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ビュゼフェンに降り立った魔王

「…つまり、ジーくんはビュゼフェンに行ったことがないから転移魔法が使えないんだね?」


「まぁ、そうなるな…」



 俺の転移魔法は転移先をイメージすることで発動できる、《記憶型》。転移魔法を極めた者は転移先までの距離と高さをイメージすることで発動できる《座標型》も使えるのだが、俺は転移魔法にほとんど頼らずに突き進んで来たため、このような結果に至る。

 ちなみに、今のミラは太ももと腕を露出した動きやすそうな服に着替えていた。尻尾と角は相変わらず付いたままだが、見慣れるとそれも含めて可愛く思えてきた。

 それにしても…うむ、これはなかなか…



「…み、ミラは転移魔法使えるのか?」


「当然!あたしは座標型だから魔界のどこにでも飛べちゃうよ」


「じゃあ、今回は頼んでもいいか?」


「まかせてっ!それじゃ、あたしのどこかに掴まっててね」



 どこか、と言われても、掴まってよさそうな場所があまりにも少ない。さすがに直接肌に触れてしまうのは気が引けたので、目の前でフラフラと揺れていたそれをおもむろに掴んだ。



「ひゃうんっ!?」


「うおっ!?」



 俺が掴んだそれ、尻尾は、魚のようにスルリと手から抜けてしまった。

 ミラは顔を真っ赤にして、尻尾を背に隠し後退(あとずさ)り息を荒げていた。

 これは、俗に言う『逆鱗(げきりん)に触れる』というやつではないか。いや、竜の逆鱗は喉にあるのではなかったか?とにかくまずいことをしてしまった。



「す、すまん!つい…」



 頭を深く下げ不用意に尻尾に触れてしまったことを謝罪する。



「ハァ…ハァ…つ、次からは…二人きりで、誰にも邪魔されない所じゃなきゃ…ダメだよ?」


「お、おう?気を付ける…」



 なんだかミラの声が色っぽい上、目の奥にハートが見えた気がした。

 えっと?どうやら怒りの方ではなく、そういう意味だったようだ。どっちにせよ気を付けねばなるまい。

 これならばまだ素肌のが安全だろうと思い、ミラの肩に掴まった。



「ふぅ…じゃあ行くよ?」


「ああ、頼む」


「転移!」



 転移魔法発動と同時に感じる、高速で景色が線のように流れ、体が空中に投げ出されたような浮遊感。この浮遊感が消えれば、邪神教の始まりのビュゼフェンへと到着する。

 …はずなのだが、異様に長く続く浮遊感。それなのに普通に見えている景色。まさかとは思うが、いやそのまさかが今起こっているのか。



「ミラ、聞いてもいいか?俺たち今どうなってる?」


「……えへへ、落ちてる…」


「……もう絶対に転移は頼まないぞ……」



 そんなことをしている間にも迫る地面。落ちていた時間の長さから考えれば地上五十メートル辺りに転移したようだ。って冷静に考えてる場合じゃねぇ!



「硬化、シェルド!」



 ミラに体の表面を障壁(しょうへき)で覆う魔法を発動して、とりあえずひと安心。自分でも分からず勝手に口が動いたが、ミラを守れてよかった…

 地面へ叩きつけられて気絶してしまう前に、と思いミラを振り返る。


バサッバサッ


 ミラの背中から竜の翼が生え、力強く羽ばたきこちらへと飛んでいた。



「ジーくん!掴まって!」


「飛べたのかよ!?そういうことは先に言っ」



ズドォン……


 ミラの手を掴もうと上を向いていたため、背中を地面に(したた)かに打ちつける。

 しかしこれまでの鍛練の賜物(たまもの)か、はたまたこの防具のおかげか、意識は手放さずに済んだ。



「ってぇ…治癒、キュアリエ…」



 回復魔法ですぐに痛みを抑え、体力を回復する。

 今日だけで魔力をかなり消費したので、腰にさげた袋から魔力薬の入った瓶を取り出し一息であおる。みるみるうちに魔力も回復し、力がみなぎってきた。



「ジーくんごめん!」


「ふぅ…大丈夫だ。それよりも、ちゃんとビュゼフェンには着いたんだろうな?」


「それは大丈夫。距離は合ってたからね」


「距離は、か…高さにも気を遣ってほしかったな」



 立ち上がり辺りを見回すと、たしかに『ビュゼフェン』と書かれた標識が律儀に立ててあり、その標識の向こう側に大きな城も見えた。



「あれは?」


「うん、ビュゼフェンの支配者ゲオルグの城だよ。前に見たときよりも大きくなってるみたいだけどね」



 見たところ、邪竜王の城よりは小さめだが、あれは破格の大きさなので比べないであげよう。

 大きくなった理由は、やはり邪神教の広まった結果だろう。人間界にまで広がる邪神教とやらの魅力は何なのであろうか。

 なんにせよ、邪神と言うからには邪なものに違いないのだ。一刻も早く元凶を絶たねばなるまい。



「ミラ、もう翼しまってもいいぞ」


「うん。あちゃ…また服破れちゃった…」



 翼を出したせいでミラの服の背中はぱっくりと開き、肩甲骨周辺の肌が露になっていた。



「ほら、これで隠しておけ」


「おー、ありがと」



 腰の袋から皮のマントを取り出してミラに装備させ、背中を隠した。

 袋の口を締めて顔を上げると、ミラが物珍しそうな視線で腰の袋を見ていた。



「ねぇ、さっき魔法薬出したときにも思ったんだけど、その袋どうなってるの?握り拳二つ分くらいしかないのに、明らかにそれより大きい物が出てくるよね?」


「秘密だ」


「えー?教えてくれたっていいじゃーん」



 実はこの袋も例の防具屋に作ってもらった一品なのだ。彼女は元賢者だったので、魔法を用いて色々な不思議アイテムや武具を作っている。

 ただし気まぐれで製作するから滅多にリクエストには答えない、と本人は言っていたが、ついぞ注文を断られたことがない。あれは一種の強がりか何かなのだろう。

 今度ミラの服を頼むついでに、もう一つこの袋を作ってくれないか聞いてみるか。



「さあ行くぞ。さっさとおとなしくさせて今日は早く休みたい」


「そうだね、行こう!」

 なんとかしてセリフを削りたい今日この頃。

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