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新婚魔王と邪神教

 一度、整理しようか。

 俺は魔王業務を学んでいたはずなのに、ミラの突然の接吻により正式にミラとの結婚が確定したようです。

 そして件のミラは、とても嬉しそうな表情で俺の胸に擦りついていた。



「ふふーむふふー」


「ミラ、頭で押すのをを一旦止めろ。(つの)が胸板にゴリゴリ当たって痛い」


「はーい……でへへー」



 さっきからずっとこの調子だ。

 何を言ってもゼリー状魔物のスライミーのように、にへらと笑ってべったりとくっついているのでまともに話ができないのだ。おまけに両腕両足でがっちりホールドされていて身動きができない。

 これでゴツい鎧を装備していればミラはすぐに離れてくれたのかもしれないが、あいにく勇者特注の防具は、馴染みの防具屋によると『布のような材質で衝撃と斬撃に強い』をコンセプトにしたらしいので、見た目と触った感じは布の服と大差無い。おかげで動きやすくて助かったのだが、ここでそれを後悔することになるとは思ってもいなかった。

 なんとか引き剥がそうと四苦八苦していると、数体の魔物が玉座の間に入って来た。



『魔王さん、工事終わりましたよ!』


「あ」


「ジーくーん、ジーくーん」



 最悪のタイミングで終わりやがった…

 てか早すぎるだろ。どれだけ共用スペース作ることに精を出しているのだ。

 何故こいつらは普段の戦闘から本気を出さないのだろうか。絶対に頑張るところを間違えてる。



『ひゅーひゅー』


『お邪魔しましたー』


「報告があるなら早く言え!それとミラ、離れないならせめて背中に回ってくれ…」


「むぃー」



 ミラは抱きついたまま器用に後ろへと移動して首に腕を回し、さらに尻尾まで巻きつけてきた。

 気分は赤ん坊を背負う母親、と思いかけたが、だぼだぼなローブを着ていたため気付かなかった柔らかな感触がその考えを打ち壊す。



(後ろに回ってもらって正解だったな……二つの意味で……)



 なんとか平静を保つために咳払いをして、改めて魔物たちの方を向く。



「用件は何だ?」


『あぁ、そうでした。罠の撤去は完了、その後すぐに共用スペースの設置も完了いたしました』



 早っ!もう完了してたのか…



「具体的に、共用スペースはどうなった?」


『えー、まず食堂と商店が真っ先に完成しました。次に大浴場、教会ですね』



 食堂と商店はまだ分かる。すでにある訓練場や武器庫を除けば、俺でもまずその二つが思いつくだろう。

 ただ、問題なのは後半の二つだ。

 大浴場、これが完成したのは彼らの無駄なところで開花する仕事の早さを見ればぎりぎり納得できる。納得できてしまった自分はすでに彼らのペースに呑まれているのだろうな。

 しかし教会、これは一体何なのだ!?



「ちょっと待て、何故魔族であるお前らが教会を必要とする?」


『魔王様は知らないんですか?最近、邪神を崇める《邪神教》が魔界では広がっているんですよ』


「ミラ、知ってるか?」


「いや?知らなかったよ?」


『ビュゼフェンの魔族が発祥らしいんですが』


『魔王様、おっくれてるー』



 いや、今日魔王になったばかりだから魔界情勢とか知っているわけがないんだが。

 ビュゼフェンは、たしか魔界の地名だったか。邪竜王の城までの最短ルートを探して進んだため、ビュゼフェンには寄ったことがない。



「ビュゼフェン…もしかして邪神教って、人間界にまで広がり始めてるっていうあれのこと?」


『おぉ、さすがミラ様。やはりご存知でしたか』


「邪神教が人間界まで?どういうことだ?」



 聖なる神々を信仰しているはずの人間が、何故邪神なんぞを崇めなければならないのだ。これは何かがおかしい。



「ジーくん、早くも魔王らしい仕事が舞い込んできたよ。人間界にちょっかいを出す魔族を懲らしめに行こう!」


「つまり、そのビュゼフェンにいる、邪神教の始祖みたいなやつをおとなしくさせればいいんだな?早速出発だ!」



 政治だとか、そういう難しい話は俺はまだ分からない。

 俺ができるのは力仕事や戦いだけ。あと謎解きを少し。

 だからこそできることからしていかなければ。

 それと、新魔王挨拶の際邪竜王を引き合いに出したが、あれは結構本気だった。今までの旅の途中、英雄の名に甘んじて怠惰な生活を送る者や、勇者の名を騙って町の人々のもてなしを受けて生活している者を何度か見てきた。

 俺はそういうことをするやつらが許せなかったし、絶対にそうはならないように心がけてきた。だからこそ、邪竜王が娘のミラに全てを任せて遊び呆けているのが嫌だった、そうなりたくなかった。

 俺は、魔王としての仕事に前向きに取り組んで魔界を統治していきたい。それが人間界を守ることに繋がると、信じている。

 そうして決意を新たに踏み出そうとしたのだが、体が後ろに引っ張られて止まってしまう。



「ちょ、ちょっと待ってジーくんっ」



 振り返ると、ミラが近くにあった柱に尻尾を巻きつけて俺の動きを止めていた。案外尻尾器用だな。



「なんだよ…今心の中でかっこよく決めたところだってのに」


「あたしちょっと着替えてくるから待ってて!」


「遊びに行くんじゃないんだぞー」


「あうっ」



 別に格好などどうでもいいので、ミラのローブのフードを掴んで止まらせた。



「違うの!…じ…実はこのローブの下は……ごにょごにょ……」


「はっきり言え、聞こえんぞ」


「もうっ、ジーくんのえっち!」



 何故だ…何故そのようなことを言われなければならないのだ…

 ミラは配下の魔物を玉座の間から追い払った後、耳を貸してと手招きをしたので、少ししゃがんでミラの口の高さに耳の位置を下げる。誰もいないなら普通に言えばいいのでは、と思ったがまた何かを言われそうなので黙って従った。



「実は…ローブの下は……な、何も着てないのっ」


「は!?…ってことは…その下ってはだ…!?」


「しー!しー!ばか!ジーくんのえっち!」



 衝撃の告白に素っ頓狂な声を上げてしまった。

 お、落ち着こうか、いや、無理です。

 まさかの、結婚した竜が痴女でした。



「竜の姿に戻ったりするときに服が破れちゃうから普段は着てないの!そういうことだからちょっと待ってて!」


「お、おう…なんかごめんな…今度、馴染みの防具屋に無限に伸びる服とか頼んでみるから」


「え!?なにそれすごっ!?とっ、とにかく急いで着替えてくる!」



 ミラは逃げ足の速さで有名なメタリックスライミーのような速さで、玉座の間の、共用スペースに繋がる扉の逆の方向にある奥の扉へと消えていった。

 それにしても、あのローブの下には何も着ていなかったとは…道理であんなに柔らかかったわけだ…

 ここら辺りまで来るとピンときた方がいらっしゃるかもしれませんね。おそらくその予想は大方合っております。

 某RPGの舞台をモチーフにしているのですが、当然例の有名RPGとは別の世界のお話ですので悪しからず。

 まだ構想が固まっていないので今回の次回予告はやめておきますね。今回の次回予告ってややこし。

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