短編65
【くるくるくるん】
ぼくを中心に世界が回っている。くるくるくるん。みんなぼくの言うことを聞く。くるくるくるん。おっぱいだってたくさん揉める。くるん。だけどどうしてだろう。好きなようになっているはずなのに、幸せを感じない。というか、何も感じない。周りはくるくる回って、ぼくだけが止まっていた。
【衰えルンルン】
二兎を追うもの、一兎も得ず。溜まりにたまった未読の本を、いつになったら消化できるのか、これはもう、眼精疲労を疑うばかりである。心はぴょんぴょんしても、目が疲れを訴え「あ、もう無理っす」とあえなくダウン。「たて立つんだジョー!」と叫んでも、立つのは下半身のぽんちん。衰えを感じるこの頃。
【空きっパラダイス】
ズンチャカズンチャカ、ウッホッホイ!! 腹を空かせて三千里、痩せこけた体で歩き踊り、人々を魅了する。傍目から見れば死にそうだけど、しかしどことなく、パワフルさがあり、元気をくれる。「オナーカペコペコ、キニナラナーイ、ヒョイ!!」とはいえ、何を目指してるのか皆目見当もつかない。
【くすね屋】
「坊や、この薬を盗んできなさい。でなきゃ、キツイおしおきだ」盗人見習いの僕に初めて課せられた仕事だった。だから、絶対に失敗をする訳にはいかない。コクりと頷き、静かに師匠の後を去る。心臓の鼓動が早いのを感じる。落ち着け、ぼく。教えてもらったことを反芻するんだ。しかし、冷静を保てなかった僕は、逃げ出してしまい、師匠の怒りの尾に触れてしまった。
「いけ、俺が手を下す前に。その代わり、二度はない。もしも、どこかでお前を見つけたら、その時はおまえの全てを終わらせてやる。いけ」ぼくは自分の不甲斐なさに絶望し、動けなかった。否、プライドがそれを許さなかった。命を捨てる覚悟はできていない。師匠は。行き場のない僕を拾ってくれて、ここまで養ってくれた。
これ以上何を求めるというのか。本当は、あの時、死んでいた。ぼくに生きる選択肢はない。命の恩人に殺されるのなら、それで本望。「僕には盗みができない。師匠の役には立てない。そんな僕は生きていても意味はない。だから、こんな僕に生きるチャンスを与えるべきじゃない。今すぐに手を下してほしい」
「わかった。おまえの最期の言葉、しかと耳にした」<手盗絶命>胸中の皮膚をえぐり、力技で心臓をひっぱりだす。その手のこなしは、まさに命を奪う技である。ドサッ、少年、ここに死す。




