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王の泉  作者: 稲波 緑風
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0.出会い

 昼間だというのに、この森は相も変わらず暗い。いや、私の周りが暗いだけか・・。この、血に飢えたケダモノめ。

 右手に持った剣を落とした。右腕に巻き付いた蔦が、この身の血を吸っているからだ。蔦が太くなっていくわけでもなく、葉が赤くなるわけでもなく、蔦が大きくなるわけでもなく・・・・。凍らせても、燃やしても、右腕からはがれない。この調子では血を吸われ過ぎてしまう。いや、喰われるのが先か・・・ああ、王・・・。


 「闇之光フォンセルーチェ!」



 「♪月は聞いた

  嘆きの声を

  月は見た

  命の始まりを

  すべては

  満月の夜

  終わりの中の

  始まり

  ♪太陽は聞けない

  苦しみの声を

  太陽は知らない

  狩られる命を

  すべては

  夜の出来事」

 

 眠りから覚めるように気付くと、すぐそばから、静かに歌う高くもなく低くもない声が聞こえてきた。

 瞼を閉じたままでも感じる明るさに、ゆっくりと目を開けて光に慣らしていく。


 「・・・・お?起きたか。ずいぶんと疲れてたんだな。ぐっすり寝てたよ、あんた。」


 声のぬしはまだ幼い顔をしていた。私は体をゆっくりと起こすが、少しふらついてしまう。と、声の主は手を貸してくれ、背に毛皮のかたまりを当ててくれた。


 「起きたばかりだが、現状説明が欲しいだろ?」

 「・・そう、だな。頼みたい。」

 「まあ、まずはだ、あんた、倒れる前に蔦に血、吸われていただろ?あれはつばでもかけりゃ逃げ

  てく臆病者なんだが、知らなかったろ。」

 「・・・ああ。」


 覚醒後でも話ができないほど、軟弱でも、若造でもないつもりだ。現状がわからなければ、“モノ”の重要性が変わってくる。・・・・しかし、森の中のことを詳しく知っている者など、いないと思っていたが・・・この者は、それを知っていて、なおかつ、教えてもいいというのか?


 「あの蔦は血の悪い部分を吸うだけで、逃げるとなりゃ綺麗になった血を吐き出すんだ。身体が軽

  くなっていいぞぅ。死ぬことは絶対にないからな。・・・・だがなぁ、ドールベアの群れに囲まれて

  なければ、だ。あれだけ群れてりゃ、余裕なんてないだろうし。普通、20頭も集まりゃ、人間一

  人なんざパックリ喰われてあの世逝きだからな。」

 「最初から見ていたのか?」


 詳しい。なぜ、あの蔦の性質を知っているのだろうか?・・・・いや、そうではなく、あの熊の数なんて数えている余裕なんてなかったし、バラバラに切っていたと思っていたのだが。


 「いや?あんたが倒れる直前くらいで、着いたんだ。ドールベアは左足の付け根に“泉珠せんじゅ”がある

  んだ。それを数えたんだよ。・・・全部、殺した後でな。あんたが気絶しても無傷で助かっている理

  由ってところ。」

 「そうか・・・・待て、“泉珠”だと?それに、全部、殺した?」


 明るい光の中では見間違えることなど、難しい。幼さを残す顔、胡坐あぐらをかいて座るその姿はどう見ても10歳を前後する頃。そんな年の者が、あの群れを全部殺した?聞き間違いかと問い直してしまった。


 「そうさ、全部、殺した。じゃなきゃ、あんたを助けられなかったし。ドールベアを知らないのか?悪

  あくじゅうだぞ?」

 「助けてくれたことには感謝する。だが、そなた、いったい幾つだ?ドールベア?というのは、あの

  熊のケダモノを指しているのか?」

 「どういたしまして。年は言いたくないなぁ。ちょっと説明が面倒だし、今のあんたには関係ない

  んだ。・・・そう、あの赤い目の、青い舌の、黒い毛の、爪長の、血に飢えた熊を指してる。」

 「む・・・・・」

 「いや、ほんと、今あんたが重要視する必要があるのは、ふところの手紙だろう?」

 「!!・・・なぜ?いや、そうだな。」

 「さすが・・・いや、まあ、いいや。互いにつついちゃいけないところはあるってことで。・・・で、だ。

  ドールベアを殺して、蔦が逃げってたから、あんたをここに運んできた。あんたはここで2日間

  も寝てた。」

 「なんだと!それは」

 「まあ、待って。さっき懐って言ったけど、勝手に失敬して、王城へ飛ばしておいたよ。」

 「は?」

 「うん。王城へちゃんと飛ばしておいた。あんたの血で『生きてる』って書いておいたから、問題はな

  いと思う。」


 どこに疑問を抱き、どこに驚けばいいのだろうか。言葉の出なくなった私を見て、この者はさらに続けた。


 「ちょっとだけ、王城っていうかそこらへんに伝手ってか、知識っていうのを持っていてね。まあ、そ

  の、なんだ。あんたが気が付くちょっと前に、大勢の足音が森の外でしたらしいから、役にたった

  ってことだろうよ。」


 すっと立ち上がって私を見下ろしてくる。


 「腹、減ってきただろ?食べもん持ってくる。動くなよ?・・・それぐらいは、自分のことだ。わかるだ

  ろ?・・・・“王の手”さん?」


 私は思考を放棄してみたいとつくづく思った。だが、疑問が疑問を呼ぶ。そんな私をよそに、洞窟の奥から、温かい食事を持ってきて差し出してくるものだから、この者への疑問は棚上げしてしまったのだった。

2013/01/19

一ヶ月に一回の更新を考えています。でもどうなるかは神のみぞ知る・・・

2017/02/27

ちまちま、書き換え、書き足ししていきます。

2017/03/03

話が変わっている気がしますが、お楽しみいただければ幸いです。

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