7日前 1つ目は〈採取者〉
皆様始めまして。
《RMMO》 小さきエンジニアの大きな発明を読んでいただきありがとうございます。
頑張って書き切りますのでぜひ楽しんでください。
僕は草原で目を覚ました。鮮やかな緑色の絨毯がゲームの世界であることを忘れさせる。そう、ここはゲームの世界だ。本日サービス開始の《リスペクティブ メリィ メモリィ オンライン》通称《RMMO》。バーチャルリアリティを使ったオンラインRPGだ。
遠くに見える町らしきものに向かう他のプレイヤーの流れに逆らって歩き始めた。
「おい、そこの坊主。そっちは森だぞ」
1人のお節介が話しかけてきた。同じ装備をしているからプレイヤーだろう。170cm位で体つきはなかなかりっぱだ。何か武道でもやっているんだろうか。
いつもどおりに子供っぽい笑顔を意識してこたえる。
「知っているよ、お兄さん。でも、僕は森に用があるんだ」
「モンスターとでも戦いたいのか? だったら最初は南の草原で戦ったほうが安全だぞ。森の魔物は始めたばかりで相手にするには強すぎる」
しつこい人だな。いろいろ詳しいみたいだからβテスト参加者なんだろう。経験者面したいのはわかるが変に親切心を出して僕の邪魔をしないで欲しい。
「僕もβテスト参加者だったから知ってるよ。でも、魔物と戦うわけじゃないから大丈夫だよ」
「だったら薬草でも取りに行くのか? 坊主もテスターならたとえ戦う気はなくても危ないってのはわかってんだろ?」
男と会話をしている間にも草原のあちこちにプレイヤーが現れては町へと向かっていく。
「お兄さんしつこいね。僕はもう行くから、お兄さんは他の初心者を助けてあげなよ」
男があまりにしつこいので、少しきつめの言い方をしてしまった。大人としてあるまじき言動に反省だな。
「生意気な坊主だな。なんか心配だから俺もついていってやるよ」
「え゛。ついてくるの?」
「遠慮なんかすんなって。ほら、いくぞ」
笑顔が引きつっているのにも気づかず、男は歩き出した。なんだかめんどくさいことになってしまった。
とはいえ目的地が変わるわけではない。僕は内心でため息をつきながら男の背中を追った。
男のβテスト時代の話を延々聞かされながら森のそばまでやってきた。
「はぁー、疲れた。で、なにするんだ?」
その場に座り込んだ男に、そんなに喋るからだ、と言いそうになるが我慢する。大人になると思ったことを素直に口にするというわけにはいかない。
僕は背中に括りつけてあった最初にもらえる片刃の斧、ビギナーアックスを両手で持った。
「斧なんか取り出して、やっぱ戦う気なんじゃねえか。だが、その背丈で〈斧使い〉は似合わねぇぞ」
「僕は〈斧使い〉は持ってないよ」
「は? だったなんで斧なんか持ってんだ?普通自分の戦闘ジョブに合った初期武器を選ぶもんだろうが」
《RMMO》では、キャラクター作成の際に3つのジョブと初期装備を1つ選ぶことが出来る。ジョブは戦闘用の物を最低1つは選ばないといけないので、それに合わせて初期武器を選ぶプレイヤーがほとんどだ。だが、僕の戦闘用ジョブは斧に対する適正がない。
「それはこうするためだよ」
僕は直径20cm位の木に近づくと、その木に向かって斜め上から斧を打ち込んだ。斧から手へと結構な衝撃が来る。スキルがないっていうのは思った以上に大変だな。
「木を伐るためか。坊主は〈木こり〉を持ってるのか?」
「〈木こり〉なんか持ってないよ」
続けて何度も、横に斜めに木に斧をいれていく。
「〈木こり〉じゃないのに木ぃ伐ってどんすんだ? ……わかった、〈木工職人〉もってんだろ」
本当にしつこい人だな。無視するより、納得して帰ってもらうほうが早そうだ。
「僕が持ってるのは〈採取者〉、伐採スキルにもそこそこの適正があるからそれを習得するために森に来たんだよ」
「〈採取者〉? それって採取系の補助って言われてたジョブじゃねぇか。それだけで伐採スキル習得って時間がかかんだろ」
「そこまでじゃないよ。確かに伐採スキルの適正は〈木こり〉ほど高くはないけどそれでも十分な適正があるんだよ」
《RMMO》では、スキルは行動によって覚える。剣を魔物に振れば剣術が、何か料理をすれば料理が自身のスキルとしてステータスに記入されるのだ。後は、そのスキルにあった行動をすることでスキルのレベルが上がっていく。ただ、ジョブによってスキルの覚えやすさや成長の早さが違うので、ジョブに合わないスキルを覚えるのは効率が悪い。
「しっかりと考えてたんだな」
「もちろんだよ。それよりいつまでここにいるつもり? 木を伐るだけだから変わったことも起こらないと思うけど」
「それもそうだな。坊主も無茶しそうにないし、俺も町に行くか」
これでやっと伐採に集中出来る。
「いろいろ気にしてくれて、ありがとうお兄さん」
「ははっ、気にすんなって」
正直邪魔だったけど折角心配してくれたのだ、お礼ぐらいは言っておくのが大人としてのマナーだろう。
「そういや名乗ってなかったな。俺の名前はフレイズ、よろしくな」
「僕の名前はセンヤ。また機会があったらよろしくね」
この様子だと別に経験者面したかったのではなく、本当に心配して声をかけたんだろうな。
そう考えると好感を持てる人物だ。まあ、おしゃべりなのも間違いはないので、一緒にいると疲れるけど。
フレイズを見直していると、目の前に[フレイズからフレンド登録の申請がきています]と書かれたウィンドウが現れた。
正直これ以上関わる気はなかったけど、断るのも彼に悪いなと思い渋々承認した。
「じゃあ、またなぁー」
大声で別れの挨拶を口にしながら、フレイズは上機嫌で町へと走り去っていった。
……はぁ、さてと伐採の続きをしようか。
途中休憩を挟みながらも木を斧で打ち続ける。
何度も打ち続けてクサビ形の切込みを作ると、今度は反対側に回って横に斧を打ち込んでいく。
しばらく作業を続けていると、木は最初に斧を入れた側に向かって倒れた。
やっと1本伐り終えたが、手や腕がとてもだるい。この調子では、たとえ時間があっても1日に何本も伐れないな。
一息入れようと汗をぬぐい時間を確認する。時刻はすでに16時を過ぎていた。
倒れた木に剥ぎ取りナイフを突き刺し生木を加工済みの丸太にする。命無い物に剥ぎ取りナイフを刺すとひと回り小さくなる変わりに加工された状態になるのだ。
このテクニックはあまり広まっておらず一部のテスターしか知らない。発見したプレイヤー達が、自身で発見した者意外には秘匿したせいだ。僕もβテスト中に木材を剥ぎ取りナイフで削ろうとして自分で気づいた。
腕のだるさがとれるまで休憩してから新しい木に挑んだ。今日中に伐採スキル習得までは漕ぎ着けたい。
2本目の木に楔形の切れ込みを入れ反対側から伐っていくと、途中から手ごたえが変わってきた。なんというか、しっかりと斧が木に入っている感じがするようになったのだ。多分伐採スキルを習得できたんだろう。
とりあえず2本目の木が倒れるまで作業を続けてからステータスを確認。伐採のスキルがきちんと習得できてることを確認してウィンドウを閉じる。
あ!忘れずに所持アイテムの欄を非表示設定にしないと。これを忘れるとステータスウィンドウがほぼアイテム欄だけになって見づらくなってしまう。
倒れたままの2本の丸太を適当なサイズに斧で切り分け背負い袋に入れていく。この背負い袋も見た目の10倍くらいの容量があるが無限じゃないので気を付けないといけない。
さてと、現実生活をおろそかにするわけにはいかないので今日はここまでにしよう。時刻21時、ログアウトしたらとっととご飯作ってお風呂入んなきゃ。
同設定・別視点の《RMMO》 異世界のお節介な道化師 と《RMMO》 親愛なる魔王さまもお願いします。
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