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魔王挨拶とマウス・トゥー・マウス

「まずは配下に新魔王として挨拶(あいさつ)!これ大事!」


「ああ、そうだな」



 玉座の間に集まった城内の魔物たち。実に多種多様な魔物が揃っている。

 二本脚で立ち鎧と剣と盾を装備した、翼を持つ小型の竜、ドラゴニュート。特殊な金属が組み合わさった人型のアイアンゴーレム。

 他にもたくさんいるが説明していけばキリが無い。

 魔物というのは比較的寡黙(かもく)なのだと思っていたが、魔物の声が聞こえるようになった今ではその考えを撤回したい。



『なぁなぁ、この前の超美人なメデューサ見た?』


『新しい魔王、あいつ勇者だろ?装備が見るからに勇者だよあれ』


『邪竜王様みたいに話長くなきゃいいんだがな』


『ひぃぃ!悪魔だ!あいつ俺らをボコボコにした悪魔だ!あ、俺も悪魔だった』



 秩序の文字が見えず、皆好き勝手に喋っていて一向に静まらない。

 床を強く踏み鳴らしこちらに注目を向けさせる。



「全員、静かに聞け!」



 しん、と静まりかえる玉座の間。トップに言われるまで静かにできないとか、子供かこいつらは。



「俺は新しく魔王になるジーク!邪竜王から任命された、元勇者だ!」



 勇者という言葉を聞きざわめきだす魔物たち。やはり勇者に対して良い感情は持たないのだろうか。まぁ、それはそうだろう。

 そこで一体の鎧の魔物が前に進み出た。



『我らを、どうするつもりだ?』


「別にお前らをどうこうしようってわけじゃない。ただ、俺は邪竜王とは違う。魔王としての仕事を全うするつもりだ」


『貴様!邪竜王様を愚弄(ぐろう)するか!』



 剣をこちらに向けて勇ましく抗議をする魔物。風貌(ふうぼう)といい動きといい、こいつはなかなか強い魔物のようだ。しかし今の争点はそこではない。



「じゃあ言ってみろ。邪竜王が何をしてた?実際にお前らに指示を出していたのはここにいるミラだと聞いた」


『てめぇ!なにミラ様呼び捨てにしてんだ!』


「っせぇな!横から割り込んで来んな!今はこいつと話してんだ!ややこしくなるから黙ってろ!連爆(れんばく)、イクスプロ!」


ボボボボボボン!


『わたたたっ!?』



 横から割り込んで来たうるさい魔物の足下に小規模な爆発魔法を発動した。



『かたじけない。たしかに邪竜王様は魔王としての業務を果たされていなかったのやもしれぬ…しかし、邪竜王様への愚弄は撤回していただきたい』


「それは俺が一言多かったな。悪かった。他に意見のある者はいるか!」



 そう聞くと、再びあのうるさい魔物が飛び出してきた。



『ミラ様を呼び捨てに…』


「くどい!突打(とつだ)、スマシュ!」


ヒュガッ


『がはぁ!?』



 打撃魔法を顔面に直撃させて吹っ飛ばして黙らせ、再び魔物たちの方へ向き直ったが、これ以上意見は無さそうだ。



「ミラ、まずは何をさせればいい?」


「んー、この城の設備の改修工事かな。防衛のための仕掛けは全撤去して、玉座の間と魔王の私室以外の余ったスペースを配下の共用スペースに。そうやってまずはジーくんの信用を上げておく。その方がこれから指示が通りやすそうだからね。それに、もう守るべき姫はいないし、ジーくんなら襲撃されても自分の身は守れるでしょ?」


「よく考えてるな。分かった。よし、お前ら!まずは罠の類を全撤去!それによって余った場所はお前らの共用スペースにするから気張って工事しろ!」



 配下の魔物たちは戸惑いながらも、拳や翼を突き上げて雄叫びでこれに答えた。

 各々で役割を分担して玉座の間から出ていく魔物たち。心なしか嬉しそうな顔をしているように見えた。

 今まで気にせず剣や魔法や拳で魔物たちを倒してきたが、こうして言葉が分かるようになり表情も読めるようになってくると、申し訳なかったな、と謝りたい気持ちが込み上げてくる。

 まぁ、たまに言葉を話す魔物も倒してきたから何とも言えないが。



「さて、次は…」


「今のところ他にできることは無いから……あたしと愛を(はぐく)もう…か?」



 腕を絡めて頬を赤く染め俺を見上げるミラ。

 くっ、理性が!理性がもたない!



「ちょっと待った落ち着け顔を赤らめるな。お前との関係は形式上のものじゃないのか?邪竜王は嫁だの何だの言っていたが俺はそれを認めたつもりは無いし何も手続きしてないし、ミラだって勝手に決められただけだろ?いいか?落ち着いて考え直せ」


「え……嫌、だったの…?」



 ミラから途端に笑顔が消え、うつむいてしまった。風を切る尻尾も今は力無く垂れ下がってしまっている。

 ぽたぽたと床に雫が落ち、石畳(いしだたみ)が濡れて暗い色へと変わっていく。



「そうだよね…やっぱりこんなおてんば、嫌だよね…ごめんね、馴れ馴れしくジーくんなんて呼んじゃって……ぐすん…」


「いや、ちが、俺はお前が嫌いとかそういうんじゃなくてだな?ミラから直接了承を受けてないから強制されてそういうことしてるんじゃないかと思ってな?」


『ブー!ブー!』


「お前らまだいたのか!?散れ!シッシッ!」



 まだここに残っていた十数体の魔物たちから大ブーイングを受ける。工事に向かったと思っていたのに…迂闊だった。

 全員玉座の間から出ていかせてミラを振り返ると、顔を上げて泣き腫らした目でこちらを見ていた。



「じゃあジーくんは、あたしのこと嫌いじゃないの?」


「嫌いなわけあるか」


「じゃあ好き?」


「す…好き…」


「結婚してもいいくらい?」


「あ…ああ…そりゃ…可愛いし…」



 これは、かなり恥ずかしい…顔から炎魔法が出ているように熱い。

 今は俺の顔も赤く染まってしまっているだろう。

 その言葉を聞いたミラは笑顔を取り戻し、思いきり抱きついて来た。



「えへー。あたしもジーくん大大大好き!むちゅー!」


「んむぐぅ!?」



 え?

 目の前には幸せそうなミラの顔があって、

 腕を頭の後ろに回されていて、

 息ができなくて、

 唇に柔らかいものが押しつけられていて…



「んぷはぁ!」


「っぷは!?」



 要は、熱い口づけをされていたわけでして。

 え?え?どうしてこうなった?

 頭の中がごちゃ混ぜになって、ぐるぐるで、混乱魔法で、思考がついて行けなくて…

 当のミラは口の端を拭って、どこかうっとりしたような顔で満面の笑みを浮かべていた。



「んふふ…これで婚姻(こんいん)()はかんりょー!」


「…へ?」



 勇者ジーク、この度竜のミラと結婚しました。

 いい加減魔王としての仕事始めろってね。

 だって!だって今日はいい夫婦の日(11/22)だったんだもの!

 予告と違う内容になりつつあるので次回予告は控えようと思います。


 次回、劇的ビフォーアフター(え

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