第2話:人生初の遅刻です
影鷹「はぁ……」
本日三度目の深い溜息、朝だけで3回も溜息をついている……厄日だ……ついてない……
とにかく学園へ向かわなくてはいけない。休むわけにはいかないからな。
影鷹「風雫、背中に乗れ」
風雫「うん♪」
さっきのことは怒ってないみたいだ。よかった、ホッとした。
って、ホッとはしてられない。
影鷹「飛ばすぞッ!!!」
風雫「あいっ♪」
風雫の元気な返事とともに、俺は駆け出した
8時15分から、進級式が始まる。
それまでに学園に着き、第1号館大体育館に行かなくてはいけない。
ちなみに体育館は計8箇所ある。理由は小等部から高等部まであるためと、学生の人数が他校に比べて比較的に多いためである。
多いのだが……
影鷹「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
多いはずだ……
影鷹「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
多いはずなのだが……
影鷹「うおぉぉぉぉぉ……」
何故誰もいない……まさか…遅刻……か…?
小等部からこの高校生になるまで無遅刻無欠席を保っていたのに……クソッ……
余計な雑念が頭の中をグルグルと過ぎって、影鷹の走るスピードは段々と失速していった。
風雫「風の如く、大地を駆ける疾風となれ♪ ゲイルランニング♪♪」
影鷹「うおッ!?」
突如、足元に緑色の魔法陣が現れ焦った影鷹は立ち止まった。
影鷹「な、なんだっ!?」
風雫「遅刻しそうだから、風雫の新しい魔法を、ね♪」
影鷹「ね♪ じゃねぇよ、一体なんの魔法を掛けた……って、なんだか体が軽いぞ…?」
風雫「お?成功したみたい??」
影鷹「なんで疑問形なんだよ……」
不安になった影鷹だったが、再び走り出した瞬間……
影鷹「な…に…!?」
風雫「わーい♪成功した~~~♪♪」
走り出してわずか3秒、距離にして約50m近く走ったことに、影鷹が驚いた。
学園までの距離が約1、2kmだから……約1分12秒で着くことができる……
影鷹「お前、いつの間に……」
風雫「春休みに練習してただけだよ~♪ 成功するとは思わなかったけどね♪」
影鷹「そ、そうか…… (こいつも……段々成長してるんだな……)」
少し、俺も嬉しくなった
影鷹「さて……と、今8時10分だが、これならギリギリ間に合うか……」
風雫「ちなみに効果時間は5分だからね~♪」
影鷹「それだけあれば十分だ、しっかり掴まってろよ?」
風雫「がってんしょ~ち♪」
影鷹「じゃ、行くぞ!」
そして再び走り始めたが、まだこの状態での走りが慣れていないため、さっきのように50m進んでは止まり進んでは止まりというのを繰り返した。
少し時間はかかったがそれでも3分かからずに着いた。
影鷹「風雫はそのまま教室だったよな?」
風雫「そだよ~♪」
影鷹「それじゃぁ、またな」
風雫が学園内へ入っていくのを見送り、俺は第一号館を目指して走った。
だが……第一号館も結構遠い……間に合うか……
影鷹「まだ1分時間が残ってるな……」
そして、影鷹は走り出した。
影鷹「だいぶ慣れてきた感じがするな……もうちょっと飛ばしてみるか……」
スピードを上げようとしたその時だった。
影鷹の目の前に人影が見えたのであった。
影鷹「うぉわッ!?」
???「え!?きゃぁぁぁ!!!」
影鷹「(やばい、ぶつかる!!! )」
このスピードでぶつかれば自分も相手もただでは済まないだろう。
そう考えた影鷹は咄嗟の思いで自己犠牲を覚悟してスライディングをし、相手の足の間をくぐって躱した。
影鷹「なッ!!!/////////」
その一瞬、たった一瞬だった。コンマ0.数秒の間だったが、何か見てはいけないようなものを見てしまった気がする。しかもそこだけきちんとスローで……そうだ忘れよう、うん忘れよう、忘れるのが一番だ。
そんなことが頭の中を渦巻いていたが、それも束の間だった。
影鷹「(よし、上手く躱せたな……って、焼却炉!?)」
スライディングをした先が、なんと焼却炉であったのだ。
影鷹「(あー……遅刻だなぁ……)」
ドガッシャーーーーーーン
そして影鷹はそのまま、焼却炉へ突っ込んでしまったのである。
稼働してなかったため灰になることは回避できたものの、ゴミの燃えカスやらなんやらが影鷹を包み込んだ。
影鷹「ゲホッ…マジかよ…..ゲホッゲホッ….最悪だ….」
???「あ、あのっ……大丈夫…です…?」
心配そうに声をかけてきた少女の方に目をやると
影鷹「んぁ?聖霞じゃないか!!」
聖霞「え!?かげちゃん!?どうしてここにー!?」
聖霞と呼ばれた少女はとても驚いた表情で影鷹のことを「かげちゃん」と呼んだ。
目の前にいる少女、愛羽 聖霞は影鷹の小等部からの幼馴染である。
影鷹「だからかげちゃんって呼ぶな……って、聖霞こそなんでここに?」
聖霞「私は今第1大館 (第1号館大体育館)から第9大館に移動してる途中だよ?」
影鷹「……は?」
大体育館は確か8箇所だったはず......
聖霞「私も今知ったところなんだけどね、第1大館に行ったら蛻の殻だったんだ~。」
影鷹「……んで?」
聖霞「そしたらちょうど、かげちゃんのお父さんがたまたま居て、進級式が行われるのは第9大館だって言われて、春休み中に大体育館が新しくもう1つ出来てたらしくて、慌てて移動してた途中なの」
そう、俺の父、佐神 影烈はこの聖光学園の教員であり教官なのである。
聖霞「春休み中、寮生活してた人には連絡入ってるらしいんだけど……かげちゃん聞いてなかった?」
影鷹「聞いてない……初耳だよ…..」
聖霞「そっかー……とりあえず、教官室に行く?」
影鷹「なんで教官室に行かないといけないんだ?第9大館で進級式するんだろ?だったら第9大館に行かないと……」
聖霞「でも、もう8時15分過ぎてるよ?」
影鷹「……なにっ!?」
聖霞がそう言い、慌てて腕時計を見ると8時20分を回っていた。
影鷹「(……遅刻、か)」
そしてこの日、影鷹は人生初の遅刻を迎えたのであった。