邪竜王の娘、ミラ
「邪竜王に娘だと!?」
娘がいるのに姫を拐って、奴はハーレムでも作ろうとしているのか。けしからんやつだ。
「うん、父上バツ2の独り身だよ」
ハーレムどころではなかったようだ。なんだか急に邪竜王が俗っぽく思えてきてしまった。
「可哀想だから他人に言うのはやめてさしあげろ……いや、その前にお前のその姿、竜ではないじゃないか!」
たしかに角はあるが、それだけでは竜とは言えない。目の前にいるのは、どう見ても九割人間の姿だ。今見えている範囲では肌には身を守る鱗も殻も無い。
「今は人化の術で変化してんの!…まだ完全に変化はできないけど…」
邪竜王の娘の足下を見ると、ローブの下から竜の尻尾がはみ出している。
それが今は犬の尻尾のように左右にブンブン振られている。いや、本当に風を切る音が聞こえて恐ろしい。
「いやー、でも勇者様ってのは強いんだね。あたしをお姫様だっこして走る姿、なかなかかっこよかったよ?」
そう言って上目使いでニコリと笑った顔はなかなか可愛くて…
っと、いかん!相手のペースに呑まれている!こいつは邪竜王の娘なのだ。しっかりしろ俺!と自分の油断しきった心を一喝する。相手はあの邪竜王の子なのだ。どんな卑劣な手を使ってくるか分からない。
「くっ…縛鎖!クロスチェイン!」
「およ?」
ジークの詠唱により邪竜王の娘の足下から出現した鈍色の二本の鎖が邪竜王の娘を簀巻きにする。
あっという間にぐるぐる巻きにされた邪竜王の娘はバランスを崩し地面に倒れてしまった。
「あっ!?ちょっと!何するのさ!」
「お前を人質にしてシェイラ姫と取っ替えてもらうんだ、よっ!」
先程とは違い、芋虫のようにうねうね動いている簀巻きにされた邪竜王の娘を適当に肩に担いで城の奥へと走り出すジーク。
「さっきからお前お前って…あたしにはミラっていう名前があんの!」
「黙ってろ、舌噛むぞ」
一応こいつは人質。交換前に怪我をされては困るのだ。
「えっ…勇者様はそういうハードなのが好み…?」
「意味分からん!本当に黙っててくれ!」
本当に、この竜娘は何を考えているのだろうか。さっき倒れた時に頭を打ってしまったか、少し心配になってきた。
どうも、肉付き骨です。
次回、バツ2の邪竜王登場す。




