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5日前 3つ目は〈人形使い〉

 家に帰って早速ログイン、このゲームも今日でもう3日目だ。いよいよ町に行こうと思う。

 町へ向かって歩きながら落ちている石ころや生えている薬草を回収する。これらも製作に役立つのだ。

 途中採取に熱中してしまい町まで1時間半ほどかかってやっと到着、その代わりに石ころも薬草も結構な量が集まった。


「お! センヤじゃねぇか」

「げ! フレイズ」


 町に着いた瞬間にフレイズに見つかるなんて、今日の予定は諦めたほうがいいかもしれない。


「げってなんだよ」

「つい漏れちゃっただけだから気にしないで」

「ったく、まあいいや。それより一緒に狩りに行かないか? 皆予定があるとかで今丁度ひとりなんだ」

「悪いけど、これから買い物に行くんだ。だから……」

「よし! ならついてってやるよ」

「え゛。またこのパターン?」


 やっぱりフレイズは返事も聞かずに歩き出してしまった。ほっとくと後で煩そうだし、しょうがないからついてこう。


 この町の名前はエニフ。中央に噴水のある広場があってそこと東西南北の門をつなぐように大きい道が走っている。この道を境に4つの区画に分かれているが、入れる建物が少なくてどういった区分けになっているかはわからない。

 町の中央広場まで来たところでフレイズが立ち止まった。


「そういやぁお前、どの店行くんだ?」

「むしろそれを知らずにどこに行く気だったのかを、僕が教えて欲しいよ。……僕の目的は武器屋と道具屋だよ」

「おお、そうか。だったらこっちだな」


 それだけ聞くとフレイズは東の通りへと歩き出す。東の通りは、βテストの頃から変わってなければ武器屋、防具屋、道具屋が並んで建っているはずだ。 

 変わらず並んで建っていた3件の店。フレイズはその内の一番手前にある武器屋に入っていってしまう。自分勝手というかなんというか……。


 武器屋での目的はナイフだ。ナイフの置いてある棚でそれぞれの値段を見比べてく。


「センヤは〈短剣使い〉だったんだな。その体格には丁度良い武器だよな」

「何言ってるの? 僕は〈短剣使い〉も持ってないよ?」

「はあ? 何言ってんだ。現にナイフを買おうとしてんじゃねぇか」

「確かに探してるのはナイフだけど、それ使って戦うわけじゃないし」

「ならなんでナイフ何か……」

「木を削るためだよ」


 木を削るための専用の道具も売っているが安いものではないし、そういった道具もスキルレベルが上がれば自作できるようになる。ようはそれまでの繋ぎがあればいいのだ。


「また木かよ……。っていうか、センヤのジョブ構成はどうなってるんだ? おとといは〈木工職人〉は持ってないって言ってたじゃねぇか」

「しょうがないなぁ、特別に僕のステータスを見せてあげよう」


名 前:センヤ

ジョブ:〈人形使い〉1 〈製作者〉1 〈採取者〉6(3)

能力値:筋力・・・7

    体力・・・8(1)

    器用・・・7(2)

    敏捷・・・4

    魔力・・・3

    精神・・・6

スキル:伐採2 植物採取4(NEW)

称 号:駆け出し

装 備:ビギナーアックス

    ソフトレザーアーマー

所持金:5000ベル


「〈人形使い〉って、適正装備の人形が店売りしてないうえに、前衛後衛どっちつかずで不人気ジョブ筆頭に挙げられてる奴じゃねぇか!」

「そうだけど、不人気ジョブ筆頭なんて言われてたんだ」

「で残りが〈製作者〉か。お前戦闘する気あんのか?」

「ほぼゼロだね。僕はこのゲームでどこまで製作が出来るか、それを楽しみにしてるんだから」

「でもなんで戦闘ジョブが〈人形使い〉なんだ? 他のジョブの方がどうしても戦わなきゃいけないって時に便利だろ」

「〈人形使い〉だって製作に役立つと思ったから選んだんだよ。さて、ナイフも買ったし次は道具屋だね」


 フレイズと話してる間に会計を済ませた300Bのナイフを背負い袋に入れて僕は武器屋を出た。後から慌ててフレイズが出てくる。

 そのまま道具屋へ向かう。といっても2軒隣なので直ぐに到着だ。


「こっちでは何を買うんだ?」

「とりあえず糸と生地、あと鉱石が売ってたらそれも」

「自分で採掘しないのか?」

「採掘場は遠いしβの時と同じ場所にあるかもわからないから後回しだね」


 道具屋を見て周る。糸と生地は一番安いものを合計で1000B購入。鉱石は品質は悪いけど売ってはいたのでこちらも一番安いものを1000B分購入した。

 買い物が終わったのでいよいよ制作に移るんだけど、フレイズはいつまでついてくる気だろうか?


「で? 次は何するんだ?」

「まだついてくるの?」

「おう、暇だからな」


 出来ればついてきて欲しくないんだけど、しょうがない。

 僕は南東の区画にあるとある施設へと向かう。その施設は生産系のβテスター以外にはあまり知られていないのだ。


「おいおい、どこ行くんだ? こっちのほうに何かあるなんて聞いたことねぇぞ?」

「そりゃ知ってる人は掲示板に書いたりしないように注意されるからね」

「注意って誰に?」

「施設を最初に発見した人」


 南東の区画に入ってしばらくいくと、視線をふさぐよう横一直線に木が植えられている場所にでる。気にせずに並木を越えると、そこに現れるのは2階建ての大きな建物だ。


「ここが目的地か?」

「そうだよ。ここは生産用の施設なんだ」

「へー、でもなんでこれを隠してるんだ?」

「それを説明すると長くなるんだけど……」


 βテストの時にある生産系ギルドの中でちょっとした諍いがあった。あるプレイヤーが見つけた薬のレシピを公開したのだが、別のプレイヤーが、自分が先に見つけたものだから勝手に公開されて手に入らなかった分のお金を払えと言い出したのだ。どちらが正しいか調べようにも薬のレシピは既に掲示板で公開されていて証明のしようがない。問題は解決することなく、最初にレシピを公開した方のプレイヤーがその生産系ギルドを辞めてしまったのだ。

 その後、諍いのあった生産ギルドの間で話し合いが行われ、レシピの共有の制限が決まった。

 他の生産プレイヤーへはフレンドコールや直接会って広められたのだが、そうなるまでの経緯が徐々に捻じ曲がったりして、生産を作業化しないためだとか利益を独占するためだとかプレイヤーによって違うものになってしまった。結果、生産プレイヤーはどの理由が正しいかはわからないまま自身が発見したあらゆる物を公表しないことだけは徹底するようになったのだ。

 

「へー、そんなことがあったのか。それを知ってるってことはお前もその諍いのあったギルドにいたのか?」

「僕はギルドには入ってないよ」

「じゃあ何でそんなに詳しいんだ?」

「ギルドを辞めたプレイヤーと知り合いで、その後どうなったかをギルドに聞きに言ったりしたんだ」

「そのギルドを辞めたってプレイヤーは今どうしてるんだ?」

「嫌気が差したって正式サービスはプレイしてないよ」


 その彼は他のプレイヤーの役に立つだろうと思ってレシピを公開したと言っていた。善意の行動なのにあんな結果になるなんて、そりゃ嫌気も差すよね。

 ちなみにその薬のレシピが昨日ハンナに上げたウォール草から作れる回復薬だったりする。


「とまあ長々と説明したけどここが公表されていないのはそれだけが理由じゃないんだよ」

「どうゆうことだ?」

「ここっていろいろな設備がそろってるのはいいんだけど一度に使える人数はそんなに多くないんだよね。だから、自力で発見した人意外には伏せておこうってわけなんだよ」

「それって独占って奴じゃねぇのか?」

「そうなんだけど、実際に公表してたら生産系プレイヤーが皆ここに集まって、いろいろ問題が起きると思うんだよね。だからここを知ってる人は、設備を使ってお金を稼いで早く生産拠点を手に入れようとするんだよ。そうすれば頑張った分だけ早く公表できるようになるかもしれないからね」

「なるほどな、生産プレイヤーも大変なんだな」

「といっても、自分の拠点なんて簡単には手に入らないんだけどね」


 フレイズに説明をしながら施設に入り2階に向かう。施設は1階が大型設備のある1つの部屋になっていて、2階に簡単な道具が置いてある個室が沢山ある。個室の中はそんなに広くはなく木の椅子とテーブル、3人掛けのソファー、簡単な道具が入った棚が備え付けてある。

 フレイズにはソファーを勧め、僕は椅子に座ると背負い袋から高さ30cmくらいの丸太を1つとナイフを取り出した。


「いろいろと取り出しているがセンヤは何を作る気なんだ?」

「まずは人形だね」

「そんな小さな丸太からか?」

「そうだよ。まあ、黙って見てなって」


 まずは丸太を斧で4つに割る。割ったうちの3つは仕舞って残った1つをナイフで削っていく。

 あまり細かいところは意識せず大胆に削るのを1時間も続ければ大分歪だが人形が出来上がる。


「出来た!」

「ん? ……やっとか! 見てるこっちが疲れるような作業だったな。で、次は何をするんだ?」


 フレイズを見るとソファーの上で体を横にしている。その口には涎の後があった。

 静かだと思ったら寝てたのか……。


「また人形を作るんだよ」

「は?」

「スキル習得の為の練習も兼ねてるからね。習得するまでは何体も作らないと」

「まじか」

「見てても退屈でしょ? 狩りにでも行って来たら?」

「別に退屈ってことはねぇが、センヤがそうゆうなら狩りに行きますか」


 寝てたくせに何を言ってるんだか。


「もし毛皮が沢山取れたら分けてちょうだい。換わりに薬を作ったら分けてあげるからさ」

「おう! って、薬も作るのか。……まっいいか。毛皮、沢山とってきてやるよ」




 フレイズが出て行った後も新しい木材を取り出しては黙々と削っていく。最初に割った丸太から3体の歪な人形が出来上がり、最後の1つを削っている時に手応えが変わった。

 中断せずにそのまま仕上げる、今までのと比べて少しだけマシな人形が出来上がった。

 メニューを操作してステータスウィンドウを出す。


名 前:センヤ

ジョブ:〈人形使い〉1 〈製作者〉2(1) 〈採取者〉6

能力値:筋力・・・7

    体力・・・8

    器用・・・7

    敏捷・・・4

    魔力・・・3

    精神・・・7(1)

スキル:伐採2 植物採取4 木工1(NEW)

称 号:駆け出し

装 備:ビギナーアックス

    ソフトレザーアーマー

所持金:2700ベル


 よし、木工ゲットだ!

 切りがいいので時間を確認しておこう。今の時刻は――23時!? ヤバイ、早く寝ないと。明日は遅刻するわけにはいかないんだ。

 材料と道具をすべて袋に仕舞ってログアウト。

 あ! フレイズに挨拶するの忘れてた……。

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