危機の予感
『……報告は以上。む、魔王殿?もしや…新しい魔王の外套がお気に召さなかったか…?』
玉座の間にて、ジークは配下の魔物からの報告を受けていた。
ジークの身を案ずる黒い鎧型の魔物はデモンアーマー。名はアリゴテ。魔王挨拶の時に邪竜王への強い忠誠心を見せたあの魔物だ。
現在は彼ともう一体のデモンアーマーと共に邪竜王の城の門を守らせている。
「いや、かなり禍々しいが嫌いじゃない」
昨日は勇者服のまま魔王業を務めていたが、ミラや魔物らの「どうも締まらない」「いきなり攻撃されそうで怖い」という意見により装いを変えることにした。
まず、邪竜王が人間の姿でいる際の鎧が候補に出たのだが、ジークの体格に合わなかったので断念。
次に魔王らしさを出してみようと黒いボロマントを羽織ってみたが、ミラにダサいと一蹴されこれも断念。
どうしたものかと例の袋の中身を改めたところ、ドラゴンズスケイルという、緑色で竜の顔が胸部と肩に彫り込まれた全身鎧を発見した。
とりあえずはこれでいいだろうということで、腕利きの魔物に黒を基調に塗装してもらい、今の装束に至る。
「実は少し寝不足でな。まぁ気にするな、報告ご苦労。ドルチェットにはこのまま情報収集を頼むと伝えてくれ」
『御意』
アリゴテに伝令を任せた後、ジークはふと体を動かしたくなったので、城内の新たな見取り図に目を通しながら立ち上がったが、手持ち無沙汰になり玉座の間をうろうろしてみた。
情報が無ければ特にすることも無く、かといって自分から出向き監視して回るのはよろしくない、とミラから聞いた。全ての場所を調べるには魔界はあまりにも広く、転移魔法無しに回ることは困難なのだ。
魔界の一部しか知らないジークは自由に移動ができないため、邪竜王の城で唯一自由な転移魔法が使えるミラに頼ることになるのだが、下手すると落下もしくは埋没しそうなのであまり何度も頼みたくない。
そうなるとやはりこの場で待機し続けることになるのだが。
「暇だ…」
昨日はあんなにもくっついてきたのに、今日はタマキに城内の案内をしているらしく、近くにいない。
ジークが暇をもて余していることに魔物らは気付いているようで、代わる代わるどうでもよい報告をしにやって来る。今日の黒陽は良い黒さだとか、食堂のおすすめメニューは野菜のスープだとか。
そんなことを考えていると、またもう一体魔物がやって来た。人食いネズミのスチューベンだ。体は人間ほどの大きさだが、名前に反して彼はベジタリアンらしい。
「食堂のおすすめは野菜スープって話ならもう聞いたぞ」
『あー…先を越されましたか……ってそうではなくてですね!実は城門の隙間にこんなものが…』
スチューベンが差し出したのは、手のひらより少し大きい、折り目がついた正方形の紙。
一見ただの白紙かと思ったが、淡く煌めく魔法陣が紙面に浮かんでいるのをジークは見逃さなかった。
「おお、捨てられなくて助かった!」
ジークは紙を受け取り、炎の魔法を唱えそれを燃やした。
『もっ、燃やしちゃうんですか!?』
「ああ、これは俺の知り合いが作った魔法道具の一つで、っと、少し待っててくれ」
炎はたちまち青く変色し、紙から音声が流れ始めた。
『……た………すけ…………て………ジー……ク……』
「アーティ…?アーティなのか!?」
返答は返ってこないと分かっていても、ジークは焦りを抑えられなかった。
その声は弱々しく、今にも消えてしまいそうに掠れていた。
「くっ……少し、留守にする。誰かに聞かれたら適当に誤魔化しておけ」
『はいっ、お気を付けて』
ひとまずスチューベンに留守を任せ、ジークは取り乱さぬよう落ち着いて目的地を思い浮かべ転移魔法を唱えた。
「瞬転、テレパウス!」
座標型とは違い、記憶型の転移魔法は飛行せずに目的地に一瞬で移動することができる。はずなのだが、一向に景色が変わらない。まだ城内のままだ。
「くそっ!やっぱり無理か……ならまずこっちだ…瞬転、テレパウス!」
今度は本来の目的地とは違う場所を思い浮かべると、正しく魔法が発動して景色が変化した。
目の前には、広大な草原の中に不自然に立つ大きな門。
ここは《歪みの境界》。
何百年も前に突如現れた、人間界と魔界を繋ぐ数少ない出入口だ。
これの出現により今の人間界と魔界の対立が誕生してしまったのだが、今はそんなことを考えていても仕方がない。
「今行くからな…!」
重い扉を押し開けその門をくぐり、ジークは白い光へ飛び込んだ。
おひさです、肉付き骨でございます。
青森で大自然に触れたところ浄化されてしまい、インスピレーションが消え去ってました…
今はTOKYOに戻ってきているので徐々に穢れが蓄積して元に戻りつつあります(((殴
ではまた一ヶ月後に(ぇ




