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転移の直後

「……おと~、さ~ん、おか、~さ~ん……」


 光が落ち着くと目の前でさっきの女の子が号泣していたんだけど……どうしよう。現状を把握したいけどそれより先にこの子を落ち着かせないと。


「どうして泣いてるの?」

「……だって~、おと、さんも、おかあ、さん、も、いな、いんだ、もん」


 両親とはぐれたのかな?


「一緒に探してあげようか?」

「おとう、さんも、おか、あさんも、しごと、だもん」


 仕事ってことはこの子は1人でログインしてたのか。


「ろぐ、あうとも、できな、いから、きっと、もう、あえな、いん、だもん」


 そういって女の子は大音量で泣き出した。まいったな。

 周りの多くの人は混乱しているようだが、そうではない何人かがこっちを見ている。このまま放置していたら変な誤解を生みそうだ。

 よし、何とかしてみよう。

 僕は人形を操って女の子の前に立たせ顔を覗き込ませる。


「お姫様、そんなところで泣かないでこちらへどうぞ」


 僕は裏声で女の子に話しかけると同時に人形を使って僕の隣へ招待した。


「にん、ぎょう……?」

「そんなところで座り込むと服も汚れてしまいますよ。さあこちらへ」


 女の子を人形で案内して僕の右隣に座らせる。この子のほうから近づいてくれないと違った意味で変な誤解を与えそうだったんだけど、これで慰めてあげられるよ。

 僕は女の子の肩に右腕をまわして頭を抱きしめる。


「大丈夫。後から来るかもしれないし、僕も一緒に探してあげるよ」

「きっと、あえな、いよ?」

「そしたら一緒にいてあげるよ」


 さっき以上の大声で泣き出した女の子の頭を手で優しく撫でてあげる。しばらくこうしてあげたらきっと落ち着いてくれるだろう。

 女の子の方から近づいたから兄弟にでも見えたんだろう、周りの視線は徐々に離れていった。




 しばらく泣いた後、女の子は泣きつかれて眠ってしまった。泣き腫らした眼は腫れているけど寝顔は安心しきっている。これなら大丈夫かな。


「おい! そこの子供!」


 女の子の頭を撫でながら起きるのを待っていると、こちらに近づいてきた鎧を着た男がいきなり怒鳴りつけて来た。

 折角落ち着いたのに起きちゃうじゃないか!


「聞こえないのか!」

「聞こえてるよ。何か用?」

「貴様、その態度はなんだ!」


 鎧の男が剣に手をかける。いきなり怒鳴りつけられた苛立ちがつい態度に出ちゃった。失敗、失敗。せめてこの子だけでも何とかしないと……。


「よせ! グスタフ!」


 鎧の男の後ろから現れた同じ鎧を来た男が剣を抜こうとした手を押さえている。なんとかなりそうかな。


「止めるな、兄上! こいつは私を愚弄したのだぞ」

「私が見た限りだとお前が最初に怒鳴りつけたように見えたが?」


 店の前で言い合いを始めた2人を横目に女の子の様子を伺う。うん、気持ちよさそうに寝ている。


「とにかく、この少年には私が対応する」

「しかし兄上……」

「グスタフ、お前は詰め所に戻って待機だ」

「……了解」


 どうやら言い合いの決着がついたようだ。グスタフと呼ばれた男が去っていった。


「少年、私の弟がすまなかったね」

「ううん、別にいいよ。ところで何のようだったの?」

「大通りは露店禁止なんだ」


 そうだったのか、他のオンラインゲームだと大通りにこそ露店が集まるのに。


「どこだったら露店出していいの?」

「商業区に露店用の広場があるんだけど、聞いたこと無いのかい?」

「そもそも商業区ってどこ?」

「大通りで4つに分けたうちの北東の区画なんだけど、本当に知らないのかい?」

「βテストでも正式版でも聞いたこと無いよ」

「βテスト? 正式版? 何を言ってるんだ?」


 男は不思議そうな顔でこっちを見ながらなにやら考え込み始めた。何か変なこと言ったかな?


「君はこの町の子供かい?」

「そんなわけ無いじゃん。そうゆうお兄さんはこの町の人なの?」

「当たり前だろう。私はこの町の警備隊の隊長だぞ」


 警備隊の隊長? そんな役割NPC以外ありえない。なのにこの人の反応は完全に人間だ。運営側の人間が操作するには微妙な位置のキャラクターの気もする。

 そもそもなんで隊長自ら街の見回りなんてしているんだ? ……もしかして創作でよくあるあれ? いやいやまさか、ありえない。だけど……確認してみよう。


「なんで隊長さんが見回りなんてしてるの? 部下の人に任せればいいのに」

「急に大勢の人間が現れたからだ。どう対応するかはまだ決まっていないがとりあえず警備は必要だからな」


 あー、これは間違いなさそうだ。


「多分僕もそれだよ」

「君も? それなら君も救世主なのかい?」


 救世主……。こっちに来る前に女神が邪神を倒せって言ってたからそれかな。


「女神様に邪神を倒せって頼まれたからそうじゃないかな?」

「君みたいな子供もか」


 25歳だけどね。


「それで、ここはなんて世界のなんて国のなんて町なの?」

「ここ? ここはヴァスティタという世界の、パラディス島にある、デシクオ国所属の、エニフの町だ」


 世界や島の名前は初耳だけど町の名前は変わらないようだ。国の名前も詳しくは覚えていないが聞いたことがある気がする。ゲームと一緒って、偶然じゃないよね。


「まあ、事情が事情だから今までの分は目こぼししよう」

「ありがとう。この子が起きたら移動するよ。それでもいい?」

「商売さえしなければ問題ない。それでは私はこれで」

「あ。一つ聞きたいんだけど」


 颯爽と立ち去ろうとした男の背中に慌てて声をかける。


「……なんだ?」

「オススメの宿を紹介してくれない?」




 男に紹介された宿は北の門近くにある”馬のひづめ亭”だ。この時期は商人や税を納めに来た近隣の村人が町に集まるため、森にしか続かない北の門の近くの宿が一番すいているらしい。

 宿のサービスは普通だがきちんと掃除されているし、隣にある食堂のご飯が美味しいらしい。


「……う~。……あれ?ここどこ?」


 女の子が目覚めたみたいだ。


「おはよう、お姫様。気分はどう?」

「……あっ! ……おはよう……」


 親のことを思い出したんだろう、女の子が顔を曇らせてしまった。すぐにでも慰めてあげたいけど、早く移動して宿を取らないといけない。これだけのプレイヤーがいると部屋は足りないはずだからね。

 僕は女の子を立たせて荷物を片付けると、手をつないで歩き出した。


「どこ行くの?」

「宿屋だよ。そこで話をしよう」


 女の子は文句も言わずについてきた。

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