2.命
詳しく書いてはいませんが、残酷と受け取れる表現をしています。苦手な方はご注意ください。
空は青かった。地面は真っ黒だった。一滴の血が見渡す限りに広がった黒い波の原因なのだ。黒い波は共食いしあう“蛞蝓”。自我をなくし、意思をなくし、名をなくし、肉体をなくした、命あるものの不運ななれの果て。ただ本能のままに肉体を求め、命を求める“蛞蝓”だからこそ、弱点という弱点のないままに、弱きものを、化け物を、獣を襲っていた。命あるものの共通の天敵だったと言えよう。それが今、群れに群れて、互いを食い散らかし、肉体を、命を求めているのだった。
「死ねない“化け物”の血は、それほどお前らには美味で、求めるに価するもんだってことだな。・・・最後に生き残った個体はどうなるんだろうな。」
苦笑を浮かべて、黒い波の中、唯一埋もれていない岩の上で、眺めるともなく眺めている。いつ、終わるかわからないのに。いつ、襲われるかわからないのに。
指一本動かして、小さい“蛞蝓”を吹き飛ばす。落下先で偶然口を開けていた個体に飲み込まれていく。
一時間、二時間、・・・半日・・・一日・・・二日・・・。
黒い波はゆっくりと小さく小さくなっていった。個体は大きくなり、小さくなり、大きさを変えながら、数を減らしていった。
黒い波が出来上がり、うねりを増してから四日後。“蛞蝓”は一体もいなくなっていた。ただ最後の個体の場所に“人間”を残して。
「名前をやろうか?・・・・そうだな、ゲート・ダリア・ローファム。ぴったりだろう?」
ローファムは首をかしげて答えなかった。
2014/05/27
お待たせいたしました。
ローム:男:フランス語、ファム:女:フランス語を組み合わせて、ローファムは名づけてあります。意味はお話の中で。