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6日前 2つ目は〈製作者〉

「マヨイイヌに挑んだんだけど全滅、所持金の1割とは言え始めたばかりには痛い出費だぜ」

「初日にマヨイイヌに挑むほうが間違ってるでしょ」


 ログインした途端にフレイズからのコール。愚痴ばかりの内容に取らなければよかったと後悔しているところだ。

 今日は平日のためログインできたのは19時。研修が半日だったらもっと早く帰ってこれたのに。


「今日はオオウサギをひたすら狩って昨日の出費を取り戻す。よかったらお前も一緒に……」

「僕と話してる暇があったら狩りしにいきなよ。他のプレイヤーに差をつけられるよ?」

「それは困るな。じゃあまた今度暇だったら一緒に狩りしようぜ」


 僕の返事を聞かずにコールが切れる。やっとログインできたと思ったら愚痴につき合わされるとか、やってらんないよ。

 気を取り直して、今日の目標は植物採取だ。スキルの取得を目指し、薬草だけじゃなく毒草やキノコ・果物等採取できるものはどんどん取っていこう。

 昨日フレイズに言ったのはあくまで昨日の目的だ、一日経てば目的も変わる。魔物に関しても森の浅いところでは蜘蛛の巣にさえ引っかからなければ魔物は寄って来ないのだ。そして僕の背丈だと巣にかかるほうが難しい。

 

 一応蜘蛛の巣に気をつけながら森へと足を踏み入れる。あたりを注意深く見回しながら歩いていると、早速木の根元に赤いキノコを見つけた。

 僕はキノコの前に四つん這いになると片手でビギナーアックスを持って勢いよく振る。中には触るだけで毒になるものもあるので、先に切ってから剥ぎ取りナイフで突き刺して背負い袋に入れるのだ。

 赤いキノコのアイテム名は流血茸りゅうけつだけ、なんとも恐ろしい名前だ。毒キノコと決まったわけではないがとても確かめる気にはなれない。

 その後もウォール草・フシュテ草、花でカウィーやジーニン、アキの実・ウォール桃・チエリなど2時間で様々な物が採取できた。そろそろいい時間なので森から出てログアウトしようかな。




「すいません」


 森の外に出たところで眼鏡をかけた女性プレイヤーに声をかけられた。


「なんですか?」

「この森で何をしていたのですか?」

「その前にお姉さんはどなたですか?」


 初めて会う女性だと思う。正体がわからないと話しかけられた理由も推測できない。


「あっ、いきなりすいません。私の名前はハンナです」

「僕はセンヤ。ハンナさんは僕に何の用なの?」

「もし森で薬草を採取していたのなら一緒に連れて行ってくれませんか?」


 いきなり話しかけてきて連れて行ってくれって、この人言葉使いは丁寧だけど図々しいな。

 残念ながら僕は丁度ログアウトするところだったし、採取も十分な量を確保できたからしばらく森に入る気はない。


「あー、確かに薬草とか採取してたけど今日はもうログアウトするつもりだから」

「でしたら、明日でも……」

「悪いけど、十分採取できたからしばらくは森に入る気はないよ」

「それなら薬草を売って貰えませんか?」


 昨日のフレイズ以上にしつこい女性だなぁ。何でそんなに必死なんだろう。


「あの、何でそんなに食い下がるの?所詮ゲームだしそこまで必死になる必要はないと思うんだけど」

「その……」


 ハンナさんによると、このゲームを始める時、友人に回復役を頼まれたハンナさんは〈治癒士〉〈薬師〉〈錬金術士〉のジョブを選んだ。しかし、治癒魔法に使い勝手の悪いものを選んでしまい回復薬が満足に果たせないためパーティーから外されそうになってしまった。それで困っていろいろ調べたら森で取れる薬草で作った回復薬が、効果も作成難度も丁度いいというわけらしい。

 しかし、回復魔法の選択に失敗したくらいでパーティーから追放なんて、そんな奴を友達と呼んでいいのだろうか?


「わかった、薬草は分けてあげる」

「本当ですか!!」

「ただし、折角分けてあげるんだからこのゲームを楽しんでよ?」

「それは・・・」

「で? 欲しい薬草はどれ?」

「あ! ウォール草です」


 ウォール草なら沢山ある。少し多めに分けてあげよう。

 僕は背負い袋から両手でないと持てない量のウォール草を取り出してハンナに渡す。


「はいどうぞ」

「こんなに!? いただけません!!」

「いいからいいから。これを渡しても問題ないくらいには取れたから大丈夫だよ」

「ありがとうございます」


 薬草も渡したことだしそろそろログアウトしよう。これ以上遊んでいたら明日に響いてしまう。


「それじゃあ僕は……」

「あ、あの!!」


 まだ何か用があるのかな?


「同じ〈薬師〉どうし、友達になってくれませんか?」

「僕は〈薬師〉じゃないよ」

「じゃあ何で薬草なんて……」

「僕が持ってるのは〈製作者〉。薬しか作らないわけじゃないから役に立つかわからないけど、それでもいいなら友達になってあげる」

「あ、ありがとうございます!」


 ありゃ、涙目になってしまった。

 もしかしたらこの子まともな友達がいないのかな?職業柄ちょっと気になってしまうじゃないか。

 メニューを操作して僕からフレンド申請をすると、直ぐに承認されてフレンド欄にハンナの名前が増えていた。


「それじゃあ今度こそ僕はログアウトするから。またね」

「うん! またね、センヤ君」


 フレンド登録した途端敬語じゃなくなってるけど、僕の年を知ったらどういう反応をするだろうか。ちょっと楽しい気分で僕はログアウトした。

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