インイチはイチ
「今田コナイ。学籍番号一年一組一番。いんいちがいちで覚えてください。特技はありません。イチゲーは《普通》です。生き物は好きだけど、解剖実験は勘弁してください。実験動物の世話ならよろこんでやります」
小説はこういうのが苦手なのか、たどたどしく。
「コゴノトヤ、得意な教科は国語、苦手は生物、実験は解剖とかやってみたいです……でも動物はいや、もっと別ので……」
教諭はその白衣を揺らし、あごに手をあて。
「最近女子高生の間では解剖が空前のブームなのかい。というか君たち、完全に苦手だよね理科全般、なのになぜ解剖だけはそんなにチャレンジ精神にあふれてるんだい。あと、別の生き物って何? 」
小説は目を伏せ、もじもじした後、コナイに小さく耳打ちをした。
コナイはジェスチャーを交えつつ。
「ほら、あの理科室においてある、半分生身で半分皮膚がないアシュラ男爵みたいな」
「それって人体模型じゃないの!? やらないよ人体実験なんて」
教諭が本気で嫌そうに言うので、先ほどの仕返しとばかりに。
「先生、これからは私がカフィつくってお世話しますね」
「狙いはボクかッ!? ボクをアシュラにするつもりかッ!」
なんやかんやで騒ぎ出す、場もこなれ小説も少なからず会話に参加する。
「あの、先輩は何をされているイチゲーなんですか?」
「オレか、オレのイチゲーは、《さ(ラ)……》」
いいかけたところで、電子音が鳴る。先輩の胸元からのようである。
彼は胸ポッケから携帯を取り出し確認すると、表情が途端に険しく変化させた。
「メールだ」
そう言い残すと、彼はまるで自分は最初からカヤの外であったといわんばかりに部屋からでていった。
場の空気をよまず出て行ったその後ろ姿を宙に求めながら、ドアの先を指さす。
「あの、先輩はここの部員さんじゃないんですか」
「ハジメ……千引は本来帰宅部なんだ。でもいろんな部に顔を出しては助っ人している、ここにはよく来るが、別に正式な部員じゃあない」
そうこうした後、教諭による部活説明が始まった。
部員は数十人だが、それぞれが研究室にこもって滅多とでてこないこと。基本的に何しててもいいが、時折、部活対抗戦が行われていること。研究論文は必ず 明石アキラ教諭に提出し、そこから研究、開発費が捻出されること。明石教諭による特別講義は平日の五時から九時まで行われるが、所属していても別に出席の 義務はないこと。講義で興味をもったなら、その内容を研究する手伝いをしてくれること。
小さなやりとりであったが、明石教諭と話す小説の様子から、彼女はなんとなくだが、彼を気に入ってるように思えた。
「さてと科学部に入部するなら部活動対抗戦についても知っておいてもらわないとね」
「科学部なのに? 研究発表とかですか」
アキラ教諭は数式の定理でも答えるように、
「うちであるので科学部の敵と言ったら魔術部しかないよ」
「そ、そんな部活もあるんですか」
疑わしげに入部者募集のパンフを開いてみると、確かに記載があった。
魔術部。
古今東西の魔術を研究する部。毎年かなりの予算が捻出されており、校内で公表されている研究の中では毎朝の星占いと天気予報が生徒間で静かな人気。
なんとなく静かなまま終わりそう。
「いえ、そーいう《普通》でないのは、遠慮しときます」
そのまま科学部での説明会を終え、小説とともに退室した。