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届かぬ想い  作者: 匿名
第一章
2/2

目覚め

目覚まし時計からけたたましい音が鳴り響く。

時計を耳元に置いていたせいか、亮太はたまらずベッドから飛び起きた。

糊がついたかのように重いまぶたをゆっくりと開け、けたたましい音を鳴らし続ける時計を、バンと荒々しく止めた。


おぼつかない足取りで一階へ降りると、弟の康太がランドセルを背負って、焦った様子で靴を履こうとしていた。



「うー、くつがはけないー。」




それもそのはず、康太は先週の日曜に、新しい靴を買ってもらっていた。マジックテープで止めるタイプのが簡単だよと親は説得を試みたが、康太は聞かずに、靴紐を結ぶタイプの靴を選んでいた。

案の定、苦戦している。見かねた亮太は、康太のそばにいって、靴紐を結んでやろうとした。





「にいちゃん!だめだよー!ぼくが自分で結ぶ!」

「なら一人でがんばれー。」

「あ、あっ!にいちゃんやっぱ結んで!」




やれやれ、と思いつつ、靴紐を結んでやった。




「ありがとー!いってきまーす!」




康太は急いで駆け出していった。遠くで母が、「だからマジックテープのやつがよかったのに。」と苦笑していた。





朝御飯を食べ終え、亮太も学校へと向かう。

途中で、半ば急いでる健太郎を見かけた。




「健太郎ー、おはよ。」




「おお、亮太、おはよー。」




健太郎とは小学校からの大親友で、登下校も用事がない限りほぼ一緒だ。昨夜のテレビ番組の話や、部活のことなどを話していたら、もう学校に着いた。始業のチャイムが鳴り響いた。






「はー、体育かー。いやだなー。」





健太郎は、着替えながらぼやいた。





「なんで、楽しいよ。」


「バスケじゃんかー。亮太はバスケ部だからいいよな、うまくて。俺なんてドリブルもままならないんだぞ。」


「なんだよー、体育がサッカーの時は喜んでたくせに。」


「サッカーはいいんだよ。俺の唯一の得意なスポーツ。」




話が弾んだので、亮太と健太郎は、着替え終わった後もストーブの前で話を続けていた。



「それにしても、サッカー部厳しそうだよな。調子どう?」


「楽しいぜ。先輩みんな上手くて参考になるし、入ってよかった。ま、筋トレ一番辛いけどな。腕立て腹筋30×4セットとか鬼。」



「その割には腹筋ついてないな。」



そう言い、健太郎のお腹をつついた。筋肉の上に脂肪が乗っている様な感触だ。



「わっ、やめろよ。お前ホモかよー。気持ちわりーー。」



健太郎は冗談で言っていたが、その言葉は亮太の心にグサリと突き刺さった。




「ち、違うよ…。」


「わかってるわかってる♪冗談だよ!あ、やべえな、行こうぜ!」



いつの間にか、授業開始まであと一分。遅れたらひどい仕打ちが待っているので、亮太も健太郎の後を追うように駆け出した。






「リバウンドー!」 「ディフェンスかためろー!」 「ナイシュー!」



クラスメイトの掛け声と、ボールをつく音が、体育館中に響き渡っている。


今日は健太郎のいるチームとの対戦だ。

相手にはバスケ部の中でも一二を争う実力者の加藤がいた。

亮太も一応、バスケ部のレギュラーなので、加藤のマークについた。


試合開始の笛が鳴と同時に、加藤にボールがわたった。いきなりの一対一。緊張が走る。

その瞬間、加藤がフェイクをかけて突破しようとしたが、亮太もそれにすばやく反応し、加藤は抜かせなかった。

加藤は悔しそうに味方にパスを回した。回した相手は健太郎だ。

健太郎はげっとした表情でパスを受け取った。健太郎のマークマンが奥にいたので、亮太がカバーに入った。



「よ、容赦ないな…。」

「 サッカーのときやられたから、お返しだ。」



健太郎も腹を括ったのか、ドリブルで抜こうとする。しかし亮太は、それに容易に反応できた。

しかし突然、足元が滑り、亮太はコケてしまった。

偶然その先に健太郎もいて、二人は重なるように倒れてしまった。



ドクン




突然、亮太の心臓の鼓動が早まった。亮太はなんとか心の中で状況を整理しようと試みた。





「(健太郎の体が近い…。ぼ、僕、何でこんなにドキドキしているんだ…?)」





「おおい!二人とも!大丈夫か!?」





先生の 声で、我に返った。急いで健太郎の上から離れ、健太郎を起こした。





「健太郎…ごめん…。」

「いいって、気にすんな!よくある!」







そして、試合は続行され、24対20で亮太のチームが勝った。

しかし亮太にとっては、試合の勝ち負けがどうでもよく思えるほど、今日の出来事は衝撃的だった。

気がつけば亮太は、先程の出来事を頭の中で何度も何度も反芻していた。





今日は五時間授業の日なので早い。帰りの号令が終わり、亮太はすぐ健太郎の元へと行った。

しかし、亮太の心拍数は、未だ早まったままだ。





「健太郎、帰ろー。」


「おう。」





健太郎はバッグを背負い直し、いつもの口調で喋りだす。いつも通りの光景だ。

しかし、今の亮太にとっては、それがいつも通りの光景ではなかった。



健太郎の話を聞くとドキドキする。健太郎を見るとドキドキする。一体何なんだろう。心拍数が上がりすぎて、体が熱い。心臓が破裂しそうだ。




「・・・大丈夫か?さっきから変だぞ。」


「えっ、あ、大丈夫大丈夫。何でもない。」


「顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」






そう言って、健太郎は亮太の額に手を当てた。




「ほ、本当に平気だよ…。」










そのまま、亮太はバタリと倒れた。




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