邪竜王(バツ2)
「……案外楽勝で玉座の間の手前まで到着してしまったのだが…」
「そりゃ、部下たちはあたしに手を出せないからね」
道中の魔物は牢から脱出した時と同じく、遠巻きにこちらの様子を窺っているだけで何もしてこなかった。
罠は片手間で容易く破壊できるので問題無いのだが、魔物共がいつ襲い掛かってくるかとヒヤヒヤさせられたので、風魔法でちょっと吹き飛ばしておいた。
意を決し、玉座の間の重厚で豪奢な扉を蹴破る。
そこに座していたのは、巨大な竜の姿の邪竜王。
「おい邪竜王!話が……」
「ハッハッハ!よくぞここまで来たな勇者よ!褒めて遣わそうぞ!」
待っていましたとばかりに最大級にカッコつけた言葉を叫ぶバツ2の邪竜王。
「待て、俺の話を…」
「どうれ、我が力を存分に味わうがいい!」
プツン、と何かが切れる音がした。
「おいこらバツ2!」
「ぐぁ!?何故貴様がそれを!?」
最大級の打撃魔法を食らったように崩れ落ちる邪竜王(バツ2)。
やっぱり気にしてたんだな。
「あっはは、ごめん教えちゃった」
「ミラ!?何故そのような格好をしているのだ!?イタズラの罰として牢に閉じ込めただけであろう!?」
「勇者様があたしを助け出してくれたのよ」
そんな理由で閉じ込められてたのかよ、こいつは。
「だー!聞けったら!」
こいつらは親子揃って人を苛立たせる才を持っているのか。頭が痛い。
「む、なんだ勇者よ」
「こいつを返還する代わりに、シェイラ姫を返してもらおうか」
そう言うと、邪竜王は腕を組んで唸り始めてしまった。
娘の姿を見て狼狽した時から思っていたが、こんな姿なのに仕草が妙に人間臭い。
「どうした、早くしろ」
「いや、待ってくれ勇者よ、剣を抜くな。こればかりは本人に聞いてみなければなんとも言えんのだ。勇者ともあろう者が人権無視か?良くないぞ」
急に口調が丸くなり、正論を述べてくる。
危ない、また敵のペースに呑まれている。
交渉の主導権はこちらが握らなければ。
「うるさい!大体お前が先に拐ったんだろうが!」
「分かった、分かったから、落ち着け勇者よ。今連れてくるからおとなしく待っているがいい!」
邪竜王は玉座から飛び立ち、玉座の間の上へと上昇していき、遂には見えなくなった。
何故最後だけ威勢を取り戻したのか分からないが、とりあえず話は通ったようだ。
ものの数十秒で邪竜王が再び玉座の間へと舞い降り、その手からドレスを纏った人を地に降ろした。
「あなたが勇者様ですね」
「はい、あなたを助けに参りました」
邪竜王の娘を降ろし、地に片膝をついて頭を垂れる。身分の高い人への敬意を示す礼だ。
「何よ、急に態度変えちゃってさ」
「…お前は黙ってろ…」
邪竜王の娘がいじけているのを黙らせ、シェイラ姫の言葉を待った。
これでようやく、長かった旅が終わる。
そう、思っていたのに、シェイラ姫の口から予想外の言葉が飛び出した。
「私は、フィルスタンへ帰る気はありません」
「……はい?」
どうも、肉付き骨です。
次回、姫が帰らない理由発覚。