不安な着信音
「フッ、お喋りはそこまでにするんだな」
黒服のリーダーぽい男は口調が時代がかっていた。
「勝負方法はこちらで提案させてもらう」
コナイと教諭はそれで構わないとばかりに同時にうなずいた。
「勝負は魔術と科学による三対三の精神崩壊デスマッチで行う」
「……なん……だと……」
驚いたのは明石教諭だけではなかった。
魔術部側からも驚きと物議の声が飛び交う。
コナイが目で尋ねると、明石教諭は簡単な説明を行った。
ルールは簡単。
科学と魔術。全く土俵の違うこれらは、相手の精神の優位勢を崩すことによりその勝敗が決まる。魔術を信じるか、それとも科学を信じるか。もちろん実証されている科学側のほうが優位である。だが、魔術にはロマンがある。ロマン度が高ければ高いほど魔術は強さを増す。つまり相手の世界への認識の比重。科学 と魔法どちらに重きを置くかでその心を天秤棒にかけると勝負である。
「ちょっと待て。科学部は新入生を一人しか連れてきてないんだ。ボクを含めても二人。三対三は無理だ」
そもそもなぜ二人だけ。
もしかして呼びかけても集まらなかったのだろうか。
他のメンバーがこなかった理由、それは状況からすでに察しがついていた。
「それはそちらの都合。それに無理とは限るまい、何、先にそちらが二勝すればいいだけのこと。やらないとあればアイツらはノルウェ様の供物となるしかあるまい」
いつのまにやら大釜の上にはゲージが吊されており、小動物達がそこに納まっている。
細く今にもちぎれそうな紐はまさしくダモクレスの剣。
教諭の袖をひっぱり、ちいさく耳打ちをする。
「誰か応援よんだほうがいいんじゃあないですか?」
教諭もそのことを考えていたらしく。
「こうなったら、ハジメを呼ぶしかないな」
一週間前、科学部で出会った富士先輩だかを思い出す。
その彼をここに呼ぼうというのだ。
コナイが無言でうなずくと、教諭は後ろ手でメールを発信した。
数秒後、なぜか黒服の男達の中から携帯の受信音が響いた。
二人で目をまぁるくし、その後互いに見つめ合ってしまった。
「今、あっち側で何か鳴りませんでした」
互いにいい知れない不安と冷や汗にかられながらも。
「日本にどれだけケータイがあると思ってるんだい、こんなの統計学的に全然あり得るって、でも、もう一回っと」
送信。また向こう側で電子音。さっきよりも互いに大量の冷や汗。
「何かめちゃ嫌な予感するんですけど」
教諭は黙ったまま答えない。
コナイは場の空気を変えようと、ポンと手を叩いた。
「そうだ、小説を呼んじゃいましょう」
その瞬間、明石教諭は凍り付いた。
「えっ?」
なんとも硬い表情。
その顔をしたから覗き込むようにコナイは問いかける。
「小説と何かあったんですか」
コナイは小説が明石教諭を意識していることに勘づいていたが、ここ数日は二人の様子がどうも妙である。
今日の対抗戦も知っているはずなのに小説は一切顔をだしてこない。
教諭は引きつった笑顔をし。、
「な、なんでもないよ」
明らかに何かあった風である。
「とりあえず、まずは先生が出よう」
気を取り直すかのように前へと進み出る。
向かう先は、黒服の雑用部隊が用意した議論テーブル。
一敗すればこちらの敗北は決定、まずは確実なる一勝というわけである。
「明石教諭。《証明なき答案》を持ち、急速に発達し続ける現代科学、そのタケノコの先端とも言うべきあなたに勝ったとあれば我が魔術部の株はまさしく切り株。地に足ついたものとなり、机上の空論と蔑まれることもなくなる」
リーダーはかませっぽい発言と皮肉がかった仕草をとりしながら、前にでようとした。が、それを遮るかのように腕を伸ばした黒服が一人。
彼は教諭を自分の獲物だと無言のうちに示し、対戦者として進み出た。
互いに席に座り、向かい会う。
その瞬間、無音のゴングが鳴った気がした。