の意図を察したらしい。

彼女は、下げていた右手を僕の前へ上げて 指をひらいた。

「 ………あれ?」

其処には、何もなかった。


《 白いのや 青いのは? 》


小さな白い貝と 小さな青い石に見えたモノは、いつの間にか 仕舞われていたらしい。

問題は『いつ、何処に仕舞ったのか』だ。

そう云えば、僕の傷をなおす時には、もう 手にしていなかった。

だとすると、その前に ふところか 袖口に仕舞った?

いや、そんな仕草はなかった筈だ。


《 僕が、見落とした……? 僕が アシュリーの動きを見遁みのがしていた? 確かに 冷静じゃなかったけど、でも そんなに注意が散漫になっていたかなぁ。確かに、頭に血は昇っていたけど。》


反省と 疑問と 後悔を交互にしながら、そんな事を考えて 首を傾げる。

記憶の反芻をしつつ 何もないてのひらみおろしていて、1っ 思い出した。

アシュリーは、花を出した事があった。

初めて お茶を振舞ってくれた時だ。

解毒の お茶を淹れると言ったアシュリーは、何も手にしていなかった状態から、見た事もない花を 手の中に出した。

出せるのなら 仕舞う事も出来るのではないか、と 漠然と考えた。

もし それが出来るのなら、見落とす以前の問題だ。

「もう 仕舞っちゃったんだね」

カマをかける様に呟くと、小さめの銀髪の頭が 軽く頷いた。

何処に仕舞っているんだろう? 今度 じっくり訊いてみよう。

「アシュリーが 頼んで、採ってこさせたんでしょ? ただの貝とかじゃない、よね?」

何で〔海之妖精エルフィ〕に頼まなきゃいけなかったのか とか、何処にある どんなモノなのか とか、気になる事は山程ある。

最初は アシュリーの気をらせれば と思っていたけど、今は 僕のほうが気になっている。

「創りたい物があって、用意を 致しました」

「創りたい物とは、何でしょう?」

シズの質問に、うつくしい魔法使いは 控え目な笑みを返した。


《 秘密にする気か。》


後で 問いただす事に決定だな。

夫婦(今は仮でも 将来は絶対に夫婦)の間にかくし事は 良くないからね。

今夜にでも 洗いざらい喋ってもらわないと、気になって眠れないしね。


《 僕にかくし事をしちゃいけない って事、判らせてあげないと。》


僕は、黒い笑みでもかべているのかな?

何だか、アシュリーが 小さくおびえた様に見えた。

背後から 悲鳴を飲み込んだ音がしたけど、勿論 無視する事にした。




シズさんと クランツさんの存在感は 薄いですねぇ。

次も そうかも。


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