The Second Chapter ――二話――
結構殴り書きなところがあるので、随時修正していくと思います。
その際は活動報告に書いていこうと思いますので。
私は案内されるがままに歩いて、最後着いた場所は土手だった。
人が多い。土手の一二段下がったところでは、有り余るスペースを利用して走り回る子どもたちが数人見受けられる。必死にボールを追いかけて走る子どももいる。川のすぐそばで散歩している大人がいる。
全員が違う動きをしてそれぞれの時間を楽しんでいる。それを眺めるのはなんとも形容しがたい、しかし、楽しいに近い感情だった。
「ここ、オレのお気に入りの場所なんだ。暇さえあれば、毎日だって来れるぜ」
「……分かるような気がする。私も、楽しい」
「人見てると飽きないんだよな。皆がみんな、それぞれ違う世界を見てて、違う考えを持ってる。それを実感できるっていうか……? うまく説明できないけど」
悠希の言うことは理解できる。確かに感覚的ではあるが。
「こうやって眺めてると“自分はこの中のひとりでしかないんだ、ちっぽけな存在なんだ”って思うよ。でも、だからこそ、自分の精一杯で生きていこうとも思うんだよね」
悠希は照れくさそうにへへっと笑い、そしてあーあと呟いた。
「何をしているんだろうね、オレは。初対面の子を連れ回して……」
「いや、私は、迷惑には思ってない。その、えっと……あ、ありがとう」
言葉とは難しいな。うまく伝えられない。
「コロッケ、美味しかった……」
悠希はきょとんとした顔になる。しかし、すぐに笑って、
「ははっ、それは良かったよ、奢ったかいがあったってものだ。ふふっ」
私は少し恥ずかしくなった。
「なぜ、そんなに笑う?」
「え? いや、別に理由なんてないよ。励まそうとしてくれたんだろ? ありがとな」
いよいよ私は恥ずかしくなった。顔が赤くなっていたら困るので、顔を背けた。
「……別に」
そんな風に話していたが、気づくとだいぶ日も傾いてきていた。あれだけいた人もいつの間にか数えるほどにまで減っている。
「ああ、そろそろ帰らなくちゃ……。リアは時間、大丈夫なの?」
「さっき、用事はないと言った」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「?」
悠希はえっと、と口ごもる。だがすぐに開き直ったようだ。
「まあ、大丈夫ならいいけどさ」
「…………帰るのか?」
「そうだね、もう時間が」
「………………そうか」
こんな感情は初めてだ。味わったことがない。なんだろう……。離れたくない……? もっと話していたい……? そんな――――
ザアアァァァァ……
突然の強風、そして、招かれざる客が現われた。
「よぉ“紅の雫”、久しぶりだなぁ」
「っ!」
「え?」
私はその名前に反応した。“紅の雫”この名を知っているのは“裏”の人間だけ。
「悠希、逃げて」
「は? ちょ、何を言って」
「足手まとい」
私は会話の合間にマントを脱ぎ捨てた。
悠希はリアの姿に驚きつつ、状況が理解できないでいた。
「どういうこと? リア!」
「早く逃げて! 傷つけたくない……!」
その間にも相手は近づいてきていた。
「なんだぁ? 友達か? “紅の雫”に友達がいたなんて皆に言ったら驚くだろうなぁ」
「うるさい、黙れ」
「そんなの連れてちゃ俺には勝てねえぜ?」
私はまだ納得できないでいる悠希の前に立つ。
「お前は何」
「おーおー、同業者のくせに忘れてもらっちゃあ、困るぜ。俺は“紫のコウモリ”。お前には恨みはねぇが仕事なんでね、殺させてもらう!」
「依頼主は誰」
「はっはっはっ、“紅の雫”さんは面白いことを聞きますねぇ。そんなん、教えるわけないで、しょ!」
コウモリは恐るべき脚力で距離を瞬時につめる。
しかし、私もそれに合わせて防御を展開する。本来なら相手がとぶと同時に後ろにとび、威力を軽減させるところだが、後ろには悠希がいる。避けるわけにはいかなかった。
二人がぶつかる。
「ぐっ!」
予想していたよりも速かった。しかし、その攻撃に重みはほとんどなかったことが幸いして、ダメージは小さい。
「……速いな」
「コウモリだからな。音もなく近づくさ」
「ただ、軽い!」
私は正面に立つコウモリのみぞおち目掛け、拳を振り下ろす。
それをコウモリは腕を使って防御しようとしたが、リアの拳を前にそれは通用しなかった。
「うあぁ!」
私は、よろめき、反射で飛び退いたコウモリを冷えた眼で視る。
「お前の攻撃・防御は軽い。速さだけじゃ、私には勝てない」
「なめやがって!」
口ではそういうコウモリだが、突破口を見つけていないらしく、少し離れたところで立ち尽くしている。
私はコウモリを視界から外さずに悠希に話しかける。
「悠希」
「おい、説明してくれよ」
「ここは危ない」
「なら、リアも一緒に」
「私はあいつを殺す」
「ちょ、ほんとに何言ってるんだよ。殺す? ふざけんなよ、説明しろ」
「あいつは私を殺しに来た。だから、私はあいつを、殺す」
「そんな……!」
私は唐突に会話をやめ、コウモリに急接近した。
「うわっ!」
コウモリもすぐに飛び退こうとする。が、間に合わない。
私はコウモリの頭をがしりと掴み、地面へと叩きつけた。
「がっ! は……」
倒れたコウモリに馬乗りになり、首に手をかけたところでコウモリが苦しそうにしゃべりだした。
「ま、まて、ちょっと待ってくれ……」
「待たない」
「お、俺と手を組まないか?」
「組まない」
いよいよ殺してやろうという時、悠希が駆け寄ってきた。
「おい、リア!」
「何」
「何じゃない! そいつを離してやれ!」
「なぜ」
「いくら相手が殺しに来たからって殺していい理由にはならないよ」
私はコウモリから離さなかった視線を悠希に向ける。
「命の重さは皆同じだ。オレも、リアも、その人も、今日リアがエサをあげた猫達も。だから、そんな簡単に奪っていいものじゃ、ないんだよ……」
「…………………」
私はコウモリの首から手を離し、すっくと立ち上がる。
「ゴホゴホッ」
「おい、コウモリ」
コウモリはむせながらも目の前に立っている二人をみる。
「はっ、なんだよ、今更殺すことに躊躇してるんじゃねぇよ」
「減らず口を」
私はコウモリの左耳あたりを蹴る。
「い゛っ!」
「聞け、コウモリ」
コウモリもやっと懲りたのか、涙目になりながら大人しく聞き始めた。
「お前は“紅の雫”を暗殺することに、成功した。“紅の雫”は死んだ。もう、いない。……わかったか」
「……逃げるのか?」
私は答える代わりに、もう一度聞く。
「わかったか」
「……ああ、わかったよ。俺は死闘の末、見事“紅の雫”を殺した。任務成功、俺の株も上がると」
「好きにしろ」
コウモリが立ち上がるが、私は何も言わなかった。
「使いの駄賃に教えろよ。お前はこれから一体どうするんだ?」
「聞いてどうする」
「駄賃だって言ってるだろ。口外はしねぇよ」
「……………普通に生きる」
「そうか……ま、せいぜい楽しく生きろよ“紅の雫”さんよ」
コウモリの足目掛け、ローキック。
「死んだって言っただろう」
「………」
コウモリの額に怒りマークが浮き出たように見えたが、全くの無視で私は悠希の方を振り返った。
日はもう、沈む寸前だ。
「ユウキ、時間が……」
「いいよ、もう。そんなこと。……リア。あんた、何者なの?」
私はうつむく。答えられない。答えるわけにはいかない。
「…………知らないほうが、いい。知らないほうが……」
その方が楽しい毎日を送れる――――