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【シロウサギ】

 部屋の中にいたのは1人の女性。濃い目の化粧のおかげなのか、なかなかの美人さんだ。


「タマちゃん、その子は誰ですかぁ?」

「私の学校の先生で名前は――」

「センヤです。よろしく、お姉さん」


 なんだか多田さんが僕をフルネームで紹介しそうな気がして慌てて口を挟んだ。フルネームなんて教えたら悪用される事だってあるってのに、多田さんは無用心だね、まったく。


「私はこのギルドのマスターでルビーですぅ。よろしくねぇ、センヤくぅん」


 なんとも鼻につく喋り方だ。これでよくギルドマスターになれたな。正直、同姓に好かれる要素がこれっぽっちも無い。でもなんだろう、僕と同じ匂いがするなぁ。


「それで? 学校の先生ってどういうことですかぁ?」

「僕こうみえて高校の教師なんだ。流石に今は免許も保険証も無いから証明はできないけど」

「こんなに可愛いのに先生なんですよ! 凄いでしょ、ますたー」


 自慢げな顔で胸を反らす多田さん。すごいのは君じゃないだろうに。


「それで、こっちの女の子なんですけど……」


 多田さんが僕の背に隠れている琳音ちゃんを前に引っ張り出す。


「あのイベントの時に、この子1人でログインしてて――あっ、この子両親と一緒にゲームしてたらしいんです。それでますたーに相談に乗ってもらおうと思って――あの、うちにもそうゆう娘いたじゃないですか。それで――あっ、先生は保護してるだけで特に知り合いじゃないんですけど……」


 多田さんの説明が下手なので僕が一から説明しなおす。話をしながら途中で挿んでくる質問にも答えた。

 このルビーって人、見た目からはそう見えないけどなかなか的確な質問の仕方をしてくる。もしかしたら凄く思慮深くて、この喋り方も計算だったりするのかも。


「なるほどぉ。確かにうちのメンバーと同じ状況のようですねぇ」

「ますたー、それじゃあ……」

「ええ、今のところ打つ手無しですぅ」

「そっか……ありがと、ルビーさん」

「いえいえ、力になれなくてごめんなさいですぅ」


 僕は平気だけど、琳音ちゃんがうつむいたまま顔を上げない。多分期待してたんだろうね。琳音ちゃんの手を握るとそこから震えが伝わってくる。


「もし何かわかったら連絡しますんでぇ、フレンド登録しておきませんかぁ?」

「そうがいいか――」

「それだったら、私が先生についていって連絡役になります!」


 うわっ、急になに言い出すんだ。


「何でそうなるの? ここにいたほうが安心できると思うけど」

「いいじゃないですか! 先生だったら生徒の面倒くらい見てください!」


 会話が成り立ってないよ。正直、多田さんと一緒にいたら何をされるかわからない、何とか断らないと。


「流石にこんな異常事態で先生も生徒も無いと思うんだけど?」

「だったら私の気持ちを真剣に受け止めてください!」

「どうしてそうなるのっ!?」

「今までそれを理由に断られてきたんです! でも、そうゆうことならもう障害は無いってことですよね?」

「いや、それは違――」

「いいんじゃないですかぁ、付き合っちゃえばぁ。こんな美少女からの告白ですよぉ」


 なっ!? ルビーさんが多田さんを援護するなんて、常識人だと思ったのに。

 ……よく見たらルビーさんの口元が緩んでいる。あーこの人、他人ひとの恋バナとか好きなタイプかぁ。これはまずい、この場だけでもどうにかしないと。


「ルビーさんだってこう言ってます。一緒に居させて下さい!」

「ほらほらぁ、どうするんですかぁ?」

「……わかった。教師として面倒を見るよ」

「やったぁ!!」

「でも、今すぐは無理! どこか住める場所を見つけたら連絡するから、それまではここで待ってて」


 多田さんとフレンド登録をした。これで多田さんとはいつでも連絡できるようになったわけだ。

 毎日欠かさずコール、とかないといいなぁ。 


「それじゃあ、センヤくんとの連絡はタマちゃんにお任せしますねぇ」

「はいっ!」


 連絡を取れるようにするのは琳音ちゃんの為なんだし、問題の先延ばしは出来た。仕方が無い、連絡できるようになったことについてはもう諦めよう。


「それじゃあ僕は帰るね」

「帰るんですか、先生? この施設に用があったんじゃ」

「服を作ろうと思ったんだけど満室みたいだからまた明日にするよ」

「しばらくは空かないと思いますよぉ。ここって、今は宿代わりに使われてますからぁ」


 宿代わりって――そうか、1万人近い人間が急に現れたら宿が足りなくなってあたりまえだ。僕達が部屋を取れたのも警備隊の隊長が教えてくれた宿が一番すいている馬のひづめ亭だったのと、割と早く行動を開始できたおかげなのか。あの隊長に合う機会があったらお礼を言わないと。

 ……下着、どうしよう。


「よかったら、私達【シロウサギ】が作りましょうかぁ?」

「いいの?」

「これでも最初は服飾ギルドにするつもりでしたからぁ、メンバー全員裁縫スキル持ってますよぉ」

「でも、お金が――」

「自作しようとしてたなら生地はあるんですよねぇ? 服を作って余った生地を料金代わりにもらうので御代は結構ですよぉ」


 うーん、最高の条件だけどそれだと裁縫のスキル上げができないんだよねぇ。――まあいっか、もともと裁縫を極めるつもりはなかったし。


「それじゃ、おねがいします」

「はい、承りましたぁ。それで、どんな服が必要なんですかぁ?」

「欲しいのは僕と琳音ちゃんの下着をいくつか。使う生地はこの2つで」


 背負い袋から取り出した生地を渡す。ルビーはそれを受け取るとしげしげと眺めたり、優しく撫でて手触りを確認していた。


「デシクオ麻と……森蜘蛛シルクですかぁ。少量とはいえ凄いの持ってますねぇ。でもこれだと二、三枚しか作れませんよぉ?」

「それなら琳音ちゃんの優先で」

「わかりましたぁ。それじゃあサイズ測らせてもらいますねぇ。タマちゃん、琳音ちゃん連れて隣行ってくださぁい。ついでに何人かこっちに寄越してぇ」

「わかりました。じゃ、せんせい。ちょっと琳音ちゃん借りてきますね」


 多田さんが琳音ちゃんを連れていってしばらくすると、三人の女の子がメジャーを持って部屋に入ってきた。もしかして女の子がサイズ測るの?


「あ、あの。男性は?」

「女性限定ギルドですから、男性はいないですよぉ。――ああ! 簡単にサイズ測るだけなので、恥ずかしがらなくても大丈夫ですよぉ」


 へー、【シロウサギ】って女性限定のギルドだったのか。――女性限定!? ルビーさんこんな喋り方してるのに、よくギルドマスターになれたな。どうやってこのギルドを作ったんだ?


「それじゃあ、みんな。やっちゃってくださぁい」

「はぁい」「……ふふふ……」「……じゅる」


 先ほど入ってきた女性達が怪しい笑みを浮かべながら僕に飛びかかってきた。

同シリーズ

【異世界のお節介な道化師】

【親愛なる魔王さま】

もよろしくお願いします。

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