当日 露店はいろいろ準備が要る
やってきました日曜日、今日は初めての公式イベントだ。たまった家事を片付けたのでログインできたのは10時前。さあ、思う存分ゲームするぞ。
今日はイベントに合わせて中央広場に人が集まると思うので、広場の近くで露店をやるのだ。そのための準備を急いでしなくちゃ。
生産施設2階のいつもの部屋でオオウサギの毛皮を6枚取り出す。毛皮は既になめしなどは終わっていて直ぐにでも使えるようになっていた。それを2枚×3枚で縫い合わせる。使う針は毛皮用の加工道具がまとめてあったのでそこからもってくる。糸は持ってるものを何本か寄り合せて太くした物を使う。
時間もないし皮革加工スキルを狙ってるわけでもないので適当に縫っていく。縫い終わるのに30分かからなかったが裁縫スキルのおかげかな?
次は値札だ。両腕のない人形の胴体を切り離して、プレート状にする。ちょっと小さいけど気にしないことにしよう。
値段をプレートに書く段階になって、まだいくらで売るか決めてないことに気づいた。βではプレイヤーの体力の上昇や調薬スキル上昇でより回復力の高い薬が作れるようになったことから需要が低下して最終的には1粒50Bくらいで売られていた。しかし、現状では北の森での採取は難しいだろうから作れるプレイヤーも少なく需要は高いはず。今なら1粒200Bくらいでも売れるんじゃないだろうか?
3粒はいって入れ物の袋もついてるので650B、元手はほぼゼロなのと変なプレイヤーに目をつけられたくはないのでちょっと割り引いて500Bにしよう。40袋あるので完売すれば20000Bもの大金になる。
値段も決まったので早速プレートに書こうとして今度は書くものがないことに気づいた。荷物をまとめて道具屋へ。木にかける道具があればいいけど。
道具屋で書ける物を探したけど白・黒・赤・青の4色のインクと羽ペンがセットになった物しか置いてなくて、なんと1000Bもした。これは何が何でも今日の露店で沢山売らないと、所持金が直ぐに底をついてしまう。
道具屋から出て中央広場のほうへ、見てると南の大通りから人が集まっているので南の大通りに移動。広場からちょっと遠めの場所にオオウサギの毛皮で作ったシートを敷いて薬を置く。木のプレートに白のインクでウォール丸 1袋500Bと書き込んで準備完了。イベントまでの1時間半、売って売って売りまくるぞー!
「ありがとー」
買ってくれた男性プレイヤーに手を振って見送る。あれから40分経ったが売れ行きは好調。現在までに34袋、お金にして17000B、売り上げた。
ただお客さんが来ないと暇でしょうがないので、途中から人形を使って調薬もやっていた。
お客さんがいなくなったので人形のすり鉢のウォール草を丸薬にして、空になったすり鉢にウォール草を追加した。
っと、お客さんが来たようだ。
「いらっしゃい!!」
いつも以上に明るく元気よくを心掛けて声をかける。と、そこにいたのは小さな長い髪の女の子だった。女の子は何もいわずにその場にしゃがみこんでしまった。もしかして何を売ってるのか気になるのかな?
僕は袋から手の平にウォール丸を取り出して女の子に見せた。
「これはウォール丸っていって、HPを回復さ――」
「その人形は何で勝手に動いてるの?」
女の子は人形を指差して僕を見た。なんだか眠そうな目をした子だな。
「操術ってゆうスキルだよ」
「……そのスキル覚えたら私にも出来るの?」
「〈人形使い〉以外じゃスキル適正は低いと思うよ。だからジョブに〈人形使い〉がなかったら難しいかもしれないね」
「わたし、〈人形使い〉のジョブ持ってる……」
変わった女の子だなぁ。声に覇気がなく独特な間で喋るせいか、なんだか力が抜けてしまう。
「それならスキルも覚えられるね」
「……うん」
「………………」
会話は終わったと思ったのに女の子はジッと人形を見つめたまま動こうとしない。うーん、このままじゃ商売の邪魔だけど……。まっ、十分稼いだしいいか。
それならイベントまでの時間、この女の子を楽しませてあげるのもいいかもしれない。
僕は調薬の道具をしまうと人形にラジオ体操をさせる。それに合わせて女の子の首が動くのが面白い。
そうやってしばらく遊んでいると突如目の前にウィンドウが現れた。ウィンドウには金色の髪を伸ばした女性が映っている。イベントが始まったのかな。
『皆さん、始めまして。わたくしは女神エラドです。皆さんにはこれより、わたくしの管理する世界へと渡っていただきます。そして、一年後に封印より開放されてしまう邪神を倒していただきたいのです』
これは他のMMOでいうところのグランドクエスト的な奴かな?邪神を倒すためにいろいろなクエストを進めていくみたいな。そうじゃないと一年なんて長い期間もイベントが続くはずがない。
『既に皆様は地球の神々との契約により、元の世界へと帰る事が出来なくなっているはずです』
自称女神様の言葉に従いメニューを確認してみると確かにログアウトの項目がなくなっていた。
あれ? なんか雲行きがおかしくなってきたぞ。
『このような理不尽なやり方をして、頼みごとなど出来る立場ではありませんが。どうかわたくしの世界を、人々を救ってください』
ピカッと音が聞こえそうなほどの光が辺りを包む。徐々に光が収まっていく中で先ほどの女の子が泣く声が聞こえた。
やっとプロローグが終わったー。
ここからは3人分のストーリーが同時進行になります。
それぞれの話で見たら進むスピードはゆっくりになると思いますが、どうぞ一緒に読んでください。