1.不安
ゆっくりと紅く染まりつつある包帯を右手に巻き付け、
「嫌になるよな。こんなになったって、やらなきゃならいことは変わらないんだ。・・・そうだろう?」
と、笑いながらささやき、固く結んだ包帯を確かめるように右手をふって、剣を取った。
こくん、と無言で首を上下にふる相棒は、左足を庇いきれずに引きずりながら、戦意だけは落とさない。二人して同僚たちに怒られそうな怪我を負っている。
そこらへんの騎士なら、“蛇”の群れに襲われて今の自分らと同じ傷を負うのであれば、マシな方だろう。しかし、自分らはそこらへんの騎士と同じであってはいけない。どれほど油断をしていたとしても。どれほど疲れていたとしても・・・・“王の手”として。
帰らなければならない。伝えなければならない。自分らしか得られなかった、誰にも伝えられていないことを、王都の主のもとへ・・・!生きてかえらなければならない。こんな“蛇”の群れに襲われて死ぬなどあってはならない。それが見渡す限り“蛇”ばかりで地面も木々も見えず、空さえも時折“蛇”に埋もれるとしても・・・。
「くそっ、『地獄の炎』!」
爆発がおきる。木々をなぎ倒し、地面がえぐれるほどの。それでも、どこから湧いてくるのか、“蛇”はその数を減らさない。
そろそろ、力も尽きる。回復するまでにどれだけこいつらも減らせるんだろうか・・・・。不安が、浮かんではならない不安が浮かぶ。一瞬、攻守が鈍る。
「ロー!!」
相棒の声が悲鳴に聞こえたのは気のせいだろう・・・。そんなことを思いながら、一瞬の隙をつかれた“蛇”の攻撃に意識を飛ばす。暗くなっていく視界に白が入り込み、声が響いた。
『駆け抜けろ!天空の鶏!』
『火炎蜥蜴の舞』
平伏したくなるほどの力が周囲に散らばる。力は形を持って“蛇”を消しさっていく。死を一瞬でも感じたのが馬鹿馬鹿しく思えるほどあっけなく、一匹たりとも残さず、元の森の姿に戻ってしまった。
「お前らなぁ、〈常緑の実〉ぶら下げて森ん中歩くなよ。“蛇”に襲ってくださいと言ってるようなもんだぞ?まあ、〈常緑の実〉がありゃ、大半の“化物”は近寄ってもこねぇけどな。」
意識を飛ばされた騎士を抱え上げ、傷の具合を見ながら、呆然と周りを見渡した後、じっと見つめてくる騎士に、呆れた声で話しかけた。
「〈常緑の実〉の弱点を知らなかったわけじゃあるまい?王都へと急ぐ、ククリックからの手負いの“王の手”さん?」
くくっと笑いながら人は、治癒を行いながら尋ねる。
左足の傷を癒されながら、騎士は疑いの目を人に向ける。
なぜ、自分らのことを知っているのかと・・・・。
2013/10/05
更新遅くてすみません。
天国=ガンナ アラビア語
鶏=クク スワヒリ語
舞=ラム タイ語