1日前 鉄剣はとても重い
待ちに待った土曜日だ! 今日は朝からログインです!!
生産施設に入って今日は1階の鍛冶場を借りる。今日一日で鍛冶と細工のスキルを習得するぞー!
初めて鍛冶施設に入ったけどものすっごく暑い。まあわかってたことなんだけど。
開いてる炉を探して陣取る。炉の近くには金床やハンマーなど鍛冶の道具がそろっていて素材さえあれば鍛冶ができるようになっている。
背負い袋からクズ鉱石を出して炉の中へ。しばらくしたら溶け出した金属が炉の横のレールを通って型に流し込まれるので、冷えるのをまってインゴットを取り出す。インゴットになるまで20分かかったけど、現実だとどれぐらいかかるんだろう。
取り出したインゴットをみるとウィンドウが現れた。持っているものを詳しく知りたいと思うと勝手にウィンドウが出るんだけど、このシステムって良し悪しだよね。ウィンドウにはアイアンインゴットと書かれている。つまり今の鉱石は鉄鉱石だったわけだ。
他の鉱石もどんどん炉に入れてインゴットにしていく。ほとんどがアイアンインゴットだったけど1つだけモダライトインゴットが手に入った。βテストの時はあまり鉱石について調べてなかったからどんな金属かわからないけど、鉄よりは珍しいんじゃないかな。
現在アイアンインゴットが5本、モダライトインゴットが1本ある。モダライトは特性がわかってから使いたいので今日は鉄を加工しよう。さあ、鉄で何を作ろうかな。人形や防具みたいな細かいものは無理だし、初めての鍛冶でそんなにいいものが作れるとも思えない。そうだ両手剣にしよう、両手剣なら切れ味が悪くても鈍器として活用できるし、簡単な形をしている。
鉄をまとめて炉の中に入れ熔けだして一塊になったら鍛冶用のハサミではさんで取り出す、ハンマーで叩いて伸ばしたら再び炉の中へ、赤くなってきたら取り出して再度ハンマーで叩く。ハンマーで叩くたびに火の粉が飛ぶが、特に熱くはない。こう言うところはゲームって感じだね。20秒くらい叩いたらまた炉の中で熱して赤くしてを繰り返し繰り返し行っていく。まだまだ剣の形には程遠いな。
休むことなく続けていくと施設内にかん高い話し声が響いてきた。
「――んぱいに――をつくり――」
「――ろふく? ――いろ――」
微かに聞こえるせいで内容が気になるなー。ちょっと聞き耳をたててみようか。
「えー、みどりですか? ―-ら、しろくろのほうがかっこ――」
緑? 白黒? ここは生産施設だから何か作ってるんだろうけど、序盤に作れて色が関係してくるのは裁縫かな? 1階にいるんだから大きいサイズのものだと思うけど……さっき聞こえた会話とあわせると服かな?
「でもいいですよね~。お世話になってる人に服をプレゼントするなんて。私も先生に何か作ってあげたいな~」
!? 妙にはっきり聞こえたその声は聞き覚えがある。うちのクラスの多田さんだ! うわー、気づかれたら付きまとわれそうだなー。こうなったらさっさと剣を仕上げて2階に上がろう。
……あちゃー、剣が折れてるよ。また最初からやり直さないと……。
そこからは必死に鍛冶に取り組んだおかげか直ぐにスキルを習得したであろう手ごたえを感じてミスなく鍛造することが出来た。きっちりと目釘穴の開いた中子も作ってある。そして刃を粗く研いで、焼きいれ焼き戻しを経て最後にしっかりと研げば剣身の出来上がりだ。鉄くずで目釘穴より太目の目釘も作っておく。
さっきから多田さんに似た人に見られている気がする。まだだ、まだばれてはいないはず、さっさと2階に逃げ込もう。うぐ、剣が持ち上がらない。しょうがないから引きずっていこう。
2階のいつもの部屋に何とかたどり着いて剣を床に下ろす。ゴトリと重そうな音をたてる剣、これどうしようかな?
とりあえずいつもの丸太から大き目の柄を作る。滑り止めになる革は持っていないので握り安いように手の形に沿うように波うたせ柄尻を広げる。柄にも目釘穴を開けるのを忘れてはいけない。
剣身の中子を木の柄に差して目釘をハンマーで打ち込んで止める。両手剣が完成したら目の前にウィンドウが現れた。なになに、名前をつけてくださいか、自作した物は名前がつけられるのか。ウォール丸に名づけが出来なかったけど多分ああいったいろんな人が作るものは最初から名前があるのか、あるいは最初に作った人が名前をつけたりするのかな? それは置いておいて剣の名前だ。……ふむ、この剣は未熟な鉄剣とでもつけておこう。
完成したはいいけど、この両手剣どうしようかなー。持ち運ぶことも出来ないんじゃ売り物にもなりはしないし、そもそも売るほどの完成度じゃない。うーん、フレイズに使うか聞いてみよう、もし本人が使えなくても使える人を紹介してくれるかもしれない。
『はいはーい、こちらフレイズ』
「もしもし。千夜だけど」
『どうした? センヤからコールって初めてじゃないか?』
「そういえばそうだね。ところでさ、両手剣作ったんだけど使える人に心当たりない?」
『両手剣かー、俺の友人で両手剣使ってたのはやめちゃったしなー』
「鉄で作ったせいか重くなっちゃってさ。僕じゃ持ち上げられないんだよね」
『なるほど鉄製か……。で? いくらなんだ?』
「いくらって、売り物じゃないよ。試作品だし重すぎて持ち運びも出来ないからタダであげようと思ってるんだけど」
『何言ってんだ? 背負い袋に入れれば重さは関係ないだろ』
「あっ!そ うだね、わすれてたよ。まあ、それでも未熟にもほどがあるからお金を取る気はないけどね」
『あー、じゃあ作るのにいくらかかった? あん時買ってた屑の鉱石だけじゃ作れねぇだろ』
「いや、あれだけだよ。だから大雑把に計算しても850Bくらいかな?」
『マジか……。よし!それなら俺が1000Bで買ってやるよ』
「だからお金は……」
『いいからいいから。先行投資って奴だよ。その金でまた剣作って腕が上がったら俺専用に作ってくれ』
「まあ、そうゆうことなら……」
『オッケー、商談成立だな。今はちょっと忙しいから夜に会おうぜ。また生産施設でいいか?』
「うん、いいよ。でも忙しいって仲間探しはどうなったの?」
『そこらへんも会った時に話す。っと、もう切るぞ』
「あっ、ちょっと……」
コールが切られてしまった。まっ、こっちの用はすんだしいっか。
一度ログアウトして昼食を食べてきました。時刻は現在13時、ここからはフレイズが来るまでウォール草を丸薬に調薬していく。
人形と調薬道具、材料を取り出して調薬開始。どんどんすり潰していこう。
夢中になってすり潰してるうちに、気づいたら人形の方のすり鉢もきちんとすり潰せるようになっていた。操術のスキルレベルでも上がったかな?気になったならステータスの確認だ。
名 前:センヤ
ジョブ:〈人形使い〉8(5)〈製作者〉11(2) 〈採取者〉6
能力値:筋力・・・8(1)
体力・・・9(1)
器用・・・13(2)
敏捷・・・4
魔力・・・5(1)
精神・・・13(2)
スキル:△操術12(8) 鍛冶7(NEW) 木工7(1) 裁縫3 調薬7
(6) 人形作成1 伐採2 植物採取4
称 号:駆け出し
装 備:ビギナーアックス
木の人形
ソフトレザーアーマー
所持金:2700B
操術のスキルに三角形が表示されている。確か技とか武技とか呼ばれている物で、スキルが10を超えると覚えるものだったはず。
操術の技はながら繰りか。名前からすると、多分他に何かをしながら人形を操れるようになったってことだと思うんだけど、ゲーム内でどういった処理をしてるんだろう。上手く操れないのはプレイヤー側の脳みその使い方の問題だと思ってたのに。
……でも、使える能力だって言うのは確かだ。これで調薬の作業効率が上がる。そうとわかれば残りのウォール草も丸薬にしてしまおう。
現在、時刻は21時。20時頃にログアウトして夕食は済ませてある。フレイズからの連絡を待ちながらウォール草をすり潰していたんだけどさすがに飽きてきた。120粒ものウォール丸を作ったのだ、飽きて当然だろう。
明日のイベントに合わせて売り出したいし入れ物の袋でも作るか。明日は作った袋に3粒ずつウォール丸を入れて売るので袋のサイズも小さくていい。さくさく作っていこう。そして、出来上がった袋に人形を使って丸薬を詰めていけば裁縫と操術のレベル上げが同時に出来る。
あれから更に1時間、さすがに遅い!はぁ、こっちから連絡するか……。
『おう、どうした?』
「どうしたじゃないよ。剣受け取りに来てよ」
『おお!! 忘れてたぜ、わりぃわりぃ。直ぐにそっち行くから待っててくれ』
「まったく、そろそろ寝るんだから早くしてよ!」
コールが終わって20分くらいでフレイズがやってくる。
「よお、センヤ。遅くなって悪かったな」
「まったくだよ。はい、両手剣」
背負い袋から柄だけ出してフレイズに差し出す。全部出してしまうと僕じゃ持てないのでこの方がいい。
フレイズは柄を持って背負い袋から抜く。全部抜けた瞬間に剣の重さでバランスを崩したけど直ぐに立て直した。
「おお!! 確かに重いな。しかも名前が未熟な鉄剣ってそのまんまじゃねぇか」
フレイズは剣を構えてゆっくりと素振りを始めた。ガタイがいいのでなかなか様になっている。
「そんなことよりいいの?こんな物に1000Bも払って……」
「いいのいいの、鉄製の武器なんて買ったら4000Bくらいするからな。鉄製で1000Bなら安いし、たとえ切れなくても両手剣なら問題ねぇしな」
「まぁ、僕もそう思ったから両手剣作ったんだけど……。でも重過ぎない?」
「確かに重いけど両手剣だったらその方がいい。俺も片手剣から転向する気だから、その練習には丁度いいと思うし」
「え!? わざわざ転向するの?」
「だって鉄製の武器だぜ? 現時点でこんな武器持ってる奴はトップクラスだけだろうし、この武器使えばスタートダッシュ決められるしな」
「まぁ、フレイズがそれでいいならいいんだけど」
「じゃあこれ、約束の1000Bな」
フレイズが机の上にお金となぜか黒い毛皮を置いた。
「何これ?」
「マスターにお前の事話したら忘れたお詫びに持ってけって」
僕は机の上の物をしまうとフレイズを促がして施設の出口へと向かう。フレイズと話し終わったら、とっととログアウトして寝ないと明日寝坊してしまう。折角のイベントを寝過ごす気はないのだ。
「マスター? ギルドに入ったの?」
「おう! それもβのトッププレイヤーの作ったギルドだぜ」
「へー、仲間が出来たんだ。よかったね」
まさか昨日の今日で見つかるなんて、しかも元トッププレイヤーのギルドってどんだけついてるんだろう。
「おいおい、それだけかよ。もっといろいろ聞いてもいいんだぜ?」
「まあ気にならないわけじゃないけど……。さっきもコールで言ったけどそろそろ寝ないと明日にひびくからね」
「まあ確かに、お子ちゃまは寝る時間だよな」
フレイズが笑いながらからかってきた。うざったい事この上ないので言ってしまおう。
「フレイズ君? 何か勘違いしてるようだね」
「急に何言ってんだ?」
「僕こう見えても25歳なんだけど、フレイズ君はいくつなんだい?」
「俺は22……って俺より年上!?」
「ははは、では僕はこれで失礼させてもらうよ。ゲームに夢中になるのもいいけど規則正しい生活をしたほうがいいよ」
「なっ!? おい、まてっ!!」
フレイズのあまりの慌てように、笑いそうになるのを堪えてログアウトした。明日ログインしたらコールがうるさそうだ。
だんだん毎日更新が厳しくなってきました。
でも、プロローグが終わるまではこのまま頑張ります。